第7話 迷子の迷子の勇者さん 後編
あやつは何をしておるのじゃ?
良い年して迷子など、流石にどうなのだ?
待てよ…… ははーん、わらわ知っておるぞ、コレはドッキリってやつじゃな。悠莉の奴め、こんな浅はかなドッキリにわらわが引っ掛かるとでも思っておるのか。バカめ! わらわがこんな物に引っ掛かる訳が無かろう。
どうせ近くで見ておるのであろう。全くあやつはしようがない奴じゃのう……
「・・・」
は、早く出て来いよ悠莉。わらわ怒らぬから早く出て来るのじゃ。さぁ早く……
ド、ドッキリじゃよな? もしくは悠莉が迷子になっておるのじゃよな? えっ…… 何で出て来んのじゃ、ちょっとばかり引き延ばし過ぎではないか悠莉よ。
それかあやつが迷子になっておるのか? そうであるならあやつが出て来ない理由にも合点が行く。
「・・・」
これだけ待っても悠莉が出て来んと言う事は、ドッキリでは無い。そして悠莉が迷子の可能性は……
『トイレ行ってくるからここで待っててくれるか?』
確かそんな事を言っておった気が……
「・・・」
えっ、まさか迷子になっておるのは、わらわの方なのか? 悠莉では無く、わらわが迷子になっておるのか?
ココどこ? 全く見覚えが無い場所なんじゃが? どこ何じゃココは?
悠莉に連絡…… スマホの充電が切れておるから出来ぬ。
お金…… 持っておらぬ。あっ、電子マネー。
スマホの充電が切れて電源が入らぬから使えない。
アレ、これって非常に不味い状況なのではないか? しかも今居る場所も全く分からぬ……
*アレクシアちゃんに、人に聞くと言う発想は全くありません。人に聞くとか交番に行く等の発想、及び考えはありません。
えっ、何でこんな事になっておるのじゃ? おかしいじゃろ。まさかわらわ知らぬ間に転移させられたのか? 何でこんな所にわらわおるのじゃ。
悠莉どこ~? 悠莉はどこにおるのじゃ?
ドッキリならもうエエから。十分ビックリしたからもう出て来いよ悠莉。なぁ、悠莉……
うぅ~…… 何でこんな事になってしまったのじゃ? 家から出たから、家から出なければこの様な事にはならんかったのに…… でも留守番してたらあの極上海鮮丼が食べられ無かったし、一人でカップ麺を食べる事になってしもうたし、でも家から出たからこんな事になっておるのだし……。
どうしよう、お小遣いも全部使ってしもうたからお金も無いし、スマホの充電も切れて使い物にならんし、どこに居るのかも分からんし、悠莉も居らぬ。わらわこれかどうなるのだ?
家までの帰り道も分からぬ。お金も無いから電車にも乗れんし、スマホが使えぬから地図アプリも開けぬ…… 家の住所も細かい所もいまいち分からん。マイナカードを忘れてこなければ分かったのに……。
うぅー…… 悠莉が住所はちゃんと覚えておけと言うておったが、家から出んのだから大丈夫とか思っておったけど、何でわらわ覚え無かったんだ?
どうしよう、わらわどうしたら良いのか分からん。
疲れた…… どこかに座りたい。座る所はあるが何か微妙に汚いからあそこには座りたくない。
服が汚れるのは嫌じゃ。クリーンをあそこに掛ければ座れるけど何か嫌じゃなぁ……。服もクリーンを掛ければ綺麗にはなるけど、やっぱ何か嫌じゃ。
何でこんな事になったのじゃ? 本当なら今頃、兆疋屋でお茶飲みながらフルーツケーキを食べて居ったのに……。
うぅ~ 座りたいよぉ。フルーツケーキ食べたい。フルーツタルトも食べたい。プリンアラモードも食べたい……。
悠莉どこぉ? 何で居ないんじゃ? わらわを一人にするでない、早く迎えに来いよぉ。悠莉……
「あの、すいません、ちょっと良いですか?」
「・・・」
何じゃこ奴は? わらわに何か用か?
