第6話 迷子の迷子の勇者さん 前編
「魔王、俺の名前は?」
「ユーリじゃろ、才賀悠莉」
「お前の名前は?」
「もう! アレクシア・マオ・へルクス!」
「うん。お前の名前はアレクシア・ヘルクスでは無く、アレクシア・マオ・ヘルクスな」
「毎回毎回、外に出かける時は何時っもこれじゃ。流石に間違えたりせんわい」
「いや、お前は毎回こうやって確認しとかなきゃ、外で俺の事を勇者って言いそうなんだもん」
「わらわ学習する女じゃぞ、間違わんわ。それに毎回こうやって確認しとるんじゃぞ。流石に覚えるし、嫌でも覚えるわ」
そうかぁ~? お前は素で言いそうなんだけど。
大体お前は学習しない女じゃないか。普通に間違えそうだし、素で言いそうなんだけど。
外で勇者何て言われたら堪らん。注目の的になってしまう。それは勘弁願いたい。
「大体何でわらわだけ余計な名前がくっついとる? おかしいじゃろ」
「文句は俺にでは無く、神に言え。戸籍がそうなってるんだから仕方無いだろ。身分証にもそう書いてあるんだし」
「もう。面倒じゃなぁ……」
神が用意した戸籍とか、コイツの身分に関する諸々の事を神は用意してくれたが、コイツが言う様に名前にマオって名前を付け加えられた。
俺は別に名前を付け加え無くっても問題無いと思って居るが、付け加えられた物は仕方無い。
多分だがあの神も良いも悪いも無く、何となく思い付きで付け加えただけな気がする。
だけどマオって名前なら、もし俺が魔王って言っても違和感が無いし、マオって名前だから魔王ってあだ名かな? と思われるかも知れないから結構良いチョイスではあると思う。
「朝もはように起こされてコレじゃぞ、堪らんわい。朝、早過ぎなんじゃないか?」
「何言ってんだよ、デパートの開店時間を考えたらこの位の時間になるよ」
「もう! わらわまで一緒に行かねばならんのか?」
「留守番したかったらしても良いけど、お前も食べたがってた極上海鮮丼食えないけど良いのか? アレは催事場限定商品だし、お持ち帰り出来ないやつだぞ。家で一人寂しくカップ麺食いたいならそれでも良いけど?」
「・・・」
「なっ、お前も食いたいんだろ? それに二人で行った方が買い物するのに便利なんだし。御一人様一個の限定商品もあるから一緒に行った方が効率良いだろ。それに海鮮丼みたいに、催事場限定商品もあるんだから、デパートの催事場に行かなきゃ手に入らない物もあるんだ。諦めろ」
「ネットではいかぬのか?」
「ネットでの取扱いして無いのもあるの。言っただろ? わざわざ北海道に買いに行く事考えたら遥かに楽じゃないか。それに北海道物産展は何やかんやで楽しいと思うけどなぁ。前に行った時はお前も楽しんでたじゃないか」
「そうじゃけど……」
どんだけコイツは家が好きなんだよ。
かなり優秀な引きニートだよな。引きニートの鏡みたいな奴だ。うん、かなり訓練された引きニートであるな。
「良いから行くぞ。車で行くんだから、渋滞してたら遅れる。さっさと行かなきゃ北海道の物産展の時は、普段と違って開店前から並ぶ人間が多いんだ。入り口の前辺りに並ばなきゃ買うのに時間が掛かってしまう。人気商品はあっという間に行列が出来ちゃうんだから」
「もう、分かったわい。服着てくる」
「なぁ、ゴスロリで行くのか?」
「勿論じゃ。遠出するならアレを着て行かねばならん。わらわのコチラでの正装じゃからな」
「・・・」
前に北海道の物産展に行った時は、『次もし行くならもうコレは着て行かん。もっと楽な格好で行く』って言ってなかったか?
