第23話 アナタしか見えない
天気良いな、気持ちが良いよ。
梅雨明けの心地好い時期。
こっちでは蒸し暑さはあまり無い。
地域差からか、まだギリギリ暑さでは無く、温もりと言えるこの季節の端境期とも言える陽気。
う~ん、この季節ならではの心地好さ、良いねえ。
しかし……、視線を感じるなぁ、皆が見ているのは魔王。
まぁそりゃ見るよな、金髪外人で一応は美少女だもんな。しかもゴスロリだし目立つか。
時折可愛いとか美少女って聞こえてくる。そうだな、黙ってたら美少女に見えるもんな。知らないって事は幸せって事もあるよね。
「何か気持ちの良い朝じゃなぁ。今日一日良い日であるような、そんな気がして来たぞ。あー楽しみじゃなぁ、昨日は時間があまり無かったから、結局屋上には行かんかったからのう」
そらあんだけお菓子選んでたら時間が無くなるわ。中途半端な時間に、閉店まで後少しって時間に行ったら、物足りなさがあるから行かないってコイツが言った時はビックリした。
まさかコイツからそんな事を聞くとは、頭がどうかしてしまったんじゃないかと思い、マジマジとコイツを見てしまった。
だが言いたい事は分かる。中途半端に行くより、ゆっくり一日楽しみたいってそう思うのはな。
それに現地に着いて何時でも行けるって思ったら、気持ちが少し落ち着いたってのもあるんだろう。
一番の理由は、楽しみを途中で強制終了させられるのを嫌ったとかだろうけど。
後は楽しみを取って置いて、ワクワク感を楽しみたかったとかかな?
「なぁ、道は合っておるよな? まだ着かぬのか?」
「あの角を曲がったらデパートだよ。と言ってもそこから少し歩くけどな」
「なら早く行こう、ほら悠莉急げ急げ」
「まだ開店時間前だから、急いで行ってもどうせ待たなきやいけないよ。開店まで後十五分ある、手を引っ張るな」
よっぽど楽しみにしてたんだな。焦らずともまだまだ時間はあるんだ、それこそコンビニでコーヒー買って飲んでも良い位の余裕はある。
気が焦ってそんな余裕は無いんだろうし、ワクワクしてるコイツに言っても聞かないだろうな。
楽しそうな顔して笑いやがって。幸せいっぱい、満面の笑顔、この世の春、そんな笑顔だ。
「おい、だからまだまだ時間はあるから。なぁアレクシア、手を引っ張るなって」
「早く行くぞ悠莉、ほら」
もう。本当に子供みたいだなコイツ。
だけどこれだけ喜んでくれたら、連れて来た甲斐があるな。
「なぁ悠莉、えらい人が多くないか?」
「だな、五十人以上は居るかな?」
殆どがお年寄りで、夫婦連れ? って言ったらお堅い言い方になるかな、単純に夫婦で来てると言うべきか。老夫婦達が楽しそうに入り口の前で待ってる。
きっちり並んでいるのでは無く、バラバラに立ち思い思いに入り口付近で開店を待ってるが、イベントの無い日のデパートの、開店待ちの見本みたいな光景だ。
「ネットで見たけど、平日は年寄りが多いのう」
「昨日もそうだったもんな。ところでアレクシア、お前何時まで俺の手を握ってるんだ? お前忘れてるだろ?」
「おっと、すまんすまん、忘れておったわ」
「だろうと思ったよ。なぁ、今日の小遣い忘れない内に渡しとく。本当に一万円札で良いのか? 千円札十枚でも良いんだぞ」
「大丈夫じゃ、屋上は両替機があるから問題無い。それよりここに居る間は、本当に毎日一万円お小遣いくれるのか?」
「ん? 別に良いよ、たまの事だしな。どうせ一週間位はこっちに泊まるんだから、一週間で一万円じゃ足りないだろ? まぁなんだ、たまにはな。思いっきり遊べ」
「ふふっ。ありがとう悠莉」
コイツ今日は素直だよなぁ。毎日こんなだったら、俺ももう少しコイツに優しくしてやれるのに。
普段から素直で思いやりがあり、思慮深い魔王か、無理だな。そんな事が出来る奴なら、普段からやってる。
「ん? どうした?」
「昼には迎えに行くから、屋上に居てくれよ」
「分かっとる、ゲームコーナーにおるから。なぁ悠莉、まだ開店せんのかな?」
「まだだよ、後十二分ある。お前なぁ、腕時計してるんだから自分のを見ろよ」
「そうじゃったな、忘れておったわ」
大丈夫かコイツ? ワクワクし過ぎて鼻血出したりしないよな? どんだけ楽しみにしてたか、今のコイツを見てると良く分かるよ。
コイツが獣人族なら、尻尾をブンブン揺らしてるんだろうな。
おっ、さらに人が増えて来たぞ。そして見事に年寄りばっかだ。昨日の夕方ここに来た時は、若いカップルもまぁまぁ居たけど、今は俺達以外ほぼ年寄りしか居ない。
ちらほら中年夫婦が居て、後は友達同士らしきおばちゃん達が少し居る。
だから俺達は凄く目立ってるが、ここでも魔王を見て、可愛いだの、お人形さんみたいだのと言ってる人らが居るが、コイツ中身はただのポンコツですよ。見た目はそう見えても、幼稚園児より手が掛かる奴なんですよ。ん?
