第46話 雨宿りの乙女
「「・・・」」
ザーザー、ザーザーと降り続ける雨。
大雨の事をバケツを引っくり返した様なと言うが、今降っている雨はそれ以上だ。
天の底が抜けたんじゃないかって位に降ってる。
「おい、何でこんなに降るんじゃ? 今日は曇りなれど、降水確率は10%ではなかったのか?」
「知らん。ゲリラ豪雨になったのは俺の責任じゃ無い。それよりお前、何で今日に限って日傘を持って来て無い? しかも予備の折り畳みの日傘も無いって何なの?」
俺がコイツに買ってやってる日傘は晴雨兼用だから、雨が降って来たとしても兼用日傘があれば問題無かったのに。
「だから今日は曇りじゃけど降水確率が低かったし、それにほぼ降らんじゃろうと天気予報で言っておったからじゃ。降ると分かっておれば持って来てたわい」
「チッ……。使えねえなぁ……。普段無駄に日傘を持ち歩くくせ、いざって時に持って来ないとか何なのお前?」
「はぁ~? だから天気予報では降らんじゃろうと言っておったって言っておろう? 大体じゃな、もし傘があってもこれだけじゃじゃ降りであれば、どうせ濡れる」
「確かにそうだな。でも傘が一つあればあそこのコンビニまで行けるし、それ以前の問題としてここで足止めなんて食らわず、多少は移動出来たと思うんだけど? もし傘があればここみたいな軒下で雨宿りせず、三つ建物を挟んだ左隣の喫茶店に行けたと思うけどどう思う?」
建物こそ三つあるが近いっちゃ近い。
だけど軒下から出た瞬間にずぶ濡れになるのは間違いない。うん、二秒でずぶ濡れになるだろうね。
この建物の軒下はまだマシではある。庇と言うか屋根? がやや大きいから、この大雨を防いでくれてはいる。それでも吹き込むと多少は雨が掛かるけど、多少だし許容範囲ではある。
他の所に比べれば遥かにマシだ。だけどここで足止めを食らっている事の慰めにしかならない。
あくまで周りの建物? ビル? よりマシだからってだから何だって話だよ。
右斜め二十メーター先にあるバス停は縦にも横にも広く大きいし、道路側もバスの降車口しか空いていないし何より横に透明な壁があるから、あそこなら快適に雨を防げたんだけどなぁ。
しかも椅子もあるから雨が止むまで座って待てたのに。それに何ならバスに乗って駅かバスターミナル迄行って、そこで雨宿り出来るんだけど。
うーん。あのバス停にもぎゅうぎゅう詰めに人が居たけど、バスに乗って移動したから今は七~八人しか居なくなったな。多分ここに居るよりマシだって思ったんだろうな。
「おい悠莉よ、お前聞いておるか? 文句なら天気予報に言え。この雨もわらわのせいでは無いのじゃぞ。日傘も天気予報で今日は曇りだと言うから持って来なかったのじゃ、曇りなら要らぬし邪魔じゃしな」
「あー、聞いて無かった。そうなんだ」
「お前!」
うるさいなぁ、もう何回も聞いたよ。
天気予報では二時間位はこの状態が続くって事だけど、変わったりしてないかな?
「はぁ! この天気が後三時間半は続く? おい、さっきより時間が伸びてるじゃないか。確か三十分前に見た時より倍になってるぞ」
「おい待て、確かさっき見た時は二時間位じゃったよな? 倍に伸びておるではないか」
「だから言っただろ時間が倍に伸びてるって。お前こそちゃんと聞け。それよりこれから更に雨が降るみたいだぞ。おいおい、今でも八十ミリなのに九十ミリ? ふざけんなよ! 降り過ぎだろ、これってゲリラ豪雨ってより大嵐じゃないか」
何なのコレ? えっ、三時間半この状態で雨宿りしなきゃならないの? ふざけんな、何でこんな所で無駄に時間を過ごさなきゃならない?
