地天才過去編⑨
「・・・以上がこれまでの背景と事実だ」
昇から事実を聞かされた俺達はあまりの衝撃に声が出なかった。
「これで満足か地天秀君」
「ああ・・・親父達が死んだ原因はやっぱりあんたらのせいだった事が分かったよ」
「兄さん!そんな言い方は!」
2人だって苦しんでいたんだ、これ以上追い込むような言い方はすべきではないと思う。
「いやいいんだ・・・それが事実であり、儂らは責められるべき存在なんだから」
尊も昇も全て受け止める姿勢であり俺はどうしたらいいのか分からない。
父さん達が死んだ原因が二人にあったとしてもここで責めても何も解決しない。
「っていうか何で兄さんはあの日、父さん達が会っていた事を知ったんだ?」
ふと疑問に思い問いかけると、兄は一冊の手帳を取り出した。
「お前が平成家に養子入りした後、親父の遺品が届いたんだ。っで中身を確認したらあの日のスケジュールに平成財閥との打ち合わせをすることが記載されていた」
兄がそう告げるとその手帳を俺に渡す。
俺が中身を確認するとそこには確かに『親父と20年ぶりに会う』と書いてあった。
そして後ろのメモの方にはその後何をするかの予定や目標などが記載されていた
「親父達・・・和解出来たら会社を俺に押し付けて平成財閥に戻るつもりだったらしい」
「・・・渡・・・お前・・・」
今になってはもうすでに手遅れ・・・だけど父が平成家に対してどう思っているのかはこの手帳の内容を見ただけでも伝わってくる。
「正直今でも俺はあんた達を嫌っているし恨んでいないと言えば噓になる。あの時合わなければ俺達の人生はここまで変わる事は無かったんじゃないかって時々考えたりもした」
「・・・・・・」
ゆっくりと近づきながら告げる兄に尊は力なく倒れつつも彼を見た。
「だけど親父達の気持ちを考えたらすげぇバカバカしいって思ったんだ。感情的に突っ走るのは親父やあんたに似たのかもな」
「秀・・・儂は・・・」
「あんた達はもう償いとか考えないでくれ。ただ、俺や才を地天渡の息子として扱ってくれ」
「ああ・・・もちろんだ。お前達は儂の孫だ」
「・・・今まで本当にすまなかった」
泣き崩れながら謝罪の言葉を溢す尊と昇・・・これで平成家と地天家が本当に一つになれたんだと思った。
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尊達の気持ちが落ち着いた後、兄と俺は地天家として平成家の一員になる事が決まった。
「いいのか?俺、平成家の養子になったのに?」
「構わないさ・・・それに、君が平成家の一員なのは変わらないからね」
昇も気持ちの整理がついたのか今まで見た事のないくらい穏やかな表情で俺を見た。そういう表情をもっと早く宝姫に見せていればあんな反抗的にならないと思うのに。
「そうか・・・そう言えば3年間養子になっていたけどちゃんと呼んだ事はなかったな。本当にありがとう、お養父さん」
今思うと俺も結構意地を張っていたのかもしれない。折り合いがつくタイミングはもっと早くあったのかもしれないのにそれを避けていた。案外俺も平成家の血がしっかりと流れているのかもしれないな。
「よし!今日は祝いだ!儂の孫を公表するぞ!」
随分と元気になった尊は憑き物が落ちかように元気だった。
あの様子じゃもうしばらくは現役で頑張りそうだな。
そんな風に考えながら全員で会社を出て、最後に兄が施錠をしきった瞬間鍵が落ちる音がする。
ふと振り向いた俺達は次の瞬間全身の怪我逆立つような光景を目にする。
「兄さん・・・その手」
ドアの前で固まっていた兄を見ると、彼の手が半透明に透けていた。
「・・・時間みたいだな」
「秀兄さん!その手何が起きているのです!」
慌てた宝姫は急いで兄の手を掴もうとするもすり抜けてしまい完全に消えてしまった。
「っち、シンの奴空気をもう少し読めっつうの・・・いや、随分と待ってくれた方かな」
兄は何やらブツブツ言っているがどういう意味なのかサッパリ分からなかった。
「秀・・・説明を!・・・嫌それよりも病院じゃ!」
「ああ、大丈夫。病院とかそういうの必要ないから」
腕が無いのに兄は平然とした様子で話している・・・一体兄に何が起きているんだ?
