第5話 ポンコツ魔王は最弱探検家に苦しむ④
何時もの様に大量の買い物になったな。この前はあの道でやったから、今日は別の場所でアイテムボックスに入れるか。
人気が無く、防犯カメラが周りにあまり無く、死角になってる場所を新たに探すかな? 買った物をアイテムボックスに入れてた所が一ヶ所、防犯カメラを付けられて減ったからなぁ。
朝走りに行くついでに買い物をして、アイテムボックスに日々増やしているが、まだまだ買わなければならない。
そうだな、どうせ毎日走りに行ってるんだ、探せば場所なんて幾らでもあるか。
魔王の奴にコレを言ったら、貯めすぎだとか、わざわざご苦労な事だとか言われるんだろうが、いざと言う時に備えなければならん。
あの神が絶対もう異世界に転移させ無い何て言えないんだから、これからも続けなきゃな。
うん、飯が不味いとかもう絶対嫌だ。何が異世界行っても飯は美味いだよ。本当に人の話しはいい加減だよな。
高校の時の同級生が、異世界行っても食い物は美味いだの何だのと言って居たけど、現実と創作物の区別がついて居ないだけだ。現実は残酷と言うか、非情だった。
勿論美味い所も合ったが、大概は美味くない所が多かった。それも圧倒的に多かったわ。
そら品種改良もしていない物としてる物では、元が違うんだから当たり前だし、何より調味料の豊富なこっちと、種類も少なく、料理に使う量も少ないんだから比べ物にならないのは当然だよ。
食糧、それも米や味噌や醤油や何かの調味料に、出来合いの食い物に、ピザやハンバーガーや何かのジャンクフードもまだまだ買わなければ。
日々の買い物で買い足し分だけで無く、トン単位で買う為にわざわざ田舎に貸倉庫みたいな物も借りて、そこで買ってるがまだまだ買わないといけない。
そう言えばここ最近、あの貸倉庫に行っていないな。あそこは簡易的ながら寝る為の部屋も付いているし、あそこの周りは田舎だが美味い飲食店が割とある。
それに養鶏場直営の店があり、そこの卵が美味いんだ。プリンも美味いし、卵かけご飯定食も美味いんだよなぁ…… あそこの卵も買いたいし、店で卵かけご飯定食も食いたい。
それと近くには牧場もあり、そこも直営店を経営してて、そこの自家製乳製品や、肉に、加工肉も美味い。うん、食いたいし、肉に加工肉に乳製品も買い足ししたいな…… あそこのチーズは絶品だし、何よりアイスがこれ又絶品なんだ。
大量注文した品をあの貸倉庫で受け取るついでに、久々に泊まりで行こうかな? 魔王の奴もあの辺りの食い物は好きだから、家から出たく無いってゴネても、最終的には一緒に行くだろうし。
ただ、あの辺りで美味い物を食いに行く事は賛成しても、大量仕入に関しては色々と言いそうだ。
魔王の奴は今でも十分だの、買い過ぎだのと言ってやがるが、俺に言わせれば甘い。あの神が異世界転移させる時に、百年単位で飛ばす事が無いとは言い切れないんだから。
魔王が言うにはその前に寿命が尽きるとか言ってるが、そんなの当然寿命のカウント停止位あの神ならする。
理由。その方が面白そうだからって言ってやりそうだ。そう考えれば物は幾ら有っても良い。
大体だ、もし異世界に飛ばされるとして、魔王だけこっちに残すとでも思って居るんだろうか? いやいや、それは無い。間違いなく俺と魔王とセットで飛ばす。
そうなったら魔王は飯がマズいとか絶対耐えられない。アイツもこっちに来てから口が肥えたし、味に無茶苦茶煩くなったんだからな。
うん、絶対に耐えられないし、間違いなくギャーギャー言う。と言うか俺もマズい飯には耐えられない。
肉類や、野菜に果物、卵や何かもまだまだ買い足ししなきゃな。後は銀や真珠も買い足ししたいな。
今でも何やかんやで数十億円分はアイテムボックスに入っているが、まだ足りん。次は砂糖や調味料、それと酒を買い足すかな? いざと言う時は飛ばされた先で売れるんだから全くの無駄と言う訳でも無いんだし、買っとくか。
