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第9話 とある昼時の二人


「たまにはこう言う昼御飯も良いなぁ」


「袋ラーメン美味いよな。昼飯にたまーに食いたくなるんだよなぁ、何でだろ? 子供の頃の記憶があるからかな?」


「こっちの世界では、こんな美味い物を手軽に食えるのだから、豊かであるのう。しかし美味しい。袋ラーメンは何故こんなに美味しいのだろう? 具を追加で入れたらちょっとした料理じゃ。まぁ、具無しの麺だけでも美味しいがな」


昼食に袋ラーメンって子供の頃を思い出す。大人になると昼に袋ラーメンって、食う機会が減る。理由は、仕事場で作れないからだ。


昼にインスタント麺をってなったら、どうしてもカップ麺の比率が高くなるから、昼飯に袋ラーメンって特別感が未だにあるよ。


今日作ったのは、野菜やキノコ類に、豚肉と厚切りベーコンに卵にと結構豪華だ。

俺は野菜を炒めるバージョンと、ラーメンを茹でるお湯に入れて、ついでに野菜やなんかも煮て作るバージョンがあるが、今日は炒めた。


キャベツと白菜、それにエリンギ、舞茸、シメジと豚肉と、厚切りベーコンをやや厚目にカットした物をバターで炒め、ある程度火が通ったらベーコンを一旦よける。


火加減は具材に軽~く火が通るぐらいで、お湯を入れて、少し煮立たせてから灰汁を取り、生卵を入れて卵に火が通ったら麺を投入する。


その際、卵が崩れない様に気を付けつつ、麺を茹で、麺をやや(かた)めになる程度で一旦火を止めて、スープの元を入れて混ぜ、丼に入れる。そして、最初によけておいた厚切りベーコンをカットした物を上に乗せて完成だ。


厚切りベーコンはチャーシュー代わりだが、これが結構美味い。厚切りベーコンによるなんちゃってチャーシューは、今日の様に味噌ラーメンの時の限定メニューであり、魔王も大好きな料理の一つだ。


「なぁ、今度、又作る時は、生食出来るホタテの貝柱を入れて作ってくれ」


「て事は、塩ラーメンか? 生食出来るホタテの貝柱は高いんだぞ」


「でもアレ無茶苦茶美味いではないか。今日のも美味いが、わらわアレも好きじゃ」


「贅沢な…… あんな高い物を入れる位なら、外に食いに行った方がよっぽど安くつくぞ」


「何を言う、インスタントラーメンに入れるから美味いのではないか。アレはアレ、これはこれじゃ」


口が肥えたと言うか、口が贅沢になったと言うか、コイツの舌を満足させるのに、手間が掛かる様になりやがったなぁ。


「あっ、勇者、キツネが出ておるぞ」


「あー…… 渡良瀬(わたらせ) (たまき)か。キツネってお前…… いやまぁキツネだけど」


渡良瀬 環は若手No.1と言われている女優だ。

映画にドラマにCMに多数出演し、CMも去年、出演本数No.1であり、CM出演料が一本、五千万~八千万とも言われている人気、実力共にNo.1美人女優である。


そして、渡良瀬 環は九尾の狐でもある。


「しかし案外皆分からん物じゃのう…… あのキツネ、全く正体がバレておらんのじゃから」


「そりゃそうだよ。魔力が全く無かったり、あっても魔力の使い方が分からなければあの変身と言うか、隠蔽は見抜け無いだろ。大体だな、魔力がショボかったりしたら見抜くのは絶対無理だ。アレを見抜くのはかなりの魔力持ちじゃないと無理だと思うぞ」


「それもそうか。しかしこの世界、魔力自体はあるのに、魔力無しの人間が多過ぎじゃ。魔力無しで良くここまで文明が発達したもんじゃ。逆に感心する」


「高度に発達した科学は魔法と見分けが付かないだったか? むしろ魔力が無いからこそ科学が発発展したんだろうな。この世界は魔法のあるあっちより発展してるが、魔法と言う便利な物が無い。だからこそ科学技術が発展したんだろうな」


「人とは便利さを求める物であるから、勇者の言っておる事は道理であるな。それにしてもこのキツネ、上手い事溶け込んでおるな」


「だな。だが見抜かれる事も無いんだからおかしくは無いな。それに何か悪さしてる訳でも無いし、問題無いだろ」


魔王も魔力をかなり抑えられてしまったが、元々莫大って言葉ですら陳腐に聞こえる位の魔力持ちだもんな。魔力の流れを弄くられて、生活魔法とアイテムボックスにしか魔力が流れてないと思ってたが、もし魔王の魔力が切れてもアイテムボックスの中身が出てきたりしないだろう。


