第19話 ソフトクリーム事変
「なぁアレクシア、眠い?」
「ん? ん~…… 意外とそうでも無いな」
魔王の奴、珍しく今朝は早起きしていた。
余程楽しみだったんだろう。普段からこうなら良いが、難しいだろうな。
「もう少し遅い出発でも、良かったんじゃないか? どうせ到着してもチェックインしたり、色々してたら夕方位か、夕方前になるんだし」
「早い時間に着いたらお菓子のアレ、ラウンド菓子のコーナーに行きたいし、屋上のゲームコーナーも軽くで良いから見たいし、だからあの時間に家を出て丁度良いぐらいじゃ」
「急いで行くつもりは無いぞ、前以て言ってただろ? 途中のサービスエリアとかパーキングエリアに寄りつつ、ゆっくりのんびりと行くって」
「分かっておる、途中で休憩したり、食事したり、買い物しながらじゃろ? わらわもご当地メニューを食べたりしたいからそれでエエ」
コイツもその土地の美味しい物を食べるの、楽しみにしてたもんな。そうだ、道の駅にも寄らなきゃ。ただ時間制限があるから、高速から道の駅に寄るのは気を付けないとけない。おっと!
「おいアレクシア、外で俺の事は何て言うんだっけ?」
「悠莉じゃろ! 分かっとるわい。もう! 毎回毎回言われたら嫌でも覚えるわ……」
「ん、それだけか?」
「わらわの名前は、アレクシア・マオ・ヘルクス! それと外では魔法を使うの禁止じゃろ? なぁ、わらわの名前マオって要るか?」
「名前の件は俺に言われてもなぁ、あの神に言え。それとくどいようだが魔法は本当に使うなよ、バレたらシャレにならん、俺も出掛けに毎回気を付けるって、自分に言い聞かせてる位だからな」
「分かっとるわい、魔法も使わぬし、お前は悠莉、才賀悠莉じゃろ」
「ん、お互い気を付けよう、アレクシア・マオ・ヘルクス」
「お前フルネームで言うな。もう……、わらわ本当はアレクシア・ヘルクスじゃのに……」
うん、さっきも言ったが、それはあの神に言え。多分あの神も、思いつきで適当に考えて言ったんだろうけど。
と言うかこの前あの神が出現? 声を? 掛けてきた時に、名前の事を言えば良かったのに? 何で言わなかったんだろ? 多分だが色々と衝撃的過ぎて、そこまで考えられ無かったんだろうな。
「なぁ悠莉? 朝ご飯は次のサービスエリアかパーキングエリアで食べるんじゃな?」
「そうだな、そうしようか。なぁ、次に車を停めて、出る時な、車の屋根開けようか?」
「何を言っておる、ダメに決まってるじゃろ。そんな事をしたら、髪が乱れるではないか。いや、髪が無茶苦茶になる、絶対ダメじゃ、それに帽子が飛んで行ったらどうする? ダメじゃ、絶対ダメ」
「その辺りはちゃーんと考えて設計されてるから、大丈夫だよ。オープンカーはそれも計算して設計されてるから、大丈夫だって」
「あのなぁ、今走っておるの高速じゃぞ。確かに、風が車内に入り込まん様に造られておるのかも知れんが、突風が吹いたり、横風が吹いたらどうするんじゃ? ヤメろよ、嫌じゃぞわらわ。それに虫が飛び込んで来たらどうする? 危ないではないか」
「・・・」
魔王のクセに正論を……。生活魔法の除虫を使えば大丈夫だが、コイツに外で魔法を使うなって言った俺が使ったら、示しが付かない。
それに突風や横風が吹いて、車内に風が入り込んだら、コイツが俺のせいだとギャーギャー言うだろうな。仕方ない、諦めるか。