それにしても銀なぁ…… 金ならたっぷりあるのになぁ。でもこっちで換金しずらいから、金こそ全くの無駄になってしまっている。
向こうでコツコツと一生懸命集めたのに、こっちで換金出来ないなら意味が無いじゃないか。
売却に証明書だ何だのと色々必要で、それが無いと大量の金が売れないってのは知らなかったとは言え、そうだと分かった時は愕然としたわ。
少量なら身分証位で良いが、俺が持ってる金は実質売れない。大量過ぎるし、何よりどうやって手に入れたんだって話しだ。
二十歳のガキが、それも安い給料でピーピー言ってた奴が突然どうやってそんな大量の金を? そう言われたらどうにもならない。
異世界で手に入れました何て言える訳無いし、何より俺が異世界帰りってバレた日にはどうなるか分かったもんじゃ無いんだから。
神がロトくじの当選番号を教えてくれたから別に良いんだけど。これなら金では無く、銀を持って帰ったら良かったよ。
一番良いのはポーション類だった訳だが…… 今更だよなぁ…… でもせめて金では無く、銀にしてたら、こっちで無駄に銀を買わずに済んだんだが……
あっちじゃ銀の方が使い勝手が良いし、異世界に又もし飛ばされるとしたら、銀の方が色々と使えるっポイからこっちでわざわざ買ってるが、もう買い足ししなくても良いかな? 銀を買い足しするよりも、真珠を買い足しした方が良いかも知れない。ん?
「才賀様おはようございます、今日も走りに行かれたのですか?」
「ええ、毎朝の事ですからね。走りに行かないと身体の調子がいまいちになっちゃうんですよ」
「ランニングされる方はそう仰る方は多いですね。私も最近運動不足気味でして…… ランニングを始め様かと迷っております」
「良いじゃないですか、身体の調子が良くなるし、走るのも慣れたらそこまで辛くないですし、良いと思いますよ」
「続けられるか正直自信が無いので迷ってしまいます。おっと、失礼致しました才賀様。長々とお引き留めしてしまいまして」
「いえいえ、それじゃ」
うーん、何時見てもこの人のお辞儀は見事だな。流石超が付く程高級マンションのコンシェルジュ。礼儀作法が完璧だよ。
そんな礼儀作法が完璧なコンシェルジュが二十四時間常に大勢居るんだから、このマンションがどれだけセレブ向けか分かろうと言うもんだな。
俺の部屋の共益費で月に八十万以上払ってるけど、この位のサポート、サービス提供は当たり前の、ある意味この位当然らしいが……
このマンション全体の共益費だけで一億越えてるらしいからなぁ。常駐のガードマンも数十人単位で居るし、当然二十四時間居て、しかもおじいちゃんガードマンでは無く、明らか何らかの武術を修めた若いガードマンばっかだし、流石日本一高い分譲マンションって言われるだけあるわ。
俺の部屋も買った時で三十八億もしたが、今じゃ値上がりして、何故か買った時より値段上がってるんだよなぁ。ここ評判良いらしいから、更に値が上がるって話しもあるけど、買って正解だったな。
「ただいま~」
ん?・・・
「もう! 分かってたのに引っ掛かったじゃないか! 何でなのじゃ、もう、もう、もう! 分かってた罠なのに。何で…… 何で…… おかしいじゃろう」
「・・・」
いやいや、おかしいのはお前の頭だよ魔王。
分かってたさ。コイツがまだ起きてて、そしてゲームをして居るだろうなって、分かってたさ。
さっきより更に目がバッキバキにキマってて、怖いんだが…… どんだけハマってるんだ? このゲームから変な電波でも出てて、魅了されてるんじゃないかって位に嵌まり込んでやがる。
魔王の奴、最弱探検家の虜になって居るじゃないか。どんだけだよコイツ。
「おい魔王」
「ん? おぉ、お帰り。カレーパン買って来てくれた?」
「買って来たけど。なぁ又、目が真っ赤っかになってるぞ。食ったら寝ろ、な。流石にやり過ぎだと思うぞ」
「何を言う、まだ終われん。わらわ負けたままで居られんわ」
お前は一体何と勝負してるんだ? そのゲームに通信機能なんか無いだろ?
