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地天才過去編⑧

それは単なる気まぐれ・・・いや、いい加減うんざりしてきたから取った行動から始まった。


父は優秀な経営者。これまでいくつもの経営危機をその頭脳とカリスマ性で乗り切り拡大してきた。そうした自信が積み重なったからなのだろうか自分が言うことが全て正しいと考えるようになっていた。


私の人生、そして弟の人生も父が全て決めてきた。

何を勉強すればいいのか、何が必要で何が不必要なのか。

全て父の指示の下行動した・・・そのおかげもあるのか私は一般人から見れば優秀の部類に入るエリートへと成長した。


だが弟は違った。


父がああしろと言えば『何故?』と聞き、父がこれを使えと言えば『こっちの方がいい』と言い出す。とにかく弟は何かと父に意見を出しては言い争っていた。


弟は平成家の人間とは思えないくらい感情的だった。

面白いことがあれば大口を開けて笑うこともあれば嫌なことがあれば分かりやすいくらい不機嫌そうな顔をする。


兄である私から見ても弟は優秀な人材ではないと思っている。だが何故か周りの評価は高く彼の周りに人が集まっていた。本当に理解できない。


そして、父と何度目なのか忘れたが・・・喧嘩した弟は結婚したばかりの嫁と一緒に家を出て行ってしまった。優秀ではない人間が出ていったからといって財閥にとって大きな打撃にはならない。どこで暮らそうと弟の勝手だ。


それから20年父が弟に会うことはなかった。


厳密には弟からの連絡はあった。

父から勘当されていても私や母の事は家族と思っているのか私のプライベート用端末には連絡はしてきていた。


「こっちは元気にしているぞ!」、「息子が生まれたぞ!メッチャカワイイ!」、「二人目の子供爆誕!」など、相変わらず感情むき出しの内容ではあったが元気でやっているらしい。


私にも娘が出来たし父も祖父という顔を見せるようになり落ち着きを見せ始めていた。


だからこのタイミングでよりを戻そうと思い私はある決断をする。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「会長、少々見ていただきたい企業があります」

「ん?人材派遣会社か・・・最近名を聞くようになった所だな」

「はい・・・主に地方の方や海外へ派遣していたため我々の目に留まるのが遅れてしまいましたが、実績はかなり高いです」


嘘は言っていない、実際これまでの実績を見るとかなりの成果を出している。

正直何故これほどの企業に財閥の目が留まらなかったのか不思議なくらいであった。


「ほうお前がそこまで言うとは。誰が運営して・・・な!地天ちあまわたるだと!」


地天、それは亡くなった母の旧姓。私も最初目にした時は疑った。

まさか母方の姓を名乗って活動していたとは。


「昇!お前気付いてただろ!何故アヤツの会社を取り込む必要がある!」

「取り込む必要はありません、ですがいい加減顔を合わせるべきだと思ったのです。もう20年ですよ。息子が二人・・・あなたにとって孫である子供がいるんです」


娘に愛情を注ぐ父を私は何度も見てきた。

会社では威厳に満ちて社員達に指示を飛ばす父であるが、娘の宝姫が遊びに行くとその威厳が霧散してただの好々爺になって娘を可愛がる。


だが時々思うのだ。あと二人・・・あの光景に混ざるべき子供がいるはずなのだと。


弟が今も父をどう考えているのかは分からない。

会った所で喧嘩をする可能性もある。

だがこのまま会わず・・・永遠にそのチャンスを失わせるのはどうかと思う。


「別に仲直りをして欲しいと言っている訳ではないのです。ただ一度話し合いをして折り合いをつけて欲しいと思っているのです」

「話し合いなら20年前についとるわ!あいつはもう平成家の人間ではない!」


やはりというべきか私の意見には耳を傾けない父・・・これではダメなのか。


「・・・が、お前が初めて儂に我儘を言った訳だし、聞いてやらん事もない」


顔は向けなかったが父は呟くようにそう言った。


その言葉を聞いた瞬間、今まで感じた事もない達成感が胸の底から沸き立つのを感じた。


「ではスケジュール調整とアポイントメントを済ませてきます」


そう言い残し私はその場から退出した。

だが、それが私・・・いや《《私と父にとって人生で最大の選択ミス》》であった事だったとその時は思いもしなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


