第44話 昔語り 静編⑥ 目眩く快楽
「ハァハァハァ……。に、兄ちゃん……、私もうダメかも……」
「おい諦めるな静! もうちょっとだ、後ちょっとだけ頑張れ」
「ハァハァハァ……」
だから言ったのに、結局こうなるのか。
「おい大丈夫か静?」
「ハァハァハァ……。何で……、何でこうなっちゃうの? 何で……。朝……、朝う○こしたのに……。朝……朝う●こブリブリしたのに……。何でなの?」
「いや、お前普通に食い過ぎだよ。あんだけ食ったらそらこうなるよ。大体お前、昼もカレーを大盛で二杯食ったんだろ? 普通に食い過ぎ。そりゃこれだけ食べてたら出る物も多いよ」
只の腹痛。しかも食い過ぎによる物で、トイレに行けば即解決する腹痛でしかない。
それなのに何をコイツは無駄に雰囲気出してるんだろう? まるで死にかけ寸前の戦士みたいな雰囲気を出すな。
もう……。頼むから漏らさないでくれよ静。
俺は嫌だぞ。漏らしたコイツを車に乗せるのは。
「兄ちゃん……。おトイレまだかな? まだ着かない? まだ歩かないとダメ?」
「だからもう少しで到着するよ。後少しだから」
店を出て歩き出したら即コイツはお腹が痛いと言い出したが、それでもサーティーンにアイス食いに行くって抜かしやがったのは、呆れよりむしろ感心した。
コイツの食欲には恐れ入ったが、ある意味勇者だとも思ったよ。だがそれは蛮勇と言う意味での勇者だけどな。
「どうしよう……、間に合うかな?」
「いや、間に合わせろよ。流石に漏らすのはどうかと思うぞ。諦めるな静、後ちょっとだ」
うん、但し多分って言葉は敢えて省いて言ってる訳だけど。
でも俺の記憶では確か後少し行った所にトイレはあったはずだ。但しこれも十年前の記憶ではって前置きがあるんだけどな。
「に、兄ちゃん……。私、私ね、サーティーンでね、私ね、アイスクリームケーキ食べたいんだけど、ダメ?……」
「お前その状況で凄いな。先ずはトイレが先だろ?」
今にも漏れそうって言ってるくせコイツ……。
やるな静。ここまで来たら天晴れだよお前。
「アイスクリームケーキ高いもんね。わ、ワガママ言ってゴメン兄ちゃん。でも……。食べたい」
「もう! 食わせてやるからさっさとトイレに行くぞ。だけどお前食えるの? 食えたとしても本当に腹壊すんじゃないか?」
「大丈夫。私のお腹は無敵」
「・・・」
現在進行形で腹が痛いって言ってる奴が言っても説得力皆無なんだけどな。しかも脂汗流しながら言ってもはいそうですねと、素直に頷けない。
「兄ちゃん……。明日ね、雷魚釣りに行こ」
「静、お前もう喋るな。集中しないと漏らすぞ」
「何か喋ってないとヤバいから……。兄ちゃん、明日雷魚釣りに行こ。ダメ?」
「行くから集中しろ」
あれ? 何か気のせいかさっきから、静の要求を受け入れてしまってるけど何でだ?
コイツは計算してやってる訳じゃ無いんだろうけど、だからこそか、素で言ってるからかな? 恐るべし純粋ってとこか。
「エへへ、やった、兄ちゃんと雷魚釣りに行くの久しぶりだね」
確かにそうだな。雷魚か、竿はこっちにもあるし問題無い。それに雷魚釣りは結構楽しい。
こっちに居る時は良く釣りに行ったもんだ。
「へへ……。私、う○こブリブリして、明日は兄ちゃんと雷魚を釣りに行くんだ……」
「静やめろ、それはフラグと言ってな、そんな事を言ってると漏らしちゃうからヤメろ。それとそんなお下品な事は腹の中で思っても口に出すな」
コイツに自重などあるはずも無いが、この様な事は言い続ける事が大事だからな。
それにしても……。
「ら、雷魚……。アイスクリームケーキ……。ひゃうん、あぅ! はぅ!」
「お前いきなり奇声を発するな」
「あ、あ、あ……。あっあっあ……」
これって……。
「お前まさか!」
「危なかった……。私史上最大の大大大ピンチだったよ兄ちゃん。私は乗り越えた。進化したぞ~!」
「静! お前びっくりしたじゃないか。もうちょっとだから、あっ! 静見ろ、トイレが見えて来たぞ」
もう大丈夫とは言わない。戦いの最中気を抜けばヤラれちゃうからな。残心ってのは大事だし、事が完全に終わるまで気を抜いたら、油断したらろくな結果にならない。
うん、何か大層に言ってるけど只の腹痛で、トイレに行くだけの話なんだよね。
「兄ちゃん、私、私負けないよ。必ず打ち勝つからね」
「・・・」
静の奴さっきからなんか雰囲気出してるけど、空気感に飲まれていないか? いや、どんな空気感だよ? いやまぁ俺もさっきから静のおねだりを聞いちゃってるけど、まさか原因はこれか? この謎の訳分からないこの雰囲気に汚染されていたのだろうか?