多分魔王の魔力が尽きても、アイテムボックスから取り出したり、入れたりも出来るはずだ。

多分、魔王の固有魔法と言うより、固有能力だから。


うん、魔王はその辺りをいまいち分かって居ないが、何故自分の事なのに分かって無いんだろう? そう考えると恐ろしいな…… コイツ程の魔力持ちが力に制限を加えられずに居たら大変な事になってしまう。

神が魔王の力に制限を掛けたのは正しい。だってコイツ、考え無しで行動する奴だからなぁ。


「それにしてもこのキツネ、コスプレ感が半端無いのう」


「キツネ耳に、尻尾が九つだもんな。それ以外は人と全く変わらないから、確かにコスプレっぽいな。でも普通に見る分にはキツネ耳も尻尾も見えないだろ?」


「そうじゃが、コヤツ時折ブレて見えるんじゃよ」


「あー たまにあるな。魔力強者あるあるだな。嫌でも隠蔽や、変化に気付くもんな。気になるなら魔力を込めて見なきゃ良いじゃないか」


「そうじゃけど、ついつい違いを確認してしまう。それはそれで面白いからつい見比べてしまうんじゃ」


お前はガキかよ? 気持ちは分からんでもないがな。しかし、あっちからこっちに帰って来て、渡良瀬 環がそうだと初めて知った時は驚いたなぁ。意外と人に混じって生活してる奴が多いんだなってビックリしたっけ?


それにしても。俺にしても魔王にしても、隠蔽とか変化を見破る事が出来るって事は、渡良瀬 環より魔力が多く、魔力強者って事なんだよな。


伝説と言われる程の強者である、九尾の狐より俺達の方が強いって事でもある訳だ。不思議なもんだよ本当。


「おっ、サキュバス・インキュバスが出て来おったぞ。このサキュバス、何で芸人なんぞしておるのだろうな? しかもコンビ名がサキュバス・インキュバスだし、芸名がサキュバスってわらわ達みたいに分かる奴からしたら、出オチ感が凄いんじゃが」


「あー、サキュインか。でもコイツらは実力あるだろ? ネタも面白いし、喋りも達者で面白いし、実力派じゃないか」


「そうじゃの。確かにコヤツらは面白いな。だが初めて見た時のインパクトからか、未だに出オチ感もあるんじゃよなぁ。実力はあるが、不運のコンビと言われておろう? 今年はOWARAI1グランプリで優勝するかな?」


「どうだろうな? コイツら無冠の帝王って呼ばれてるからなぁ…… O(オー)1もデビュー以来常に決勝まで残ってるけど、今年こそは何て去年も言われてただろ? 去年は二位で、一昨年も二位。三年前と四年前が三位で、デビューした五年前が二位か? 四年前から今年こそ優勝って言われてるけど、毎回優勝を逃してるからなぁ」


「魅了を一切使わずじゃから、コヤツらの実力は本物ではあるが…… ネットでも今年もダメなのでは? と、言われておるな」


「あの大会も今や、あの事務所所属の芸人を優勝させる為の大会って言われてるもんな。昔は実力で選んでたらしいけど……」


確かあの事務所所属の芸人で、優勝させたい芸人を優勝させる為に、行われてるだけの大会に成り下がっただったか? 大昔と違って今は、完全な出来レースだ言われてるもんな。そう考えるとサキュインの優勝は難しいかな?


「しかしこのサキュバス、何でわざわざブサイクに姿を変えておるのだ?」


「あー…… 確か芸人は、美人とか可愛いだと笑えないから、ブサイクの方が良いって昔何回か聞いた事があるな」


「なるほどのう。確かに整った顔では笑えん事ってあるな。だからわざわざブサイクにしておるのか。納得じゃな」


「コイツら実力だけで無く、人気もあるもんな。特に子供に大人気だし、テレビやCMでも見ない日は無い位だし、今もかなりの本数のCMが流れてるけど、かなり成功してるな」


「このサキュバスも悪さもせず、お笑いに真摯に向き合っておるが、本当にお笑いが好きなんじゃと言うのが伝わってくる。コヤツらは報われて欲しいのう。魅了も一切使わず、面白いし、コヤツらの様な芸人が優勝出来ぬのは、何なんじゃかなぁ……」


魔王の奴、結構お笑い好きだからな。こっちに来て、お笑いの良さに目覚めやがった。だが魔王も十分面白いぞ。だがコイツは計算とか一切無く、素でやってる訳だが……


若干天然と言うか、素がポンコツだから、お笑いとは言い難いかな?


