第24話 この旗の下に
「お前なぁ、俺が何回も声を掛けてたのに全く気付かないで、どんだけコレに集中してたんだよ? それとお前小さな声だったけど、結構ブツブツ独り言言ってたぞ。知らない奴がお前を見たら、結構怖いと言うか、危ない奴に見えてるからな」
「えっ? わらわ声を出しておったか?」
「出てたよ。それとムッキーとか、くぅ~とか色々奇声を発してたぞ。小さな声だけど、言ってたからな。それと目が血走ってて怖い」
この顔は全く自覚して無かったな。何か負のオーラらしき物も出てた気がするし、顔が真剣なのは別に良いけど、目がイッちゃってヤバい人に見えたが、分かって無かったんだな。
「だってだって、この台が、この台が……」
「だっても何も事実だからなぁ。しかし懐かしいな、この台まだあったんだ? アレクシア、何回ゴールした?」
「まだ一回もゴールしてない……」
あー この台って何気に難易度高いもんな。それにしてもコイツ、そんな負のオーラが滲み出るほど失敗してるのかな?
「どの位したんだ?」
「分からん、数えていない」
「三十分位かな? 他は何かやったの?」
「・・・まだコレしかしておらぬ……」
はぁ? コレしかしてない? えっ? 開店からずーっとコレだけやってたのか? どんだけハマってたんだ? 多分ムキになっちゃったんだろうな。
コイツは気に入ったらやり込むタイプの奴だが、上手く出来ないとムキになる奴でもある。多分ゴールするまでって思っちゃったってとこか?
「お前凄いなぁ、幾ら使ったんだ?」
「二千円ちょい? 結構使っておるな……」
て事は二百回以上したって事か、良くそこまで飽きずに出来るな、ある意味凄いなコイツ。
「コレちょっとしたコツがあるんだ。まず二段目か三段目まではレーンを上げ下げするハンドルを一番下に固定してても入る。問題はその先だけ『どうやる? レーンの固定は分かる。なぁ悠莉それ以外のコツとはコツとは、どうすれば良いのじゃ?』ど……」
凄い勢いで言葉を被せて来たな。これは失敗が重なり過ぎて、形振り構わなくなって来てるんだな。
かなり目がイッちゃってるけど、大丈夫かコイツ。
「落ち着けアレクシア。ちょっと一回やってみるから。あー 三段目まではレーンを下げてても勝手に入るな。なら次は……。問題は四段目からだろ? 一旦レーンを上げてと……」
アレクシア君、キミ鼻息が荒いよ。目を血走らせ、鼻息荒く近寄られると本当に怖いんだけど。
キミあの世界で俺と戦った時でも、そんな必死な顔して無かったよね。何でキミは死闘を繰り広げた時より気合いが入ってるのかな?
「どうやる? どうやる悠莉? なぁ悠莉!」
「お前近い。慌てるな。コレな、レーンが下がったら玉が転がり落ちるだろ? で、レーンを下げて玉がレーンの端、落ちる少し前にタイミングを見計らって…… ハンドルを操作して上げるんだ。そしたらホラ、玉が跳ね上がるんだ。普通にやっても玉が転がり落ちるのを入れるだけだけど、今やったみたいにすれば玉が勢い良く上がって前に飛ぶ。但しコレも絶対じゃ無いからな、一つのやり方だ。五段目まで行ったけど、コレはコレでタイミングが難しいから、一つの方法として考えてみろ」
「よし、今から実践じゃ……」
「待てい! 昼飯を先に食いに行くぞ」
「何でじゃ?」
「昼飯の時間だからだよ。と言うか一旦休憩しろ、な。気分転換した方が成功率は上がると思うぞ。昼休憩して気分を変えろ、な。お前ずーっとやりっ放しだろ? 休憩休憩」
「くっ…… 直ぐ試したかったのに……」
どうせ今やっても結果は一緒だよ。それに今行かないと、コレは絶対夜までやり続ける。間違いなくそうなる、だってコイツは精神が子供と一緒だからな。
しかし…… 意外だな。コイツ朝飯食い過ぎたから、腹いっぱいだから行かないとか言うと思ったけど、やけに素直だ。
ゴネたりもしないのは、精神力を使いすぎて腹減ったのかな? まぁ良い、さっさと連れ出そう。
~~~
「おい、何かめちゃくちゃ混んでおらんか?」
「混んでるな。並びが凄い、昼前には来なきゃダメだなこれ。それか十三時過ぎ位なら少ないかも知れないな」
「おい悠莉、一時間位は待たねばならんのではないか?」
「四十五分待ちみたいだぞ。ホラ、並びの最後尾で看板持ってる」
「四十五分待ち~?」
「他の所に行くか? それか屋上にホットスナックとか売ってる屋台もあったけど?」
「今日は何か嫌じゃなぁ…… まぁエエわい、今日は待とうではないか。わらわココの大食堂の大人ランチが食べたいし、口が大人ランチの口になっておるからな」
意外だ、コイツは早く屋上で遊びたいから、こんなに並ぶのは嫌だと言うかと思ったけど。
それにしても朝あんだけ食っといて、普通に昼飯食えるんだな。身体? を動かしたからかな?