父が弟と対面した日、私は父から連絡が来た。


「父上、渡と話は出来ましたか?」

「・・・昇。渡が死んだ」


何の冗談だ?そう言いたくなったが父の声は震えていた。


「どういうことです!何故!何故渡が死んだんです!」


父が言うには私や父に恨みを持つ者達が父の後をつけていたらしい。


財閥ともなれば多くの者から妬まれたり、恨まれていたりした。

その大きな理由となるのが人材の最適化・・・つまり優秀ではない者を切り捨てる方針だ。これまで父も私もその方針で何人もの社員を切り捨ててきた。


全ては財閥の為・・・


だがその積み重なりが最悪の形となって襲い掛かる。


襲撃時、弟と秘書をしていた嫁は父を庇った時に致命傷を負い死んだそうだ。

犯人は駆け付けた警察によって取り押さえられ連行されたがそんな事はどうでもよい。


私は急いで病院へ向かい父の下へ駆けつける。


「父上!渡は!渡は本当に!」

「・・・昇」


目の前にいる父はまるで別人のようにやつれていた。

覇気は無く未だに現実を受け入れきれていない様子で私を見る。


「儂は何という事をしてしまったのだ・・・あいつは!渡は何も悪くないのに!何故あいつが死ぬんだ!」


父の絶望に包まれた叫びが私の頭を殴る。

そう・・・悪いのは全て父と私なのだ・・・弟が死ぬのは筋違いだ。


「あいつ・・・会った時、普通に笑っていたんだぞ!『俺も妻も息子達も元気に生きているぞ』って」


思い出すように父は言葉を溢していく。


「『俺は平成家に戻るつもりは無いが、息子達は孫として可愛がってくれ』って・・・今度家族全員で会わないか・・・って。打ち合わせであることを忘れて息子の自慢話をして・・・」


そして徐々に父の言葉に力が抜けていくのが分かる。


「儂は・・・あいつの息子達を愛する事も・・愛される資格も無い!」


『あいつの息子達』・・・そう、弟には2人の息子がいる。

両親を失い彼らは今後辛い人生を送る事になる・・・本来であれば私が保護者となって彼らの面倒を見る事になる・・・だが、父同様私にも彼らにどう接するべきなのかが分からない。


元をたどれば彼らの両親の命を奪った原因は我々にあるのだ。


「儂は孫2人に何かする資格はない・・・だが何かしなければいけない。2人をこれ以上不幸にさせないためにも・・・」


する資格は無くても償いはしなければならない・・・たとえ法律的に我々に罪が無くても。


・・・だから《《恨まれた状態でもいい。嫌いであって欲しい》》。

彼らがこれからの人生を幸せにするために平成財閥は全力で支える事を誓った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その後父は部下を引き連れ弟の家へ向かい初めて孫達と対面し、養子入りの話を持ち掛ける。結果は予想通り敵意むき出しで養子入りを断られた。


だがこれで良い・・・あの兄弟は父と私に心を許してはいけない。

許すべき存在ではないからだ。


兄の秀は弟にそっくりで感情的かつ物事をハッキリというタイプだった。

そして弟の才はまだ未熟ではあるが客観的に物事を捕らえ冷静に考えるタイプ。


秀は大学を辞めて働きだすようだったので、そこは私が《《保護者》》として休学扱いにさせてもらった。財閥の力を少し使ったがこれで良い。大学で学ぶべき事をしっかりと学ばなければ弟達の想いは潰えてしまう。


そして才の方は通っている学校が財閥が寄付している所だった為、交換留学という形で最新の設備と技術が完備された学校へ行かせるように仕向けた。


この行動で才は財閥の力を理解したのか父に連絡を入れてきた。

もう少し外堀を固めようと思ったが決断力が早い。


父と会食をした後養子入りの件を受け入れ、才は養子となった。

養子になってから才には平成財閥の知識を詰められるだけ詰めようと思った。


私は自分の悪い所がハッキリと見えるように仕事をする姿を彼に見せた。

長年自分と父を比較して理解していたが、私には父のようなカリスマは持ち合わせていない。《《ただ優秀さ》》で部下達を従えているだけの存在。せめて反面教師として彼の将来を支えたい。


