第3話 ポンコツ魔王は最弱探検家に苦しむ②
「買って来たゲームはコレだ!」
「えっ、ファ●コン? こんなの良くあったなぁ、へえ…… こんな何だな。一応ネットで見た事あるけど、へえ……」
うーん、ネットを使いこなす魔王。本当、この世界に馴染んでるよなぁ。
興味深そうにマジマジと見て居るが、本命はハード本体じゃない。本命ははソフトなのだよ魔王君。
ゲーム界最弱キャラの名が伊達では無いと言う事が、嫌と言う程分かる事になるだろう。
くっくっく…… 楽しくなってきた。魔王よ、ゲーム界最弱の洗礼を受けると良い。
まずはゲームをセットしてから飯だな。じゃないとコイツは、子供みたいに催促して来るだろうから、さっさとやってしまおう。
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「なぁなぁ勇者、まだ?」
「ん、もうちょい…… よし、後はテレビに接続するだけだ。そんでカセット差し込んで電源入れて完了。ん? 微妙に接続悪いのかな? こんな時は……」
カセットの差し込み口をフーフーするんだったな?
「なぁ勇者、何してんだ?」
「接続が悪い時はこうやって、カセットの差し込み口をフーフーしたら点くらしいんだ。おっ、いけたいけた」
「えっ? うそじゃろ? 何でそんなんで点くのじゃ?」
「なぁ、不思議だよな。俺も半信半疑だったけど、本当に点いたよ。ビックリだな、昔のゲームってスゲーな」
「凄いと言うか不思議なんじゃが……」
よくネタでコレは、上手く電源が入らない時はカセットの差し込み口をフーフーするってあるけど、自分でやると感慨深い物があるな。実際に経験してみると、結構感動だよ。
「なぁ勇者、もう出来るんじゃろ? して良い?」
「良いぞ。もう取説は読み終わったのか?」
「うん、操作方法はバッチリじゃな」
コイツって取り扱い説明書はちゃんと読むタイプなんだよなぁ。とは言えこのゲームは取説を読んだ位で簡単に出来る程甘くは無い。
ネットの評判によるとゲーム界キャラ、最弱四天王の一人の名は伊達では無いらしいからな。とは言え……
「楽しみじゃなぁ。しかしこんなレトロゲームが出来るとはな、わらわワクワクする。始めるこの瞬間が一番楽しいんじゃ」
「・・・」
何か思ったより嬉しそうだが、やり始めたらそのワクワク感がイライラに変わるんだろうな。
と言うか魔王の奴、俺が思ってたよりも、もの凄く喜んでるけど、最初の想定とはちょっと違うが、なんだろ? 微妙に罪悪感があるんだが……
「勇者、ありがとうな。わらわ嬉しい」
「うん、お前が喜んでくれて、よ 良かったよ」
軽いイタズラ心と言うか、ちょとしたお仕置き心と言うか、それなのに嬉しそうに、幸せそうにニコニコ笑われたら何か俺、物凄く悪い事してるみたいな気がして来たぞ。
当初の目的は魔王を懲らしめる為に買って来たのに、何か趣旨が変わってる様な気が。
いかんいかん、当初の目的を忘れるな。そうだ、魔王よ、最弱探検家の洗礼を受けると良い。
クックック…… ん? 何か俺の方が魔王っぽいのは気のせいだろうか? うーん、微妙に俺の方が悪っぽい。
「おー! 音楽が何かおどろおどろしいな。おっ、スタートしたら軽快な音楽に変わったぞ。ドット絵と言うのがレトロじゃのう、良いではないか、良いではないか。しかしこのコントローラー何か持ちにくいな、昔はこんなのでやっておったんじゃな。うーん、キャラの動きがぎこちない。操作性が悪くは無いが、微調整が難しいかな?」
魔王の奴、文句言いつつも楽しそうだな、実際楽しいんだろうけど、その楽しさが何時まで続くんだろうな。
「あー! 早速死んでしまったぞ。えっ? 膝位の位置から落ちた位で死ぬのか? えっ?」
ありゃりゃ、早速洗礼を受けたか。しかしネット情報まんまだな、弱すぎるだろ探検家のくせに。
こんなんで大洞窟の探検って結構無茶な事してるよなぁ。命知らずと言うか、無謀と言うか、自信過剰と言うか何と言うか……
「えっ? 体力切れで死んだぞ。えっ、えっ? 体力無さ過ぎじゃないかコイツ」
ついでに虚弱体質でもあると。何で探検家なんてしてるんだろ? 本当、不思議だ。
「ちょっ、ビーム出過ぎじゃ、ボタン離したのに何でまだ出るんだ? ボタン離したら直ぐ途切れろよ。タイムラグがあるぞ、この銃って欠陥品か?」
うん、微妙にタイムラグがあるね。ボタン離しても少しだけ出続けるな。昔のゲームだからその辺り結構緩いのかな? うーん、この探検家は物の良し悪しを見抜く事や、見る目が無いも追加だな。
「何でオバケの残骸に当たったら死ぬんだ? あんなの欠片じゃないか、何でなんだ?」
生前の恨み? それか怨念が強かったのかな?
