第30話 もしも願いが叶うなら
「・・・」
魔王君、キミそこで立ち止まり、いや、しゃがみ込んでるけど、何も言わずそんな事するの止めてくれないかな?
気配で分かるけど、それでも一応声を掛けて行動する様に言ってるよね?
お菓子コーナーを通ったのは失敗だったかな?
後で買ってやるのに何で今そんな事をするんだろうか。アレってきのこの森とたけのこの村か?
それとも横にあるグミでも見てるのかな?
「おいアレクシア、お前そんな所でしゃがみ込むなよ。お菓子なら後で買ってやるから」
「ん? うん……。何かきのことたけのこのがな、新しいのが出ておるんじゃ」
「ヨーグルト味~? 何それ、美味しく無さそう」
「じゃがパッケージは美味しそうじゃぞ」
「酸味の効いたヨーグルト味チョコ? これ系って当たり外れが激しいんだよなぁ。基本的に美味しく無いのが多いんだよ。もしかして欲しいの?」
「ん~ 一回食べてみたい」
言うと思ったよ、別に良いけど。
だけど味は期待は出来ないな、ヨーグルト味は本当に当たり外れが激しい。たまにある当たりは大当たりの場合が多いが、その当たり自体が非常に少ない。
多分コイツもがっかりするんだろうな。
「おい、何で普通のきのこの森と、たけのこの村をカゴに入れてるんだ?」
「ダメかの?」
「たけのこは良い。だけどきのこはダメと言うより嫌だ」
理由? そんなのいまいち美味しく無いからだよ。
何でだろうな? ポッ○ー はあんなに美味しいのに、何できのこの森はいまいちなんだろ?
似た様なお菓子なのにな。もしかして大きさの違いによる食感の違いが、味の違いになってるのかな?
きのこに比べ、たけのこの村は美味しい。うん、あれは最強最高にうまい。たけのここそお菓子四天王の一角だね。
「何でじゃ? きのこも美味しいじゃろ」
「チッ……。この異端者が! この邪教徒めが!」
「何でじゃ? なぁ? 何できのこが美味しいと思うとそうなる? どっちも美味しいではないか」
「やかましいわこの背教者が! 何回も言ってるだろ? きのこはいまいちなんだよ。それとカゴに入れすぎ、お前はどれだけ入れたら気が済むんだ? 棚にあるやつ根こそぎ入れやがって」
自分で食う分にしても多すぎだろ。どんだけ買うんだよ? 二つか三つは渡して、残りはアイテムボックスに入れたら良いだけの話だけど、それをやったらコイツはゴネるんだよなぁ……。
異世界に飛ばされた時用のストックって言ってもゴネるし、かと言ってあればあるだけ食う奴だし、本当に面倒臭い奴だよ。
「そ、そんなに入れておらぬではないか。棚の一番上にある予備のまっさらのやつには手を付けておらぬぞ」
「それはお前の手が届かないだけだろ? それとな、今日は安売りしてないからそんなに買いません。安売りの時に買ってやるから今日は一つづつにしとけ」
「えー! 一つずつ? 少なくないか?」
「十分だよ」
本当に子供よりタチが悪い奴だな。あればあるだけ欲しがるし、俺が言わなきゃ夕飯が食えなくなる程お菓子を食いまくる。子供の方がまだ聞き分けが良い。
「勇者のケチ……」
ん? コイツ今何て言った?
外で勇者って言いやがったな?
小さな声だが言ったな? ボソッとだが勇者って言ったよな?
