第47話 さくらんぼと怪盗の謎かけ
良し良し、こんなもんか。
しかし今年のは出来が良い、天候のおかげかな?
一月前のも物はとても良かったが、コレも凄く良いな。一ヶ月待ってみたけど、これならさっさと仕込んでおけば良かったかも?
「なぁ悠莉よ、お前はどれだけ作るつもりじゃ?」
「見て分かんないのか?」
「分かるかぁ。またアホ程……」
「お前アホ言うな。たった八十しか仕込んでないだろ」
「・・・」
その目はなんだねアレクシア君。何かキミは言いたい事でもあるのかな? 胡散臭そうに見て来やがってからに。
「お前だって好きだろコレ? それなのに人を胡散臭そうに見て来やがって……。そんな態度ならお前には飲ませてやらないし、コレのジャムも食べさせないぞ」
「はぁ~? お前は何と言う事を言うんじゃ。悠莉よ、お前は人としての心であるとか、善性が無いのか? なぁ? お前は悪の道を極めるつもりか悠莉よ?」
「お前大袈裟なんだよ。何が悪の道を極めるだ? 大体だな、人が作ってる物にケチを付けるお前の方が人としてどうなんだ? それなのに何で俺は、さくらんぼ酒を作ってるだけなのに、そんな事を言われないといけない?」
毎回毎回コイツは人が作る物にやいやい言いやがって。そのくせコイツは作った俺よりも飲み食いしてるくせに、何を抜かしてくれてんだよ。
去年だって美味い美味いって言って、飲み食いしてたくせしやがってこの言い様か。
「お前ふざけるなよ悠莉。わらわの楽しみを奪うとはお前は悪魔か?」
「やかましいわ」
何が悪魔だ。魔王のお前に言われたく無いわい。
「さくらんぼ酒に入っておるさくらんぼで作ったジャムは、わらわの大好物じゃぞ。それにさくらんぼ酒もわらわは好きなのに、それなのに……。この人でなし! 鬼畜!」
「お前なぁ……。俺がこんなに仕込んでるのは、お前が去年仕込んだ分を、アホみたいに飲み食いしたから、だからこんなに仕込んでるんだろ? 言っとくけど一人でこんだけ仕込み作業するのは大変なんだぞ。文句言う前にお前も手伝ってから言え、このアホは。俺は作るのは好きだけど、量が量だけに大変なんだからな」
「・・・」
去年は二十程作ったけど、コイツがほとんど飲み食いしやがったせいで、アイテムボックスにあまりストック出来なかったからなぁ。
今年はストックする分も考慮してこれだけ作ってるのに、それなのにコイツは……。
と言うか春頃にイチゴ酒とかを作ってた時も、さっきと同じ様なやり取りしたな? マジで今年仕込んだ分は出さないでおこうか。
「どうしたアレクシア? 何か言う事は無いのか? ん~? どうした、だんまりか?」
「くっ……」
出たよ出たよ、くっ殺アレクシアが出たよ。
どうせコイツは、去年仕込んだ分を飲み食いしまくった事を、忘れてたんだろうな。
本当に都合の良い記憶力を持ってる奴だよ。
コイツに手伝いなんて一切期待してないけどな。うん、期待するだけ無駄だもん。それに俺一人でやった方がよっぽど捗る。むしろ邪魔になるまであるし。
まぁ良いや、さっさとやってしまおうか。瓶の消毒も、魔法を使えば一瞬で終わるし。
本当に便利だよな魔法。入れ物のガラス瓶の煮沸消毒も、クリーンを使えばいちいちやらなくとも魔法なら一瞬だし、もしこれだけの入れ物を、煮沸消毒しなければならないと考えたら、それだけで気が萎える。これだけの数をいちいち煮沸消毒? ゾッとするね。
「なっ、なぁ手伝おうか?」
「いらん」
「なっ!」
なっじゃねーよ、なっじゃ。
邪魔だし、それに手伝いと称して、つまみ食いすると言う悪行をやらかす可能性大だからな。いらんな。
「お前手伝えと言っておいて、その言い種は何なのじゃ?」
「手伝いはいい、いらない。どうせお前はやらかして、俺のやる事が増えるから。二度手間になるから手伝いはいらない。むしろ邪魔だけはしてくれるな」
「お前、なら手伝えとか言うなよ」
「うるさいなぁ……。邪魔するな、量が量だけに時間が掛かるんだ。こっちはブランデーに浸ける用にしてと……」
「お前! わらわの事を何だと思っておる? 扱いが日に日に雑になっておらんか?」
ギャーギャーうるさいなぁ……。
唾が飛ぶだろ、それに気が散る。マジで邪魔だなぁ、どっかに行ってくれないかな。それかゲームするなりアニメ観るなりしろよ。
「なぁ、お前聞いておるか? もう! お前と言う奴は……」
ん?
