18. 呪いの魔剣と皆伝の証
呪いの鎧共同体と呪いの剣所有者達は、実は相性が悪い。
それは、所有者がどういう性質かという事が影響している。
呪いの鎧共同体は、その強大な力に比べて、さほど横暴に振る舞う事が無い。それは、自分がまともな状態でないという事を強く認識している事が影響している。絡まれる事があればそれなりの対応をするが、あくまでも自衛という面が強く、そもそもが人を避けるような立ち振舞をするので、そういったトラブルは少ない。
しかし、呪いの剣の所有者は、そういったトラブルの話題に事欠かない。
パッと見てそうとわかる出で立ちでない事が多い上、手放せない都合上、武器の扱いに長けた者も多い。そうしてなまじ腕が立ち、武辺者特有のプライドもあって、問題事が起きた際に武力で押し通す事も多くなる。トラブルが降りかかりやすい事は同情に値するが、同様の件を繰り返せば増長する者も出てくる。そうして言われるようになるのだ。呪いの剣を持った者は手が早い、まるで剣が血を求めているようだ、と。
というわけで、同じ『呪いの武具』という共通点が有りながら真逆に近い性質を持つ両者はそんなに中が良いわけではなく、更に言えば、ヴィオラの腕の一件の様に、堅牢な呪いの鎧の防御力を突破するという意味では、天敵に近い性質を持っているのかもしれない。
呪いの鎧の村に帰ってきた俺達は、一件の最後の後始末であるあかねの処遇を決めるべく頭を悩ませていた。
期間を空けたことで冷静に顧みることが出来たのか、神妙にしていたあかねは、剣の没収という処分に不満を言う事は無かった。こちらの被害も、片腕の治療が出来ている事もあって、適切な罰金刑で済ませる事はできるのだが、問題は、剣の解呪を聞きつけた輩が大挙して押し寄せるかもしれないという事だ。第二次呪いショックである。
あかねを開放せずともいずれは起こる予測ではあるが、発生時期をいたずらに早めてもデメリットしか無い。初期あかねみたいなのが大挙して押し寄せて来るのは、控えめにいってスタンピート以外の何物でもない。その時がきたら、全力で迎え撃つしか無いのだろうか。ないのだろう。素直に刀狩りに応じる奴らではないだろうし。
まぁ、とりあえずあかね本人に事情を聴取するべく、俺とヴィオラはあかねを呼び出した。
侍装束というアイデンティティを失ったあかねは、無地のシャツに茶髪をポニテに縛った出で立ちで、何処にでも居るような没個性に収まっていた。彼女に着せる着せないは別にしても、和装、袴をサキュバスデザイナーに依頼してもいいかもしれない。新鮮なインプットが有れば向こうも喜ぶだろうし。そのうち着物に帯でクルクルさせる文化も広めようか。でも俺はミニスカ浴衣も捨てがたいと思うんだ。昨今の流行りに乗った太ももブームをこの村にも取り入れるべきかどうか俺は悩んだ。ムチプリである。
そしてその間にヴィオラがあかねに質問を投げていた。
「そもそも、どういう事情であの剣を手に入れたんだ?」
うちの村の話が何処で漏れたかはあまり重要じゃない。子爵も伯爵も本気で隠している訳では無いからだ。本気で隠しているのは解呪しているのがスライムであるという一点だけだ。そこは王族も絡む秘匿がなされている。逆に、それ以外はよく調べればわかる程度にはなっている。
なので、取り調べは、あかねの事情が中心となる。
「それは話せば長くなるでござるが……」
そう言ったあかねの話は普通に長かったので要約する。
剣術家を目指していたあかねは、ある日高名な剣術家に弟子入りすることに成功した。
兄弟弟子に囲まれて切磋琢磨した日々は充実したものだったが、ある日、師が弟子達を集めて、呪いの剣を渡し言ったそうだ。この剣を浄化する事を最後の修行とし、持ち帰る事で免許皆伝とすると。
俺は異世界事情に詳しくない悪いスライムなので、免許皆伝となるために呪いの剣を配布するのが一般的な修行内容なのかわからなかった。
「私も詳しくは知らないが、呪いの武具を渡すのは一般的ではないと思うよ」
ヴィオラの言葉が忌々しげなのは、呪いの武具の迷惑さを知っているからだ。
まぁ、つまり一般的ではない修行という名目で、呪いの剣を処分して、うまくいけば解呪された剣が戻ってくると。どうしても発想が悪くなるのは印象の悪さだと思っていい。そっかぁ。そうやって戻った所でその剣が皆伝の証です、ってなればいいね。
「師匠を悪く言うのはやめていただきたい……」
と言っても、その師匠の評価を下げているのは弟子の行いであってね。その素行不良の一員を担っているのが師匠の行いということであれば、むべなるかなといったところだ。
「まぁ、村での奉仕活動が妥当な所か……肉体労働なら使い道があるだろう」
「なっ……いや、わかったでござる……」
まぁ、村から出さなければ時間は稼げるだろう。その時間で呪いの魔剣使いへの対策を協議して進める、というのが妥当なところだ。
「剣神の弟子ともあろう者が……情けないでござる……」
……うん? 今なんて? 誰の弟子? え、あ……ふーん。剣神って異名なの? 有名?
あかねの呟きを聞いて頭を抑えていたヴィオラに確認する。
「あぁ、かの剣神となると王国有数の実力者だ。想像以上に厄介だな……剣神の弟子が全員押し寄せてくるのか」
いやいや、どこの何某か知らんけど俺等でなんとかなるでしょ。よゆーよゆー。
「拙者はともかく兄弟弟子は実力者揃いで魔剣持ちでござる。そう簡単に勝てるとは思わない方がいいでござるよ」
街の下働きさんが随分と強気ですねぇ。教育じゃ。教育ぅ。
「なっ、や、やめっ、頭の上で跳ねっ」
「なんで急に攻撃的なのスライムさん……」
某だか知らんし、呪いの魔剣がなんぼのモンじゃーい。