第35話 アレクシアのパゴダ傘
「なぁ悠莉、今日のお昼ご飯はなんじゃ?」
「暑くなって来たから冷やし中華にしようって昨日の夜に言っただろ? と言うか朝飯食ってる時にもう昼飯の話か? お前はボケたのか、おばあちゃん?」
「ボケとらんわい、誰がおばあちゃんじゃ。いやぁ~ 何かの、今日のお昼は、違う物が食べたいなぁって思っての」
「お前なぁ、突然のメニュー変更はやめろっていっつも! 言ってるだろ」
まただよ、またメニューの突然変更要求だよ。
何でコイツは何時もこうなんだ? 好き勝手、自由気ままに生きてて毎日楽しいんだろうなぁ。
お前は世の中のお母さん連中を敵に回す発言をしてるって自覚が無いみたいだが、飯のメニューの突然変更や思いつき変更は、食事を用意する者にとって七つの大罪の一つだぞ。
「ちょっ待て、妾なんかの、なんか今日は屋台の物が食べたくての、ホレ、今日は月一回ある神社の祭りがある日じゃろ? じゃから神社の屋台でお昼ご飯が食べたいなぁって、そう思ったんじゃよ」
あーそう言えば、今日は近くにある大きな神社の月次祭の日だな。確かに屋台飯にするには良い日ではある。しかしだからと言って、はい行きましょうと言っても良い物なのか? それを許せばまた飯のメニューの突然変更を言い出すぞ。
「ダメだ」
「はぁ? 何でじゃ?」
「飯のメニューの突然変更は許さないって言ってるよな? 今日それを許したらお前は、またメニュー変更を言い出すだろ? だからダメ」
「お前少し融通利かせろよ。妾は何時もメニューの変更をしろ等と言っておらぬぞ」
「お前どの口が言ってるんだ?」
何て事を抜かしてるんだコイツ。お前は割としょっちゅう、食事のメニュー変更を言ってると思うぞ。
特に麻婆豆腐の時に言い出す確率がかなり高い。
何故コイツは高確率で麻婆豆腐の時に、メニュー変更を言い出すのだろう? しかもコイツから麻婆豆腐が食べたいと言ってるにも関わらず、メニュー変更を言い出す。
融通を利かせろ? お前は融通を利かせ過ぎだよ。いや、融通って言うより自由奔放過ぎだ。
「なぁなぁ悠莉、エエではないか。冷やし中華の食材はある程度日持ちするんじゃし、明日でもエエではないか」
「朝っぱらからうるさいなぁ……。ダメだって言ってるだろ、諦めろ」
「なぁなぁ、屋台~」
「ダメだ。コーヒーに牛乳を入れるか……」
コーヒーにフレッシュも良いが、牛乳を少し入れて飲むのも美味いんだよなぁ。砂糖無しで牛乳だけってのも美味い。お代わりコーヒーは砂糖無しで、牛乳だけにしようかね。冷蔵庫に取りに……。ん?
「おいアレクシア、俺は諦めろと言ったはずだが? こっちに来るな、俺は牛乳を取りに行きたいんだ」
「なぁなぁ悠莉~、屋台~。お昼ご飯は屋台が~。屋台で食べたいんじゃ~」
「お前邪魔。道を塞ぐな」
ええーい、俺の進路を塞いで邪魔しやがって。お前はカバディでもしてるのか? 俺が動くたびに右に左に進路を邪魔しやがって。
「悠~莉~! 屋台~! 妾もう屋台飯の口になっておるんじゃ~! なぁ~」
「お前邪魔! あっコラ! すがり付くな、お前おい、コラ抱きつくな。あっ、おいバカやめろ」
コイツ……。何故に抱きつく? お前は身体が元に戻ったって自覚が無いのか? 胸が、胸が当たってるんだよ。くっ……、コイツごときの拘束を振りほどけない。ダサいジャージのくせ何てエロいんだよ。お前は改造ロリでは無く、今は大人バージョンなんだぞ。コイツ……。
だから胸を押し付けるな。当たってるんだよ、その胸部装甲が。お前は重装甲だって分かっていないのか? わざとやってんのかコイツ?