それに今でもやや風が強いのに、もしこれ以上風が吹き始めたら間違い無く濡れるぞ。
「おい悠莉、やはり傘をアレから出そう」
「お前はアホか? 出来る訳無いだろ。出すにしても今更感があり過ぎる。周りに人が多いし、何より降り始めて三十分も経ってから出してたら違和感が凄いぞ。何で降り始めてから出さなかったって普通なら思うからな」
流石に両隣からは俺達がそこまで見えないけど、人数が大分減ったとは言えバス停や、道路を挟んだ向こうには人が大勢居る。
隠れてコソコソと出せば問題無いかも知れないけど、道路を挟んだ向こうで雨宿りをしてる人達は思うだろうな。何で傘を持ってるのに今更出したのって。
うん、俺なら思うもん。なら他人もそう思う奴も居るだろう、違和感ありまくりだよ。
「じゃがこのままでは埒が明かぬぞ」
「分かってるけど、だけどバレたらどうする? 違和感もそうだけど人も多すぎるし、防犯カメラもそこら中に結構あるぞ。傘を出すにしても遅すぎた。今更感もあるしダメだ」
「ならどうするんじゃ?」
そうだな、このままではお前の言う通り埒が明かないな。だけど手が無い訳でも無い。一つ手はある。
「アレクシア君、キミちょっとひとっ走りだね、あそこにあるコンビニエンスストアにまでだね、傘を買いに行ってはくれないかね?」
「お前はアホかぁ! ここからあのコンビニ迄五十メーターはあるんじゃぞ! わらわずぶ濡れになってしまうわい! ふざけた事を抜かすで無いわ!」
「大丈夫。お釣りはお駄賃としてキミにあげるから。なーに、チップだ、お小遣いとして取っておきたまえ」
「アホな事を抜かすで無いわ。何がチップじゃ、何がお小遣いじゃ? 千円貰っても嫌じゃ」
「なら一万円あげると言ったら?」
「・・・」
揺れたな。だけど一万もやらないけどな。
千円もやらない。理由、あげ過ぎになっちゃうから。それにコイツに金を持たせてもどうせろくでもない事に使うか、無駄遣いしかしないから。
「い、一万……」
「お前は何を本気にしてるんだよ? お駄賃に一万円も渡すわけ無いだろ」
「なっ!……」
何がなっ! だよ。金に目が眩んで一瞬やろうかなって思ったみたいだけど、普通に考えて流石に一万も渡すわけ無いのに。
「お前わらわの純真な心を騙しおって……。お前は悪魔か?」
「はいはい、悪魔悪魔。あーもう、何で今日外出しちゃったかなぁ。こんな事になるならやっぱ家に居たら良かった。なぁアレクシア」
「だから言っておろう。わらわとてこんな事になるとは、思ってもおらんかったわ。くっ……。あのかき氷食べたかったのに」
あーあ、俺は乗り気じゃ無かったのに。コイツがおしゃれな? 色とりどりのフルーツがいっぱい載ったかき氷が美味しそうだからって、俺に行きたい何てゴネなかったらこんな事にはならなかったのに。
何がおしゃれだよ? 何が映えてるだよ? 美味しそうに見えたのも写真写りが良かっただけだろ。
かき氷なんて家で作ったら良いんだよ。お前はインスタ映え命の、頭に生クリームが詰まった奴かよ。お前はスイーツ女子か? あーあ、お家に帰りたいよ。
「今なら待たずに直ぐに入れるんじゃろうなぁ。食べたかったのに……」
「うるさいなぁ。お前の日頃の行いが悪いから今日雨が降ったんじゃないのか? この雨女が」
「誰が雨女じゃ誰が。むしろお前の日頃の行いが悪いから、じゃから今日この様な大雨になったのではないか?」
このちんちくりん、言うに事欠いて何て事を抜かしやがるんだ。
日頃の行いが悪い? お前にだけは言われたく無いわい。
「すいません、ちんちくりん過ぎて聞こえませんでした。もう一回言ってくれますかちんちくりんさん。あ、いや、クソ金髪エセロリさん」
「お前ちんちくりん言うな! クソ金髪エセロリ? お前は気のせいか、この姿に戻されてから、なーんかわらわに対する当たりと言うか、扱いが前より悪くなっておらぬか?」
「気のせいじゃ? 前から変わらないと思うぞ。そう言うのって被害妄想って言うんだぞ」
確かに元々のコイツの姿なら多少は考慮してやるが、それでも中身は変わらないからなぁ。
多分コイツに対する扱いはほぼ一緒だと思うけど、コレに比べたらまぁ多少は違うかも知れない。あくまで程度の差でしか無いけどな。
それにしてもコレどうするんだよ? これから益々雨足がきつくなるし、風も強くなるんだよな? 実際問題としてここにこのまま居てもジリ貧なんだよなぁ。
いっそあのバス停までダッシュで行くか? それか喫茶店まで行っちゃうかだけど……。濡れるよなぁ。しかもずぶ濡れになるだろうなぁ。
喫茶店とバス停……。ん?