「私、雑誌ロココの編集者をしております○✕○✕と言う者です。これ名刺です」
「で?」
「その~ ロココ、御存じ無いですか? ゴスロリ専門雑誌でして…… 失礼ですが、外国の方ですか?」
「それで?」
「いえ、今ですね、街中ゴスロリコーデの取材中でして、モデルとして写真を掲載させて頂きたいと思いまして」
「無理、興味等無い。失せろ」
「う、失せろって…… ダメでしょうか? 凄くお可愛いし、そのコーデが凄く似合ってらっしゃるので是非お願い致したいのですが」
「・・・」
「勿論ですね、親御さんの了解も頂いてからになりますが」
「・・・」
「未成年の方の場合、本人と保護者。まぁ親御さんの了解をいた『わらわ二十歳越えとるわい、と言うか興味無い。やらん。失せろ』・・・」
誰が子供じゃ。この女、何て事を抜かしよる。
確かに見た目は変えられたが、中身は大人じゃぞ。自分でも分かっておるが、他人に言われると不愉快じゃな。
「あっ! 失礼しました。なら何とか了承頂けませんか? 表紙を飾ってみませんか?」
「くどい、何度も言わせるで無い。やらぬと言ったであろう。欠片も興味無い、失せろ」
「しっ、失礼致しました」
フン…… ちょっと殺気を放った位でウサギの如く逃げ出しおってからに。この緊急事態に下らぬ事で手間を取らせよって。
その様な事に興味等、欠片も無いし、やるつもり等無いわ。それにその様な事をすれば悠莉に何と言われるやら…… 悠莉は余り目立たぬ様にしておるのにそんな下らん事をして、わらわが悪目立ち何ぞ出来るか。
大体だ、さっきの女、何か胡散臭かったぞ。
わらわのこの様な勘は当たるのじゃ。絶対あの女何か良からぬ事を考えておったに違いない。ん?
「あっ、あの、あの一枚撮らせて欲しいんだけど、いっ良いかな? フヒヒヒ」
「・・・」
「じゃ撮るね、ヒヒ……」
「おい、誰も撮ってエエとは言っとらんぞ。勝手に撮るな、この変質者めが」
「えっ?」
「何を驚いておる。了承しておらんと言っておるのだ。勝手に撮るな、この不審者が!」
「いや、かっ、可愛かったから……」
「その様な事は関係無い。勝手に撮るなと言っておるのが聞こえなかったのか? 相手に了承を貰っておらぬのに勝手に撮るのは犯罪じゃぞ、この盗撮魔め。失せろ」
気持ち悪い…… わらわを邪な目で見て来おって。何じゃアレは? 幼女趣味の変態か? ここら辺りは高級店が集まるお上品な地区ではないのか? 何故あの様な輩がおるんじゃ?
しかし…… 皆わらわの事を見て来よる。別に変な格好をしている訳でもないのに、何故じゃ?
もしかしてわらわがゴスロリだからか? この辺りは落ち着いた感じの格好の者が多いから、わらわ浮いておるのか? だが前に悠莉と来た時は今日程は見られておらんかった気がするのだが? 今日と何が違う? 違いは…… 悠莉か。
そうか、あ奴が一緒に居て、二人で何やかんやと話しながら居たから余り周りが気にならんかったし、気にしなかったからじゃな。
「・・・」
どうしょう、このままわらわどうにもならんのか? ここがどこかも分からんのに下手に動き回っては余計にややこしくなりそうじゃし。かと言ってこのままでは何も状況が良くはならん。
何かこの状況を打破出来る事は無いんじゃろうか。何か、何か…… 考えろ、何か……。
アレ、そう言えば、確か前に何か言われた気がするぞ。この様な状況になった場合の事を、悠莉が何か言っておったな? 何じゃったっけ?
「・・・・・・・・・・・・」
あっ! 思い出したぞ。そうじゃ、アイテムボックスの中に非常時に開けろと言ってた物があるではないか。
非常用だから、非常時以外に決して開けるなと悠莉が言っておった物があるではないか。だが……
非常時以外に開けたら悠莉が本気で怒ると言っておったな。今開けても良いのか? いや、今は非常事態じゃ。今開けずして何時開けるのじゃ。
そうじゃ、寧ろ今、開けねばどうする。
悠莉の事じゃ。アレには必ず必要な物が入っておるはず。わらわが必要とする物が入っておる。
なれば人の居ない所でかつ、防犯カメラの無い場所に行かねば。何処かあるか? あるな、人も防犯カメラも無い場所が。うむ、トイレに行けば良いか。
~~~
そうそう、これじゃ、思い出した。非常用と張り紙されたこの箱じゃ。中身は……
大きな紙に住所と電話番号が書いてある。これはテレホンカードか、何枚もあるな。電話番号は悠莉のスマホと家の番号じゃな、これで連絡が出来る。
この封筒は? ん? お金入りと書いてあるな。おっ、お金が入っておるぞ! 一万円札が十枚に、千円札も十枚入っておる。こっちの小箱は小銭と書いてあるな。五百円玉や百円玉に十円玉もいっぱい入っておる。この箱は…… あっちの世界の金貨と銀貨か、ん? 紙が下の方にあるな。
箱の下に金と銀のインゴットが各種敷いてあるから気を付ける様にか。道理で重いと思ったわ。
で、これは…… スマホの充電器か、コンセントがあればスマホの充電が出来るな。コレは今はいい。それより何で飴ちゃんが幾つか入っておるのだ? それと緊急糧食も入っておるぞ…… コレ確か、海で遭難した時用のじゃな? 悠莉に前に食べさせられたやつではないか…… 何でじゃ? 食糧は大量にアイテムボックスに入っておるのじゃが?