あんな残骸みたいのでも簡単にキャラが死ぬって事は、生前にあった出来事が深く深く心に刻まれて、怨みが相手を即死させる程に凄まじい事があったんだろうな。
「おい! う●こに当たって死ぬって何なんだ? 流石におかしいだろ」
とは言えゲームではあるあるだと思うぞ魔王よ。
言いたい事は分かるがな。普通は体力ゲージが減るってのが多いし、最近のは即死はあまり無いから珍しいと言えば珍しいな。
しかしこのステーキ弁当は美味いなぁ。二万八千円するだけはあるわ。
サーロインに、ヒレに、イチボに、ミスジにタン元がそれぞれ百グラムづつ入っているが、これだけ入ってて二万八千円は安いな。
米も無茶苦茶美味いし、付け合わせも全部美味い。それに何と言ってもステーキソースが良い。肉に合う事、合う事。
うーん、肉が美味すぎだよ、米にも合うし、何よりビールが美味い。
冷めててもこれだけ美味いんだ、温かったら更に美味いんだろな。
難点は箱が大き過ぎなところか。まぁ肉がこれだけ入っていれば仕方ないとは言え、デカ過ぎる。それだけボリュームがあるって事ではあるが。
「はぁ? 足首位の高さから落ちて死んだぞ? えっ、ウソだろ…… えっ、わらわの見間違いか?」
残念ながら見間違いでは無いんだなぁ。うーん、都市伝説かと思ってたけど、本当に足首位の高さから落ちても死ぬんだな、ビックリだよ。
魔王の奴め荒ぶってるなぁ…… あっ、出っ張りに引っ掛かって跳ね返されて穴に落ちた…… うわ~ 嫌らしい位置に出っ張りがあるなぁ。正にトラップ、ブービートラップ? いや、デストラップだ。完全に殺しに掛かってるよ。
「ムキー、何なのじゃ! 操作性が悪過ぎるではないか」
いやいや、アンタさっき操作性は悪くないって言ってたよね? あまりにも死に過ぎて、冷静さをもう失っちゃったのかな?
「おい! これだけ離れておるのに、何で爆発に捲き込まれておるのだ? 威力あり過ぎであろう」
こんな所だけ妙にリアルだよな。リアルな爆弾の爆発範囲として考えると正しいんだろうけど、ゲームとして考えるとおかしいし、間違ってる。
それか探検家が虚弱体質だから、あの爆発範囲による死は、ある意味間違っては無いのかな?
おっ! 付け合わせのピクルス美味いなぁ。漬物も美味かったがこのピクルスも美味い。
前に買った時は入って無かったよな? 何か減った訳でも無いし、追加で入れたのかな?
「あー! 又体力切れで死んだ。クゥ~…… 何なのじゃ、何なのじゃ~~~!」
ヤバイな…… 今日ビール飲み過ぎかな? でもなぁ、肉が美味すぎてビールが止まらないんだよな。
「もう、もう、もう」
そう言えば最近じいちゃんばあちゃんに肉送って無かったな? 最後に送ったのは二ヶ月前だったっけか?
あの時は確かてっさとてっちりセットも送ったっけ? そろそろ又送るか。おっと! 季節的にそうめんもそろそろ送らないといけないな。
二人共そうめんは年間通して食べるけど、暑くなって来たら消費量が増えるから、早めに送っとくか。
「もう! 何なのだ…… 赤いビン、これ必要か? 歩くの早くなるし、ジャンプ力上がるけど、操作性が異常に悪くなるではないか。コレお助けアイテムなのか? 寧ろデバフアイテムではないのか? あー! ふざけるな! 飛び過ぎて死んだではないか…… え~、赤いビン取ったら、出っ張りに引っ掛かった時のジャンプ力も上がるのか? 飛び過ぎて穴に落ちてしまったではないか……」
歩くスピードや、ジャンプ力も上がって、出っ張りの跳ね返しの相乗効果でってやつかな?
「もうわらわ赤いビンは取らん!」
じいちゃんばあちゃんに送るそうめんは、箱入りの十八キロ入りで良いとして、肉はどうしよう?