「お前絶対開けるなよ。なぁ、何でオープンカーなんぞ買ったんじゃ? もう一台もオープンカーじゃし、屋根付きのを買えよな」
「うるさいなぁ、良いだろ別に。普段だらしない格好のクセ、たまのお出かけの時は気合い入れた格好するよな。もう…… オープンカーで屋根開けて走ると気持ち良いのに……」
多少は風を感じながら走ると、気持ち良いし、気分も良いのに、それなのにコイツは……。ロマンの分からん奴だよ、それにオープンカーも屋根は付いてるわ、いちいち突っ込まんけど。
「髪が乱れるわ! それと普段と、たまのお出かけは別物じゃ、大体じゃなオシャレは女の嗜みにして、喜びじゃぞ。エエか、普段は普段、お出かけはお出かけ、それはそれ、これはこれじゃ」
「意味が分からん。オシャレが女の嗜みなら普段からちゃんとしろ。それにお前普段はスッピンのクセ、そう思うなら普段から化粧しろ」
服もそうだが、今日はバッチリメイクを決めやがって。それは別に良いんだけど、そう思うなら普段から決めとけ。言ってもムダだろうけど。
「フッ…… 女心が分からん奴じゃな」
「何が女心だよ? お前向こうではあんな格好しといて良く言うよ。サキュバスの方がもっと慎み持った格好してるぞ」
「だからアレは魔王としての正装じゃ。あっ! 悠莉、お前わらわがこっちに来た時、わらわの裸を見たじゃろ? 思い出したぞ……」
チッ…… 余計な事を思い出しやがって……。しまったな、サキュバスの方がっての、コイツがこっちに来た時に言ったっけ? いらん事を言ってしまったな、又コイツはギャーギャー言うんだろうな……。
「おい、お前聞いておるか? わらわの裸を見おってからに…… わらわまだ誰にも見せた事無かったんじゃぞ」
「知らんがな。裸って言っても今のその姿だろ? 元の姿の裸を見たのなら、言われても多少は仕方ないが、今のロリ姿の裸を見てもなぁ。それにアレは俺のせいじゃ無いだろ? 原因はあの神だ、俺のせいでは無い。俺も被害者だぞ、見たくもないモンを見せられた被害者じゃないか。冤罪だ、俺は悪くない」
「何だとぉ、見たのは事実じゃろうが、それを見たくもないモンじゃと? 謝れ、わらわに謝れ、このエロガッパが!」
「誰がエロガッパだ? 俺は被害者だ! 元の姿に戻って、元の姿で言ってみろ、この改造ロリが!」
「誰が改造ロリじゃ? くっ…… わらわとて元の姿に戻れるなら戻りたいわ!」
「おう、元の姿に戻ってくれ、そしたら喜んでお前の裸を見てやるよ」
「アホか見せるか! 何が見てやるじゃ? 見せる訳が無かろう」
「あの姿なら、元の姿なら、見てやらん事もないが、元に戻らないのならこんな話は意味が無いな。おっ! サービスエリアが見えてきた、さっ、行こうか改造ロリ」
「くっ…… 又、又コイツわらわの事を改造ロリと言いおった…… 何が見てやらん事も無いじゃ…… くっ!」
くっ、じゃねーよ。今のお前はロリだぞ、改造ロリではあるが、ロリに変わりはない。そんな姿のお前の裸を見てもなーんも感じんわ。
コイツが元の姿に戻ったらなぁ…… そしたら喜んで見てやるのに。中身はともかく、見た目は、そう、見た目だけは良い女だ。うん、喜んで見させて貰うね、何なら拝みながら見てやっても良い。
しかしコイツまだブツブツ言ってやがる。どうせ飯食ったら機嫌も直るだろうから、ほっとこ。
