地天才過去編④
尊に案内されたレストランの個室はまさにVIP対応といった感じでただでさえ高級レストランでさらにランクアップさせたような豪華な部屋。だがこてこてとした感じではなく食事をする空間として落ち着きがあった。
「さて、儂も忙しい身だ。君の返答を聞かせてもらおうか」
部屋に入り、椅子に座るとすぐさま尊は俺の返事を求めた。
一瞬せっかちとも思えたが財閥の会長に貴重な時間をこんな中学生に割いてくれただけでも感謝すべきだな。
「養子の件・・・受けさせていただきたいです」
「ほう・・・もう少し粘ると思っていたが」
「粘れば俺たちの身の回りにどんどん干渉していたはずです。これ以上何かされるくらいならここで返答すべきだと思ったのです」
俺の学校もだが兄の大学の休学の件も関わっている。
いずれ兄のバイト先もかぎつけて干渉するに違いない。
「ふははは、やはりお前は聡明だな・・・それでこの時点で返答しに来たのだから条件もあるのだろ?」
やはりこっちの考えはお見通しか。
「父と母の会社は残してください・・・あそこはいずれ兄が使う場所なので」
少しでも両親が残した物・・・それを俺は守りたい。
「・・・いいだろう。ただし社員は平成財閥として雇っているがいいな?」
「社員はそちらにお任せします・・・少なくともひどい扱いはしないでしょうし」
働く環境としてはそっちの方が社員たちのためになるだろう。
「了解した・・・では早速君に会ってもらいたい男がいる」
尊がそう言って電話を掛けるとすぐに眼鏡をかけたスーツ姿の男が入ってきた。
「話は纏まりましたか父上」
「昇、彼は思ったよりも優秀のようだ」
昇?・・・それって確か兄の手紙に記載されていた保護者の名前。
「初めまして。平成尊の息子の平成昇だ、現在君たち兄弟の保護者という立場にいる」
親子というだけのことはあり、視線といい話し方といい尊と随分と似ている。
本当に父と兄弟なのか疑いたくなる。
「では早速この書類にサインをしてもらおうか」
そう言って昇が取り出したのは一枚の紙。
内容は俺が平成昇の養子になることへの同意について。
「ここへ来る前に君の兄に会ってきた。随分と嫌われたものだ。私が君たちの保護者であることもだが大学を休学扱いしたことにも怒っていた」
昇は何が悪いのか理解していない様子で話すと俺の顔を見た。
「君は違うようだがね・・・彼も君が養子になったと知れば付いてくるだろう」
「それはどうでしょう?俺を裏切り者と見るかもしれませんよ」
実際兄がどんな行動を取るか今の俺には分からない。
この選択が兄との関係を割く形になるかもしれないがそれでも大切なものは守りたい。
そう考えながら俺は書類にサインをした。
「手続きが完了するまでしばらくかかる。それまでに身支度を済ませるように・・・それと君の学校の件だが例の学校に通うことになるが良いね」
書類にサインをした俺を勝ち誇ったように見る尊は俺の今後について話していく。
「・・・分かりました」
「それと手続きが完了したら、君は『地天才』ではなく『平成才』だから・・・そこも忘れないように」
平成才・・・それが俺の新しい名前。
その後、尊は満足そうな顔で「好きな料理を頼んで良い」と言い残して出ていき。昇も「帰りのタクシーは受付に言えば呼んでくれる」とだけ言って出ていく。
本当自分勝手な親子だ・・・
その後、俺はせめての嫌がらせのつもりでとびっきり高い肉料理を頼んだ。
「・・・ウマ!」
恐るべし高級レストランのクオリティ。
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家に帰ると兄がいた。
机の上には俺が開けた大学の手紙が置かれている。
「才・・・中身を読んだのか?」
「ごめん・・・でもどうしても気になって」
「それで・・・あいつらに怯えて養子になったのか」
「どうしてそれを・・・」
そう言いかけた時になんとなく察した。
恐らく尊か昇が兄に連絡を入れたのだろう・・・俺が平成家に屈したと。
予想通り兄は俺が裏切ったと思っているみたいで今まで見せたことが無い鋭い目で俺を見ていた。
「もういい・・・お前が平成家に行くなら勝手にしろ」
「兄さん!」
「ああ!精々した!これで生活費は俺だけで何とかなるな!」
俺の言い訳を聞こうとせずに兄は叫びながらカバンを手に取る。
「・・・数日間は留守にしている。持っていきたいものは勝手に持っていけ」
それが兄が俺に最後に言い残した言葉であり、俺は兄に会えないまま平成家へ養子入りするのだった。