最近肉の脂があんまり美味しいと感じなくなって、どちらかと言うときつくなって来たって二人共言ってたから、ヒレを多めに送る様にした方が良いか。
それにしてもそうめん十八キロ入りって、三百六十把入りなのに、一年で年寄り二人で食いきるって凄いよなぁ。
そんでも最近食が細くなって来てるから、来年辺り九キロ入りにしても良いかも知れないな。二人共もう年だから、色々と気おつけておかないといけない。
俺にとってはたった二人の肉親だし、育ての親でもあるんだから。
「こんの弱々探検家め! そんな弱くて探検家を名乗るでない! 何なのだコイツは……」
うーん…… 魔王の奴、想定以上に苦しんでるなぁ。それに思っていた以上にはまってる。いや、はまり過ぎと言っても良い。
操作性が悪いだの、キャラが弱すぎだの、ゲームに文句を言いつつも止め様とはしないと言う事は、面白いと思って居るんだろう。
「あーっ、あっ、あっ、体力が無くなる…… 回復アイテムどこ~? どこなのじゃ~」
一週目なんだから、出てくるアイテムや敵はほぼ同じ場所にしか出ないって教えた方が良いんだろうか?
でもなぁ…… 魔王の奴はネットで攻略方法とか調べない奴だしなぁ。
それにその様な事は、ネタバレだって言って蛇蝎の如く嫌う奴だから、言ったら怒るだろうし、言わない方が良いか。
とは言えこのままでは先に進めないんじゃないか? 未だにスタート地点ちょい過ぎ位の位置だし、まだまだ先は長いんだが……
「おい! これだけ離れても爆発に捲き込まれるのか? と言うかさっきはこの位置なら大丈夫だったはずじゃぞ! もう! 基準が分からん」
見飽きないなぁ、魔王がプレイしてる姿が無茶苦茶面白いんだけど。コレ動画投稿サイトに投稿したらかなりの閲覧数を稼ぐんじゃないかな?
さっきからウッキーだの、ムッキーだのお猿さんみたいな奇声をあげてるが、魔王の奴め思った通りの反応をしてくれて俺は嬉しいよ。
僅かに合った罪悪感みたいなのが消し飛んでしまったわ。うーん、良いね~ 魔王。
「何じゃこのクソゲーは! 罠の配置に悪意あり過ぎじゃろ、何て性格の悪い配置じゃ。クソゲーじゃ、クソゲー」
うん、そのわりに一向に止め様とはしてないね。何やかんやで楽しんでるよな? もしかしてツンデレかな?
しかしさっきから魔王の奴、デカイ声で喚いてるな。我が家は防音がバッチリと言うか、完璧だから騒音に関しては問題無いが、魔王の奴あんだけ叫んで喉乾かないのか? それすら分からない位に集中してるかのかな?
「あっ…… リフトから落ちてしもうた…… 単純ミスしてしもうた……」
イライラして操作ミスしたか。イライラしながらゲームしてたらたまにある事だけど、その事により更にイラついて操作ミスし、悪循環に陥っちゃうんだよなぁ。
「ゥキ~! 又単純ミスしたではないか! 何なのだ、何なのだ~」
いや、一旦落ち着けよ魔王。頭冷やさないとその負の連鎖は続くと思うぞ。
「フー、フー、フー、この弱々探検家めが…… この…… この…… この……」
うん、その弱々探検家を操作してるのって魔王な訳なんだが、言ったら怒りそうだからそっとしておこう。それにその方が面白いし。
しかし良い酒のツマミだよ。これだけ長い時間見てても全く飽きないな。いや~ 買ってきて本当に良かったよ。
「くっ…… こやつめが、又……」
うーん、魔王の奴も楽しそうで何よりだ。そんな魔王を見て居る俺も幸せ気分のまま寝ようかな。
「おーい魔王、俺はそろそろ寝るぞ」
「・・・」
こいつ聞いちゃ居ねーってやつか?
「おい魔王聞いてる?」
「ん? ああ…… 寝るんだな、おやすみ」
「うん、お前もあんま遅くまで起きてるなよ。程々にな。それとステーキ弁当置いておくから、腹減ったら食ってさっさと寝ろよ」
「うん……」
しかしこんなに嵌まるとはな。集中力が凄いと言うか何と言うか…… 魔王の奴、目が若干イッちゃってるのは俺の気のせいでは無いな。
「あーもう! ガスにやられた! ここのこれビョンビョンするだけの出っ張りじゃ無いのか? 何て嫌な配置なのじゃ」
このゲームってちょっとした不注意ですぐ死ぬんだよなぁ。まぁ良いや、寝よ。
20時にも投稿します。