第21話 Gram
「なぁアレクシア、今から行くのか?」
「当たり前じゃ、まだ夕方の五時半じゃぞ、まだ時間はあるではないか。それに今向かっておるのに、今更引き返せぬ」
確かに時間はあるけど、ホテルで少しゆっくりしたいんだけどなぁ。
それに腹も減ったし、夕飯食いたいんだけど、この時間なら魔王の奴は行くよな。仕方ないか。
「悠莉よ、いっぱい買ってもエエんじゃよな?」
「良いけど、加減はしろよ? 流石に持てない程は買うなよ。アレの中に入れるとは言え、バレない様にしなきゃならないから、面倒だしな」
一応防犯カメラが無い場所や、死角になってる所は調べたけど、気を付けないとな。
カメラの死角で入れました、でも映像では持ってた物が死角から現れた瞬間に、次の映像? 登場で突然消える様に見える訳だから、ある意味不可思議映像と言うか、ホラーとかミステリー映像になるからな。
ホテルに持って帰ったら、帰る時にあの荷物は? って事になるし、面倒な事になる。
食いました、だから無いってのも無理があるよな。何故なら魔王の奴は、間違いなく大量に買うだろうから、あんな大量の物をってなるだろうし。
「楽しみじゃなぁ」
「・・・」
俺が気を付けなければならないな。コイツはついうっかりとかでやらかす奴だ。しかも今浮かれてるし、再度言い聞かせよう。
それにしてもこのデパート、趣があると言うか、荘厳さと言うか、レトロ感が凄いな。本当、レトロさを徹底してるよ。悪くないな、俺は好きだな。
「おい悠莉、ボケーっと突っ立ってないで早く行こう。時間は有限じゃぞ」
「分かってるよ」
コイツは建物の外観とか、全く興味は無いんだろうな。どうせ中に入ったら一緒だとでも、思ってるんだろう。
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「おっほー 正に夢の様な所じゃのう。良いではないか」
「ネットで見たけど、実際見ると圧巻だな。無茶苦茶広いよな」
スゲーな、正に圧巻、只々凄いとしか言い様がない。陳腐だが、凄いの一言だよ。
売り場も広いし、台もかなり多い。大小様々なお菓子の台が回転してるのは、見てるだけでも飽きないな。ん? あっちにも何かあるな?
「なぁアレクシア、あっちの売り場は何だろ?」
「ん? あー…… あっちは別の量り売りの店じゃな。透明のケースに入っておるじゃろ? 確かキャンディとか、グミとかチョコとか色々売ってあるはずじゃ。なぁなぁ、あっちでも買いたいんじゃが……」
「あー、そう言えば言ってたな。へぇ~ あっちの売り場も広いな。なぁアレクシア、買うのは良いけど持てる量を考えろよ。理由はさっき言ったよな」
「分かっておる。何度も聞いたし大丈夫じゃ。アレの問題じゃろ? だけど買うのは今日だけで無く、明日以降も買ってもエエんじゃろ? なら加減もするし、アレにも気を付ける。それより早く行こう」
はしゃいでるなぁ。子供かコイツは? まぁ良いだろう、確かに時間は有限だ、この為に来たんだからな。
しかし百グラム二九八円か。うーん…… 微妙に高い気もするが、他のトコは更に高いんだよなぁ。
確かグラム五百円の所もあったっけか? それに比べれば安いけど、普通にスーパーとかお菓子屋さんで買う方が、安くつくんだけどな。
とは言え場の雰囲気とかもあるからな。あんな回転する台に、色とりどりのお菓子がのっかってて、しかも回転してたら楽しくなるよな、それに台も多いし。何か祭りの雰囲気とか空気感があって、凄く良いな。実際俺もちょっとワクワクしてるし。
それにしても……。魔王の奴この雰囲気と言うか、空間に溶け込んでるなぁ。
ヒラヒラした服だからか、ある意味メルヘンチックなこの場に凄く溶け込んでて、違和感があまり無い。
ゴスロリを着てて、違和感があまり無いって珍しいよな。これで若い人間が多ければ完璧に溶け込んでるんだろうけど、この売場って年寄りが多いんだ。だから微かな違和感はある。
しかし前以て聞いてたけど、平日は年寄りが多いと聞いてたが、本当に多い。
若い恋人同士もチラホラ居るが、殆どは老夫婦だ。
皆が楽しそうにお菓子を選んでいるが、特にお年寄り達が、とても楽しそうに回っているお菓子を選んでいる。童心に帰っているのかも知れない。