「悠~莉~~~。妾、お昼ご飯は屋台で食べたいんじゃ~。なぁ~、エエじゃろ? なぁ?」
「バカやめろ、離れろ。お前抱きつくな、駄々っ子かよお前は?」
グリグリとその凶器を押し付けるな。コイツこれでわざとじゃ無かったら、天然にも程がある。
いや待てよ、コイツは改造ロリの時もこんなだったな? とは言え、もうコイツは身体が元に戻ってるんだぞ。前のロリの時は無かった、凶悪な双頭兵器を装備してるって忘れてないか?
「嫌じゃ嫌じゃ、妾今日のお昼ご飯は神社の屋台で食べたいんじゃ。お前が良いと言うまで離さぬからな。悠莉~ 屋台~。屋台でお昼ご飯~」
「おい、お前本当に放せ、離れろ。顔が近い、いやマジで。おい! や、やめろぉ~!」
いかん、このままでは権力に屈してしまう。
「屋台屋台屋台屋台屋台~! 屋台でお昼ご飯! 屋台でお昼ご飯が食べたいんじゃ~」
「ちょっ……。お前当たってるから、胸が当たってるから」
「それがどうした? 妾そんな事なぞ一切気にせぬ。こんなモン幾らでも当ててやるわい。それよりも屋台で食べたいんじゃ~。神社~」
「お前コラ、正気に戻れ。目がグルグルと渦巻いてるじゃないか。アレクシアおい!」
コイツまただ。未来から来た青タヌキがネズミに出会って、地球破壊爆弾を取り出した時みたいになってるぞ。何でコイツはたまにこうなる? 何がコイツをこうさせてるんだ? 屋台で昼飯が食いたいって事でなんでこうなる?
それよりも問題はこのアンポンタン、今自分が押し付けてるモノがどれだけ凶悪な兵器かって一切自覚が無い事だ。
まさかコイツ、本当に身体が元に戻ったって自覚が無いのか? 前の改造ロリのままだって思っているんじゃないだろうな? 負けん、俺は負けんぞ!
「屋台屋台屋台屋台! 神社神社神社! なぁなぁ悠莉~。エエではないか、妾を連れて行けよ~」
「とりあえず離れろ。くそ! 俺は権力になぞ負けないぞ! 屈服してたまるか! 離れろこの……、ワガママを言うな、おい! は、な、れ、ろ! このクソ金髪! やめんか。と言うか落ち着け! そして離れろ」
「いやじゃ~。妾お前が行くと言うまで離れぬからな! 離れて欲しかったら行くと言え~」
コイツ今日は何時もに増してしつこいぞ。だが俺も負けん! コイツのワガママを聞いてたらキリがない。それに俺はコイツごときの権力に負けるかよ!
俺は権力者の横暴には、断固たる意志を持ち立ち向かう。俺は権力者の気まぐれで左右される様な事は、もう真っ平ごめんだ!
屈服してたまるかよ! こんな、こんな事ごときでくじけないからな。お前のおっぱいを押し付けられた位で負けるかよ!