「・・・」
「おいお前聞いておるか? んん~? おい悠莉よ、お前バス停におる女の透けた服を見ておるな? お前ヤメい、透けた服から見える下着をガン見するのは流石にどうなんじゃ?」
「違うわい」
たまたま見えただけであって、見ようと思って見てた訳じゃ無いし。うん、場所移動しようかと思って見てたらたまたま透けブラの奴が居ただけだし。不可抗力だねこれは。
それにしても何で透ける程濡れてるんだろう?
あのバス停はプラ製の透明な板で道路側と側面を強固に守られているのに。
あーそうか、それだけ雨風が更に激しくなって来たんだ。
それに加えて俺達が居る建物側? いや、歩道側から雨風が吹き込んで来たんだな、それに道路側の出入り口は空いてるし、そこから雨風が入り込んだか。そうかそうか。
「お前……。言ってる側からまだ見るか?」
「だから違うわい。ここからの移動を考えてたんだよ。お前は俺をどうしてもチラ見野郎にしたいの?」
「いや、チラ見では無くお前のはガン見じゃからな」
「失礼な」
そりゃ俺だって全く見て無いし、見えて無かったとは言わないよ。でもガン見したと言うのは、酷い言い掛かりだと反論したい。
あくまでも景色の一環として、風景の一部分として見えてしまったと言うのであって、決して見ようと言う確固たる意思の元に見た訳じゃ無い。だからそんなジト目で俺を見るんじゃないよ。
「お前……、ヒャッ、やん」
「お前いきなり奇声を発するなよ。何をお前は乙女みたいな声を出してるんだ? もしかしていきなり発情期にでも入ったのか?」
「アホな事を言うな。発情期って、わらわは獣では無いわ! それとわらわは乙女じゃぞ」
これはあれか? 突っ込み待ちなのかな?
まぁ良いだろう、とりあえず話を聞いてやろうじゃないか。自称乙女からな。
「で? 何でいきなり奇声を発した?」
「雨が、雨が首筋に掛かったのじゃ。あーもう、服にも雨が掛かったのではないか?」
「お前分かってるとは思うけど、一応念の為言っておくぞ。アレで乾燥させたりするなよ」
普段から口が酸っぱくなる位に言い聞かせてるから大丈夫とは思うけど 、コイツだからなぁ。
生活魔法を使わないとは、言い切れないのがコイツだもん。だってコイツは筋金入りのポンコツだから。
「せぬわ。お前はわらわを……、ひゃぅぅぅ~」
「お前さっきから何なの? で? 今度は何があった?」
「ヒー、耳に、耳の中に雨水が入った~。うわ~、ゾクッとしたではないか」
「お前やっぱ発情してるだろ? 奇声を発するな、恥ずかしい」
さっきから本当にうるさいし、騒がしい。
只でさえ雨音が非常~に激しいのに、それに加えてコイツの奇声とか、それってもう軽い拷問に掛けられてる様なもんだよ。
やっぱ雨宿りするのも、一緒に居る奴によって大きく変わるな。
高校の時に彼女と一緒に雨宿りした時は、何やかんやで楽しかったもんな。甘酸っぱい思い出だよ。
それに比べてコイツとの雨宿りは、うるさいだけの苦行でしかない。
「発情言うな。仕方ないではないか、狙ったかの様にわらわの、わらわの変な所に雨が当たるのだから。何でじゃ? わらわが何故にこの様な目に遭わねばならぬ? ひゃい! またじゃ、また耳に……」
単にお前の日頃の行いが悪いだけだろ? それかあの神が暇潰しにお前に悪戯してるんじゃないの?