「アレクシア、お前家に帰るまで今日はもう喋るな。口を開くの禁止な」
「はぁ? 何でじゃ?」
『お前今自分で言った事を分かって無いみたいだな?』
耳元で囁いてやるとビクッとしやがった。このあんぽんたん、本当に分かって無いみたいだ。だからこそタチが悪い。
「えっ? 何で向こうの言葉で?……」
『声が大きい。お前今、俺の事を勇者って言っただろ? 分かっていないみたいだがな。俺がわざわざお前の耳元で、小声で喋ってる意味を理解しろ。とりあえず今から家に帰るまで口を開くの禁止な。分かったか?』
「・・・」
良い子だな、喋らず頷くだけにしたか。これが声を出して喋ってたら落第だが、今のは合格だ。
さて…… お家に帰ってから反省会だな。
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「荷物は俺のアイテムボックスに一旦入れておく。荷解きは後でやる。おいアレクシア座れ」
「・・・」
コイツの顔が若干青いのは、俺の気のせいでは無いだろうな。俺が本気だって分かってるか。
この辺りは流石だよ、この手の空気読み合いや、状況判断が出来ない奴は、命のやり取りの最中にとんでもない失敗をする。そして失敗=死だからな。
伊達に生き残る事に成功してはいないってトコか。
「なぁアレクシア、俺は外で勇者って言うなって言ったよな?」
「・・・」
「だんまりか? まぁ良い。お前コレ何度目だ? 何回も何回も同じ過ちを繰り返しやがって。お前気ぃ抜き過ぎだぞ。本当に、本当~にお前は何時か外で魔法使う。それも人目がある場所で、大勢の人の目がある場所で使って、えらい事になるぞ。なぁ? もし外で魔法を使ったら大変な事になるが、お前分かってる?」
「分かっておる……」
それでもやるのがコイツだが、魔法なんて外で、それも人目がある場所で使ってしまったら、どうなるか……。
下手すりゃ国が、俺達の事を確保しようと動くかも知れない。
それでもまだ日本がやるなら待遇にも期待出来る。
だけど他の国なら? 同盟国のあの国ですら俺達を確保したらどんな待遇になるか分からん。
ましてやあの国やあの国とお友達の国ならどうなるか……。まともな扱いは期待出来ないな。
そうなれば俺も全力で抗う。だが抗った先は?
最悪その国で暴れ回れば何とかなるだろう。しかしその後が問題だ。間違いなくお尋ね者になる。
うん、そうなったらささやかな日常なんて物は無くなる。そんなの嫌だね、金も腐る程持ってるのに、何の不自由無く暮らせてるのに、そうなったら目も当てられない。
多分あの国やお友達の国を魔法を使い、原始時代に戻すまで暴れちゃうね。
出来ればそんな事はしたくない。俺は静かに面白おかしく暮らしたい。金があるのに今更あんな殺し合いなんてしたくも無いね。
「なぁアレクシア、俺は恥ずかしいからってだけで、外で勇者って言うなって言ってる訳じゃないんだぞ? そんな事も気にしない、出来ないと何時か気が抜けてやらかすと思って言ってるんだからな」
「・・・」
勇者って外で言ってると、コイツはあの世界と混同し、ついうっかり魔法を使いかねない。
失敗したな、なぁなぁで家と外で分けて考えてたけど、常に意識させなきゃいけなかったんだ。
その意味では俺の失敗でもある。最初から家だろうが外だろうが、お互い名前で呼び合うべきだった。
今更かも知れないけど、改めてよう。間違いが起きない様に今からでも改めて行こう。
「なぁ、間違いが起きない様に、これからお互い家でも名前で呼び合うぞ。外や家関係なく名前呼びな。俺もお前を魔王とは言わない。お前も俺を勇者と呼ぶな」
「分かった……。スマン…… つい気を抜いておったわ。じゃが外で魔法は使わぬぞ。もしバレてしもうたらもうゲームも出来ぬし、アニメも観れぬ様になるかも知れんのじゃろ? それは嫌じゃ」
ゲームやアニメを引き合いに出している以上信じても良さそうだが、それでもコイツだからなぁ。
ついうっかりでやらかしそうなのがまた……。
だけどもし俺達が異世界帰還者と異世界人、それも魔法を使える事がバレた場合の話も散々コイツとはして来たから、だから分かってはいるんだよなぁ。
ただコイツはうっかりさんの、ポンコツだから、だから何時かやらかしそうって不安は消えない。
これからもその辺りは言い続けるしかないか。
コイツも鬱陶しいだろうが、バレた際のリスクと面倒さ、そして今の自由な生活が出来ない事を考えれば納得はすると思う。
「アレクシア、俺はもう嫌だぞ。あの世界で散々やった殺し合いも、命のやり取りもな。考えたく無いね、国を滅ぼし、お尋ね者になる何てな。俺達の隠してる事がバレたらそうなりかねん。最悪の状況、未来、行動は常に意識して生きて行かないとな」
「分かっておる、わらわもこれからお前を常に名前で呼ぶ。それと外では魔法は使わぬ。今の暮らしを失いたく無いからの」
頼むぞ本当。しかしもしバレてそうなったら、コイツは力が制限されてるから俺がやらないといけないんだよな? しかもコイツを守りながらだ。そうなればかなりしんどいぞ。
「もう一層の事、家でも魔法は使わない様にするか?」
「ちょっと待て、それは流石にどうなんじゃ? 家の掃除が追い付かんのでは無いか?」
「月一入れてる業者を月二回にする。基本的にそれ以外の場所は毎日掃除してるけど、俺の部屋とお前の部屋、それと何時も使ってる風呂場とトイレ、それとこのリビングとここのリビングにあるキッチンだけだから。それ位なら魔法無しでも何とかなる。面倒だけどな」
風呂場は毎日しなくても良い。何日かおきでも大丈夫だろう。それ以外も今使ってる部屋位なら出来ない事もない。面倒が増えるが仕方ない。
「ちょっと待ってくれ、わらわ絶対、絶ーー対! 外で魔法は使わぬから、家でも魔法を使わないと言うのは待ってくれ」
「何でだ? お前掃除していないんだから別に問題無いだろ?」
「クリーンが使えぬと言うのはちと問題が……」
「・・・」
出たよ出たよ、コイツのズボラが出たよ。
コイツは今、生活魔法しか使えないんだから基本的に魔法禁止でも全く問題が無いはずなんだが?