「はぁ・・・才、宝姫・・・プロジェクトの件だが最後はお前達で締めくくってくれ
。俺は別の仕事で離れなければならない」
「仕事って何だよ!というかちゃんと説明をしてくれよ!」
「まぁなんだ・・・ちょっとばかし《《異世界で仕事してくる》》」
『ハァ?!!』
まったく言っている意味が分からない。
異世界?ファンタジー小説でも読みすぎて頭がおかしくなったのか?
「ふざけていないで病院に行くぞ!ついでに脳の検査だ」
「っちょ!伯父さんその言い方酷くない?!・・・まあそうかもだが!」
昇はすぐにもう片方の腕を掴むが持った瞬間まるで消えるように掴んだ手がすり抜けた。
「・・・一体何が起きて・・・」
まるで手品で騙されているかのように驚いた表情をする昇・・・確かに彼は兄の腕を掴んだ。だがすぐにすり抜け次第に両腕が消える。
「はぁ・・・なんか飛ばし方がおかしいだろ。後でシンに抗議してやる・・・才、いつ戻るか分からないが絶対に戻るからそれまで爺さん達のこと頼むな」
「兄さん!」
兄は笑いながらそう言い残し完全に消滅した。
「・・・ははは、儂は夢でも見ているのか?そうだ夢なんだ。これは孫と和解出来たと儂が勝手妄想した夢」
尊は目の前の光景を受け入れきれずにブツブツと呟き始める。
俺だってコレが夢であってほしいと願った・・・だが無情にも兄が消えた事実は変わらなかった。
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それから1年、尊は何度も兄の捜索をさせたが結局手がかりは見つからなかった。
俺と宝姫は引き続き学校に通いつつも兄に言われた通りプロジェクトを完遂させた後、会社をたたむために部屋の整理をしていた。
「秀従兄さん・・・本当に異世界に行ってしまったのかしら?」
「宝姫は異世界を信じるのか?」
「状況からしてそう考えてもおかしくないけど?」
まあ、あんな消え方したら大掛かりなマジックか本当に魔法で消えたかと考えるだろう。
「一応兄さんは『戻る』とは言っていたがそれがいつになるか・・・」
「本当、平成家の男は勝手過ぎでしょ!お父様もお爺様も」
あの後、尊は数日間寝込んでしまったが気持ちが整理がついたのか仕事の大半を昇に引き継がせて空いた時間を兄の捜索に当てている。そして昇は引き継いだ仕事で多忙な日々を送るが部下達との接し方を変えて何とかうまくやっている。その代わり家族との時間が減ってしまい、家族の時間が取れない事を嘆いていた。
「それじゃあたしは業者の方を呼ぶから、才は休んでて」
「了解」
そう言って宝姫は部屋から出ていき残った俺はソファに座り天井を見上げる。
「締めくくりも3人でやりたかったな・・・」
『♪~』
そんな風に呟くと、机の方から何やらメロディが聞こえた。
「机の引き出しから?・・・でも全部出したはずじゃ・・・」
俺は急いで引き出しを開くが中身は空っぽ・・・だがまだメロディは聞こえる。
「もしかして!」
俺は引き出しの底を思いっきり叩くと引き出しの底が一瞬浮かんだのが見えた。
「二重底かよ!」
何でこんな仕掛けになっているのかは知らない。
だけど俺は急いで底の蓋を外し、鳴り続ける端末を発見する。
見た事もない機種の端末には『シン(神?)』と名前が表示されていた。
シン・・・それは兄が最後に呟いていた人物の名前。
俺は迷いなく端末を手に取る。
『あ~、やっと繋がったよ。君、秀君の弟君だね?』
「あんたがシンか?」
『そうだよ・・・まあ、色々と思う所はあるけど先に要件を伝えるよ』
要件?何のことだ?
『君・・・異世界でとある国を救ってくれない?』
シンと名乗る男からの依頼・・・それが俺、地天才の異世界物語が始まった瞬間だった。
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