もしくはただ単に罰が当たったとかだろ。
天は見ているか。なるほど、コイツの普段の生き方を天は見ているって事か。
「お前は何故そんなに嬉しそうに笑っておる? もしやわらわを見て笑っておるのか?」
「別に……」
おーっと。いかんいかん、表情に出てしまっていたか。気を付けよう。
「人の不幸を笑いおって。お前もわらわと同じ目に遭ってしまえ。大体じゃなお前は……」
これって長くなるやつ?
どうしよう。人を呪わば穴二つって教えてあげるべきかな? と言うか俺はお前と違って耳は別に弱く無いんだよ。
耳が弱いってお前はネコか? いや違うな。ネコは耳が弱いってより、心地好いポイントだもんな。
それにネコは可愛いけど、コイツは可愛くないし。そうだなネコちゃんと比べるのはネコちゃんに失礼だな。
「大体お前はじゃな……」
〝ピカッ!ドーン! ゴロゴロゴロ 〟
「ひゃいぅ!」
コイツ……。
「おい抱きつくなよお前。只でさえ蒸し暑くってジメジメしてんのに、何してくれちゃってんの? 離れろ」
「あっ、いゃ……。つい……」
「何がついだよ。カミナリが鳴った位で何を驚いてんだお前は? チッ……、お前なぁ、女みたいなリアクションするなよ」
俺から雷撃魔法食らった事だってあるだろうに、それなのどうせ当たりもしない、只のカミナリごときに何をビビってるんだよ。
マジで乙女かお前は? あー暑苦しい。今の姿のコイツに抱きつかれてもちっとも嬉しくない。
どうせなら元々の姿の時にやれよな。あーあ。
「わらわは女じゃ! お前はわらわを何だと思っておるんじゃ? まさか男とでも思っておるのか?」
「どうでも良いよ。お前は男とか女ってより只のポンコツとしか思って無いよ、只でさえ蒸し暑いのに、もう」
しかしコイツこっちに来て本当に弱くなったな。色々とな。
「ポンコツ言うな。いきなりじゃったから、じゃから驚いてしまっただけじゃ。あーそうか、本当はわらわに抱きつかれて嬉しいのを隠すためにそんな事を言うのじゃな? 何じゃ、照れ隠しか?」
「ヘッ! ハッ!」
鼻で笑っちゃうわ。何が照れ隠しだよ、俺は今まで一度も女と関わらず生きて来た訳でも無いんだぞ。
昔、彼女にされた事があるけど、あの時は可愛いなと思ったけど、コイツにされても鬱陶しいとしか思わないな。
「お前鼻で笑うな」
笑うなって無茶言うなよ。
これは説明してあげなければいけない様だな。
「笑っちゃうに決まってるだろ。あーあ、昔つき合ってた彼女にされた時は可愛いと思ったけど、お前にされても可愛いとか全く思わないな。まぁ、お前みたいなちんちくりんにされてもなぁ」
「どうせお前は、その彼女とやらの濡れた服から透けて見える下着を、ガン見しておったのじゃろう? お前と言う奴は本当に破廉恥な男じゃのう」
「えっ、お前何言ってんの? そんな事しなくても、見ようと思えば何時でも見る事が出来るのに、わざわざそんな事する訳が無いだろ。あーそうか、お前は自称乙女だからそんな事にすら思いが至らないんだ。アレクシアちゃんはお子ちゃまだから仕方ないな」
「・・・」
悔しそうな、恥ずかしそうな何とも言えない顔ですねアレクシアさん。
実際は、あんなもんドキドキする様な事でも無い。
透けてる事を俺から言うか、向こうから聞いて来るかってだけで、物語みたいな展開は無いんだよね。
精々向こうが笑いながら、軽く流される程度の事でしかない。
それに今みたいに雨宿りしたのは殆どが学校の帰りで、制服自体からの透けブラ何て雨に濡れるよりも、学校で普通に透けてたからな。
それにうちの学校はブレザーだったから、あんま特別感は無かったんだよなぁ。
周りの学校もブレザーの所が多かったし、制服がセーラー服って今や絶滅危惧種だもんなぁ。
そうだな、そう考えるとセーラー服なら特別感と言うかイベント感があったんだろうけど。
しかし……。毎回思うけどコイツって純情を通り越してるよな。純情ってより純真? コイツって奴はどんな言葉で表すのが正しいんだろ?