これが勇者召喚予定者(召喚システム破壊済み)のカリスマか? そうなのか?
んーな事あるか。俺は何をおバカな事を考えちゃってる? 大体だな、俺も勇者召喚者(帰還済み)だぞ。うん、静のおバカさに感染したんだろうな。気を付けよう。
「悠莉兄ちゃん」
「どうした静?」
「私……、私……」
ん? 何か悲壮感漂わせてるけど、どうした?
まさかもう手遅れとかじゃ無いよな?
「私、う○こだから時間掛かるから! ちゃーんとそこで待っててね!」
こ、このアホタレはデカイ声でなんちゅー事を。
「そんなの分かってるわい! もう良いから早く行けよ静。お前デカイ声でいちいち言わなくても良いから」
「分かった! 行って来るね」
もう早く行けよ。さっきからお腹が痛くってトイレに行きたいって言ってたのに、わざわざう○こだって宣言する必要があるのか?
言われなくっても分かってるわい。しかも無駄に表情を作った上に雰囲気醸し出しやがって。
これが素でやってるだけに余計タチが悪い。
普通小学生ってそういう事を恥じるもんじゃ無いのか? いや待てよ、学校のトイレじゃ無いからあんま関係無いのか?
「あれ? ここ男の子用のじゃ無いよ。男の子用は隣だよ」
「私、女」
「えっそうなの?」
「証拠見せようか?」
「ちょっと、ズボン脱ごうとしないで」
「私、付いて無いよ」
「分かったから、ね。ゴメンね、お姉さん勘違いしちゃった」
「分かってくれたら良い。私う○こしたいから行くね」
「・・・」
もう何なのアイツ。トイレの中からここまで聞こえて来てるじゃないか。
トイレ前の男用と女用の間の壁に居るとは言え、ここまで聞こえる位にでっかい声であのアホタレさんは何ちゅう会話してるんだよ。
しかも証拠を見せる? 脱いで見せようとするな。
多分静の奴、女同士だから良いとか思ってるんだろうなぁ。そんな問題じゃ無いんだけど。
しかしアイツ男に間違われる率が高いな。
それでも前より髪が伸びたから、大分マシにはなってるみたいだけど。
顔は整ってて可愛らしい顔つきだけど、言動がアレ過ぎて女には思われないもんな。
目はパッチリしてるけど、キリリとしてて凛々しい感じもするから、それで男の子に間違われるんだろうな。
それにしても、静と会うのも十年ぶりになるんだな。だからかな、アイツの要求と言うか軽いワガママみたいなおねだりをすんなり聞いてしまっているのは。
終わり良ければ全て良し何て言うけど、静に会ってこうして遊んでやってると、俺は帰って来れたんだって改めて実感が湧く。
何やかんやあったが、何とか無事日本に帰って来る事が出来たけど、その実感が湧くそれが、静と久々に会ってってのが何とも言えないな。
「兄ちゃん! お股せ!」
「・・・」
このアホ、やるかなと思ってたけどやっぱやりやがったか。
しかし妙に良い音が鳴ったな。そしてこの足の折り曲げ方の角度と身体の反り具合よ。
コイツますますこのお待たせポーズに磨きが掛かって来てんな。
「お股せ!」
何でまたやるかな? 二回もお待たせ、いや、お股せポーズをやるなよ。お前お股が痛くならないのか? またスパーンと良い音鳴ってたなぁ。
「兄ちゃん、おま『もう良いから、止めろ静。いやマジで』せ……。なーんだ聞こえてたんだ。兄ちゃん聞こえて無いのかと思っちゃった」
残念ながら聞こえてるし見えてるよ。これが気付かない訳が無い。久々に見たが、コレ女の子がやっちゃいけないポーズだよな。
何と言うか今時女芸人でもやらないお下品なネタだよ。うん、汚れ系の芸人でもやらない様なネタだね。
「なぁなぁ兄ちゃん、早くサーティーンに行こうよ」
「良いけどお前お腹大丈夫?」
「大丈夫! 全く問題無い! 全部出たから!」
「そうか」
別に良いけどまだ食べるんだ? リセットされたからまだまだイケるんのかな? ん?