それでも外でこのズボラ女は魔法を使いかねないって思って、それでくどい位に毎回言い聞かせてるんだけど? クリーンが使えないと問題?
お風呂にちゃんと入れと言いたい。クリーンで済まそうとするコイツに問題があると思うんだが、俺が悪いのか?
コイツは生活魔法しか使えない。それならバレる可能性は無いと普通なら思うだろう。
ましてや魔法を使う時に身体が光る訳でも無い。
魔法自体が光ったりする訳でも無い。
だが水やお湯、そして氷なんかをコイツは出す事が出来る。
それもチョロチョロとか可愛らしい物で無く、ドッパーと、出せる。そして氷も数メーター四方の物を出せる。
一メーター四方の氷なら一瞬で出す事が出来るが、そんな物が出て来たらどう考えても誤魔化しが利かない。
手品です。うん、そんな誤魔化しが通用するとは思えない。ましてやコイツは見た目は美少女で、外人顔だから凄く目立つ。
そんな奴がそんな事をしたら、間違いなくネットで噂になるだろう。
多分人が見たらドッキリかと思うだろうが、はいそうですねって、そんな都合の良い事を、そう思える程俺はおめでたい頭はしていない。
もしその場面をネットに上げられたりした日には、間違いなく本物だってバレるだろう。
都合良く、手品だとかドッキリだとか思ってくれたら良いが、検証する奴ってのは必ず居る。
検証されたらアウトだ、もうこの成金生活は出来ない。うん、そんなのは嫌だ、ああ嫌だね。
「お前なぁ…… 風呂位毎日入れよ。魔法でどうにかしようと思うなよ」
「確かに入ったら気持ちエエぞ、じゃが風呂に入るよりクリーンを掛けた方が綺麗になるではないか」
「いやまぁそうだけど、そうなんだけど、風呂に入ったら良いだけだろ?」
「わらわ毎日入っておるではないか。ただたまーにクリーンを掛けて時間短縮したい日もあるじゃろ?」
何が時間短縮だ? 毎日風呂に入ってるだと?
それは俺が風呂に入れって口煩く言ってるからだろうが? 言わないとクリーンで済まそうとするくせ。
大体コイツが時間短縮したいのは、ゲームする時間を少しでも確保する為だろ? もしくはアニメ観たりテレビ観たり漫画を読む為じゃないか。
あー、後風呂上がりに乾燥魔法を掛けて、時間短縮したいってのもあるか。理由はゲーム、アニメ、漫画、テレビ、それらの時間確保ってのもあったな。
もうヤダこのズボラ女。確かにコイツは魔法のある世界の奴だよ、だけどあの世界よりこっちは文明が遥かに進んでるんだぞ。
むしろ魔法無しでも、こっちの世界の方が生活は遥かにしやすいだろうが。一部向こうの世界が勝ってる部分はあるけど、それは魔法を使ってって但し書きが付くけど、その分こっちは文明の利器があるじゃないか……。
髪だってドライヤーを使えば直ぐ乾く。確かに魔法なら一瞬で乾くよ、だけど家にあるドライヤーだってそんなに時間が掛からず乾かす事が出来るじゃないか。
高かったんだぞあのドライヤー。十万越えのアホみたいな値段だったけど、それだけに性能はとても良い。髪だってあれを使えば信じられない位美しい仕上がりになる。何が不満なんだ?
時間か? 時間の短縮か? そして短縮した時間を使って欲望の赴くまま生きたいのか? そうなのか?