うん、黙っておこう。じゃないと家を出るのが遅れる。どうせ魔王の奴は何やかんや言いながら今日は行くつもりだっただろうし、着て行く服も前日から用意してたみたいだし、ここでいらん事を言ったら一から服を選ぶ事になるだろうしな。ここは沈黙が正解だ。
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「なぁ悠莉、もうバックミラー動かしても良い?」
「何でバックミラーで見るんだよ。席に付いてるサンバイザーにも鏡はあるだろ?」
「席の日除けのやつは見にくいんじゃ。バックミラーの方が見やすい」
コイツ、運転してる時にバックミラーを動かそうとしやがってからに。危ないって毎回言ってんのに、やろうとしやがる。
到着した途端に動かしやがって…… 定位置に設定してるから、バックミラーを直すのもボタン一つで直るけどいらん手間ではある。
何でコイツはバックミラーで身だしなみチェックするんだろう? 大体だ……
「なぁ、アレクシア、お前鏡持ってるよな? 手提げカバンの中に入ってるだろ?」
「ん~…… なーんかバックミラーで見る方がやり易いんじゃよなぁ…… 何でなんじゃろ?」
いや、知らんがな。多分気分の問題だと思うんだけど? 女心はいまいち分からん。
大体だ、化粧直しする程時間は経って無いし、屋根を開けて走って無いからアレクシアの服装や髪に乱れは無い。
それでもチェックしないと気が済まないんだろうなぁ……
「なぁ、別に全体的に乱れは一切無いぞ。大丈夫だよ、気にし過ぎじゃないか?」
「一応最終チェックじゃ。しかし悠莉は女心が分からんのう…… 常に良く在りたい。その気持ちが分からんか?」
「へいへい、分かりませんよ、すいませんねぇ。もう大丈夫なんだろ? なら行こう」
「ん、そうじゃな」
本当コイツは…… 普段ジャージか、スウェットで、夏場は短パンTシャツのクセしやがって、よく言うよ。普段だらしないのに、お出かけとなったらコレだ。いやまぁ、確かに似合ってるよ。可愛らしいとも思う。
普段しない化粧もして、大人っぽくなってるし、見た目だけなら美少女だ。うん、見た目だけならな。大事な事だからもう一回言うけど、見た目だけならな。
でもなぁ、中身がアレじゃあなぁ……
それに今のコイツはロリになってしまってるから、可愛いね。はい、だから? としか思わない。
これが元の姿だったらなぁ……
無茶苦茶良い女だったのに……
絶世の美女だったもんなぁ……
見た目だけならと言う、但し書きが付く訳だが。何でコイツはこんな残念な中身なんだろう? 中身がポンコツ過ぎるんだよ。大いなるマイナス点。うん、見た目の良さを全て消し飛ばす程のマイナス点なんだよ。
「なぁ悠莉、何でわらわを生暖かい目で見ておるのだ? 何で優しげな、可哀想なモノを見る様な目で見ておるのだ?」
「ん? 気のせいだろう。さぁ、さっさと行くぞアレクシア」
「? そうだな行こうか」
不思議そうに何度も首を傾げてるが、自分じゃ分からないんだろうし、気づかないんだろうな。自分がポンコツだって事を。
おっとそうだ。もう一つ言っておかなきゃいけない事があった。
「おいアレクシア、言い忘れてたけど、外で魔法を使うなよ」
「分かっとるわい! 何回も何回も…… もう!」
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「もう! 何度デパートと駐車場を往復するのじゃ。駐車場まで行かんでもどこか出来る場所でやれば良いのではないか?」
「だから、たまにやってるだろ。何回もやってたら不自然なんだよ。何の為に車で来たと思ってるんだ? 不自然無く一番自然なのが、車の後ろの荷物入れに入れるのが一番自然なの。その為に車で来たんだからな」
後ろの荷物入れ、トランクルームに入れる振りしてアイテムボックスに入れる為にわざわざ車で来たのに。
だからこそ一々デパートから駐車場にまで持って来てるんだ。面倒なのは承知の上でやってるんだし、このやり方が一番不自然無く、自然に見えるからこんな面倒臭い事をしてるんだ。それも説明したのにコイツときたら……