まっ、まぁ何故なのかを今は考えるのはよそう。考えても仕方無いからのう。
これは手紙か。裏に住所と電話番号が書いてある。ん? よく見たら箱の蓋の裏にも住所と電話番号が書いてあるではないか。あ奴は本当に慎重と言うか、徹底しとるな。
「・・・」
この手紙、何が書いてあるんじゃろ? 読むのが少し不安なんじゃが……
魔王へ
この手紙を読んで居ると言う事は、非常事態に陥った、もしくはどうにもならない状態だと思う。
まさかと思うけど、非常事態でも無いのに開けたりしてないよな? まさかまさか、何も無いのに好奇心で開けたりしてないよな魔王?
非常事態か、にっちもさっちもいかない状態ならば、取り敢えず落ち着け。
焦っても仕方無いし、余計状況が悪化するだけだからまず落ち着け。そして深呼吸しろ。
魔王がこの箱を開けたと言う事は、箱の中身も見ただろう。なら箱の中に入っている物でどうにかなる事も理解しているはずだ。
魔王がまずやる事は気を落ち着かせ、中に入っている物を使って俺に連絡を取る事だ。
俺に連絡が取れない場合は、書いてある住所までタクシーを使い家まで帰って来い。
金はこの箱に入れていた分で足りるはずだが、万が一、飛行機を使わないと帰って来れない場合、国内であるなら日本のどこに居ようとも足りる額はあるから落ち着け。
それと海外であるなら、大使館に行けばどうにかなる。
魔王も完全言語理解の力があるのだから、言語に関しては心配無い。後は落ち着いて行動すれば大丈夫だ。
まさかと思うが今、海外に居る場合は大使館な。日本大使館に行けば俺と連絡つけれるし、お前を保護してくれるはずだ。
何度も言うが、まず落ち着け、大丈夫だから。
それと万が一金が足りない場合。無いと思うがもし足りない場合は、金と銀のインゴットの下に手紙が入っている。
手紙にはお前のスマホのシークレットモードの暗証コードと、シークレット電子マネーの暗証コードが書いてあるから使う様に。
一応言っておくが、好奇心でこの箱を開けた場合や、必要無いのにその手紙を開封した場合。
俺は本気で怒るからな。
大事な事だから敢えてもう一回言うが。
俺 は 本 気 で 怒 る か ら な 魔王。
さて、今お前は非常事態だ。箱の中の物を使い、まずは俺に連絡する様に。そうすれば即解決する。
連絡待っている。魔王へ、才賀悠莉。
「・・・」
だ、大丈夫じゃよな? 今は非常事態じゃし、暗証コードが書いてある紙も開けて無いし、わらわ大丈夫じゃよな?
アレ? 何か緊張して来たぞ。何でなんじゃろ。
えっ、わらわ大丈夫じゃよな? まさか怒られたりしないよな? 悠莉、怒ったりせぬよな……
「・・・」
だっ、大丈夫じゃろ。だってわらわ何も悪い事しておらぬのだから。それに箱の中の物も必要な物以外触っておらぬし、大丈夫のはずじゃ。
まずは連絡しよう。話しはそれからじゃ。
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「おい、お前何してんだよ。何迷子になってんだ? どうせボケモンに夢中になってあちこちフラフラと動き歩いたんだろ? だから話しを聞いてるか何度も聞いたのに、お前ときたら……」
「ゴメン、悠莉……」
「もう! まさかスマホの充電出来て無かった何て思わなかったぞ。まさかまさかだよ、これからはちゃんと刺さってるか確認しないとダメだぞ」
「うん、ゴメン……」
「もう終わった事だから良いけど、でもフラフラ歩き回るのは止めてくれ。連絡付かなくって心配したんだぞ」
「だってだって、まさか充電出来て無い何て思わなかったんじゃ。それに悠莉が迷子になったかと思ったのだぞ」
「お前…… 迷子になったのはお前だよ。何で俺が迷子なんだよ…… お前無茶苦茶だな」
「分かっておる、わらわが迷子になったんじゃ」
「無事で良かったけど、心配したんだからな。これから気を付けてくれよ」
「うん、分かっておる。わらわもこんな事もう嫌じゃ」
「なら良いけど…… まぁ良いや、兆疋屋行こう。何か疲れたし、喉渇いた」
「うん、わらわも疲れた」
「ん? おい、何で俺の手を握ってるんだ? しかも何で恋人繋ぎなんだよ」
「たまにはエエじゃろ」
「お前、又迷子にならないか不安なって、手を繋いでるな? 別に良いけど……」
「行こう。わらわフルーツケーキとフルーツタルトとプリンアラモード食べたい」
「お前どんだけ食うんだよ? 夕飯食えなくなるぞ」
「いかぬか?」
「今日だけだぞ…… ホラ行くぞアレクシア」
「うん。ありがとう悠莉」
19時にも投稿します。