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星渦のエンコーダー《スターメイズ・エンコーダー》  作者: 山森むむむ
1章 ■壊されたヒーロー:ep.001〜030
21/37

ep.21 旧時代の遺物発見「スマートフォン」高校生が科学館に寄贈

 柳と流磨は、談笑しながら未来ノ島の散策スポットである自然公園に足を踏み入れていた。


 草木が生い茂るこのエリアは人工的に作られたものだが、根を広げ葉を散らす植物たちは自ら変化し、人工物を自然で覆い隠してゆく。

 そのいきいきとした景色の移り変わりを眺めることを、柳は楽しみにしていた。

 隣を歩く流磨とは他愛無い会話をしながら、時折知っている植物やネオトラバースにまつわる精神論・戦略・技術面でのアプローチについて論議を交わす。

 流磨は柳が信頼する数少ない人間の一人だ。専門的領域が異なる二人だが、その知識を交換し、互いに高め合うことができる健全な関係に、柳は深く感謝している。


 この人口島の一角で、二人は埋もれていた旧時代の遺物、「スマートフォン」を見つけた。流磨が地面に半分埋もれているそれを手に取り、興味深げに言う。

「これは……なんだ? デバイスみたいだけど、今のと全然形が違うな」

 彼はこの島の日常とは一線を画す何か、過去の時代からの使者のような存在を感じ取っているようだった。何世紀もの時を経て、目の前に姿を現した遺物。


 柳はそのスマートフォンを手渡され、詳しく見てみる。

「これは……すごいね。スマートフォンっていうんだ。旧時代の通信デバイスで、タッチスクリーンを使って操作するんだよ。今の僕たちが使っているARデバイスとは違って物理的な画面があって、直接触れる必要があるんだ」


 流磨は驚いた顔で柳を見た。知らなかったらしい。もう百年以上も前のものだから仕方ないが。

「マジかよ、そんなのでどうやって通信してたんだ?」

 柳は、できるだけ優しく説明した。

「内蔵されている通信モジュールを使って、無線ネットワークに接続するんだ。それによってインターネットを利用したり、電話をかけたりできた。もちろん画面上で映像を見たり、音楽を聴いたりもできる。空間に情報を浮かべることはできないから、全てがこの小さな画面の中で起こっていたんだ。それでも当時はこれが一般に広まったことによって社会が変わった。誰もが情報を発信し、かなり自由に取り入れることができるようになったという点で、時代の転換点とも言えるよね」

 そう言って、黒い画面についた砂をはらってみせる。やはり画面は何も映さないが、元々の所持者の人生において数多くの場面に、この機械は貢献したことだろう。


 この時代では、人々はARを使った表示が可能な腕時計型・手帳型デバイスを普段から使っている。そのため直接的な物理的接触による操作は、ある種の古典的な魅力を放っていた。


 流磨は、この小さな箱がかつてはどれほどの情報を内包し、どれほどのコミュニケーションを可能にしたのかを想像しているようだった。

 今やそれは沈黙し、柳の手の中でただ静かに時を刻んでいる。

「技術の進化は止まんねーけど、基本的な人間のつながりやコミュニケーションの重要性は変わらないってことか」

 流磨の右手にスマートフォンを手渡す。それは見た目よりもかなり重く、デバイスの小型化が求められてきた時代の、その始まりの遠さを感じさせた。

「そうだね。便利な生活や技術の進化も、すべて最終的にはコミュニケーションに繋がっている。その情熱を持った人たちがこういった物を作って、改善し続けてきたことで、僕たちの今の生活がある」

 流磨は感慨深げに話し、柳は過去の技術への敬意を新たにした。


 かつて世界を変えたと言われていた旧時代の遺物。

「でも、コレどうする?」

 柳は考え込んでから言った。

「このスマートフォン、科学館に寄贈するのがいいんじゃないかな。今と昔の技術の違いを学ぶのに役立つし、子供たちにとっても興味深い展示になると思う」


 二人がこの決断を下した後のプロセスは、スムーズであった。流磨が左手首のARデバイスで、島の科学館に連絡を取る。

 このスマートフォンは新旧の技術の架け橋となり、訪れる人々にとって新しい学びの機会を提供するだろう。

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