「お前コラ! 止まれ! 動くな!」
「ちょっ……」
ちょっじゃねーよ。このちんちくりんめ。
「おい、お前わらわに糸を使っておるじゃろ? やめぬか、放せ」
「糸? 出て無いだろ。そんな事よりも止まれ、動くな」
「いや、使っておるじゃろ。それに止まれも何もわらわ動けぬわ!」
当然使ってるよ、使わない訳が無い。そんな事よりコイツ……。やるだろうやるだろうと思ってたけど、やっぱやりやがった。
「お前……、何つまみ食いしようとしてるんだ? 良い度胸だな……。さぁどうしてくれようか」
「ちょっと待て悠莉。わらわまだ何もしておらぬではないか」
「うるさいこの盗人が! お前分かってる? 盗賊は縛り首だぞ」
「だからまだ、まだ何もしておらぬではないか」
言うに事欠いて何てアホな言い訳をしてるんだ、このちんちくりんめ。
まだ? 何がまだだよ、その体勢で良く言うよ。盗人猛々しいとはまさにこの事だな。
「おい……。お前なぁ、その体勢で、その姿で良くそんな事が言えるな。誰が食って良いと言った? お前、俺の目の前で堂々と盗み食いしようとは、万死に値する」
「ちょっと待て。ちょっと、そう、ちょっとつまみ食いしようとしただけではないか。なぁ、とりあえず放してくれ、ちょっとした、そう、わらわのちょっとした可愛いつまみ食いではないか」
「黙れこの盗賊めが! コレはさくらんぼ酒にするから、だから食うなって言ったよな? お前こそ俺の話を聞いて無かったのか?」
このアホタレはまさかだが、俺が気付かないとでも思ってるのかな? 何しれーっと、極自然に食べようとしてくれちゃってんの?
「だってだってだって、美味しそうだったんじゃもん。桐箱入りじゃぞ、一つ、わらわ一粒だけ食べようかなぁって思っただけじゃ。なぁ、この体勢のままじゃと辛いんじゃが……」
「お前はその姿のまましばらく反省してろ」
「待て待て。それじゃとお前の手も止まる事になるぞ。エエのか? なぁ、作業がストップしてしまうぞ」
バカめ! 俺が昔のままだと思ってるのか?
俺はお前と違うんだよ。それに糸は手からだけしか出せないと思ってるのか? あーそうか、不可視の糸だから見えないんだ。
コイツは野生の勘みたいな物で避けてたから、俺の糸がどんな物か全部は分かっていないのか。
コイツに全てを教える必要は無いな。
切り札は多いに越した事はない。うん、コイツに無駄に教える必要も無い。
「魔力を思いっきり込めたら糸を切り離しても、暫くは糸は残ったままなんだけど」
「おい! お前そんな事が出来たのか? 何であっちに居る時よりも力が増しておる? おかしいじゃろ? お前そんな事出来なかったじゃろ?」
バカめ、向こうに居る時も出来てたよ、持続時間は今に比べて短い時間しか出来なかったけどな。
それに糸は、手からしか出せない訳でも無いんだぞ。体の横、脇腹辺りからも出せる。
しかも片方から六本ずつの、左右から計十二本出せるわい。
コイツ分かって無かったか。それなのに俺の不可視の糸を回避してたとは、恐ろしい奴だな、何て才能だよ。まぁ良い、とりあえず誤魔化しておこう。