「お前なぁ……。あのな、家でも魔法を使わない様にしようが、今まで通り使っても良いにしても、俺はお前に風呂に入れって今まで通り言うぞ。基本的に家で使う魔法は俺も生活魔法だけだし、それだって使わなかったとしても自分で出来る事だからな。家で使うのってクリーンかお湯を出すだけだし、水道があれば何の問題も無いし」
確かにクリーンがあれば色々便利であるのは否定しない。ほぼ百度の熱湯や、ほぼ零度の冷水を一瞬で出せるのも便利だ。だけど水道があれば魔法が無くとも問題無いのも事実。
汚れたら洗えば良い。水やお湯が出したかったら水道から出て来る。
キンキンに冷えた冷水が欲しければ、冷蔵庫から氷を出せば事足りる。
沸騰したお湯が欲しければ、キッチンで沸かせば良い。
家の水道は蛇口を捻れば四十度の熱湯が出るし、それを沸かせばそんなに手間では無い。
正に文明の利器万歳だよ。魔法は便利だけど無くっても普通に生活出来るんだから、魔法を使わなくとも問題は無いと俺は思うが、俺はおかしい事を言ってるだろうか?
その事をコイツに分かりやすく、諭す様に伝えた。
「いやまぁそうじゃけど……」
「お前は結局あれだろ? 楽したいからだろ?」
「・・・」
「図星か……。お前な、本当に何時か外で魔法使いそうなんだよ。もしその時、スマホなり何なりで動画撮られたらどうする? ましてや拡散されたら本当にシャレにならないぞ」
「分かっておる……。じゃがわらわまだ外で一度も魔法を使っておらぬぞ」
「まだな、お前は今生活魔法しか使えないけど、それだってバレたらシャレにならないんだからな。どっち道魔法を全面禁止にしようがしまいが、俺は家から出る時に今まで通りお前に言い続けるけど」
俺だってこんな事を毎回毎回言いたくは無い。
だけどコイツはついうっかりとか、無意識でやらかす不安が常にあるもんなぁ。
それにコイツに言いながら、俺も自分に言い聞かせてる部分もある。
俺だってついうっかりとか、無意識でやらないとは言いきれない。なら仕事場での朝の朝礼みたいに毎日毎日、毎回毎回繰り返し言い続けるって大事な事でもある。
「くっ……、わらわどれだけ信用が無いんじゃ」
「・・・」
俺だってお前の事を信用したいよ。本当に本当に心からそう思う。そうであれば俺もどれだけ毎日楽な事か……。
「アレクシアお前、神に改造されてロリになったからって、精神が肉体に引っ張られ過ぎじゃないか? お前は確かに元からこんなだったけど、今よりマシだったと思うのは俺の気のせいか?」
「わらわは何も変わっておらぬぞ。身体は変わったが、それ以外は変わっておらぬはずじゃ」
「・・・」
それってもっとダメなやつじゃないか。
このポンコツ…… 自分で言ってて情けなくならないのか? ならないんだろうなぁ……。
「ハァ……。それならこんなちんちくりんより、元の姿のお前の方が遥かにマシだ。何故なら見た目だけは、大事な事だからもう一回言うが、見た目だけは良かったもんな。同じ中身なら元の姿のお前の方が良い」
「わらわとて、わらわとて戻れるなら戻りたいわ! じゃが仕方ないではないか。文句ならあの神に言え」
「神に文句は無いが、中身が一緒なら元の姿のお前の方が良い。見た目だけは良かったもんな、見た目だけは」
「くっ……。見た目だけとか言うな。貶されておるがそれ以上に褒められて、わらわの女心が……。わらわとて戻れるなら戻りたいわ」
『その願い叶えてしんぜよう』
「「ん?」」
アレ? あれあれあれ~? 気のせいかな、最近聞いたセリフの様な気がするんですけど……。
ちょっと待てちょっと待て。あの神の声かよ?
とても嫌な予感しかしないんだけど、気のせいかな?
「おい、今あの神の声が聞こえたよな? わらわの気のせいか?」
「いや、気のせいじゃないな…… 俺も聞こえた。おいおいマジか? あっ! お前身体が光ってる」
「おい! この光は……。おい、あっちを向いておれ! 早く、早くするのじゃ、わらわを見るなぁ~~。早く! 向こうを向いておれ、絶対こっちを見るで無いぞ」
あの光って、コイツがこっちに来た時に見た光だよな? そしてあの神の声。うん、絶対ややこしい事をあの神はしたよな?
ああ……。また、また余計なトラブルを……。
「おい、フリとかでは無く! 絶対こっちを見るで無いぞ。またじゃ、またコレかぁ~」
それだけで分かったよ。と言うかさっきまで着てた服が視界の端に見えてる。しかもきっちり畳んでだ。
またか? またなのか? 何でこんな事を……。
面白そうって理由だろうけど、又か?
明日も投稿します。