「ん? どうした勇者? 何故わらわを生暖かい目で見ておる」


「いや、別に……」


「? そうか? 変な奴じゃな」


おっと、魔王の奴を可哀想な奴を見る目で見てしまって居たか。気を付けよう。


それにしても、渡良瀬 環やサキュバスは、魅了なんか一切使わずに、ここまで成功出来るもんだなぁ。悪さも一切して居ないし、自分の今の仕事や日々が大切で、幸せを感じてるんだろう。


「なぁ勇者、前にも聞いたが、あのキツネとサキュバスって、わらわの居た世界の者では無いよな?」


「そうだと思うぞ、魔力の形と言うか魔力の波が違うから、あの世界の奴では無いと思う。どうしたいきなり?」


「いやな、アヤツら二人共、どこから来たのか何となく気になったんじゃ。この地は色んな世界と繋がっておるんじゃなぁと思ってな」


「そうだな、そう考えると色んな世界と繋がってるな。と言っても何か悪さしてる奴も居ないし、今まで悪さしてる奴にも会った事無いから、あんま気にしなかったな」


「そうじゃの。この地で普通に生きて、生活してるのであれば問題無いか。あっ! なぁなぁ勇者、もう桃が出始めておるぞ。見ろ、桃じゃ桃、桃が出ておるぞ」


情報番組のコーナーの一つで取り扱ってるって事は、もう桃が出始める季節か…… 早いな、季節が変わるのは。


まだ梅雨前なのに、もう出始めてんのか? とは言え、出始めよりもう少し時が経ってからの方が旨味が増す。今はまだ買う時期じゃ無いな。


「なぁなぁ、今度スーパーに行った時に桃あったら買って来てくれよ」


「いや、まだ出始めだからあんまり美味しく無いって。もう少し暖かくなって来てからの方が美味いよ」


「え~、良いではないか。わらわ生の桃を使ったピーチメルバが食べたい。なぁ勇者~ 作ってくれよ~」


「今の時期なら生の桃より、缶詰の桃を使った方が美味いよ。桃もまだ時期が早すぎていまいちだと思うぞ」


魔王の奴、桃も大好きだからなぁ。桃をカットしたのも好きだけど、生の桃を使ったピーチメルバも大好きだもんな。


「なぁ~ 勇者~ 良いではないか、なぁ~」


「あー もう、うるさいなぁ、甘味が無くっても知らんぞ。あんまり美味しく無くっても文句言うなよ」


「分かっておる。フフッ、楽しみじゃなぁ」


コイツは本当、食い意地が張ってるな。

食い意地が張ってるって、あんまり良い言葉ではないから、あえてコイツには言わないがな。


しかし我ながらコイツに甘いとは思うが、もし買わないって言ったら、俺のアイテムボックスに入ってる、非常用の物資から出せとか言いやがるからなぁ。


桃の出荷の時期に又、おっちゃんおばちゃんの所から大量に仕入れないといけないな。あそこの農園の桃は絶品だから、今年も大量に仕入れよう。


一回連絡しておくかな? ご機嫌伺いがてら電話してみるか。今年も貸し倉庫まで持って来て貰わないといけないな。夏場になったら泊まりで何日かあそこの貸し倉庫に行くから、都合の良い日を聞いておかなきゃ。と言っても今回はご機嫌伺いと、今年も桃が欲しいって連絡だな。


「なぁなぁ勇者、分かってると思うが、山梨の桃じゃぞ。他はいらぬからな」


「分かってるよ。山梨県の桃が日本一美味いんだから、それ以外は買わない。いや、長野の桃も美味いから候補に入れておこう」


「あー…… そうじゃな、長野の桃も美味いな。でもわらわ山梨の桃が食べたい」


「分かってる、分かってる。どうせこの時期は山梨の桃しか出回ってないはずだから、心配するな」


「なら良い」


桃は山梨の桃が一番美味いと思ってる。勿論これはあくまで個人の感想であり、個人の好みだ。

人によっては、他の県の桃が一番美味いって言う奴も居るし、それは当たり前の事。人によって好みも違うのは当然だ。


だが俺は山梨の桃が一番美味いと思うし、異論も反論も認めない。俺は人の好きを否定しないから、俺の好きも否定されたく無い。うん、俺も魔王も山梨の桃が日本一、いや、世界一美味いって思ってる。


俺、別に山梨県の出身では無いのに、何でこんなに山梨の桃が好きなんだろ? うーん。やっぱ美味いからか? だよな、美味いもん。


「楽しみじゃなぁ。桃、あれば良いな」


これから魔王は、桃、桃とうるさいんだろうなぁ。

ピーチメルバ用に、ラズベリーソースと、スライスアーモンドを買い足ししに行かないといけない。後はアイスもだな。


「桃、桃、桃♪」


嬉しそうな顔しやがって、仕方ない奴だよ。



21時にも投稿します。

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