~~~
「屋台♪ 屋台♪ 屋台でお昼ご飯じゃ~♪」
「・・・」
クソ! 屈服してしまった……。だが俺はコイツのしつこさに折れたのであって、決してコイツの権力に屈した訳じゃ無い。
そうだ、俺はあまりのしつこさに根負けしたのであって、決して、決してコイツの装甲に負けたんじゃ無いんだ。
「・・・」
クソ! 何て凶悪なモノを持ってやがるんだ。
正に悪の魔王、いや、大魔王だよ。
「おい悠莉よ、妾の胸をガン見するでない」
「してない……」
「本当かぁ~?」
最凶最悪の大魔王めが、けしからん、誠に持ってけしからん。ゴスロリなのにそのけしからんモノが分かるとは、コイツ本当はもしかして魅了魔法を所持してるんじゃないだろうな? それよりもだ。
「なぁアレクシア、お前は何でゴスロリ着てきたの?」
「はぁ? 何でもなにも好きじゃから着てきたんじゃが」
いや、似合ってるよ、似合ってるけど、普通の服装の方が良いのに……。この前一緒に愛愛に服を色々買いに行った時に買った、普通の服とかあるだろ。
それかジャージから最初に着替えた、あのスキニーデニムにレディスのピンクカットソーとか。うん、アレは良く似合っていた。アレと全く一緒の格好をしろとは言わないが、アレ系の服の方が俺は良いのに……。どうせ言っても聞きやしないから、ムダだから言わないけど。
「それよりアレクシア、竜を倒すゲームに出てくる、そのスライムみたいな日傘が微妙に邪魔なんだけど」
「スライムって……。悠莉よ、この日傘はパゴダ傘と言うのじゃ」
パゴダ傘ぁ? いやいや、どう見てもあのゲームに出てくるスライムだろ? 色もそれっぽいし。
ちょっと濃い色合いのスライム? にしか見えないんだけど?
コイツが今日着てるゴスロリは、黒基調に白いフリルが縁取られて、身体のラインにも白い物や何かがあって良く似合ってはいる。だけどそれだけに目立つんだよなぁ。
今も周りから注目を集めてるし、二度見する奴もいる。別に良いんだけどな。
「なぁ、日傘は右手で持てよ。左手に持たれると、微妙に邪魔なんだって」
「もう……。分かった、右手に持ち変えたらエエんじゃろ? うるさい奴じゃ……」
「日傘が微妙に頭ら辺に当たるんだよ。と言うか相合傘みたいになってるし」
多分コイツは日差しから俺を守ろうとしてやってたんじゃ無いだろうけど、結果的に相合傘っぽくなってる。周りから見たら仲の良い恋人同士だって思われてたんだろうな。
ちんちくりんの改造ロリの時は俺の腕に当たってたけど、今は背がほぼ同じ位になってるから微妙に相合傘みたいになるんだよなぁ……。
「相合傘ってお前は小学生か悠莉? そんな事でいちいち気にするで無い。別にエエじゃろうに」
「うるさいなぁ……。てかお前、微妙に近いんだよ」
この距離感も、他人に俺たちの関係を誤解される原因になってると思うぞ。コイツは全く気にしていないがな。
これはアレか? 俺が意識し過ぎなのだろうか?
だけどなぁ、コイツは元の姿に戻って色々と良い意味で変化してるし、見た目だけは良くなってるから多少は意識するだろ? ん?
「おいアレクシア、お前バッグが俺の腕にバシバシ当たってるんだけど。お前もうちょい離れろよ」
「仕方ないじゃろ、人が多いんじゃから」
確かに人が多いね。まだ神社の敷地内に入っていないのに人が多いと言うか、人通りが多いね。
コレ皆が神社に向かってるなら、かなり境内は混んでそうだ。嫌だなぁ混んでたら。
しかも年寄りが多い。平日で昼前の時間だからか若者が殆んど居ないし、俺たちはかなり目立つ。
うん、只でさえ目立つのに、コイツがゴスロリ姿だし、あのゲームのスライムみたいな日傘を差してるからさらに目立つ。
しかもコイツは見た目外人顔で、かなり整ってるから更に視線を集める原因になってるんだよなぁ。
「なぁお前聞いてる? 俺の腕とか手にお前のバッグがさっきから当たってるんだって」
「あーもう、うるさいのう……。ならこれで良かろう。これなら腕に当たらぬ」
「ちょっお前……。おいアレクシア」
「何じゃ? 当たらねばどうって事無かろう」
そうだな、バッグは腕に当たって無いね。
正確に言えば全く当たっていないと言う訳で無く、バシバシ当たってはいないね。多少当たってると言うか触れてると言うか……。
だが問題はソレじゃ無い。違うモノが当たってるんだよ、違うモノが。
まさかコレは伝説の当ててんのよってやつか?