「ちょっと兄ちゃん、何で避けるの?」
「いや、だってお前トイレから出て来たばっかだろ。ちゃんと手を洗ったの?」
「当たり前だろ。おトイレ行ったら必ず手は洗わなきゃいけないんだぞ。私、石鹸つけてちゃんと洗ったよ」
「そうか」
そう言えばコイツって綺麗好きだったな。だけどせっかく手を洗ったのに出て来た後、お股せポーズやった時に、お股をスパーンと叩いてたよね? その点はどうなんだろうか?
「コラ静、くっつくな。離れろって」
「エヘヘ。兄ちゃん行こ。アイスアイス」
まぁ良いか、コイツが喜んでるなら良しとしておこう。ばあちゃんの話では無いけどたまの事だしな。それに久々だし、まぁ良いや。
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これが 二年前の夏の話だ。
うん、その年の年末にも帰ってるから、今年の年末に帰らないと二年帰って無い事になるな。
冬に帰った時は成人式に出たり、家の建て替え前に色々準備を手伝ったりして過ごしたんだ。
ん? 静と? 色々あったけど、問題は年末年始や成人式での事じゃ無いんだ。うん、問題はこっちに帰って来てそれで色々と言うか、あの神に色々聞いての話になるんだよ。
言わないとダメなのかコレ?
確かにここまで言っといて、話を打ち切られたら気になるだろうけど……。
言いにくいと言うより、あんまり言いたくないと言うか。うん、分かったよ、話せば良いんだろ。
あれは・・・・・・・・・・・・。
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「お帰りなさい」
「・・・」
どうしよう。帰って来たとたんに現れられたら不安しかないんだけど。しかも満面の笑み。
うん、どうせろくでも無い話か、ろくでも無い事が起きるかだろうな、嫌だなぁ。
「失礼ね、ちょーっとお話したいだけじゃない」
ナチュラルに心を読むのは止めて欲しい。言っても無駄なんだろうけど。
「傷付くわぁ、そんな嫌そうな顔されたら傷付いちゃうわ~」
「その割に嬉しそうな顔してますよね?」
あの笑顔は絶対ろくでも無い話か事だ。間違いない。
「やーね、人を邪神みたいな扱いするのヤメて。傷付くわ~」
「で? 何の話? それとも用事? 嫌な事はさっさと済ませたいんですが」
シャワー浴びて風呂上がりのとても気分の良い時に……。仕方ないな、さっさと済ましてしまおう。
「冷たいなぁ~。まぁ良いや、実家での事を見させて貰って楽しませてくれたし良しとしておくね」
「・・・」
俺は笑えないし、ある意味楽しく無いんだけど。
「ふふっ。ねえねえ、今どんな気持ち? 色々あったみたいだけど、どんな気持ち? ねえねえ?」
うっぜー! ダメだこういう人だこの人は。
落ち着け、じゃ無いと話が進まない。
「プークスクス。良いわぁ、アナタ本当に良いわぁ。後ワタシは人じゃ無く神ね」
「・・・」
話が進まねー。
「ふふ。アナタ静って子に大分慕われてるわね。あの子の気持ち分かってるの? ねえねえ」
「そら分かってるけど……。あれが分からない程鈍感では無いし。だけど歳が余りにも違い過ぎる。気持ちは嬉しいけど、流石に気持ちを受け止めるのはちょっと……」
静の俺に対する好意は分かるけど、歳の差もあるし、静をそんな目で見る事は無いな。
只の近所の子とは言わなくても、良く言って年の離れた幼馴染位にしか思えない。
「パラレルワールド」
「え?」
いきなり何を言ってんだこの人?