「なぁ、もう疲れた。ちょっと休憩したいんじゃが?」
「分かった。次買いに行ったら休憩にしよう」
「おい! わらわ、今休憩したいんじゃが?」
「もう一回催事場に行って又諸々買ってから休憩にする。次のメインはメロンケーキとメロンをたっぷり使ったロールケーキを買わなきゃいけない」
「はぁ…… もうエエわい。次で絶対休憩じゃからな。わらわ兆疋屋のフルーツケーキが食べたい」
「分かった。兆疋屋な」
流石にコレ以上は無理だな。次はアレクシアの奴、梃子でも動かないだろう。時間もおやつの時間だし、丁度良いか? 兆疋屋に行くなら帰りにあそこのケーキとかプリンとか買えるし、俺もあそこのケーキとかフルーツタルトが食いたい。アリだな。
「もう! 悠莉の買いグセはどうにかならんもんなのか?……」
「・・・」
買いグセ言うな。今日みたいな日々の購入がいざと言う時に活きて来るんだ。俺は非常時に備えて買ってるだけであって、断じて買いグセ等では無い。
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「はぁ…… やっとか。疲れたわい」
「おう、ご苦労さんアレクシア」
「本当にご苦労さんじゃわい。さぁ早く行くぞ悠莉。わらわ早く食べたいし、座りたい」
「ん。ところでアレクシア。お前歩きスマホは止めろ、危ないからな」
「ちゃんと立ち止まりながらしておるから大丈夫じゃ。おっ、新たなボケモンゲットじゃ」
「お前こんな時までゲームを…… 行け行けボケモン何て何時でも出来るだろ?」
「何を言う! ここでしか得られんボケモンもおるんじゃぞ、ならやるしかないじゃろうが」
「いや、普段から出歩いてたらそんな事もないだろ? スマホの充電切れても知らないぞ」
「大丈夫大丈夫、多分大丈夫」
それって大丈夫じゃ無いんじゃないか? やってる最中に、しかもレアをゲットする瞬間に電源落ちるってオチなんじゃ……
「て、おい! 急に立ち止まるなよ。はぐれるぞ」
「ん? 子供ではあるまいし何を言っておるのだ? わらわを子供扱いするで無い」
お前に比べたら、子供の方がまだマシだよ。
とは言えそんな事を言ったらアレクシアの奴がギャーギャー煩いから言わないがな。
「なぁ、ちょっとトイレ行ってくるからここで待っててくれるか?」
「ん? 何か言ったか?」
「だからトイレ行ってくるって言ったんだよ。何か混んでるみたいだから、少し先にも確か合ったはずだからそこに行く」
「うん……」
「なぁ聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。トイレな」
「お前本当に聞いてる?」
「うん、聞いてる。わらわ聞いとるぞ」
本当に聞いてるのか? 大丈夫か? とは言えココで待ってるだけだから、いくらポンコツのアレクシアとは言え流石に大丈夫か。
「おい、行ってくるからちゃんとココで待っておくんだぞ。フラフラとその辺歩き回るなよ」
「ん、待ってる待ってる」
「・・・」
大丈夫だよな? まぁスマホもあるし、大丈夫か。スマホの充電も家でしてたし、大丈夫かな。
いかん、さっさと行くか。漏れたらシャレにならん。この年になってお漏らしは流石に不味い。
「よっしゃ! レアをゲットじゃ! ツイとるな、わらわ今日は調子良いのではないか?」
おっ、あっちにも反応があるではないか、これは行かねば。良し又ゲットじゃ、調子エエのう。あっ、あっちにも。これは行かねば。
良し良し、又レアじゃ。大猟、大猟。ん? アレ? 電源が落ちそう。えっ? 何でじゃ? 使い過ぎたか? アレ…… わらわ充電して来たはずじゃが? もしかして充電器が刺さり損なってたか? そう言えば充電してるランプが付いて無かった様な気が……
ん? 悠莉はどこじゃ? えっ? ココどこ? 何で悠莉は居ないんじゃ? そう言えば悠莉が何か言ってた気が……
えっ、ココどこ~? まさか悠莉の奴、迷子になっておるのか? 何をしておるのじゃあやつは。
本日も18時 19時 20時 21時に投稿します。