しかし並びが凄いな。ココの大食堂はかなりの広さがあるのに、四十五分待ちってどれだけ並んでるんだ? 年寄りが多いが中年や若いのもまぁまぁいる。やっぱココって有名なんだな。
「楽しみじゃなぁ。ネットで見た時から、大人ランチが食べたくて楽しみにしておったから、やっと食べる事が出来る」
「そう言えばお前言ってたもんな」
だからか、コイツがすんなり昼飯を食いに来たのは。確かに楽しみにしてたもんな。
俺は子供ランチが楽しみだけど、ちょっと量が少ないからトルコライスも食べよう。
「フンフンフ~ン♪」
魔王の奴、鼻歌なんか歌っちゃってるじゃないか。
本当に楽しみにしてたんだな。しかし魔王君、キミは何故また俺の腕を両手で掴む? もしかしてキミのマイブームなのかな?
もういちいちつっこまんが、両手で俺の腕を掴んで、俺の腕をブラブラさせるのは止めたまえ。
キミ分かって無いみたいだけど、俺の手にキミのバッグがバシバシ当たってるんだよ。
朝もそうだったが、何故キミは気付かないんだい?
ボクの腕はキミ専用のつり革では無いんだよ。
ホラ又だ、又周りに恋人同士だと思われてる。
魔王君はそれらの声や視線に、一切気付いていないみたいだけどね。
キミ、そんなに注意力散漫だと、戦いなら又呆気なく敗れちゃうよ。分かってるかな?
「なぁなぁ悠莉、わらわアイスも食べたいんじゃが、エエよな?」
「別に良いけど、あのアホみたいな巨大なアイスなら止めてくれよ」
「いやいや、アレは流石に無理じゃ。食べてみたいとは思うけど、絶対食べきれぬ」
だよなぁ。しかし何だよあのアホみたいに巨大なデザートシリーズは?
スーパーウルトラアルティメットシリーズって、絶対ネタで考えたのが、何故か企画が通ってしまったとかだろ?
あんなの十人位でないと食えないぞ。考えた奴もシャレで言った物が、まさか通るとは思わなかっただろうな。
うーん。アレクシア・ヘルクス君、あー マオが抜けてたな。そんな事よりキミ、俺の腕をブラブラさせる速度が上がってるんたが?
それに伴い、俺の手にキミのバッグが当たる頻度も増えてるんだけど、つっこみ待ちかな?
言っても又やるだろうなぁ……。無意識にやってるから、多分ついやってるんだろうから、言ってもどうせ俺の腕を又掴んでブラブラさせるだろう。
ふと思ったが、もし俺がコイツの手を握ったらどうするだろう?
普通に考えればビックリするだろうな。まさか手を握り返して来たりしないよな? もしそうなら俺の方がビックリだよ。
うん、冗談でも止めておこう、コイツ何か浮かれてるから、本当に握り返して来そうだ。ん?
「なぁ、俺の腕に抱きつくのは流石にどうなんだ?」
「あらら…… わらわ何時の間に。すまぬすまぬ」
腕に抱きついて身体をブラブラさせるって、お前は子供か? 小さい子が良くやるけど、お前中身は二十歳越えてるだろ。
どんだけ楽しいんだ? 浮かれてるとも言うかな?
周りからイチャついてるって思われるから、ちょっと止めて欲しいけど、またやるんだろうなぁ。
「アレクシア、お前今日はどうしたんだ? もっと周りに注意を払えよ」
「すまんすまん。なーんか無意識にやってしまうんじゃ」
だから意識しておけよ、そしたらこんな事しないだろ。もう!
「なぁなぁ、ココって食券買うんじゃろ? わらわが買いたい」
「お前は子供か? 別に良いよ、お前が買え」
「やったー♪」
何だろう? バスとかで止まりますボタンを押したがる子供みたいだよ。と言うか背は届くのか? まさか届かないってオチじゃないだろうな。ん?