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「美味かったな」
「じゃな、しかし海から遠い、しかもこんな山間の場所なのに、何で海老が名物なのじゃ?」
「何かここら辺って、海老の養殖場が多いらしいぞ。そこら中に養殖場があるらしい、だから海老が名物みたいだな」
「ふーん。おっ、なぁなぁ悠莉、わらわソフトクリーム食べたい」
「良いな、だけど買った物を車に置いてからな」
しかし朝飯にエビフライ定食と、ポップコーンシュリンプってかなりハードな朝食だな。だけど朝飯って言う時間からは少し遅いから、ブランチとも言えるか? まぁどうせ昼飯も何やかんやで食うとは思うが。
さて、周りに人は居ないな? トランクに入れるフリをして、今の内に素早くアイテムボックスの中に入れてしまおう。
外での魔法は禁止だが、買った物をアイテムボックスに入れるのはOK。と言っても魔王には基本的にさせていないがな。だって魔王の奴、ついうっかりで周りに人が居る時とか、防犯カメラにバッチリ映ってる時にやりやがりそうだから。
「なぁ悠莉、終わった?」
「うん、買いに行こう」
「なぁ、お前買い過ぎではないか?」
「備蓄だよ、備蓄。又どっかに飛ばされた時用。備えだよ」
「お前のは貯めグセじゃろ? とは言えあればあるほど助かるが、お前は貯める事に喜びを感じておるからの」
「お前失礼だな。この話は何回もしただろ? それをタメ癖って……。どうせ腐ったり傷んだりしないんだ、備蓄は多い方が良いさ」
この備蓄はお前の為でもあるのに、それなのにコイツときたら。まぁ良いや、今の内にタメ癖だの、備蓄に喜びを感じてるだの言っておけば良い。
あの神に異世界に飛ばされた時に分かるだろう。その時はキャン言わせてやるからな。
「ここアイスもあるではないか。どうしょう? ソフトクリームの口じゃったが、アイスもエエなぁ」
「おいアレクシア、枝豆のアイスとかソフトクリームがあるぞ」
北の方には結構あるって聞いた事があるけど、確か東北地方だったか? 南側? 西日本寄り? のこの辺りにもあるんだな? この辺りも枝豆が名産品って、お土産コーナーに書いてあったな? 意外と美味そうだ、どうしよう? 一回食ってみるか?
「色物枠じゃな、でも何故か美味しそうに見えるんじゃが、何でじゃろう?」
「俺はこの枝豆ソフトにする、お前どうする?」
「ん~…… 枝豆のう……。いや、わらわバニラにする。バニラはハズレが無いし、山間のトコであれば、バニラじゃろう。バニラ味のソフトクリームにする」
冒険しない奴だ。コイツ枝豆にするか、バニラにするかをかなり迷ってたな? 後でやっぱり枝豆にしとけば良かったって言わないだろうな?
「なぁ悠莉、ソレ抹茶っポイ色合いじゃな?」
「そうか? 抹茶にしては色が薄いだろ」
おっ、微かに枝豆らしき匂いがするぞ。魔王が言う様に匂いだけ嗅ぐと、色物感が凄いな。
でも匂い? 香り? は悪くない、俺はこの香り意外と好きかも。後は味か……。ん? これは。
「結構美味いなコレ。ちょっと甘じょっぱい? 微かな塩気と甘味、それと枝豆の香りが結構合ってるぞ。当たりだコレ」
「・・・」
「口当たりも滑らかだな、美味いな枝豆ソフト」
「・・・」
ん? 魔王の奴えらく静かだな? うーん…… 何で魔王君はボクの事を見てるのかな? そして何故、視線が俺の枝豆ソフトに向いてるんだろう?
