地天才過去編⑤
平成家へ養子入りしてからは俺の環境は劇的に変わった。
まず俺は平成家の人間として勉強が足りていない。学校での勉強は申し分ないと言われているがそれ以外の礼儀作法、上流階級の人間としての嗜み、情勢の知識など。
生活環境が変わればその環境に求められる知識も変わる。
なので俺は学校での時間以外は平成家が用意したカリキュラムをこなすことが殆どだった。正直学ぶ事が多すぎて初めはパンクしかけた。だがここに来て諦めるというのはあの男に負けたような気分になるのでそこはがむしゃらで乗り切っていた。
人間、がむしゃらに行けば何とかなるとはよく言ったものだ。無我夢中に勉強して吸収できるものはとことん吸収し、気づけば三年が経過していた。
「・・・ふむ問題ないな」
いつものように尊への定期報告を済ませた俺・・・この爺さんとの付き合いももう三年になるのかと思うと時間というのは早く進むものだな。
両親に対してあんな態度を取る人間が何故こんなに偉いんだと初めは怒りの感情を抑えつけるのに必死だった。だがこの男の実力を嫌って程見せつけられ、確かな実力があるのだと思い知らされた。正直今でもこの男は嫌いであるが財閥を引っ張るだけの力はある事は認めなければならない。
少なくともこの男が現役の間は財閥は安泰だろう・・・問題は・・・
「父上・・・少しよろしいでしょうか?」
部屋に入って来たのは俺の養父、平成昇である。
三年間この男とも付き合いがあるが未だに俺を《《立場上の養子》》としか見ていない。つまり俺は存在しても存在していない扱いなのだ。
昇は一瞬俺の方に目を向けるとすぐに視野から俺を消したのか何も言わずに要件を述べてきた。
「こちら、新しく傘下に入った企業ですが見込みは薄いと判断しました」
「ほう・・・まあ利益率はそこまで高くはないな」
「ええ、なので効率的に考えて切るべきかと思い進言しに参りました」
相変わらずの効率主義というか持論に基づいた合理主義者というべきか、この男によっていったいどれだけの企業が振り回されたものか。
平成昇は優秀な人材である。それは間違いない。
高い実力とリーダーシップで部下達を引っ張るような男。
だが人間的な感情が欠如しているというか、どこかカリスマ性が欠けている。
もし父さんが生きていて兄弟で財閥を支えるのであれば昇をトップとして舵取りをして、父さんが部下たちの統括する立場であれば理想なんだろうな。
まあたらればの事を考えても仕方ない。
俺は尊に視線を向け退出する事を視線で伝えた後部屋を出た。
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平成財閥が所有する高層ビルを後にしようとした時入口の方から一人の少女が数人の黒服達を引き連れて歩いて来るのが見えた。
「あら、才・・・お爺様へ報告を済まされたの?」
俺の姿を確認すると彼女は真直ぐ俺の方へ歩きほほ笑みながら挨拶をしてきた。
なびくセミロングの銀髪、サファイアのように輝く瞳、そしてまだ14歳という事もあり、幼さが混ざった顔つきは最高の人形技師が作ったのかと思うくらい非の打ち所がない美貌を有していた。
彼女は平成宝姫・・・尊の孫であり、昇の実の娘。つまり俺の義妹という立ち位置にある存在だ。
「ああ、特に指摘される事は無かったよ」
「ふーん・・・あのお爺様の小言も無しって事はいつものようにしっかりと成果は出したみたいね・・・それじゃあ私はお褒めの言葉を貰えるくらいの成果を報告しないといけないわね」
宝姫は満足そうな顔をしながら俺を見る・・・その眼はライバル心を燃やしているように輝いていた。
俺より二つ年が離れている彼女は何かと俺への対抗心を燃やしており、俺がしてきたことを殆ど真似て同じかそれ以上の成果をだしている。
俺が三年生で生徒会長に就任すれば、彼女は二年生で生徒会長に就任。俺が学園の学力テストで最高記録を叩き出せば二年後には彼女がその点数を塗り替える。体力や趣味趣向などが関係しなければ彼女は俺の上位互換ともいえる存在だ。
まあ俺としては悔しさよりも彼女の成長を間近で見れる期待感の方が勝っているそこまで気にはしていない。
「会長への報告の件だが少し待った方がいいぞ。今養父が面談中だ」
養父、つまり彼女の父親がいると知った瞬間宝姫の瞳のトーンが滲んだように見えた。
「・・・そう。なら才。少し私に付き合いなさい。この後の予定は特にないはずよね?」
「俺のスケジュールは把握済みか・・・まあいいが」
そう言って俺は彼女に付き合い、ビルの応接室を借りて時間を潰すのだった。
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ビルの中で一番豪華な応接室を貸し切りにした俺達・・・というよりも宝姫が受付に我儘言って無理やり取った部屋なんだが。
「本当に最悪!なんで今日あの男がここに来ているのよ!」
さっきまでお淑やかな姿とは一変して宝姫は感情をぶちまけるように騒ぐ。ちなみに彼女の取り巻き達は部屋の外で待機している為この部屋には俺と彼女だけだ。
「何やら傘下に入った会社を切りたいと相談していたそうだが」
「ふーん・・・またあの合理主義頭で判断した訳ね・・・本当に平成財閥を担う男の判断とは思えないわ」
自分の父親なのに彼女はまるで他人のように不満を溢す。
なんというかこの家系は家族というか人との接し方の感情が妙にズレているような気がする。
「才もそう思うよね!というかあの男にどれだけの人が振り回されているのやら・・・」
「まあそれだけの力が平成財閥にはあるが・・・横暴なのは間違いないな」
彼女の感情に触発されたのか俺も溜まっていたものを溢すように彼女に話す。
「でしょ!その尻拭いをお爺様やお母様がどれだけしてきたことか・・・ああ、もう!あいつにギャフンって言わせる方法はなにの?!」
仮にも財閥のご令嬢が「ギャフン」なんて言葉を使うだろうか?
「まあ・・・切り捨てられた者達の価値をあの男は理解していないのなら・・・見返す方法は無くもない・・・かな?」
「何!どんな案?!」
俺がそんな言葉を溢すと宝姫は目を輝かせながら俺の前へ詰め寄る。
「そいつら全員俺達で優秀に鍛えればいいんだよ」
地天式人材育成カリキュラムでな。
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