「なぁアレクシア、何でお前はさっきから俺の手を握ったり、腕を掴むんだ?」
「えっ? 本当じゃ、何でじゃろ? わらわ無意識に掴んでおったわ」
そんな事をされたら、周りから恋人同士に見られるじゃないか。
ホレ見ろ、周りのおじいちゃんやおばあちゃん達が、俺達を微笑ましそうに見てるぞ。これ絶対俺達の事を恋人同士って思ってるんだろうな。
あーあ、俺もしかしなくてもコレって、周りにロリコンだって思われてそうだ。
コイツが元の姿なら何の問題も無いけど、むしろ年齢的に丁度良い感じなんだけどなぁ。今のコイツの姿じゃ、ロリコン扱いされても、それをどれだけ否定しても言い訳にしか聞こえないだろうな……。
「おい、だから俺の腕を掴むなって。両手で俺の腕を持ってブラブラ揺らすなよ」
「あれぇ? わらわ又やってしまったか? すまんすまん、ついやってしまったわ。悪気は無いんじゃ、無意識にしてしまっておるみたいじゃ」
くっ……。周りから『仲が良い二人ね』とか聞こえるぞ。『私達も手を繋ぎましょうか?』だって? 名も知らぬおばあちゃん、アナタ雰囲気に飲まれていませんか? おじいちゃんも『久々だね、何か照れるね』だって? ラブラブですね、老夫婦の照れは意外と嫌な感じはしないね。
と言うか周りが雰囲気とか、空気感に飲まれて来てないか? さっきから周りの老夫婦が手を繋ぎ出したり、腕を組んだりし始めてるんですが……。
おいおい、肩を組み始めてる人らも居るぞ。
何かこの入り口前が気のせいか、甘い匂いがして来たのは俺の気のせいか?
漫画とかアニメで例えると、この辺りだけピンクの背景になって、キラキラしたエフェクトが掛かったみたいになってるんですけど……。
「なぁなぁ悠莉、何か仲の良い夫婦が多いな」
いやいや、それはお前が原因だよ。きっかけは君だよ君。嬉しそうにニコニコしてるお前が事の発端だよ。
そして魔王君、キミは又俺の腕を両手で持ち、ブラブラさせてるけど、これはツッコミ待ちなのかな?
何だろう、もうつっこむ気力も起きないよ。
あーあ、元の姿のコイツにされるんなら嬉しいけど、こんなちんちくりんにされてもなぁ……。元の姿に戻ってくれないかな。
「まだかのう」
「まだだよ」
後少しで開店なんだから、もう少し待てよな。
それより問題は、両手で俺の腕を持ち、ブラブラさせる速度が早くなってる事だよ。
そしてもう一つ問題がある。コイツはバッグを持ったまま俺の手を掴み、ブラブラさせてるが、そのバッグが俺の手にバシバシ当たってるって事だ。
どうしよう、言っても又やるだろうし、どうもさっきから無意識でやってるみたいだから、悪気は0なんだよなぁ。でもバシバシ当たって音がしてるのに、全く気付いていないのはどうなんだ? 無駄かも知れないけど、つっこむべきだろうか?
もう早く開店しないかな。なーんかさっきより更に周りの俺達を見る目が、微笑ましさを増してるし、温もりの様な物も感じる。
皆さん、僕達は恋人同士では無いですからね。
そして僕はロリコンじゃ無いですよ。
僕はシ○マ様みたいな、大人な女が好きですからね。
「なぁなぁ悠莉、悠莉は屋上には行かぬのか? 直ぐ買い物に行くのか?」
「今日は買い物に行く。屋上はそうだな、夜にお前を迎えに行く時に少し遊ぶかな? ついでだ、その時に観覧車にでも乗るか? 景色が凄く良いらしいし」
「観覧車なぁ……。まぁそうじゃな、一回位は乗るかの。それはそうとまだ開店せぬのか? わらわ早く行きたい」
「後少しだから。それよりお前、はしゃぎ過ぎて金を落とさない様にしろよ」
「当たり前じゃ、わらわそんなおっちょこちょいではないわ。それより開店まだかなぁ、早く開けたらエエのに」
本当に大丈夫か? 信じるしかないか。
開店まで後三分か。人が更に増えて来たが、見事に年寄りばっかだな。若いのは俺達だけってのも凄いな。デパートの開店前ってどこもこんなだとは思うが、おばちゃん達も少ないのは珍しいよな。
お年寄り達はどこに行くんだろ? 地下の食品コーナーかな? でも地元の人なら分かるが、観光客の人達はどうなんだろう、意外と屋上のゲームコーナーとか、屋上遊園地に行くのかな?