「・・・」
まだ照れてるのか。
今時小学生でももっと免疫はあるぞ。
「おい自称乙女、お前は何時まで恥ずかしがってるんだ? もしかしてお前カマトトぶってんの?」
「だ、誰がカマトトじゃ。それと自称乙言うな。わらわは……」
〝ピカッ、ドドーン、ゴロゴロゴロゴロ〟
「うひぃ~~~」
「・・・」
いや、絶対そうだろ。コイツわざとやってるんじゃないの? 一応コイツの申し開きを聞いてやろうじゃないか。
「おいコラちんちくりん。お前わざとやってるだろ? それともカマトトぶってんの? 何でカミナリごときで驚いて、挙げ句俺に抱きついて来る? さっさと離れろ暑苦しいんだよ」
「し、仕方ないではないか。今のはかなり近かったぞ。しかも不意打ちであったし、それに音も凄かったではないか。不可抗力じゃ」
「そんなのどうでも良いからとっとと離れて頂けませんか、アレクシア・マオ・カマトトさん」
「おい! わらわに妙な名前を付けるな。何じゃカマトトって。わらわをあざとい女みたいに言うのはヤメい。 誰がアレクシア・マオ・カマトトじゃ? 妙なあだ名を付けおってからに……」
これがカマトトじゃ無いのなら、なんと言えば良いんだよ? 天然?
「お前が突発的に発情期に突入した件は一旦置いておいてだな、こんな事なら繁華街に車を停めるんじゃ無かったよ」
どうせかき氷食ったら繁華街に戻るからって、そう思って向こうに停めたけど、こんな事ならこっちの駐車場に停めたら良かったよ。
そしたら、もしかして雨が降り始めた時にギリギリ、車から降りなかったかも知れないのにな。
「発情期言うな。わらわは獣では無いと言うておろう。わらわがいやらしい女みたいに聞こえるではないか、ハァ……。なぁ悠莉よ、まだ降るんじゃよな? 本当にどうするんじゃコレ?」
「なぁ、どうしようか」
本当どうしようか。このままじゃ埒が明かない、かと言ってこの場に何時間も雨宿りするのもなぁ。時間の無駄以外の何物でも無い。
「ひゃ~、何か雨が入り込んで来始めたね」
「本当だね、もう次のバスに乗って移動しちゃう? うわー、服が凄い濡れて来た。ねえ、私の服透けて無い? 大丈夫?」
「あー……、ちょっと透けてるね。今日って薄水色のでしょ?」
「えっ? 分かっちゃう? ヤダ、ブラ透けてるの? えー」
「・・・」
バス停に雨風が更に激しく吹き込んで来たみたいですね。そうか、あのバス停より俺達が居る、今のこの場所がまだマシなんだ。へぇ、そうかぁ、バス停は濡れるんだぁ。
「おい、お前本当に見過ぎじゃぞ、本当に本当~に控えろ。なぁ悠莉よ、お前の方こそ発情期の獣みたいじゃぞ」
「声がしたからつい釣られて見ただけだろ。失礼な奴だなお前は」
大きな声とか音がしたら、無意識にそっちを見るだろ。そこに意思なんて物は欠片も無い。ただただ大きな音がしたから、だからそっちを見てただけの事、ただそれだけの事だ。
「・・・」
おい、胡散臭そうな目で俺を見るな。そして何故にお前は両腕で自分の胸を抱き込みながら、後退りしている?