財閥を継ぐのも良い、弟のように出て行って企業を立ち上げるのも良い。

ただそれが出来るだけの力を与える事にした。


ここで予想外だったのが才の才能だった。


彼は平成財閥のカリキュラムを吸収しその改善点を見つけ出しては改良を重ねた。

長年平成財閥が正しいと結論付けていたカリキュラムを少年である才がそれを打ち怖した。その他にもまるで乾いたスポンジのように様々な事を吸収し、多くの実績を上げた。


娘もそんな才に触発され彼の実績を塗り替えようと努力を積み重ねた。

正直、私が娘と同じくらいの年の頃でもこれほどの実績は積み上げられなかった。


それだけに才という人物の影響力は凄まじかったのだ。


そして影響力といえば兄の秀も同様だった。

彼はバイト先の店主に諭されて大学に通うようになった。


一応彼のバイト先には高名な著名人達を向かわせては世論や業界について話をしてもらっていた。始めは一人数回向かってもらうだけだったのだが何故か契約終了後も彼が働く店に通うようになっていた。


話を聞くと秀と話をしていると楽しくなり、新たな発見が見つかるという。また店の料理も好評なためいつの間にか彼が働く店は著名人達の溜まり場と化していた。


秀と才・・・2人が持つ影響力はおそらく私や父は欲しても手にできない『才能』なのだと思った。


秀は卒業後、自分の会社を立ち上げたそうだ。


アースカイ・ジーニアス・コーポレーション・・・『地天』で『アースカイ』・・『秀才』で『ジーニアス』・・・実に彼が考えそうな名前だ。


どうやらシステムエンジニアとしてフリーランスのように活動しているようだが、経営はあまりよろしくないようだ。まあいきなり立ち上げて成功するなんて奇跡はそうそう起きない・・・ましてや勢いで突っ走るところは彼の父親そっくりだ。


これからどう彼の会社をさせようかと考えていた時、丁度傘下に入る予定だった企業リストが目に入った。


どの企業も将来性はあるが能力的に財閥が定めている基準には達してはいない。

正直このまま抱え込んだ場合のリスクを考えると、切るべきだと思った。


だがその瞬間弟達の悲劇が目に浮かんだ。


もしここで切り捨てた場合、彼らの恨みはどこへ向かう?

私だけに向けられるなら別に良い・・・だが、その矛先が娘や才達に向けられたらどうなる?


そんな恐ろしい未来はあってはならない。

この状況での最善策を打ち出すため・・・私はあるかけをすることを決めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その日は才が父に定期報告をする日だった。

彼は私達の予想を超える程優秀に育った。


それこそ財閥にとって必要不可欠な存在となりえる程に。


そんな彼だからこそ私は託そうと思った。


彼が定期報告を済ませた瞬間会長室へ入り、傘下へ入る企業についての話をした。

私は切り捨てる方針を持ちかけて父に訴える。


そしてその話を聞いた才はそのまま部屋を出ていく。


その後、才は私の予想通り切り捨てる企業を救うプロジェクトを立ち上げる。


だがここでいくつかの予想外な事が起きる。


まずこのプロジェクトに娘が加わった事。

正直娘にはまだ早いと思った、だが娘は切り捨てる予定だった企業の社長と対談し見事に育成プロジェクトに参加させることに成功させた。


そして次に育成プロジェクトに参加した講師側。

才が兄の所に行く事は分かっていた。プロジェクトの土台となる企業を使うなら才が信頼できる所に任せるはず。だがまさか以前、秀のバイト先に向かわせた著名人達が講師を引き受けるとは思わなかった。


そして才によるカリキュラム。

平成財閥が彼の育成のために組み上げたカリキュラムを独自に改良し、社員向けに組み直したのだ。その成果は目に見えており、正直財閥の力だけでここまで成長させる事は出来ないと感じた。


才の頭脳、宝姫のコミュニケーション能力、秀のカリスマ・・・この若者3人が組んだことでこれほどの成果を出せると誰ガ予想できただろうか。


それから数年、才達の影響力は徐々に広まりまさに波に乗った状態だった。

あの調子ならいずれ弟の会社以上の実績を出してしまうかもしれない。


そう思った矢先に1通のメッセージが私のプライベート用端末に届いた。





『真実を知りたい。平成尊と共にアースカイ・ジーニアス・コーポレーションに来て欲しい・・・地天秀』

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