決めずに館内をブラブラなのかも知れない。
時間はあるんだから、最初は目的無くブラブラするのは、それはそれで楽しいだろうし、デート気分で中を歩けばそれだけでも楽しいだろう。
「なぁなぁ悠莉、中から誰か出て来たんじゃが」
「あー 開店のお知らせじゃないか? ホラ、中に店員が居るだろ? あれってドアを開ける係だと思うぞ」
「やっとか、待たせおって。いよいよじゃな」
「一応言っとくが、中では走るなよ。多分今から店員からも注意するとは思うけど」
「分かっとるわい、わらわ子供ではないんじゃぞ」
「・・・」
お前は言わないとやるだろ? まぁ…… 言ってもやる奴だからな。何かコイツ走って転けそうだし。
「お待たせ致しました。只今より開店となります。走らずお気をつけて入館お願いします」
~~~~~~
「アレクシア、昼は屋上で待っててくれよ」
「ん、じゃあわらわは行く」
さて…… 屋上直行のエレベーターが…… アレか。
ん~? 何か同じ方向に行く奴が多いんじゃが。まさか皆屋上に行くんじゃろうか?
えっ、わらわ達の前におった奴らが皆屋上直行のエレベーターに向かっておるんじゃけど。
何でぇ? 何でこんなに多いんじゃ? アレ? これわらわ乗れるのか? 人多過ぎんか?
ギリギリ乗れたけどギュウギュウなんじゃが。
コレ皆屋上に行くのか? わらわの後ろにも待ちがあったし、朝イチでこんなに行くの?
わらわ位しか行かぬのかと思ったが、コレ結構混みそうじゃなぁ。別に良いんじゃけど、平日でもこんなに混むんじゃなぁ。
おっと、到着か。あぁ…… この光景、夢にまで見たこの光景、夢じゃ、正に夢の様な光景じゃ。
ゲームだらけじゃ、右も左もゲーム、ゲーム、ゲーム。昔のゲームの筐体に、十円玉を入れてやるゲーム。夢の様な光景じゃ~。
まずは両替してじゃな。さてどれをやろうかの。
壁沿いが十円玉入れてやるゲーム。真ん中がゲームの筐体。あっちは…… 大型筐体と、エアホッケーとかの台か? ゲームの筐体は大きさ関係無く一回五十円じゃったな? エアホッケーとかの台は一回百円じゃったっけ? しかし凄いのう、ネットで見た台が目の前にあるぞ。
大昔のゲームの筐体や台がこんなに。凄いと言う言葉しか出てこぬな。何と言うか、今のゲームと違って昔のゲームは趣がある。エエなぁ。
ん、アレは。悠莉が言っておったパチンコ玉を弾いて上に送り、その玉をハンドル? レバー? を操作してクレーン? いや、レーンか。パチンコ玉をレバーで操作して、そのレーンから入賞口に入れるやつじゃな。
コレかなり難しいって、悠莉が言っておったやつじゃ。隣は新幹線ゲームか。まぁエエ、最初は悠莉が言っておったし、コレにしよう。
パチンコ玉を弾いてと、アレ? 弱かったか? もう一回。あっ! レーンが下がっておったから、勝手にパチンコ玉が転がって行きおった。
ん~? 入賞口に入ったぞ、あっ! 見ておる場合では無い、又勝手に転がって行きおった。
あっ、又入賞口に入った。おっと、レバーを操作してレーンを上げねば。
これ少しづつ、レーンと入賞口が離れていっておるな、なるほどのう。
入賞口は全部で八つ、レーンも八つ。最後のだけえらい離れておるが、コレ本当に入るのか?
それにしても、何かレバーがえらい軽いんじゃが、微調整出来るのかコレ? 古いからかの? それとも整備し過ぎて軽いのかどっちじゃろ?