「パラレルワールド。並行世界とも言うし、言うなれば世界は無数に分岐する。言い方は色々あるけど、例えば…………」
神いわく。
世界は選択の連続。そして選択肢によって無数に世界は分岐し続ける。
例えば今日この神が現れたが、現れ無かった世界もある。
俺は帰ってからシャワーを浴びたが、湯船に浸かった世界もあるし、シャワー自体を浴びなかった世界も存在する。
そうやって世界は分岐し続け、それこそ無限に分岐を続け世界は増えて行く。
そしてそれが並行世界として増え、またその並行世界でも無限と言える程分岐し続ける。
その論理で言えば俺が異世界に召喚されなかった世界も当然ある。そしてその世界線とでも言うべき世界は、召喚されたこの世界では無い並行世界の話。
神はその世界の話をしたいらしい。
「アナタ召喚されなかったとしたら、今どうなってると思う?」
「多分働いてた会社で今も働いてて、ごく普通に生きてきたんじゃないかな?」
平々凡々、毎日毎日同じ事の繰り返しで、平穏無事に暮らしてたってとこかな? 給料が安いとか、今日は仕事行きたくねーとか言いながら毎日過ごしてただろう。
「残念ながらアナタ召喚されなかったら、祖父母の所に帰ってるよ」
「えっ、何で?」
仕事に嫌気が差して辞めたとかか? 確かに大満足とは言わないけど、辞めたい程の不満は無かったんだけど?
「だってアナタが働いてた所は潰れちゃうもん。それで何やかんやで祖父母の所に帰るの」
「潰れる? いやいや、まだ倒産して無いけど? もしかして俺が召喚されたから潰れなかったとか?」
「あー、アナタの召喚は関係無いよ。今は潰れて無いけど、もう直ぐ潰れちゃうから。メインの取引先が潰れて、連鎖倒産しちゃうの。この世界でもね」
「マジで? 俺が居た会社のメインの取引先って大企業だけど? えっマジ? あのデカイ会社が倒産するの?」
「そう、それで次の就職先が見付からず結局帰っちゃうの」
ひぇーマジっすか。あの会社が倒産したら潰れる会社は多いぞ。影響が凄まじい事になってるだろうな。
「粉飾決済に贈賄罪に収賄罪に脱税。パワハラにセクハラ、他にも色々あるけど数え上げたらキリがない程の不正のオンパレードね。とにかくそれでアナタは帰っちゃう」
「ん、待てよ……。倒産する事が分かってたら株の空売りでかなりの利益を上げる事が出来るんじゃないだろうか?」
「その辺りはご自由に。インサイダー取引には引っ掛からないし良いんじゃない」
だよな。神の教えな訳だし、インサイダーもクソも無いよな。言っても頭がイカれたとしか思われないだろうし。
まさかコレを教える為に現れたのか? マジかよ、こんな事なら大歓迎だよ。
「そうだよ感謝してね。でもそれは全く関係無いよ。祖父母の所に帰ってからのお話なの」
これがメインでは無いだと? 俺にとってはメインもメイン、大メインだよ。
「んー……。それは一先ず置いて、アナタは帰ってから一年後と少し経った位に死闘を繰り広げます」
「死闘? 異世界に召喚されていないのに?」
「アナタが二十二歳の時の話です」
「ちょっと待って、死闘? 何で死闘?」
「そしてアナタは敗れます」
「ねえ聞いてる? 死闘って何で? それと敗れますってどういう事?」
「敗れたアナタは相手にある選択肢を迫られます」
あっ、聞いちゃーいねーってやつですか。
どうしよう、凄く凄~く嫌な予感がしまくってるんだけど。
「正解に言えばアナタは、相手の要求を受け入れる様に迫られます。そこで選択を迫られます」
だからその選択って何? 要求って何さ?
「その選択と言う名の要求は、アナタにとって到底受け入れる事が出来ない物。そしてお互いの正義の為に戦います」
「だから何と戦って、どんな要求されるんですか?」
お互いの正義って何なの? 戦う相手は誰だよ?
そして何でですます口調なの? 非常~に気になる。こういう時は大抵ろくでも無さに拍車が掛かるんだよな。
「静って子の想いが爆発して、簡単に砕けた言い方で言えば、アナタに私の物になれって迫られるの」
えらい男前な言い方だな。但し静は女なんだが。
「迫られると言うか静に告白されるの?」
うーん、それはある意味戦いであるのかな?
