97話 ビーチでバカンス気分
ここは、ダンジョン22階層。
目の前に広がっているのは青い海、白い砂浜そして『海の家』と書かれた木造の屋台がポツリと建っているだけ。
「ああ・・・落ち着くな」
ジェシカに頼んで撥水機能があるズボン・・・つまり水着を作ってもらい22階層でバカンス気分を味わっていた。
だが決して遊び目的ではない!
そうこれは娯楽を増やすために必要な事なのだ。
「コウキ様、おかわりのオレンジジュースをお持ちしました」
「ああ、デューオありがとう」
うん・・・どう見てもバカンスだよな。
まあ最近色々と忙しかったしこういう遊べる施設があればなぁと思って作ってみたんだけどな。
ビーチチェアに寝そべりながら新鮮なオレンジジュースを飲む。
ここにフロアに設置されている【太陽系魔法】によって日差しは真夏のように強く、温度、湿度も真夏を再現させる設定にしてある。常夏フロアともいえる場所はバカンスにピッタリなのだ。
「コウキ様、このような素晴らしい場所を作っていただきありがとうございます」
「いいよ、俺もたまにここに来ていいか?」
俺の隣には同じくサングラスをかけてビーチチェアで寝そべっているカーツの姿がある。日焼けした肌に海の塩素で脱色したようなオレンジ色の髪、海によって鍛えられたかのような引き締まった肉体、そして怪魚人という種族に相応しい荒々しい色をした鱗が所々見える。
元々22階層の戦闘フィールドは海上と海底の二種類だったのだが、カーツの趣味がサーフィンだったので22階層を改装していくつかの小さな島を作った。
まあ俺の想定では第一ラウンドは挑戦者達が船にのって海上に上がったカーツと戦い、第二ラウンドで海底で闘うのだが・・・ぶっちゃけ水中にいるカーツはマジで強い。
以前フロアボス達が腕を鈍らせないために表ダンジョンのメンツが戦った事があったのだがバトルフィールドが水中だった時はカーツが勝利していた。3名とも『水中だったらカーツに勝てる気はしない』と感想を述べていた。
そのため海底での戦いとは別に挑戦者達用の足場となる島を作る事になったのだ。
ちなみにカーツの家は海底の遺跡なんだが別荘としてすぐ後ろに建てられている大き目のログハウスが用意されている。
「コウキ様、自分は少し遊んできますのでごゆっくりしていてください。何かあれば従者に申しつけください」
カーツがそういうと、突き刺していたサーフボードを手に取り海へ走り出した。
「あんなに嬉しそうに出るとか。相当嬉しかったんだろうな・・・いやーしかし、ここは本当にいい場所だ」
地球にいた頃はこんな事が出来るとは思っていなかったから尚爽快に感じる。
新しいフロアを作るのも一つかと思ったが丁度カーツの要望もあったのでせっかくならここに作ろうと考えた。挑戦者達が挑んでいない時はここを保養所として使うのもいいかもしれないが、その時はカーツと相談しよう。
「やっぱり仕事のオンオフは必要だよな」
海辺で楽しくサーフィングをしているカーツ、浜辺には彼の部下たちが楽しそうにビーチバレーで遊んでいる。可愛らしい水着を纏っているが腕や足には魚の鱗がちらほら見えている。おそらく、魚系の魔物が進化した姿なのだろう。有鱗族・魚鱗種・・・知れば知るほど住民の種族は興味深かった。
有鱗族にも三種類ある、魚の鱗、爬虫類の鱗そして龍の鱗。進化元が違えば姿も持つ能力も異なっている。例えば魚鱗の有鱗族は水中でも呼吸が可能。爬虫類の鱗を持つ有鱗族は生命力が強く鱗も丈夫な者が多い。蜥蜴人族リザードマンが進化した有鱗族なんか【自己再生】なんてスキルを持っていたのが驚きだ。だが、それ以上に凄いのは龍鱗を持つ有鱗族。個体数はかなり少ないがその戦闘力はトップクラス。
知れば知るほど謎が増えるが、深く考えず彼らはそういうものだと受け入れる方が楽だと思い詮索はやめた。
「光輝、こんな所にいたんだ・・・何カーツの部下をエロい目で見ているのよ!」
見上げるとそこにはムスッとした顔をしたエイミィの姿があった。
口調がいつも通りになっている事に気付くと、デューオは空気を読んだのかこの場にはいなかった。
「別にエロいとかじゃなくヒト化って不思議だなって思って・・・」
真面目な話題を出そうと思ってちゃんとした理由を言おうとしたが、彼女の姿を見た瞬間思考が停止しかける。眼福といいたくらいスレンダーな体系を見せつけるビキニ姿。細い足、女性の体系を象徴するくびれ、あまり主張していないがある事ははっきりと言えるバs
「何見てんのよ、このヘンタイ!」
女神様の平手打ちを紙一重で交わす
「ま、待て。安心しろ女性のステータスは胸だけじゃない!・・・いや、むしろあまり主張しない胸もステータスなのか?とりあえずお前は普通だから気にするな!」
「やっぱり見ているじゃない!というか普通って何よ!」
やべ!分かり切った地雷を踏んでしまった。
初めて見たときから美人だとは思っていたが胸部においては『普通』という印象だった。まあ、俺は胸よりくびれ派だから気にはしない。
高校時代、友人達と女性の魅力を討論して俺だけくびれ派だったのは納得がいかなかった。
ちなみにフロアボスの中だとカルラがダントツで次にメリアス、ミーシャが一番慎ましいんだが体系を自由に変えられる彼女の場合ノーカンだ。
「・・・観察するな!」
こんどこそ神の平手打ちをくらった
・・・・・・・・・・・・・・
「うーん、気持ちいわね」
「・・・ソウダネ」
さっきまで何事も無かったかのようにエイミィはバカンスを堪能しはじめ、俺がさっき貰ったオレンジジュースを手に取って飲む。
俺の頬には未だにヒトデの跡が残っているが神のご機嫌がこれで済むなら良いかと無理やり納得させ気持ちを切り替える。
「ダンジョン、だいぶいい感じになってきたわね」
「まあ、始めはどうなるかと思ったが」
作り始めた時はただ魔物が出て来たり変わったギミックを取り入れただけの迷宮だったのに、昔の俺がこの光景を見たらなんて言うだろう。
ここでの生活も半年は過ぎている。短いようだがかなり濃密な時間だなと思う。
「そうだね、でもここまで来れたのは光輝のおかげだよ。私一人だったら今頃どこかの国に捕まっていたかも・・・・改めて御礼を言うわ『ありがとう』、そしてこれからもよろしく」
手を差し伸べるエイミィに俺も固く握手をした。
「そうだな、これからもよろしく」
今思い返してみれば俺がこの世界にいようと思ったのはこのエイミィを助けたいと思ったからかもしれない。
俺はエイミィを守るためこれからもダンジョン運営を続けることを硬く誓った。
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