「俺はお前と違ってこっちに帰って来てからも、常に鍛えてるんだよ。お前みたいに食っちゃ寝して、ゲームして、アニメ観て、漫画を読んでるだけのだらしない奴とは違うんだ。お前、あの神に力を制限されたから弱くなったと思ってるみたいだけど、力が元に戻ったとしても、あの頃より多分弱くなってると思うぞ」
「・・・」
そらこんだけグータラしてたらそうなるよ。
戦いに身を置いてたあの頃と違い、今は俺の家を散らかして、汚して、電気を無駄に消費するだけの奴だもん。
「お前はその姿のまま暫く反省しろ」
「おい! こんな間抜けな姿のままで、こんな体勢で固まったままは嫌じゃ。わらわを解放しろ」
「黙れこの盗賊めが。自業自得だ」
このアホは、このままの姿で暫く反省でもしておけば良い。
しかし確かに間抜けな姿だな。そーっとかつ、自然にさりげなく、さくらんぼの入った桐箱に近付こうとしてたみたいだが、右手を伸ばし、何故か右足一本で立って、左足の膝がくの字に曲がり、その足先が浮いてる上に、足先ピーンとなってるんだろ? 身体も前傾姿勢だし。
あーそうか、取る寸前だったからか。
別に狙ってやったんじゃ無いけど、見事なまでに間抜けな姿のまま捕まえちゃったな。
「おい、盗賊ってそれは大袈裟じゃぞ。ちょっとした可愛いつまみ食いではないか。なぁ、それよりいい加減糸をほどいてくれぬか」
「お前……。反省が全く無いな。俺はさっきも言ったけど、コレはさくらんぼ酒用のだから食うなって言ったよな? しかも何回も言ったぞ。大体だな、夕飯の時にコレと同じ物を出すと言ったのに、それなのにお前はつまみ食いしやががって」
やるだろうなとは思ってたけど、まさか俺の目の前でやろうとするとは。良い度胸だよ。
「だってだって。桐箱に入ってるのを見たら凄く美味しそうだったんじゃもん。一粒位別に良いではないか。それに未遂じゃぞ」
「お前は子供か? 暫くその姿のまま反省しろ。もしくは自己批判しろ、この愚か者が! それと未遂であろうと、罪は罪だ。シベリア送りにしてやろうか。お前、シベリアで木の本数を数える仕事に就かせるぞ」
「意味が分からぬ。おい、わらわ何時までこのままでおらねばならぬのじゃ? まさかお前が糸に込めた魔力が無くなるまでとか言わぬよな?」
「お前が反省したら解いてやるよ」
まぁ……。コイツが反省するなぞ、永遠に来ないだろうけどな。暫くその間抜けな姿のままで居ろ。
「おい、全く動けぬのじゃが? お前どれだけ魔力を込めた? おかしいじゃろ? 何で倒れもぜず、身体も全く動かぬし、この姿のままビクともせぬのじゃぞ。お前おもいっきり魔力を込めたな?」
「知らん。倒れないなら良いだろ? それに首から上は動くんだから死にはしないよ」
お前が倒れないのは、家具だの何だのに糸を掛けて、お前の身体を糸で引っ張ってるからだよ。
「そう言う問題では無いわ。やった事に対しての罰が重すぎぬか?」
さっきから何度も同じ事を言いやがってうるさいなぁ。事の発端は何か分かって無いのかな? お前が盗賊行為をしなきゃそんな事にならなかったんだ。自業自得だよ。
「なぁ、お前わらわの言葉を聞けよ。おい悠莉」
嫌だけど聞いてるよ。本当に嫌だけど聞こえてるし、聞いてるわい。
しかしこのアホタレは、まず謝るべきだと思うんだけど、ゴメンなさいの一言が言えないのか?
