14. あの時の貴族と俺達
これは、村の形もまだ出来ていない頃の話だ。
村長であるヴィオラの家や、役場である建物を建てる為に、ドーレス子爵の紹介を得て集まった大工を護衛するために、ヴィオラと建設予定地で寝泊まりする日々を過ごす俺達の元に、ドーレス子爵の使いがやってきた。
話を聞くと、一度ドーレス子爵家に訪れてほしいということだ。護衛がいなくなると、工事も止まるのであまりよろしく無い事態ではあるが、領主様の呼び出しなら仕方がない。そう思っていたら、代わりの護衛も一緒に来ていたようだ。まぁ領主様が連れてきた人員だ。口が堅い事ということなんだろう。
「美容のための施設を造ることになった」
挨拶もそこそこに、ドーレス子爵は、俺の一件を持っていった貴族との会談の結果を語った。
スライム式デトックスは異世界でも凄い効果的らしい。お偉いさんの需要も非常に高い為、すぐにでも行動に移す必要がでてきたらしい。
渡していたスライム出汁の美容液は長期保存できなかったらしい。俺から物理的に離れた体液は徐々に普通の体液に戻るって事か。惜しい様な、悪用されないようで安心な様な……複雑な気分だ。
「施設を造るというと、ドーレスの街でしょうか?」
ヴィオラの質問にドーレス子爵が答える。
「いや、最初はゴート伯爵の街になる。建物を改築して利用するそうだ。そこでスライム君に協力して貰う事になるが……」
「念の為に申しておきます。万が一スライムさんに危害が及んだり、こちらの手が及ばなくなってしまった場合、とても大変な事態になる事でしょう」
「あぁ、それは理解している……ゴート伯爵も、こちらの事情は理解しているはずだ。そう無体は行わないだろう」
そう言うドーレス子爵本人も、期待半分といった風ってことは、お偉いさんの性質はどこの世界でも変わらないってことだろう。
まぁ、俺はか弱い悪いスライムだ。言うことをきかないとプルプルさせられるので、とりあえずは従っておこう。長いものには巻かれろってね。
「明日には移動を開始して、向こうで改築が終わるのを待つことになるだろう。今日は泊まっていってくれ」
二人で了承を返した所で、ドーレス子爵の奥さんからのお誘いがあった。そうだ、ゴート伯爵の所に行く前にちょっと試してみます? そう提案してみたら、少し考え子爵が頷く。
「そうだな、何人か見繕おう。もう少しだけ効果を確かめておこう」
やったぜ、今日はフルコースだ。ごちそうの要求が通った事に俺は満足した。
「すごい! 手荒れが治ったわ!」
「お肌がツルツルに!」
「腰の痛みが消えました……!」
以上が被験者の声です。うーん、我ながらすごい効果だ。古傷だってイチコロだぜ。子爵も伯爵も上手いこと管理して貰いたいものだ。
「やはり、直接着るのが一番効果がありますね……」
「ふむ……となると、やはりマッサージの要領で施術する、という体で乗せるのが良いという事か。先日試した結果を見る限り、治ったものは一時的という訳でもない」
一回の施術を集中的にして、施術自体の期間を長く開けるのがいいんじゃない? その間のケアに関しては他で賄ってもらう感じで。
こちらに負担の無い方法を提案しておく。俺の様な悪いスライムが街に長く居るのも良くない事だし、お互いに都合がいいだろう。なんなら、施術を増やすと体に悪いなんて方便をつかってもいい。薬も過ぎれば毒になるということでね。
「確かにそうだな。伯爵とも相談が必要だが、そちらの方向で調整していこう」
スライムの効能、というのもなるべく知る人が少なくなるようにしようという方針も決まっていく。
スライム溶液の効果が持つようになればよかったのだが、結果は芳しくない。およそ10日後くらいにはただの水に戻ってしまうのだ。俺のスライムとしての熟練度が足りないのか、はたまたスキル不足なのか。まぁ知らんけど。そんな適当な考えはよそへ放り投げる。
「王都へ送るとなると、ギリギリだな。殆どその日に消費しなければならないだろうな」
それじゃあ、逆に普通のケア水に紛れ込ませる形で送って、使って貰えばいいんじゃないですかね?
30本のうち1本をソレとわかるようにして納品し、ソレだけその日のうちに使ってもらえればいい。丁度いい塩梅のスパンを測って納めるようにすれば、お互い不満なく収められるのでは、と伝えてみる。ドーレス子爵が奥さんに確かめると奥さんも頷く。
「あるいはそれも都合が良いかもしれませんね。お行儀の悪い者が居ないとも限りませんし……自分にだけ効果が無いとわかった時にどういった反応を示すのか……フフフ……とても見ものでしょうね」
暗黒微笑を見せる奥さんに、上流階級の面倒くささを垣間見た俺達は、王都のお偉いお嬢さん達の暗闘を思い浮かべドン引きするのであった。