まさか魔王の奴、寝不足で幻覚でも見てるのか? それかイマジナリーフレンドかな? どっちにせよ問題アリって事で間違い無い。
「おい、ま……『うぉーい、エネルギーが切れる。折角ここまで来たのに』おう……」
ダメだこいつ…… 聞いちゃー居ねー。と言うか、もしかしてカレーパンの事も頭から消えて居ないか? あんだけ食いたいって言ってたのに、コイツ腹減って無いのかな?
「なぁ、まお……『うっわ~、出だしでミスったではないか。いかぬなぁ、わらわ気を引き締めねば』……う」
えっ、何? もしかして俺の存在忘れてる? 俺が帰って来た事を忘れてちゃってる? さっきただいまって言ったのに、もう記憶から消え去ってる?
「フヒヒ…… そう何度も引っ掛からんわ。わらわ学習する女じゃからな」
「・・・」
いやいや、お前は学習能力皆無じゃないか。お前は反省しない女だろ。ポンコツの極みみたいな女じゃないか。
「おりゃ! バカめ、ゴーストごときにやられるわらわでは無いわ」
うん、そうだね。リアルであれば魔王なら、確かにゴーストごときに何かやられ無いね。でもゲームの中じゃやられっぱなしだよね? そしてゲームの中じゃ、さっきゴーストにビーム撃ちまくって、エネルギーが切れかけてるよ。大丈夫なのかな魔王君?
「あー! エネルギーが切れる~ あわわ…… 回復アイテムどこ~?」
ほーらやっぱそうなった。撃ちすぎるからそうなる。何で無駄撃ちするのかな? そしてエネルギーがどこにあるのか覚えきれてない。うん、学習する女はどこに居るんだろうな。
「もう。コウモリが邪魔じゃ。 あっ! フラッシュ持って無かったではないか…… どうしよう、無いと進めそうに無いんじゃが……」
いやいや、そんなモン無くったって進めると思うぞ。単に集中力が落ちてるだけだと思うんだが?
もしくは魔王の腕の問題なのでは? うん、そんな事を言おう物ならギャーギャー煩いから言わないけどな。
「くぅ~、又最初からやり直しじゃ。中々手強いのう…… クリアするのにまだまだ時間が掛かりそうじゃ」
「おい魔王」
「良し、気を取り直してやるか」
「おい! このポンコツ魔王、お前話しを聞けよ」
「えっ? 何か言ったか?」
「・・・」
このポンコツ引きニートが! どんだけだよ? マジでこのゲーム、魅了魔法を発動してるんじゃ無いだろうな? いやまぁ、そんな事は無いんだけど、でもその位ハマり込んでやがるじゃないか。
とは言えもし魅了魔法が発動してたとしても、魔王ならそんな魔法に掛かる訳が無いか。うん、いくら魔王が弱体化してるとは言え、その辺りの力は前と変わらないから大丈夫ではあるけどだ。それにしてもハマり過ぎだ。
まさかこんなにハマるとは、俺の予想以上だよ。そして当初の目的の、クリア出来ない地獄をって思ってたが、このハードモードを楽しんでやがるぞ。初めてゲームしたのかって位、楽しんでやがる。
楽しそうで何よりではあるが、流石にやり過ぎだな。そろそろ現実を見せないといけない。そしてここで歯止めを掛けないと、魔王は延々やり続ける。うん、間違いないな、絶対コイツはやる、やり続ける。
「おい、魔王。クリアも何もだな、このゲームはクリアしたとしても二周目が始まるだけだぞ」
「あー! お、おま、お前…… 何をネタバレしてくれとるんじゃーーー! 勇者、分かっておるのか? ネタバレなぞ許されざる大罪じゃぞ。なぁ、この世の最も足る悪じゃぞ。悪魔じゃ、悪魔がおる。この悪魔め、勇者の鬼! この魔王めが!」
「いや、魔王はお前だろうが。あのな魔王。心配しなくても、二周目以降は微妙に色々と違うから安心しろ、と言うかいい加減寝ろ、な。飯食って一旦寝ろ」