「アレクシア、確かにバッグはバシバシ当たらなくなったけど、違うモノが当たってるんだよ。と言うか何で腕を組む?」
そう、バッグは当たらなくなったけど、代わりに違うモノが当たってる。
アレクシアさんのスライムさんが当たってるんですが……。わかっていますかアレクシアさん?
ねえ、アレクシアさんのパゴダ傘……。いや、スライムさんが当たってるんですが?
俺には到底このスライムを倒す事など出来ない。
何故ならスライムとて命ある生き物だからだ。
うん、今から神社に行くのに殺生はしたらダメだよね。
いけないよ、命を刈り取る何て。ボクは正義の勇者だ。スライムだって生きてるんだから。
いかん。俺はおかしくなってる。何が正義の勇者だよ? 殺生はダメ? 魔物は情け容赦なく刈るものだろう。何がスライムだって生きてるだよ。
「アレクシアおい」
「何なんじゃうるさいのう、お前はさっきから細かい事で騒ぐで無い。ホレ、早く行くぞ。妾お腹減った」
細かく無いだろ? と言うかコイツ元の姿に戻ってから、何かこの辺りがおかしくなっていないか? 俺に貞操とか純潔を散らされるとか警戒してる癖、反面緩いと言うか、気にしなさ過ぎだぞ。
コイツまさかあの神に、精神を弄くられていないだろうな? コイツこんなんだったか? 気のせいかスキンシップが激しいと言うか、緩くなってる気がするんだけど?
「お前少しは気にしろよ。と言うか人が多いから目立つだろ。それにしても、月次祭がある日とは言え混みすぎだろ? この参道? 門前町? ですら激混みじゃないか」
人が多過ぎて歩きにくいったらありゃしない。
そのせいかコイツも俺との密着具合が更に深まってる。
これはもしかしてアレか? 俺の利き腕を取って戦闘を有利にするつもりか? バカめ! 俺は右が利き手だが、左手もほぼ同じ位に使える。
戦闘時に片手が使えない状況を考えれば、両手が同じ位に使える様にするなぞ基本中の基本。
利き手をお前に奪われ様と、俺は負けんからな。あっ、利き手がスライムさんの側面に……。
くっ! 埋まる。俺の腕が沈んで……。
「悠莉よ、ここは門前町では無く、鳥居前町と言うんじゃ。正面じゃし表参道でもエエかな?」
相変わらず無駄知識を……。どうせネットで仕入れた知識だろうが、何でコイツは俺より日本の事に詳しいんだ?
「しかし人が多いのう。ほおずき市があるからと、人が来すぎじゃ」
「えっ? 今日ほおずき市があるの?」
「らしいのう。昨日と今日がほおずき市じゃな」
「神社の月次祭とほおずき市が被ってんのかよ。そら混むに決まってるだろ。と言うか何で平日にやるんだよ」
月次祭の日は只でさえ混むのに、ほおずき市もやってるなら更に混むに決まってる。ええ~、嫌だなぁ人波に揉まれるの。
とは言えここまで来て帰りましょう何て言えないしなぁ……。そんな事を言ったらコイツはゴネる。間違いなく大ゴネして荒ぶるだろう。
「ほおずきを買って何の意味があるんじゃろうな? 御利益があるらしいが、買って帰っても邪魔なだけじゃと思うんじゃがなぁ」
お前のそのスライムの方がよっぽど邪魔だよ。
「まぁエエわい、早く行こう妾お腹減った」
「コラ、腕を組んだまま引っ張るな。おいアレクシア、アレクシアって」
「ホレホレ、早く行くぞ悠莉」
ダメだ、またコイツに抗えない。俺は何時からこんなにも弱体化したんだ?
コイツまさか、弱体化させる能力を身に付けたんじゃないだろうな? あっ! 力が抜けていく。
アレクシアさんのパゴダ傘に力を吸われていく。
「何を食べようかの♪」
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