恋は戦争って言うし。
それにしても私の物になれって世紀末覇者かよ。
「アナタは年齢を理由に断るんだけど、力ずくで迫られて、ヤラれそうになるの」
「気のせいかヤラれるって、別の意味に聞こえるのは気のせいかな?」
「アナタは力及ばずあの子に負けて、あの子にアナタは純潔を散らされるの」
「おい! それって俺が小学生に負けて、俺が静にヤルじゃ無く、静に俺がヤラれるって事か? 高学年とは言え流石に小学生には負けないだろ。しかも静は女だぞ。あんた無茶苦茶な事言わないで貰えますか」
話から換算すると、俺が二十二なら静は十一歳だから小五か? いやいや、流石に負けないだろ。
「アナタは負けます。完膚なきまで負けちゃいます。死闘を制したあの子にアナタは純潔を散らされる事となる」
「俺は男なのに純潔を散らされるっておかしくない? まぁ良い、一旦それは置いて。それと俺は純潔じゃ無いんだけど。経験済みですが」
しかしなんだよ。静に力で負けた上、ヤラれるってもしその話が本当なら、その世界の俺はどれだけ弱いんだよ?
いくら静が武術を嗜んでいるからと言って、大人の男が小学生に負けるか?
いや、ちょっと待てよ……。
静の奴、夏に帰った時にアインモールで私の方が強いとか何とか言ってたな。
あの時点でもそう思ってたとしたら、高学年になったら余裕で負けるとかももしかしてあるのか?
まさか……。流石にそれは無いだろ。無いよね?
「本当の話だよ。そしてまた別の日に死闘を繰り広げて負けるの。アナタ死ぬ気で抗って、本気で戦って負けちゃって、またヤラれちゃうの」
「・・・」
アレ? これマジの話なの?
いや、でも違う世界の話だし。世界は無数に分岐するんだし、そんな世界があってもおかしくは無いのか?
いやいやいや。俺は何を納得しかけてる?
「そしてまた別の日にも同じ様に負けてヤラれたアナタは、何度か繰り返す内に何時しか諦めます」
おい! 諦めるな俺。違う世界の俺諦めるなよ。
俺は何回負けたんだろう? もう諦めてしまう程負けたのか?
「そしてアナタは何時しかあの子と目眩く快楽の世界へと浸って行きます」
「ちょっと待てよ! 何だよ目眩く快楽の世界って」
「ねえねえどんな気持ち? 高学年とは言え、小学生の女の子と本気で戦って負けるってどんな気持ち? しかももう勝てないからって諦めて、目眩く快楽へと誘われてどんな気持ち? ねえねえ」
「・・・」
マジでうっぜー。どんな気持ち? 最悪の気持ちだよ。静と本気戦って負けるとか何なの?
違う世界の俺とは言えそれってどうなの?
「ちなみにあの子が中学生の時に死闘を繰り広げて、同じ様に完膚なきまで負けてヤラれて、何度も負けて諦めて、目眩く快楽の世界へと誘われるバージョンもあるよ。ねえねえどんな気持ち? あの子と目眩く快楽の世界へと浸ってどんな気持ち? ねえねえ?」
「・・・」
「あの子が高校生の時のバージョンもあるけど、その世界でも目眩く快楽の世界へと誘われて浸るってどんな気持ち? ねえねえ、どんな気持ち?」
「アンタ目眩く快楽って言いたいだけだろ? 何だよ、目眩く快楽の世界って。と言うか俺ってそんなに負け続けてるの?」
どんだけ負けたら気が済むんだよその世界の俺?
えっ? そんなに弱いの俺?