だから何でさっき言ったばっかりなのに、コイツは腕を掴む? 違うな、コレ腕を組んでるんだ。
くっ……。周りの視線が痛い、微笑ましそうに俺達を見る視線が痛い。あらあらとか言うのは止めて下さいおばあさん。可愛らしいカップルねとか言わないでおばちゃん。
俺はロリコンじゃねえ! だが絶対周りにそう思われてるぞコレ。誤解を解かなければ……。
「おいアレクシア、お前また俺の腕を掴んでるぞ。と言うか腕組んでるし。なぁ、お前二十歳越えてるとは言え背が小さいから色々誤解されるだろ。お前二十歳越えてるけど、そんな事したら俺達恋人同士だって周りに誤解されるぞ」
「ん? まさか~。そんな事は無いじゃろ~。まぁ人にどう思われようが別にエエわい。それよりまだかの? 早く大人ランチ食べたい」
良い訳無いだろ! 俺はロリコンだって誤解されるのは嫌なんだよ。だからわざわざ人に聞こえる様に、お前が二十歳を越えてるアピールしてんだよ。
お前が二十歳を越えてようがちんちくりんだから、あんま意味無い様な気もするけど、それでも真正ロリコンだって思われるよりマシだ。
しかしコイツ……。ま~た腕を掴んでブラブラさせてやがる。腕を組むのを止めたと思ったらコレだよ。
コイツは人の話を聞いてるのか? 聞いてるけど頭から即抜けてるんだろうな……。
あーもう。本当に本当に本当~に! 元の姿に戻ってくれないかなぁ……。
今のこの改造ロリ姿のコイツに腕組まれたり、掴まれたり、腕に抱きつかれてもちっとも嬉しくない。むしろ鬱陶しいだけだぞ、頼むよ本当……。
「大分進んだのではないか? もう少しじゃな」
「そうだな」
神よ、このちんちくりんを元の姿に戻して下さい。
面白いから無理って、どうせ言われるだろうけど、コイツが元の姿だったら喜んで腕くらい好きにさせてやるのに。今は暑苦しいだけです。
コイツ元の姿はスタイル凄く良いんだよなぁ。
おっぱい大きくて美乳だし、足も細くてスラーっとしてて、小尻で美尻だし、ウエストも細くてくびれが素晴らしいとても良い女……だった。
顔も美人で、本当に顔だけは良い女なんだよな……。喋らなければ見た目は、本当に見た目だけは良い女なんだよ……。
中身は……。只のポンコツだが、見た目だけは凄く良い女だったのに、何で今はこんなちんちくりんの改造ロリなんだよ? 頼むから元の姿に戻してくれないかな。
あーもう、また腕をブラブラさせる速度が上がったぞ。何回言ってもやりやがって。
コイツ元の姿に戻ったら、目も赤になるんだよな? あれはあれで似合ってるけど、今のグリーンアイも良いんだよな。
魔王のクセしやがって目は綺麗ってのがギャップがあるけど、この緑の瞳は本当に綺麗だよ。
喋らなきゃ見た目は美少女でもあるが、中身が残念過ぎて全ての美点が打ち消されてんだよなぁ。
ポンコツ過ぎて見た目の良さとかが、欠点により悪い意味で上書きされてる奴、それがアレクシア・ヘルクス、元魔王の現引きニートのダメ女だ。
「ん? おい悠莉、わらわの顔を見つめてどうしたんじゃ?」
「三つ編みがほどけてないか見てた」
嘘です、キミの残念具合を色々考えていました。
「バッチリじゃな、流石悠莉じゃ。わらわが自分でしてもこうはならぬからな」
自分で出来る様になって下さい。ボクはキミの専属ヘアメイクさんでも無いし、お母さんじゃありません。
「なぁ、何かいきなり列が進んでおるぞ」
「多分丁度、食べ終わった人らが集中したんじゃないか? おっ、座れそうだな」
時間的に四十分位は待ったから、待ち時間が短縮されたって感覚は無いな。
明日大食堂に来るなら昼の三十分前に来るか、十三時過ぎに来よう。何か明日も大食堂に来たいって魔王が言いそうだしな。
「悠莉、何食べるんじゃ?」
「お子様ランチとトルコライス」
「お前…… エエ大人がお子様ランチって……」
「うるさいなぁ、別に良いだろ。と言うかお前、お子様ランチくれとか言ってもやらないからな」
「いらんわい。わらわは子供では無いぞ」
「・・・」
とか言ってやるのがコイツだからな。何だろう、フラグの様な気がしてきた。
「おー! 景色が良いではないか、街並みが一望出来るぞ。城も丸見えじゃ」
「このデパート結構高い建物だもんな」
しかし城が丸見えって、お前は今からあの城を攻めるのか? 確かに攻めるなら城が丸見えの方が良いとは思うけど、見るだけなら言い方が違うと思うが? まぁコイツだもんな今更か。
しかし景色が良いな。運良く窓際の席に座れたけど、魔王の言うとおり街並みが一望出来る。