「イケるなコレ、美味い。当たりだ当たり」
「・・・」
「塩気が絶妙だ、飽きが来ない味だよ、美味い美味い」
「・・・」
人が食ってる最中にジーッと見て来やがって。気になるじゃないか、言いたい事があるなら言えば良いのに。
「おいアレクシア、お前俺の顔を見つめるな。何だ? お前もしかして俺にホレたか?」
「そんな訳あるかぁ~!」
「じゃあどうした? さっきからお前は俺の顔と、俺の枝豆ソフトを見つめてるが、何か言いたい事があるのか?」
「いや…… 美味しそうに食べておるから……」
「うん美味いな、さっきから言ってるだろ?」
コイツ羨ましそうな顔して見て来やがって。多分バニラじゃ無く、枝豆にしておけば良かったって思ってるんだろうな。
「なっ、なぁ、わらわに一口……」
「何だって? 聞こえない」
「いや、じゃからわらわにソレを一口……」
「ソレじゃ分からん、何を一口だ?」
「じゃから、悠莉が食べておる枝豆ソフトを、わらわに一口食べさせて欲しいんじゃが……」
言うと思ったよ、どうせ俺が美味そうに食ってるのを見て、食べたくなったんだろうな。しょうがないなぁ、だが頼み方ってのがあるからな。
「そうか、なら…… 哀れなワタクシめにどうか一口お恵み下さいませ、と言うなら一口やろう」
「なっ!」
「どうした? 欲しいんだろ? なら言ってみろ」
「くっ……。哀れな、わらわに…… 一口恵んで下さい……」
「おい、言い方が違うぞ。と言うか本当に言うんだな? ちょっとビックリしたぞ」
コイツ本当に言いやがった、まさか本当に言うとは正直思って無かったな。
「お前が言えと言ったクセ……」
「本当に言うとは思わなかったんだよ。で? 言い方が違うぞ、ちゃんと言え」
「おい、話が違うぞ」
「俺は、哀れなワタクシめにどうか一口お恵み下さいませ、って言ったんだ、お前が言ったのは正解じゃない」
「・・・哀れなワタクシめに…… どうか一口、お恵み下さいませ……」
「お前スゲエな、本当にちゃんと言いやがった。そんなに食いたいのか? 仕方ない、一口だけだぞ、ホレ」
ちゃんと言ったからには、約束は守らなければならない。仕方ない、一口位は別に良いか。ん?
「あっ!」
「・・・」
「おい、お前何してんの? なぁ、何してくれちゃってんの?」
「・・・」
「コ、コイツ…… やりやがった」
「本当じゃな、美味しいなコレ」
美味しいじゃねーよ! 何て奴だ、信じられん。そんな事やるか? 普通やらんだろ?
「お前、お前、何ガバッと食ってくれてんの? なぁ? 一口で半分以上食ってんじゃないか。お前……」
マジかコイツ。一口食って良いとは言ったけど、一口で半分以上食うか? いやまぁ、俺もソフトクリームの先端は食ったぞ、でもコイツ半分以上一口で喰らいやがった……。
コーンの上には、ちょこんとしか残って無いじゃないか、どんだけだよ? 小学生かお前は? いやいや、それ以前の問題として、良く一口でココまで食ったな? 逆に凄い。
コイツめ~ 口の周りにソフトクリームが付いてるじゃないか、どんだけデカイんだよお前の口は? それに加え、あんだけいっぺんに冷たい物を食べて、頭が痛くならないのか? 人間かコイツ? あー、コイツは魔族だったな。
「わらわも枝豆にしたら良かったかの? 失敗したかも知れぬ」
「お前ふざけんなよ! 食い過ぎだろ」
「はぁ? 一口食べて良いとお前は言ったではないか? わらわにあの様な屈辱的な事を言わせおって…… 一口で勘弁してやったわらわの寛容さに、礼を言ってもバチは当たらんぞ」
「むしろバチが当たれ! それと寛容さがある奴は、一口であんなに喰らわんわい。なぁ、お前あんだけいっぺんに食って頭痛くならないの?」
「頭? あー、そりゃゆっくり食べて飲み込んだから。じゃがちとばかし量が多かったかも知れぬ、食べるのも飲み込むのも時間が掛かったわい」
そう言えばコイツ、口がハムスターかって位にパンパンになってたな? それにしてもどんな口してるんだ? いっぺんにあんなに……。
いや待て、口の周りが枝豆ソフトで薄緑色になってる。と言う事は無理して食ったって事か? そこまでして喰らうか? コイツやってくれたな……。
「どうした悠莉よ? 呆然としておるが、何かあったか? んん~~~? 何があったんじゃ? わらわに言うてみい」
「こんのクソガキ……。お前寄越せ、お前のソフトクリームを寄越せ」
「バカめ、そう言われて渡す奴等居るか! あ~ バニラも美味しいなぁ」
こ この…… コイツはガキか? 嬉しそうな顔が腹立つ、何この顔? 俺をやり込めて気分が良いって事か? その顔はそうなのか?