あーっ! 玉が入賞口に弾かれたではないか。
結構勢い良く転がるんじゃな。微調整が大事じゃけど、レバーが軽すぎて微調整がしにくい。
レーンを上げる分にはエエが、下げる時は気を付けねばな。角度調整がシビアになりそうじゃ。
あっ…… 又三段目で弾かれた。三段目が要注意か、少しでもズレたら入賞口に弾かれる。気を付ければならん。じゃが三段目はまだエエ、問題は四段目からじゃ。
良し、三段目までは大丈夫、問題はこの四段目からじゃが…… あーあ見当違いの所に行ってしもうた。
コレ幾ら使ったらゴール出来るんじゃろ?
確か悠莉は一回だけゴール出来たと言っておったが、その時は失敗して玉が入賞口に入らず、奇跡的にゴールまで直接玉が落ちて、入ったと言っておったな?
コレって磁石を使って玉を、ゴールまで持って行ったらダメじゃろうか? ダメじゃな、そんな事をしたら悠莉に怒られる。それにそんな事をしても、例えゴールしても面白くない。やっぱダメじゃな。
あっ、又失敗じゃ…… わらわまだコレしかしておらんぞ。他のもやりたいけど、じゃけどこのまま終わるのも癪じゃ。
あーもう! 集中じゃ集中。余計な事を考えておったら又失敗したではないか。
集中集中。精神を研ぎ澄ますのじゃ、わらわやれば出来る子じゃ、慎重に……。うぉい! 三段目! こんな最初の頃で失敗……。くっ、もう十円玉が無いではないか、両替せねば。
良し、五百円分十円玉に替えてきたぞ。少々嵩張るがこれで暫く両替に行かずとも済む。
悠莉の言うとおり、十円玉用の小さな巾着袋を持って来て良かった。なるほどじゃな、確かに要るのうこの巾着袋。
再開じゃ、パチンコ玉を打ち出す前にレバーを固定して……。ココじゃな、この位置なら三段目まで自動で入賞口まで入る。
三段目の入賞口まではコレで良い。問題は四段目からじゃ、三段目の入賞口に入ったら直ぐレバーを操作して、レーンを上げねばならん。
慎重に操作して先ずは四段目を攻略じゃ。そうじゃ、一つづつ攻略してやるわい。
あ…… 入賞口に届いてない、下過ぎたかの?
あーもう! 玉が上まで行かず、下に戻って来た。
落ち着け、冷静さじゃ。心を静めるのじゃ。
ムッキー! 四段目! 何故わらわを拒絶する? わらわを、わらわを何故否定するのじゃ。
四段目よ、お前は黙ってわらわを受け入れれば良いのじゃ。四段目の入賞口よ、わらわの魂の叫びを聞いておるか? わらわを導け! わらわに討ち取られよ。
言葉にならぬ。何回挑めばこの迷宮を攻略出来るのじゃ? コレもしかして、あの最難関迷宮と言われておる、あの迷宮より難易度が高くないか?
コレを攻略するには技術だけで無く、運も必要じゃな。運、技術、冷静さ、正に心技体と言った所か? いや…… 違ったっけ? まぁエエわい、今はコレに集中じゃ。
しまった、レーンの固定を忘れておった。
危なかった、少し危うかったが入った、一段目と二段目はある程度固定が緩くても入賞口に入るが、三段目はちょっとでもズレたら危うい。
集中する事に集中し過ぎて、レーンの固定を忘れたわい。集中に集中とは何かとんちみたいじゃな。
それより四段目じゃ、良し! 入った。
ここからじゃぞ、五段目の入賞口よ、わらわが討ち取る。そしてゴールまで辿り着き、この迷宮を完全攻略してやるわ。
あっ……。分かっておったがな、分かっておったが、分かっておったが……。
何でじゃ~? 何で入らんの~? 今のはイケたじゃろ~? 何で弾くかなぁ? 何で~。
くっ……。気持ちを切り替えるんのじゃ、わらわはやれる、そうじゃやれば出来る子じゃ!
あっ、またじゃ……。
十円が無い…… 両替して来ねば……。
「・・・シア おい…… なぁ…… アレクシア……」
くっ! 何度失敗すれば良いのじゃ? わらわを何度絶望させれば気が済むのじゃ。絶望の淵とは今のわらわにピッタリの言葉じゃ……。
「おいアレクシア」
「えっ? アレ? 悠莉か、どうした?」
「お前なぁ、何回も声を掛けてるのに、今気付いたのか? どんだけはまってるんだよ」
「気付かんかった。悠莉が来たって事は、もしかしてもう昼か?」
「昼だよ。今は十二時少し過ぎた位だよ」
えっ? わらわ二時間以上この台で遊んでおったの?
20時と22時にも投稿します。