心配しなくてもお前みたいなちんちくりんに、何も感じないよ。自意識過剰かよ?
「フッ……」
「お前何故鼻で笑った?」
「別に……」
「お前はさっきからわらわに、なーんか思う所があるみたいじゃなぁ。意味ありげに鼻で笑いおってからに」
意味ありげ? それはお前が自意識過剰だからそう感じるんだよ。普通に考えればお前みたいなちんちくりんに、何もしないって分かるはずだぞ。
俺にだって選ぶ権利位はあるんだよ。と言うか弁えろ改造ロリめが。
「ハァ……。只でさえ雨風が激しく、それに加えて蒸し暑いのに、それなのにチンピラに絡まれるとはツイてないな」
「お前コラ、もしかしてチンピラとはわらわの事か?」
「こんなゲリラ豪雨に見舞われて、挙げ句金髪クソロリチンピラに絡まれるとは。あーあ、本当にツイてないよ」
「お前わらわの事じゃろ? なぁ、明らかにわらわの事じゃな?」
それ以外の何物でも無いだろうが。
お前以外のどこに金髪ロリが居るんだ? 大体この場には俺とお前の二人しか居ないのに、もしお前じゃ無かったら俺は独り言を言ってる危ない奴になるだろ。
「あーあ、高校の時は彼女と雨宿りした時は楽しかったのに、お前みたいな改造ロリのちんちくりんとしても楽しくも何とも無いよ。あーあ」
「くっ……。どうせその彼女とやらもお前の妄想の中の架空の人物じゃろ? そんな漫画みたいな世界がある訳が無い」
「彼女が居て、高校に通ってたらそんな事もあるわ。三年も通えば普通にある。と言うか彼女は実際居たし、現実の存在だったし。人を妄想癖があるみたいに言うな、お前とは違うんだよお前とは」
高校生の時に彼女と雨宿り何て別に珍しくもない普通の話。うん、彼女が居る奴のあるあるでしかないんだよなぁ。
「口では何とでも言えるわい」
〝ピカッ、ドドドドドーーーーーーン〟
「イャッ、キャ」
「・・・」
おいおいおいおい。
高校生の時に彼女との雨宿りが漫画か、だって?
しかも俺の妄想? 彼女は架空の人物、だったか?
「だからお前、カミナリごときで奇声を発するなよ。何がキャッだ? イャッじやねーよ。か弱い女みたいなセリフを吐きやがって。俺の高校の時の事を漫画みたいって言ってるけど、今のお前の女の子みたいなセリフとか、今お前が無駄に怖がって、俺に抱きついて来てる事の方がよっぽど漫画みたいだよ。離れろ暑苦しい」
「だってだってだって。今そこにカミナリが落ちたじゃろ? 正面の建物にカミナリが落ちたのをわらわは見たぞ。流石にあんな近距離であれば驚いても仕方なかろう」
だってだってじゃ無いよ。確かに目の前に落ちたよ。でも当たらなければ全く問題無いだろ。
何だろう、確かにコイツは自分の事を乙女ってほざいてたけど、ある意味確かにコイツは乙女ではあるな。
周りに居る女の人達もキャーって叫んでたし、俺も女の人達の絶叫は聞こえてたよ。
でもコイツがキャーって、何か違和感があるんだよなぁ。いやまぁ前に一回聞いたけど、二回目だけど凄い違和感がある。
「もうどうでも良いから離れてくれ」
「う~、屈辱じゃ~。たかがカミナリでこんな醜態を晒すとは……」
〝ピカッ、ゴロゴロゴロドーーーン〟
「ヒェッ!」
「・・・」
ちっとも嬉しくないシチュエーションだなぁ。
「ヒー、何でこんなにカミナリが何度も近くに落ちるんじゃ~」
お前の日頃の行いが悪いからだよ。




