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15. その時のサキュバス族たち

これは、呪いの鎧の村とサキュバス族の交流が始まって少しした頃の話だ。




 この世界において、魔族とは『魔力の影響を受け、魔力を保持する種族のうち、他種族と交渉を行える文化と知性を保持している』種族として定義されている。人型である必要は無く、多くの種族が魔力による影響か、特徴的な肉体・力等種族特性を持つに至る。


 そういう意味では、かの村で出会った『服だけ溶かすスライム』は世にも珍しいスライム型魔族という事になるのだろうか……そう、サキュバス族の女王であり、母でもあるニーフェアはボンヤリと思索を続けていた。

 彼女が代表として参加する魔族代表議会でも、そんな種族が居るとは聞いたことがなかった。誰かの手で秘匿されていたという可能性はあるが、あの『呪いの鎧の解呪』を含む問答無用の衣服の消化の能力は強大なものだ。誰にも悟られぬよう痕跡を隠しきるには多大な労力を必要とするだろう。そうした痕跡は思い返しても見当たらなかった……つまり、おそらくそうではないという事だ。


 そうして、スライムが『紐付き』で無いことを確認した二ーフェアは、次にその利用方法を考えていた。

 代償の多い淫呪の装備……例えば隷属や支配など、今までは身の破滅と引き換えになるものや、単純に効力を限界突破させた快楽の紋の付与など、そういったものを求める者は多い。客だけならまだしも、困ったことに身内にも一定数の需要は見込まれる。もはや破滅願望と変わらぬ被虐体質だが、これからそういった需要も安全に満たせるのだと思うと、母である彼女としては、安堵の思いが勝る。

 また、その寿命の殆どのうちを若い姿のままでいられるとはいえ、その美にさらなる磨きをかけられるというのは、予想もしていなかったメリットである。出来ることなら人属の村よりも、我が国に来てもらいたいものだが、転がしやすそうな見た目の割にしっかりとした芯があるようで、誘惑にも屈する事の無かったのは、それがヒト属なら称賛に値するだろう誠実さだと思った。


 まぁ、今は無理であろうとも、長い年月で考えを変える時が来るかも知れない。その時はしっかりと引っ張り込もう、と決め二ーフェアは次の案件に取り掛かろうとし──


 「──お母様っ! も、もう無理ですぅ! 絶対むりぃぃ!!」


 ノックもせず執務室に突然飛び込んできた我が国民に、二ーフェアは驚いて目を丸くした。警護に就いていた親衛隊長に目を向ければ、気まずそうな申し訳無さそうな顔で、直訴だと告げる。

 なるほど。直訴ならば仕方がない。二ーフェアはサキュバス族の母だ。娘の話を聞くのは吝かではない。


 彼女が落ち着くまでの間に、そのプロフィールを把握した二ーフェアは、用意されたお茶を進めて一息ついた所で問いかける。


 「それでソーニィ、何があったの? 困りごと?」


 「うぅぅ……あの、もう、作りたくないんですぅ」


 ソーニィは服屋だ。つまり服を作りたくないと、彼女は言っている。だが、それは困ると二ーフェアは思った。これからエロ装備の為に呪いの付与の基となる服の需要は増していくのだ。


 「なんで急にそんな事を……なにか理由があるの?」


 「ずっと……みんなエッチな服ばっかりっ……あんなのもう服じゃなくて紐だよぅ。私は紐じゃなくて服を作りたいのにぃっ!」


 「えぇっ……」


 二ーフェアは頭が痛くなった。彼女だけでなく、周囲で聞いていた者も、思い当たることがあるのか、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 ソーニィが言っている事はわかる。だがしかし、サキュバス族の生態として、エロい服は必要不可欠だ。なぜなら、サキュバス族は他者から精気を頂戴し己の糧として生きているからだ。種族としては精霊種に近い。精気がなければその存在は薄くなり、最終的に霧散する事になるだろう。故に、生きるためにもその能力は精気を取得する事に特化しているとも言える。そんな種族が着る服だ。エッチな服装がスタンダードにもなる。命が消えるか、布の面積が消えるかという話だ。少なくとも、この国の需要において、エロ装備>普通の服は当たり前の事だと誰もがそう思ってた。


 「工房のみんなも……もう辞めるってぇ……だからわたしぃっ……」


 だが、泣き言を続けるソーニィに、さらなるエロ装備の増産を告げるのは、いくらサキュバスの女王たる二ーフェアで無理だった。

 彼女の本質は愛だ。サキュバス族を愛する彼女には、そんな愛なき行いは出来なかったし、周囲もそんな彼女に異を唱えることは無かった。


 「うんうん……そうね……わかった。なんとか考えてみるからね……」


 ソーニィをその豊かな胸に抱きしめる二ーフェア。理由を加味しなければ、その姿はまさしく母の愛に溢れた姿だった。




 後日、呪いの鎧の村でエステ中にスライム相手にその悩みを零したら、じゃあうちに普通の服を卸してよとの一言で話はトントン拍子に解決したのだった。


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