「このポンコツロリが……」
「誰がポンコツロリじゃ?」
「お前だよ、合法ポンコツロリ! アレクシアお前、口の周りにソフトクリームベッタベタにつけて何を抜かしてんだ? 十分ポンコツだし、ガキだろうが」
「えっ? 嘘? 口の周りに付いておるか?」
「お前気が付かなかったのか? ホレ、そこの扉で見てみろ、鏡みたいになってるトコあるだろ?」
コイツ本気で気が付いて無かったんだな? いやいや、普通分かるし、気が付くだろ? 口の周りがベタつかなかったのか?
「ヒィ~ 何じゃこりゃ~ 思いっきり付いておるではないか~」
「だから付いてるんだよ、ホラ、ソフトクリームを持っててやるから、ティッシュをバッグから出して拭け」
「おお、すまぬな、じゃあ……。て、おい! 思わずつい渡してしまう所であったわ、渡す訳無かろう」
「何でだよ? 両手が塞がってるから、ティッシュを取り出せないだろ?」
「渡したらお前食べるであろう? 危ない…… 思わず渡す所であったわ」
チッ…… 引っ掛からなかったか。しれ~っと言えば渡すかと思ったが、流石に気付くか。
この金髪改造クソロリめ、俺の枝豆ソフトを思いっきり喰らいやがったんだ、ならコイツのソフトクリームを喰らい返さないと、損失補填が出来ないじゃないか。
「じゃあお前どうすんの? 口にソフトクリームが思いっきり付いたままだけど? 両手が塞がってるからティッシュを取り出せないぞ」
「バッグを何処かに置けば取り出せるわ。台は、置き台は何処かにないか?……」
コイツ知恵を付けやがったな。バッグを置くための台に気付くとは、多少は知恵が付いたみたいだ。だけど台はあるかな? あっても綺麗な台があるか? さぁどうだろうな?
「無い、無いでは無いか」
無い無いと慌ておって、滑稽じゃのう魔王よ。
普通はこんな所なら、台とかテーブルがあるもんだが、ココには無いんだよなぁ。だがお前はもう少し落ち着いた方が良いぞ、何故ならあの植え込みか生垣か分からんが、その先の遊歩道的な所にベンチが等間隔で設置されていたのを見たはずだ。駐車場からこっちに来る時に見たはずなんだが、案外気付か無いもんだな。
「何で無いんじゃ~」
だから落ち着けよ、ベンチがあるだろ? そこに置けば良いのに。うん、車止め代わりの植え込みか生垣で隠れて見えないとは言え、ちょっと冷静になれば分かると思うんだけどなぁ。
それにしても普通ベンチって、駐車場側向きより建物側を向いてあるもんじゃないのか? それなのにココって、駐車場側に向いてあるんだよなぁ。
あんな所にあったら危なくないか? 車が突っ込んで来たらどうするんだろ? 斜めに駐車するから大丈夫って判断か? 一応ベンチのある遊歩道自体も危ない気がするけど、遊歩道の所と駐車スペースには段があるし、車止めみたいなのもあるから大丈夫って事かな?
「あっ、ソフトクリームが溶けてきたではないか」
さっさと食わないからだよ。俺はもう食っちゃったけどな、何故か量が少なくなったから、直ぐ食べ終えた訳だが、何でだろうね?