年を取っても仲の良い老夫婦って何か良い。俺も年を取ったらあんな風になりたいな。
「おい悠莉、早く来いよ。お菓子買おう」
「うん、分かったから引っ張るな」
魔王の奴め、コイツが一番童心にってか、子供みたいだな。コイツ楽しみにしてたから分からんでも無いが、手を引っ張るのは止めて欲しい。
「早く、行こ」
「分かったって」
仕方ない奴だ。
「なぁなぁ、一番大きな籠使ってもエエよな?」
「良いよ。だけど持って帰る事を考えて買えよ」
本当に楽しそうだなコイツ。満面の笑顔だ。
気持ちは分かる。色んなお菓子があるし、それが回転してるんだもんな。さっきも思ったが、売場でお菓子を選んでると、ワクワク感が益々高まって来てるし、何故か幸せな気持ちになれる。
何か子供の頃を思い出すな。じいちゃんばあちゃんに連れて来て貰って、ワクワクしながらお菓子を選んでた時を思い出すよ。
「なぁ悠莉、結構混んでおるな」
「そうだな。又迷子になるなよ」
「ならんわ。そう何度も迷子になってたまるか」
何だろう? フラグの様な気がするのは。
コイツが迷子になったとしても、館内放送でお知らせされるから大丈夫か。
しかし本当に年寄りが多い。殆どがお年寄り夫婦の二人連れが多いが、孫らしき子供を連れて来てる人らも居る。その割に迷子アナウンス? 迷子放送? らしきものは今の所だが聞いてない。
これ休日ならかなりの頻度で放送されそうだ。
魔王の奴、本当に大丈夫かな? スマホ持ってるし、魔王のスマホの充電は俺が確認したから大丈夫だけど、一応気を付けておこう。
それにしても……。腹減ってるからか、お菓子が凄く美味そうに見える。色とりどりのお菓子が周り一面、視界に入っているが、良く見ると安い重さのあるお菓子も混じってるな。
うん、アレは利益率が高そうだ。見た目は華やかと言うか、美味しそうに見えるけど、食べたらいまいちなんだよなぁ……。
多分見た目の華やかさに惹かれて、買う人が結構居そうだ。それにこの場の雰囲気とか空気とか、ノリとか勢いでアレ系のって、ついカゴの中に入れちゃうんだよなぁ。
「なぁなぁ悠莉、コレってプリンって書いてあるが、食べた事ある?」
「あー それかぁ、まだあったんだ。うん食べた事あるな。味は不味くは無いけど、美味しくも無い。プリンって言うより寒天? ちょっと固めの寒天プリンかな?」
「ふーん…… 寒天プリンか? 小さいから食べやすそうじゃが、味はいまいちか? うーん…… 一個だけ買ってみるか。そうじゃな、物は試しじゃ」
ソレ、食べたらガッカリするだろうな。
寒天プリンか、言い得て妙だ。だがプリン風寒天とも言えるそれ、本当に微妙な味なんだよなぁ。
しかしまだあるんだなそれ。俺も子供の頃に食べたが、じいちゃんばあちゃんが子供の頃にもあったらしいからな。
その割にスーパーとかで見た事無いんだよな。どこに売ってあるんだろ? 謎食べ物だよ。
しかしこのデパートのお菓子売場は、かなり力を入れてるな。ココもそうだが、隣のケースに入った量り売りの店もかなり広いし大きい。
あっちには駄菓子屋らしき物もあるし、この辺りの店は平日にも関わらず、何処もかしこも人が多い。うん、休日はこのデパートは来たらダメだな。間違いなく人波に揉まれる事になる。
「なぁなぁ悠莉、コレは何なんじゃ?」
「ん? それ寒天を固めたゼリーモドキだよ。かなり昔からあるお菓子だな。味はいまいち。いや、俺はそれ好きじゃない。じいちゃんばあちゃんもソレ好きじゃないけど、懐かしさで一回買って、やっぱ美味しくないって言ってたな」
「そうか…… うーん……。ええーい! 一つ買ってみよう。怖いもの見たさじゃ」
怖いもの見たさって……。どうせ食べたらマズイって言うよ。
じいちゃんばあちゃんが子供の頃からあって、周りの年寄りが買ってたって言ってたけど、何時からあるんだろうな? 遥か昔からあるみたいだが、じいちゃんばあちゃんも、自分達が年寄りになったから、もしかして美味しく感じるかもって言って買ったけど、やっぱ美味しく無いって言って笑ってたっけ?
年を取ると味覚が変わるとは言うけど、あのゼリーモドキの寒天って、二人共ダメだって言ってたが、何で未だに販売されてるんだ?