異世界に召喚されなかったら俺ってそんなに弱いの? 最弱かよ俺。
「プークスクス。弱々だよ、ざーこざーこ。プークスクス」
くっ……。それ知ってるぞ。メスガキって言うんだろ? 但し本当にザコだから何も言い返せ無い訳だが。
だけど無数に分岐する世界の一つ。それこそ無限にある並行世界では、そんな世界ってのもあるのかも知れない。
だって世界は分岐し続けて無限と言えるだけあるなら、そんな世界があってもおかしくは無いもんな。
「今日言いたかったのはアナタが目眩く快楽の世界へと誘われ、浸る世界の事。じゃまたねー。プークスクス」
「いや、だからアンタ、目眩く快楽って言いたいだけだろ。あっ、消えやがった……」
くっそー、今日の話の本命はコレか。
何が目眩く快楽だよ、何が目眩く快楽の世界だよ。何が目眩く快楽へと誘われるだ? 何が目眩く快楽の世界へと浸るだよ。
アンタ目眩くって言いたかっただけだろ。
まぁ良いだろう、ついで話のそのオマケみたいに言われた倒産する話は、とてもとても有益なお話しであったしな。
それにしても……。
今の俺なら絶対負けないだろうけど、それでも気を付けておこう。
この世界の静はそんな奴では無いのを祈っておくか。
数多ある世界の出来事の一つ。
無限にある並行世界の、その一つの可能性でしか無いんだからな。うん、深く考えても仕方ない。
『でもアナタあの子と結ばれる世界線は多いよ。アナタあの子と結婚しちゃう世界が結構多いんだよ』
「もう! さっさと帰って下さいよ。と言うか声だけ送るのヤメて貰えます?」
『目眩く快楽。プークスクス。ざーこざーこ、よわよわ勇者~♪』
「アンタさっさと帰れよ。もう!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それがこの話の顛末だ。
俺が静を微妙に避けてるのは、何も奴がお下品だからってだけでは無い。
実際問題として実家を建て替えしたり、その他諸々あって帰っていないけど、何か少しだけ静に会うのが怖いってのもある。
そんな俺の話を聞いた金髪クソロリアレクシアさんが爆笑している。腹を抱えて笑うって、目の前のコイツみたいな状態を言うんだろうな。
「ヒーヒー。ダメじゃわらわ笑い死にする。め・く・る・め・く・か・い・ら・く! ハァハァハァハァ・・・。ブフォー、ハァハァハァ……。め・く・る・め・く……」
「・・・」
俺はちっとも笑えない。
しかし楽しそうだなコイツ。人の不幸が嬉しくって堪らないのかな? 良い性格してるよお前。
まぁ良いだろう、コイツのこの人間性を今更いちいち突っ込んでたら話が進まない。うん、コイツはこんな奴だ。
「あー笑った笑った。わらわ本当に笑い死にするかと思うたわ。ん? おい悠莉、スマホが光っておるぞ、電話掛かっておるのではないか?」
本当だ。あれ? 俺スマホをミュートにしてたっけか? ん~、ばあちゃんから? またか、さっき言い忘れた事でもあったのかな?
「もしも『兄ちゃ~ん』し……」
げえ! この声は静じゃないか。
何でばあちゃんのスマホからコイツが?
『兄ちゃーん久しぶり! 何で最近帰って来ないの? なぁなぁ、お盆は? お盆は帰って来ないの? ねえねえ?』
「おい、お前は何でばあちゃんのスマホから電話掛けて来てる?」
まさかコイツ勝手に電話を掛けて来たんじゃ無いだろうな?
『おばあちゃんにかけて貰った! 兄ちゃーん、お盆帰って来ないの~?』
「お掛けになった番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上……『兄ちゃん、そーゆーのは良いから』……」
流石にこれで騙されないか。どうしよう、どうにか有耶無耶にして誤魔化せないかな?
『兄ちゃん、お盆帰らないの? 正月は? ねえねえ兄ちゃーん』
「忙しいからまだ分からない。あー! 静、ダメだはらいたくなって来た。トイレ行くから切るぞ」
「う◯こ? ならしょうがないね。おばあちゃんにまた電話させて貰うねー、じゃあねー兄ちゃん」
これで誤魔化せるんかい。
これからはばあちゃんの電話は直ぐ出るのは控えよう。緊急ならメールなり、ロインなりで連絡してくるだろう。
「めくるめくかいらくからか? ブフォー! 想われておるのぅ~。ヒャッヒャッヒャ」
「・・・」
コイツ……。楽しんでやがるな……。
お仕置きとしてコイツのご飯は、ふりかけご飯にしてやろうか。どうしてくれようか。
「ざーこざーこ。め・く・る・め・く・か・い・ら・く」
「・・・」
クソ! 俺はちっとも笑えないよ。