「手に、手に垂れてきたぞ、はわわ…… 先に食べ…… でも口が……」
ソフトクリームあるあるだな。大人になったら滅多にならないが、子供ってソフトクリームを食べると、高確率でソフトクリームを溶かして垂れさすよな? そんでコーンの部分がフニャフニャになって、ソフトクリームを落とす、と。
子供がソフトクリームを食べる時の、様式美と言っても良いな。そんで泣くんだよな。
「あー! 悠莉お前! お前なにスマホで撮っておる? 動画を撮影しとるじゃろ?」
「旅の思い出」
「何が旅の思い出じゃ、わらわが大変な目に遭っておるのに」
「アレクシアちゃーん、可愛いよ~ プフッ……」
「コヤツ、わらわの災難を……」
何が災難だよ? さっさと食わないからだろ? それは自業自得って言うんだよ。
「あっあっあっ、ソフトクリームが無茶苦茶垂れてきた。あわわわ、口のも何か垂れてきてる」
見苦しい姿になってきてるな。流石にコレはどうなんだ? 仕方ないな……。
「なぁ、あっちの遊歩道の所にベンチがあっただろ? こっちに来る時に見てないのか?」
「おい! 早く言えよ、何でもっと早く言わなかったんじゃ?」
「知らんがな。お前が焦ってて、気が付かなかっただけの話だろ?」
「もう! まぁエエわい、悠莉、ソフトクリームを持っててくれぬか?」
「お前ふざけんな、何でそんな溶けまくったソフトクリームを持たなきゃならない? バッグを貸せ、持っててやるから」
この金髪合法ロリが! 何で俺がそんなドロドロのソフトクリームを持たなきゃならないんだ? コイツ大概だな。
「あー! バッグをお前に持って貰ったら良かったのか! 何で早く言わぬ?」
「普通気付くだろ? お前はどんだけテンパってたんだよ?」
俺のせいじゃねーよ、お前が単にそんな事にも気が付かなかった、ただそれだけのクセしやがって…… チンピラかよコイツ?
「あっあっあっ…… ソフトクリームが、口の周りが、溶けてく溶けてく、口のが……」
「早くバッグを貸せ。おいアレクシア、まずは口周りを拭け、そしてさっさとソフトクリームを食べてしまえ」
「こんなにドロドロに溶けたソフトクリームを食べるの嫌じゃなぁ」
「自業自得だ、早く食べないからだろ?」
「う~ ティッシュ~」
コイツ子供より手が掛かる奴だな、俺はお前のお母さんじゃ無いんだぞ。
「もう! 出してやるから待ってろ」
「悠莉~ 早く~」
「もう!」
バッグの中もっと整理しておけよ、何でぐちゃぐちゃなんだよ? 整理整頓が出来ない奴だな。
「おい、お前ティッシュ入って無いんだけど? もしかして入れ忘れた?」
「えっ、嘘?」
「入って無いよ。仕方ない、俺のをやるから少し待ってろ」
整理整頓しないからこうなる。出掛けに確認しろよな、小学生でももう少ししっかりしてるぞ。
「ホラ、口拭け」
「手がベタベタする~」
「早く食ってしまえ、そして手を洗いに行け」
「なぁなぁ、わらわの服にソフトクリーム付いてないか? 大丈夫か?」
「ん~?」
服? ドレス? には付いてる様には見えんな。
ゴスロリは汚れが微妙に見にくいんだよな、ましてや白基調のだから余計に分かりづらい。大丈夫っポイけどなぁ。
「多分大丈夫と思う、白だしいまいち分かりづらいけど、付いては無いんじゃないかな」
「本当か? 汚れておらぬか?」
「お前すぐ汚すんだから、白はヤメろよ。汚れが目立つぞ」
「仕方ないではないか、わらわコレ気に入ったんじゃから」
魔王なら魔王らしく、黒基調のにしとけ。
そしたら汚れも目立たないんだし。
コイツ黒基調と言うか、黒一色のも持ってたよな? その日の気分で着てるから、俺がそれに口出ししたらギャーギャーうるさいからあまり言えないんだが。
「もう……。なぁ、さっさと食ってしまって手を洗いに行け、な?」
「分かった、そうする……」
まだ移動中、それも出発してそんなに時間が経ってないのにコレだよ。先が思いやられる。
「手が~ 手がベタベタする~。口も何かベタつく。早く手と口周りを洗いたい……」
「ポケットティッシュの予備があるから、バッグに入れとくぞ。それとハンカチは大丈夫だな?」
「分かった。ハンカチはあるから大丈夫じゃ」
俺はお母さんか?
「さっきは美味しかったのに、溶けたら美味しくな~い」
ハァ…… ため息しか出ないよ。
明日も投稿します。