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1. Hなだけの生物


 選ばれた事に、多分意味はなかったのだろう。

 無作為な選択は、それを行った存在を考慮すれば『運命』というしかなく、だから『来世はどう生きたいか?』という問いかけに出た答えは、恥も外聞も臆面もない、言葉通り魂から出た言葉だった。


 「願うなら、『服だけ溶かすスライム』になりたいです」


 非モテなオタク故にドブ漬けだったオタカルチャー人生の淀みみたいな答えが出てくるあたり、随分と汚れた魂だと我が事ながら思うが、本心だから仕方がない。世界に恥じ入るHENTAIだからこそ、来世では慎ましやかに世界の片隅で何も考えず存在するエッチなだけの生物で在りたい。

 そんな思いが通じたのかはわからないが、願いは叶い、受肉する。

 前世の記憶も、人の思いも新しい体に馴染み溶け、ゆっくりと一つの本能が吸収し、生まれ落ちる──


 ──あぁ、ウマそうnaふくガァたベtai──




 「そうして生まれた新しい命が、貴方という訳です」

 「???」


 そこはまだ神の座す場だった。

 俺の生まれ落ちるはずの新天地は? いや、なんで俺? これどういう状況? なんで俺は神様に被っているんだ?


 「あなたは、『服だけ溶かすスライム』として生み出された瞬間に私の衣を捕食しました。こうも活発な生命とは……元気な事でなによりです」

 「??? どういたしまして?」


 なんかしらんが褒められたみたいなのでお礼の言葉を返しておく。つまり、えーっと、服だけ溶かすスライムとして、神様の服を溶かしたと。それでなんで、神様は俺を被っているのですか?


 「私の力が衝突した結果ですね。『服を溶かす』力が『完全で欠ける事の無い服』を取り込んだ結果、神の衣たるスライムが生まれました」

 「なるほど???」

 「そしてその瞬間あなたの存在が修復され、固定されました。全てを内包していたけれどまだ一つに固まりきっていなかった故の結果です」


 なるほど。神様が粘液を被っているのではなく、俺の粘液体が神様の服として着られているって事ですね。合体事故か。


 「それでは、改めて生まれしょう」

 「え? 服は?」



 そんな間の抜けた言葉と共に、この世界に生まれ落ちたのが俺ってわけ。神様、風邪引いて無いといいけどなぁ。

 まぁ、そんな下々の心配など杞憂なのだろう。なんせ神様だし。俺は俺として、この世界の片隅で『服だけ溶かすスライム』として生きていこう。それが服だっていうのなら、神様の服だって溶かしてみせる。そんなキャッチコピーを引っ提げて。

 見回した周囲は、鬱蒼とした森っぽく木々が生えている。それならば罠でも張るかと木に登り、ゆっくり待つ。あぁ、俺今すごいスライムしてるなぁ……なんてのんびりと考えながら。



 その時の俺は、自分の特異性を考えもしなかった。『服だけ溶かすスライム』なんて馬鹿みたいな生き物が他にいるわけもない事を。そして、そんな俺が取り込んだ『神の衣』、その『天衣無縫』たる特性の異常さを。

 なにも考えずに待って。

 ただずっと待ち続けて。

 そして、待ちに待った時が訪れた。

 茂みが揺れ、黒の全身鎧マンが、その奥から姿を見せる。ゆっくりと無警戒な風に、俺の下を通って行く。

 

 いただきます。


 そんな当たり前に食事行う様な感情で樹上から身を投げた俺に、鎧マンが無造作に帯びていた剣を振り上げた。無感情のままに俺を屠る刃が粘液の体を通っていく。通り過ぎ去っていく。

 うっひょーこえー。なんか知らんが生きてるぅー。

 死んだ気がしたけど、そんなことはなかったので、よくわからんままのテンションで鎧マンに取り付いた。全身を覆った俺は、掴むには粘度が足りないのか、鎧マンの手は藻掻くばかりで引き剥がされる事はなかった。

 どんな味がするんだろう。その全身を余す事なく覆いながら、考える。今生の初めての捕食の期待は、俺のスライム生そのものだった。過去、人間として持っていた倫理観や価値観はスライムとしての本能と混ざりあった結果、変質してしまった。けれどもその事を悲観しない。した所で意味がない。これが俺の望んだ願いの結果なのだから。

 鎧マンを覆っていた何もかもがが溶けていく。その内に隠した全てを晒していく。そうして、人の形が残り、全てを粘液たる体で吸収して──


 「うっぇ、まっず」


──忌憚のない意見が森に転がった。ゲロクソ汚物の味です。星3つ。

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