どの年齢層に需要があるんだろう? 不思議なお菓子だよなぁ。
「おっ! コレきな粉棒か? 個別包装されてるんだな? こんな物まで売ってんだな」
「きな粉棒美味しいよな、わらわ結構好きじゃ。家の近所の駄菓子屋にもあるが、ココで買って当たりが出たら、やはりココで替えて貰うのかの?」
「いや~ それは無いだろ? だってそれ当たり付きじゃ無いと思うぞ」
「なーんじゃ、当たり付きじゃからエエのに。楽しみが減るのう」
「ココは駄菓子屋じゃ無いんだから。家の近くの駄菓子屋にあるんだから、ココで買わなくてもいいだろ?」
「一応買う」
結局買うんかい。もうカゴがいっぱいになってるけど、どうするんだ? コイツいつの間にこんなにカゴに入れてたんだよ?
うわ、魔王の奴ゴム風船に入った羊羹まで買ってるぞ。これって水羊羹かな? それとも羊羹なのかな? どっちだろ? 両方ありそうだな。
多分だけど、色合いが綺麗だから買ったんだろうなぁ。これ系ってついカゴに入れたくなるんだろうな。見た目って大事だよなぁ。
しかし魔王の奴、目についた物をとりあえず入れてるんじゃないか? 細々した物がカゴにアホ程入ってるぞ。
これまだ半分位しか回ってないのに、まだ他の台のも買うんだよな? 持てるのか? いや、それ以前の問題として、カゴが一つじゃ絶対足りないだろ?
「なぁアレクシア、お前分かってる? カゴが既にパンパンになってるんだけど?」
「ん? まだまだ入るじゃろ?」
「カゴいっぱいに入ってるぞ。無理じゃないか?」
「カゴを揺すったら嵩が減るから、いけるいける。大丈夫じゃ」
「それにしてもだよ。ココの売場にある台のまだ半分位しか見てないだろ? まだ見て無い台が半分残ってるぞ。その見て無い台に買いたい物があったら、もうカゴに入らないじゃないか」
「うーん……。なぁなぁ悠莉。もうひとカゴ分買いたいんじゃが……」
「言うと思ったよ。お前カゴを二つも持って買うのか? と言うか持って帰れるのか? 結構な量になるぞ」
「ゆ、悠莉…… このカゴ持っててくれぬか? 持ち帰るのも手伝って欲しいんじゃが……」
「やっぱりかよ、言うと思ったよ。お前今日は良いけど、本当に加減して買えよ。持ってやるけど、今日は特別だからな」
「やった~ ありがと悠莉♪」
もう…… やっぱこうなったか。多分そうなるだろうと思ったけど、予想が当たってもちっとも嬉しく無い。
まぁ良いや、あとひとカゴ分は許そう。うん、せっかくの旅行だ、たまの事だから良いけど、今日だけの特別だ。コレを許し続けるとコイツは、調子にのるから気を付けなければならない。
ん? コイツ…… カゴを揺すったら嵩が減るって言ってたが、かなりカゴの中が密集してないか? あーあ、コレ一体幾らになるんだろ?
今日だけでなく、明日も買って良いって言ってるんだから、そんなに無理矢理詰め込まなくても良いのに。
と言うか魔王の奴分かって無いだろ? 明日も買って良いって言った事を忘れて無いか? それに周りの量り売りの店でも買おうとするだろうし、持てるのか?
向こうのアレってグミの量り売りの店だよな? 多分あそこでも買いたいって言うだろうし、あっちのチョコレート専門店も量り売りだよな? 多分そこでも買いたいって言うだろうな。
あーあもう。コイツ本当に無茶苦茶楽しそうだな。これでダメって言ったら、間違いなくゴネるだろうなぁ。
百歩譲って買うのは別に良いけど、持ち歩くのが面倒なんだよなぁ……。あっちの店はダメって言ったら絶対ゴネるだろうなぁ。魔王の奴、ココに来るの本当に楽しみにしてたし、今日は仕方ないか。面倒だなぁ……。
キャンディの量り売りもあるが、そこも人が多いな。ん? あれって、ペロペロキャンディの専門店か? ロリポップ? ん~? ペロペロキャンディとロリポップ、どっちが正式名称だ?
スマホで調べるか。あー 日本ではペロペロキャンディで、アメリカではロリポップって言うんだ。ふーん……。 だからあの店、両方の呼び方で書いてるのか。えっ?
何アレ? 巨大ペロペロキャンディ?
ポスターか? いや、立体感があるな、実物?
えっ? 本物? いやいや、作り物だろ?
んー? 良く見ると値段が書いてあるぞ、微妙に値段が見えない。ちょっと待て、値段が書いてあると言う事は本物かよ! デカっ! これだけ離れててもあの大きさって、どんだけだ? 人が持てない位にデカイぞ。アレ本物のアメだよな?