解放するも何も、まずは謝罪が先だろ。分かって無いんだろうなぁ。
「なぁ悠莉……。おい……、お前は何をしておる?」
「記念撮影」
「お前は何をしてくれとるんじゃ? ヤメぬか、おい! 勝手に撮るで無い。お前それ盗撮と言うんじゃぞ」
「・・・」
何が勝手に撮るなだよ。お前は勝手にさくらんぼ酒用のさくらんぼを、勝手に盗ろうとしておいて盗人猛々しい奴だよ。
「や、やめろ~! わらわの恥ずかしい姿を撮るでない。ヤメぬか、おい!」
「お前の大罪の証拠写真だよ。ついでに記念撮影しただけだろ。さてと、作業を再開するか」
量が多いからね、手際良くさっさとやらなきゃ。
こっちはホワイトリカー用で、こっちのは焼酎用。そんでこっちのはブランデー用にして。
ホワイトリカー用のは五十の、焼酎用のは十。で、ブランデー用のは二十っと。
ブランデーも焼酎もお高いやつを使ってるから、今年のは更に美味いだろうな。
明日は去年作った時に使った焼酎とか、ブランデーを使って作ろうかね。 アレはアレで美味かったもんなぁ。
そう言えば実家にもさくらんぼは届いたかな? 届いたらばあちゃんが連絡して来るだろうから、まだ連絡が無いし、届いて無いんだろう。
ばあちゃんもさくらんぼ酒作るだろうけど、さくらんぼ自体が美味いから、先ずはそのまま食べて欲しいな。
「おい悠莉、お前聞こえないフリするなよ」
結構な量を送ったから、近所にお裾分けするだろうけど、それでもさくらんぼ酒は大量に作れるかな? 少々送り過ぎた気がしないでも無いけど、食べきれない分はさくらんぼ酒にするだろうから問題無いか。
「なぁ、おい、悠莉~。なぁってば、聞こえないフリするなよ。悠~莉~」
それにどうせどれだけ余ったとしても、静に食わせるだろうし全く問題無いか。
静の奴、学年が上がって更に食う様になったみたいだし、むしろもっと送っても良かったかも知れない。
「なっ、なぁおい、お前どれだけ魔力を込めたんじゃ? わらわ本当にこのままの姿でずーっとおる様な気がしてきたんじゃが?」
さくらんぼ酒に浸けたさくらんぼ楽しみだな。
とりあえず三ヶ月と六ヶ月。それと一年熟成させた物も少しだけ作るか。
さくらんぼ酒を作るのは、むしろ漬け込んださくらんぼが、ある意味メインと言っても過言ではないからな。
漬け込んださくらんぼで作るジャムは本当に美味いからなぁ。今から楽しみだよ。
「悠~莉~。なぁ、頼むからもうコレ解いてくれよ~」
謝るのが先だ、このアンポンタン。
まぁ良いや、今はさくらんぼ酒の作成に集中しなきゃ。
しかしこの山形産のさくらんぼは良いねー。
流石山形ブランドだな。値段がバカみたいに高いけど、それに見合う美味さだよ。
勇者召喚された事は今でも許せないけど、ご褒美に貰ったロト8の当選番号のお陰で、そのお陰で大金を手に入れる事が出来たから、こんな桐箱入りのお高い物も気兼ね無く買えるんだから。
そう考えると悪くは無かったかも知れない。
だが俺を強制拉致も同然の勇者召喚した奴等は、絶対許さないけどな。
まぁ今は何故か天界へと旅立ったから、多少は許してやろうじゃないか。
「おーい。なぁ、そろそろ再放送のアニメが始まる時間なんじゃが。ハクシ○ン大魔王がもうそろそろ始まる時間になる~」
何がハク○ョン大魔王だよ? お前は魔王だろ? そんなに観たいなら鏡で自分の姿を見ておけ。
お前は鏡で自分の姿を見るのが大好きだろ。
そう言えば春頃に仕込んだイチゴ酒もそろそろアイテムボックスに入れなきゃ。
中に漬け込んだイチゴはとっくに取り出して、アイテムボックスの中にあるけど、アレもジャムにしちゃわないといけないな。
何やかんやで先延ばしにしてきたけど、今仕込んでるコレ、さくらんぼを中から取り出す時に一緒にやったらと思ってたけど、量が量だけに手間が増えるか。
そうだな、イチゴ酒に漬け込んだイチゴは、明日やってしまおう。うん、じゃないとまた先延ばしにしてしまう。
ダメだなぁ。アイテムボックスの中に入れとけば、腐る事も無いからって思って先延ばしにしちゃうんだよなぁ。
明日やる、明日やるって思っても、どうせやらないのに。よし、明日やる、決めた、絶対明日やる。じゃないと結局やらずにズルズルと時間だけ過ぎて行く。
「おーい悠莉~。ハ○ション大魔王の後はハ○ジが、ハイ○があるからぁ~。始まってしまうではないか。なぁ、聞こえないフリするなってば」
何で夕方にやるんだろ? 俺が子供の頃は、朝放送してたのに。
おっと、さっさとやらなきゃ。じゃないと夕飯作るのが遅くなってしまう。
うーん、良いねー。壮観壮観。
これだけ量があると見事ナリだよ。
しかし魔法やアイテムボックスが使えなかったら、作るのかなりの手間が掛かってたよなぁ。
完成品を空き部屋に持って行くだけでも、かなりの手間だからな。
それにクリーンや乾燥なんかの生活魔法が使えなければ、こんな短時間に終わらない。
よっしゃ、後ちょっとだな。何だろうこの達成感は? 毎回思うけど、仕込みが全て終わったら、物凄い達成感があるんだよな。
「悠~莉~。聞こえておるじゃろ? なぁ?」
聞こえてません。
と言うより聞きたくありません。まずはゴメンなさいが先だよ。
「も、問題です」
ん? 問題です? コイツ……。俺が話を聞かないから、やり方を変えて来たか?
