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地天才過去編②

「お前達には二つの選択肢がある。一つ、まともな援助もないまま兄弟揃って苦しい生活を送ること。二つ、儂の息子・・・つまりお前達の伯父の養子になることだ」


尊の提案を聞いた瞬間、この老人の言葉の意味を理解した。

伯父の養子・・・つまり俺達の両親の存在を否定しているのと同義だった。


「ふざけるな!あんなどんだけオヤジ達嫌っているんだ!答えは決まっている!あんたらとの関係は持ちたくない!」


兄も言葉の意味を理解し真っ先に断った。


「ほう、儂に歯向かうというのか?平成財閥を敵に回してでも良いというのだな?」

「ったりまえだ!オヤジ達があんたの話をしない理由がこれでハッキリしたぜ!とっととここから失せろ!」


兄の返答を聞くと尊は深い溜息を吐き部屋から出て行こうとするが、最後に俺を見て言った。


「才・・・お前はどう考えているか、その答えは後日聞かせてもらうとしよう」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


祖父と名乗った老人と出会って数日。

俺達の環境は大きく変わった。


一つは父が運営していた会社は副社長である男に引き継ぐ形となったのだがその会社はすぐに平成財閥が買収。社員たちには今まで以上に好待遇として雇われることとなった。兄は副社長だった男を終始恨んでいたが、両親がいない今社員の今後を考えたらその判断は間違いじゃないと思う。


二つ目は兄が大学を退学したこと。俺の学費の為に稼ぐと言い出し毎日アルバイトをする日々を送っている。毎日朝早くから夜遅くまで何のバイトをしているのかすら教えてくれない。


そして三つ目は周りからの視線だった。


両親の葬儀は小さな規模で行われた。元々父は勘当されていたわけだし、母方の親もすでに他界しており母も一人っ子・・・親族と呼べる人が来ずただ親しかった人たちが集まって見送ってくれた。


俺達が両親の為に集まってくれた人たちにお礼を述べていると一台の高級車がやって来て一人の老人と数人の黒服達がやって来た。


「あんた!なんでここに来た!」

「息子を見届けるのは親として当然だろ?」


当たり前のように言う尊。

だがその一言で周りの視線が一瞬にして変わるのが分かった。


今までは中小企業の社長と秘書の息子としか見ていなかった人達。

だが尊が言ったことで『金持ちの血縁者』という認識を持つようになった。


やられた!この爺さんはこれを狙っていたのか!


「ふざけるな!あんたをオヤジ達に合わせるわけにはいかない!今すぐ帰れ!そして二度と俺達の前に現れるな!」


兄が叫びながら追い返すとするが、周りの人達は兄を宥めて尊を奥へ通そうとする。


「秀君!その人は君の祖父なんだろ?!最後に会わせてあげなさいよ!」

「そうだよ!最後に親子の対面させてあげないと」


もっともな事を口に出しながら兄を止める大人達・・・そして彼らの視線の先には尊の姿がある。何かに期待する目、だがそれはとても向けられてうれしいようなものではない。


そして尊はそのまま両親の顔を数秒見た後、何も無かったかのように葬儀場から出て行ったのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


下校して家へ帰る途中、俺の横を一台の高級車がゆっくりと走って来た。

車の中には尊の姿があった。


「やあ才・・・少しドライブでもしないかい」

「・・・」


俺はそのまま高級車に乗り込み、尊の隣に座った。

正直今でも両親に対する扱いでこの老人とは会話すらしたくない気持ちでいっぱいだったが、聞きたいことが山ほどあった。


「なんで今になって俺達の前に現れたんですか?」

「勘当した手前、顔を合わせる機会が無かったものでな・・・ご両親からは儂の事は何も聞いていないのかい?」

「ええ・・・母さんの方はすでに亡くなっていることぐらいで、父さんの方は有名な財閥の家系だったとだけ。祖父の名前もその時に一度聞きました」


まあこの老人が両親に対する態度を見れば話したがらない事も理解できる。


「君は平成財閥の事は知っているかい?」

「まあそれなりに・・・雑誌とかに載っているブランド品とか大抵平成財閥の名前が出ていたし、CMとかにもよく見ますね」

「まあ、それなりに手広くやっているからな」


手広くね・・・世界的にも有名な大財閥。その舵取りをこの老人が長年執っていたと思うと素直に尊敬できると思えてしまう。


「本来であれば財閥の半分は君の父親が担うはずだった・・・だが奴はそれを拒み秘書と駆け落ちして小さな会社を経営していた。そんな馬鹿な行動をするように儂は教育した覚えはないぞ!」


財閥の半分を担う・・・確かに誰もが出来る事ではないし、それを断って小さな会社を立ち上げる父の行動は傍から見れば異常なんだろう。だがそんな父を間近で見てきた俺は何となく父の気持ちが分かる。だが、今ここで父の気持ちを代弁してもこの人には届かないと思う。


「地天才・・・君は兄と違って随分と優秀らしいじゃないか。勝手ながら学業の成績とか調べさせてもらった」


尊はそう言って何枚かの資料を手に取る。


「君の潜在能力は実に素晴らしいと思っている・・・君なら父親が継ぐはずだったものを託しても良いと考えている」


父が継ぐはず立った物・・・つまり財閥の半分。


「・・・それは俺達にとっての伯父さんの養子になる事も条件ですか?」

「当然だ・・・平成才として今後財閥を担うのに相応しい人間へと教育していく。そのためのカリキュラムなども準備はすぐにできる」


結局この人は自分の思い通りになる後継ぎが欲しいわけか。


「継ぐのは伯父で十分なのでは?半分にしなくてもいいと思いますが?」

「さっきも言ったが手広くやっているせいで、どうしても息子だけでは限界というものがある。奴にも出来ることと出来ないことがあるからな」


その出来ないことを父が担うはずだったと・・・


「・・・すぐに答えは出せませんが。近い内に返答します」

「良い返事を期待しているぞ」

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