直径1メーターはあるんじゃないか? いやいや、越えてるな。しかも分厚いぞ。
何じゃありゃ? 魔王と一緒に台を移動するまで分からなかった。死角になってたんだな。
人が多いのはアレ目当てか。写真撮影出来る様にしてるんだな。撮影待ちの列が結構ある、うん、人が横に立つとアレの大きさがより際立つな。
「なぁアレクシア、アレ見てみろよ」
「何じゃ?」
「あのペロペロキャンディだよ」
「あーアレか、ネットで見たけど、実物はより大きさが際立つのう。悠莉、買い終わったら後で見に行こう」
「そうだな。なぁ、アレの前で記念撮影でもするか?」
「そうじゃな…… しようか」
うん、俺も魔王も旅行のテンションで、何時もならあまりやらない事をしようとしてるな。
たまの旅行だし、それも良いもんだ。しかし……。
「アレって売り物だよな? 幾ら位するんだろ?」
「アレか? 確か三十万位だったんではないか?」
「三十万? いい値段するなぁ……」
高いが、あの大きさなら良心的な価格なのかな? とは言え誰が買うんだ? 多分だけど食べる為に買うと言うより、飾りとして買うのかな? イベント用にであるならば、盛り上がりそうだ。
「なぁお前はアレ欲しくないの?」
「アレか? いや~ 流石にアレはのう。あんな大きな物どうやって食べるんじゃ? わらわアレよりも、手に持てる程度の大きさの方がエエわい。あんなの一生掛かっても食べ終わらぬぞ」
確かにそうだな。俺も一生掛かっても食べきる? 舐めきる自信は無いな。
だがアレって、自分だけで食べる事を考えるといらないが、贈り物としてはどうだ?
何せあの大きさだ、インパクトは十分だ。うん、贈り物として考えたら優秀だよな。
こっちの世界でもそうだ、異世界であれば贈り物としては優秀どころか、極上の贈り物になるな。
有力者に贈る物として考えれば、アリなんじゃないか? どうする? 一つ三十万か。十コ買っても三百万だ。
配送サービスもあるだろうし、買っちゃおうか。実物を見てからだが、贈り物用として買うかな。
「悠莉、お前まさかアレ買うつもりか?」
「うん、どっかにとばされた時に役に立つかと思ってな」
「どんな役に立つと言うんじゃ?」
「そりゃ・・・・・・・・・・・・」
~~~
「なるほどのう。しかしアレをなぁ。一瞬アレを武器にする為に買うのかと思うたわ」
「確かに打撃武器にも出来そうだけど。どっちかと言うと、俺よりお前の方が似合うよな」
「何でじゃ、あんなメルヘンチックなのが似合うのなど、魔法少女くらいじゃろ? わらわ魔法少女では無いぞ」
「・・・」
いやいや、お前の今の格好を見たら、殆どの奴がお前の方が似合うって言うよ。
ゴスロリにあの巨大なペロペロキャンディは、良く似合う。だがそうだな、魔法少女と言うより、魔王少女な訳だが。
僕と契約し…… 止めとこう。
「それにしてもアレ、ここから見ても大きいのう。近くで見たらどんなんじゃろうな?」
「そうだな、大きいと言うより巨大って言った方がしっくりくるな。なぁアレクシア、お前アレ要る?」
「うーん……。あんなの持っておっても、食べぬじゃろうしなぁ……。現実感が無さすぎて、美味しそうには見えないんじゃよなぁ。それこそ武器くらいにしか使い道が無さそうじゃ。それなら普通のやつが欲しい。アレ完全にネタじゃぞ、しかも出オチ感が凄い一発ネタじゃな」
「確かにな。まぁ良いや、一応お前も一つ位は持っておけ。何なら売れるだろうし、どうせ腐る事は無いんだ、アレはアレにでも入れとけば、何時か役に立つ時も来るだろ」
「んー…… そうじゃな、一つくらい入れておくか。なぁ、普通のも買ってもエエんじゃろ?」
「ん、別に良いぞ、だけど今日は荷物が多いから、明日以降に買おう」
「そうじゃな。とりあえずはココで買わねばならん。まだ見てない台もあるからの」
「へいへい。それと何度も言うけど、加減してくれよ。ホテルまで持って帰らなきゃいけないんだからな」
「分かっとる、分かっとる。ホレ行くぞ悠莉」
あーあ、今日はコイツの荷物持ちかぁ。
とは言えたまの事だし仕方ない。魔王の奴も楽しそうにしてるし、たまには良いか。
22時にも投稿します。