「青ダヌキの物語に出てくる、風呂好きのし○かちゃんのカナリアが逃げ出す頻度と、日曜夕方に放送しておる、海産物一家の家に泥棒が入る頻度と、どっちが多いでしょう?」
どっちだろ? どっちもかなりの頻度で良く見るな? 青ダヌキ、いや、青たぬき? まぁどっちでも良い。それよりどっちが多いんだろう?
海産物一家の方か? でも風呂好きのあの子の飼ってるカナリアが、逃げ出すのも良く観た様な気もする。
うーん……。どっちなんだろう? 最近観て無いからいまいち分からんな……。
そのシチュエーションは、どっちも良く見たからなぁ。確か子供の頃は、月一であるみたいな事を友達と話してた記憶がある。
しかし……。両家ともセキュリティはどうなってるんだ? 特に海産物一家の方だ。
青たぬきの方は、小学生だからまだ分からんでもない。それでも多すぎだとは思うけど。
だけど海産物一家の方は、流石に問題ありまくりだろ?
危機感があまりにも無さすぎる。
あれだけ泥棒の侵入を許す時点で、あの一家の学習能力の無さが良く分かるな。
そう言えば確か、じいちゃんやばあちゃんが子供の頃は、海産物一家の家に押し売りが良く来てたけど、最近は見ないねって話をしてたな……。
「おい悠莉、聞こえておるよな? だって手が止まっておるし、その顔はどっちが多いか考えておる顔じゃろ? わらわの声は聞こえておるんじゃろ?」
そんなのどうでも良い。それよりどっちが多いんだ? ダメだ、気になったら答えが知りたくなってしまった。
後ちょっとで、さくらんぼ酒の仕込みは終わるのに、それなのに気になって気になって仕方がない。
いかんいかん、手を動かさなきゃ。後ちょっとで仕込みは終わる。終わってから考えたら良い。
「なぁ悠莉、気になるじゃろ? どっちが多いか気になるんじゃろ? わらわを解放してくれたら答えを教えるから。なぁ、糸を解いてけれよ~」
「お前なにが解いてけれよ~ だよ?」
あっ、ヤベ、ついつっこんでしまった。
クソっ! 多分コイツはボケたんじゃ無く、素で言ったんだろうけど、思わずつっこんでしまったじゃないか。
「やっぱ聞こえておるではないか。なぁ、わらわを糸から解放してくれ~。本当に始まるから、ハクシ○ン大魔王が始まるから~」
「チッ……。お前なぁ、先ずは俺に言う事があるだろ?」
「本当に分からんのじゃ~、わらわ何を言えば良い?」
「お前……。ゴメンなさいだろ。先ずは謝れ、お前はつまみ食いしようとしてた事に対しての謝罪だろ? お前謝ったら死ぬ病気にでも罹ってるの?」
「ご、ゴメンなさい~。わらわが悪かったから、もうせぬから、じゃからもう許してくれ~。反省しておるから~」
本当か? なーんか怪しいなぁ。
とは言え一応は謝ったから許してやるか。謝罪したのにこのままってのもどうかと思うし。仕方ない、許してやるか。
「お前、やるなって言った事はやるなよ。仕方ないから今日はこれ位で許してやる」
とは言え多分コイツはまたやるだろうけどな。うん、過ちを繰り返す女、それがコイツだもん。
「う~、やっと解放された……。身動き取れなかったから、自由のこの身が幸せじゃ」
♪♪♪ ん? オープニングの曲が。ちょうど始まったか。タイミング良いな。
「お前もうやるなよ」
「やらぬわ! 割に合わぬわ……」
「・・・」
なら割に合うならまたやるのだろうか?
「あー! もう始まっておるではないか。危ない、まだオープニング曲か……。ギリギリセーフじゃな」
どうせまたやるんだろうなぁ……。
そんでまた同じ様な目に遭う、と。
「この曲を聞いてると、なんだかハンバーグが食べたくなって来たなぁ」
残念ながら今日の夕飯は塩サバだよ。