高い所から景色を見下ろすと、何故か気分良くなるのは何でだろう。
「なぁ悠莉、あの城って小高い丘に造ってあるのぅ。守備がしやすく攻め手からしたら堪ったもんではないな」
「そうだな、小高い丘と言うより台地? いや、高台じゃないか? 城の外周辺りは平地だけど、城本体は平地より高い位置にあるから、それだけで守備側からしたら優位だよな。アレを攻めるのは相応の損害を覚悟しなきゃならないだろうな」
「じゃな、難攻不落の城ってとこかの?」
「実際大昔にあった内戦では、敵の大軍から守備しきったからな。敵の精鋭の攻撃を何度も跳ね返し、最後まで守りきった実績のある城らしいぞ」
「あー そう言えばネットで見た気がするのう。わらわが攻め手であれば、あの城を落とす損害を考えれば無理に攻めず、一隊で包囲して先に進むな。力攻めは損害がバカにならん。どうしても落とさなければならんのであれば、全軍で包囲するに留めてジワジワ削っていくかな?」
俺と魔王の会話よ。城を見てどう攻めるか、どう守るかって普通しないぞ。普通は綺麗だとか格好いいとか、そんな程度の会話のはずだけど、周りからしたら俺達の会話は違和感あるだろうな。
「あっ来た来た。大人ランチはこっち、お子様ランチ…… ふふっ、お子様ランチとトルコライスはそっち」
この改造ロリめ今笑いやがったな? 別に良いだろ、大人がお子様ランチを食べても。
「大人ランチ美味しそうじや~」
「お子様ランチも美味そうだ。良し良し、ちゃんと旗も立ててあるぞ、コレだよコレ、やっぱお子様ランチは旗がないとな」
「・・・」
ん? 魔王の奴、なーんか物欲しそうな目で見てやがるんだけど。コイツやっぱ一口ちょうだいとか言うんじゃないだろうな?
「おいアレクシア、やらんからな。お前一口ちょうだいとか、まさか言わないよな?」
「いや、そうでは無くってじゃな。なぁ、その旗エエよな。一口とかいらぬから、その旗欲しいんじゃが……」
はぁ? マジかコイツ。お子様ランチの旗が欲しいだと? 今コイツ旗が欲しいとそう言ったな?
「お前はアホか、お子様ランチの旗を寄越せだと? お前ふざけんなよ、お子様ランチの旗が欲しいって、それは許されざる大罪だぞ。お前は何を抜かしてるんだ? この極悪人が! お子様ランチの旗を寄越せなぞ、この世のもっとも足る悪行だぞ、この悪党めが」
「ちょっと旗が欲しいと言っただけではないか。それなのに何と言う暴言を……。わらわそんなに悪いか?」
「悪いに決まってるだろ。お前なぁ、お子様ランチの旗はこの料理のメインだぞ。コレがあるからお子様ランチ足り得てるんだ。言うなればこの旗は軍旗みたいな物なんだよ。それなのにそれを寄越せ? 極悪人以外の何物でもないぞ、お前…… この世には言って良い事と悪い事があるんだ、と言うか弁えろ」
流石コイツは魔王と言われてただけはある。まさかお子様ランチの旗を奪おうとするとは、コイツは正に魔王だ、いや、大魔王だ。
恐ろしい奴だよ…… まさかこの旗を奪おう等と思っていたとは……。この旗は決して渡さん! この旗は俺の物だ。
「おい悠莉よ、そこまでか?・・・」
「そこまでの事なんだよ。お前がこの旗を奪おうと言うのなら、俺は全力で…… 俺の持てる力の全てを使って抗う! 全身全霊で抗う」
「もう…… 何かコヤツ面倒臭いモードになりおったぞ」
「誰が面倒臭いモードだ? と言うかお前も旗が欲しかったら、今度お子様ランチ頼めば良いだろ?」
「そうじゃなそうする。それに旗だけで無く、お子様ランチも結構美味しそうに見えるし、次は頼んでみるかの」
何だよ、結局コイツもお子様ランチが食べたいのか。多分実物を見たからだろうけど。そして旗が欲しくなったんだな? やはりお子様ランチの旗は惹かれる物がある。
この旗は魔性の魅力があるよな、良いよねこの旗。
家に帰ったらネットでお子様ランチ用の旗を買うか、そうだな買おう。
異世界に飛ばされた時用の購入品リストに入れ様ではないか。この旗って売れるだろうし、何より日常の食事にこの旗を立てるだけで、それだけで特別に見えるからな。
食事を作るのが億劫な時に簡単簡易でササッと作った物が、この旗があるだけで豪華になるし、特別感も出るし、ちょっとしたお助けアイテムになる。良し、帰ったら買おう。
「大人ランチ美味しいんじゃが。なぁ悠莉、明日もこの大食堂で昼御飯食べたい」
「分かった」
魔王の奴嬉しそうだな、まぁこの笑顔を見てると連れて来て良かったよ。
但し、俺の旗は渡さんがな。
「明日はお子様ランチにするかの」
よっぽど旗が欲しいんだねキミ。
22時にも投稿します。