17. ビームが出る系の聖剣
この世界の『呪い』というのは、負の感情が主な原材料らしい。サキュバスのニーフェアが言っていた。
武器や呪いというのは、戦いで使われるものだ。必然、勝者と敗者が生まれる。そして、世の敗者というのは大多数が負の感情を残すものだ。その負の感情が蓄積し、果ては凶器を冒涜しつくした物が『呪いの武具』となる。その原器は、長い戦いを耐えうる良品であることが大半だ。そこに負の感情のバフが乗ることで、巨大な力を持った『呪いの武具』が完成するのである。
めっちゃ簡単に言うと、1000人殺せば呪いの武具の完成って事だ。数は適当だが。
ちなみに、サキュバスの呪いの武具の作り方はもっと直接的に、武具を呪詛る方法を取るので、命を奪う必要は無いらしい。養殖じみてるが、バフの方向性を操作出来たりとメリットは多いし、天然物と比べても遜色は無いらしい。これは着用した者の談だ。
そんな訳で今回判明した、服だけ溶かすスライムこと俺の新特性だが、負の感情を浄化できるみたいだ。
理屈を考えるなら、やっぱり『天衣無縫』……というか『神の衣服』というのが理由だろうか。凄い神聖っぽいだろう。
問題があるとすれば、負の感情バフが浄化によって消えるのではなく、聖バフに変質して加算? 乗算? されてるっぽい事だ。
そうだね、子爵案件だね。
「拙者の剣返して……」
人斬りも辞さないような危険人物に返すものは無いなぁ。
全裸にされて縛られたうえで転がされてるあかねの上でポヨポヨしながら成り行きを見守る。まぁ全裸にしたのは俺の独断だ。ほら、暗器でも持っていたら危ないし。
「呪いの鎧と違って、こうして武器が残るのが厄介だな……」
渋い顔で言うヴィオラの言うこともなんとなく理解できる。この隠れ村にとって、証拠が残らないというのは重要な要素だ。呪いの鎧を集めている事は、武力を集めている事と同じだ。嫌疑を掛けられる事態は常に想定していなければならない。そして、探られても物証が無いというのは、非常に強力だ。
そういった意味で、余計な物証である聖剣は非常に厄介なものであった。強力な武器だけに、どこかに流出したら更に面倒な事になること請けあいだろう。
「うぅ……返すでござるよぅ……」
まぁ、一番面倒なのは、コイツみたいに勝手に持ち込んだ上で好き放題した後、所有権を主張する奴かもしれんが。
村へ押し入り、人の手を斬り飛ばす。狼藉者で犯罪者だ。所持品没収も当然である。
後日、子爵邸へと赴いたヴィオラと俺は、速やかにドーレス子爵と面会した。持ち込んだ聖剣を見た子爵は、ため息を漏らす。その意味は感嘆か、それとも面倒事に対するものか。
「剣事態も見事なものですが、もう一つ問題が……」
「まだあるのかね……?」
胡乱げにこちらを見やる子爵に、この数日の実験で判明した事を伝える。
「スライムさんの体液の影響下にある者が剣を振ると、光線が出ます」
「こ、光線? ……光線が出るのかい?」
「出ます」
驚く子爵だが、無理もない。いくら異世界でもちょっとやそっとじゃあ剣を振って光線は出ない。そんなモノが出るのは伝説の勇者ぐらいだ。
だが、この剣と俺の体液は、そのおとぎ話を現実に再現する。さすが神威。いや神衣パネェな、というのが俺の感想だ。
わかったことを纏めると……
一つ、俺を着る。俺の体液を直接塗る。あるいは粘液風呂に浸かる。そうした場合、対象は神聖状態になる。
一つ、神聖状態の者が、聖剣を振ると、その軌跡状にビームが出る。気合の込め方で変わるが10mぐらいならビームは伸びる。
一つ、神聖状態は数刻で収まる。
といったところか。伝えられた子爵は話が進むたびに頭を抱える。
「それで、聖剣は量産が可能と……あぁ、神よ……」
頭を抱えたまま天を仰ぐ姿は敬虔な信徒のようだ。俺は神様派の悪いスライムなので思わず寄り添ってしまう。
まぁダメな時は上に投げようよ。伯爵や王様、王妃様も会った限りじゃ悪い人じゃなさそうだし。
「そうだな、とりあえず幾つか剣は伯爵に献上しよう……うちにも幾つか呪いの剣がある。解呪をお願いしても?」
いいよ。その代わり一本俺にも頂戴。
「あぁ、くれぐれも悪い事に使わないでくれよ」
うん。護身用に村に置いておくからさ。なるべく悪いことには使わないよ。
「……厳重に管理します」
よろしくねヴィオラ。