「おま、お前は又ネタバレを! 二周目以降の事を言うで無い。あー、あー、わらわ聞~こ~え~な~い」
「こら、耳の穴を掌で押し引きするな。だから聞けよ」
「わ~わ~ 聞~こ~え~な~~い」
「コラッ、おい魔王、ネタバレとかじゃ無いから聞けよ。おい」
ダメだコイツ…… 全く聞く気が無い。仕方ないな、両手を押さえつけて言い聞かせるしかないか。
「な、何をする勇者。わらわを手込めにするつもりか?」
「お前は人聞き悪い事を言うなよ。何が手込めだ? する訳無いだろ。お前はとりあえず話を聞け。ネタバレじゃ無いから聞きなさい」
「嘘だ。ネタバレするつもりじゃろう?」
「俺はどれだけ信用が無いんだよ? しないったらしない」
「本当かぁ~? はっ! ネタバレする気が無いならやはり…… わらわにエロい事するつもりじゃろ」
「お前はその発想から抜け出せ。魔王、お前寝不足でテンションがおかしな事になってるぞ。なぁ、お前普段そんな事言わないよな? もう寝ろよ。カレーパン買って来たし、他にもお前が好きなパンとかも買って来たから。なっ、飯食ってもう寝ろ」
「え~、もうちょっとやりたいんじゃが」
「ダメです。これ以上やるならゲーム禁止にします。魔王、お前やり過ぎ。流石に見過ごせない」
「なっ、何と横暴な…… お前には人の心が無いのか?」
もうヤダ…… 子供でももっと聞き分けが良いと思うぞ。しかも魔王の顔つきがこれ又…… 絶望とは正に、今のコイツの顔を言うんだろうな。
「勇者の鬼、悪魔、魔王」
「だから魔王はお前だ! くっ…… 何度もつっこませやがって」
しかもこんなベタなつっこみさせやがって。何だろう? 魔王の手の平の上で踊らされてるみたいなこの屈辱感は。
しかし魔王の奴め、朝っぱらから無駄に気力を使わせやがって。何か疲れたんだけど。
「おい、もう分かったから手を放してくれ」
「ん? 何か妙に素直だな?」
「どうせ何を言っても、こうなったら無理じゃからな。それにお腹減ったし、カレーパン食べたいし」
ほう…… 多少なりとも学習能力はあるみたいだな。幼稚園児から小学生位にランクアップさせてやろうじゃないか。
「だがな勇者。わらわの尊厳を奪っても、わらわの魂は決して奪わせぬ。わらわの魂はわらわの物じゃ。今はわらわの事を好きにすれば良い。身体を奪っても魂までは決して奪わせぬからな!」
「お前はアホか! 何を言ってくれちゃってんの? お前本当、寝不足で頭いっちゃってんな。大体お前、何かえらい大袈裟に言ってるけど、事の発端はゲームだからな。徹夜してまでゲームしてるからだろ。だから寝ろって話しだからな」
「わらわにとってゲームとは魂の問題じゃ!」
「もういいよ、面倒臭いなお前。さっさと食うぞ、何か疲れたよ」
いちいちつっこむのも疲れたし、何かどうでも良くなって来た。この場合俺は、『くっ…… 殺せ』とでも言えば良いのだろうか?
ダメだ、俺も今の魔王に毒されてる。このままではキリが無い、さっさと魔王に飯食わせて寝かさなきゃ。
そしてその夜
「あーもう。何でわらわ下り坂でジャンプしてしまったのじゃ~ 操作ミスか? わらわ操作ミスしてしもうたのか? 何て恐ろしいゲームじゃ、知らぬ間にボタンを押してしもうた。わらわ操られておるのか?」
「・・・」
「しかしこのコントローラー持ちにくいのう、中々慣れぬわ。だがわらわは負けぬ、我が魂にかけても攻略してみせよう」
「・・・」
ダメだこりゃ。魔王の奴は変わらない。
このポンコツはどうにもならない。
明日も投稿します。