第13話 レッサーパンダちゃん
「はぁ…… 良いお湯じゃった。さぁ、何飲もうかな」
魔王の奴、俺が言わなきゃ風呂に入らないクセ、入ったら入ったで気持ち良さそうにしてやがるんだよなぁ。
それなら俺が言わずとも、さっさと入ってしまえば良いのに。何で毎日毎日、俺に言われるまで入らないんだろ?
「ふ~ 風呂上がりの一杯は格別じゃな」
だろうな。なら毎日ゴネずにさっさと入れよ。
しかし…… 魔王の奴、ガキの姿でビールをイッキして飲んでんの、違和感が凄いな。
コイツ日によってビールだったり、チューハイだったり、コーラとかサイダーだったり、毎回風呂上がりに飲む物が違うよな? 何だろう? 気分によってってより、本能の赴くまま生きてるって感じてしまうのは何故なのだろう。
「どうした勇者? わらわを見詰めて? 風呂上がりのわらわの美しさに見惚れておるのか?」
「フッ・・・」
「おい、何で鼻で笑っておる?」
いやいや、そんなん鼻で笑っちゃうわ。何が見惚れてるだよ、そんなギャクをカマされたら笑うに決まってるだろ。言ったら煩いから口に出さないがな。
「さぁ、トイレ行こうっと」
「おい、何か無理矢理誤魔化しておらぬか?」
誤魔化してるんじゃありません、無駄な争いを避ける努力をして居るんです。
~~~
ん? 魔王の奴め、又電気点けっぱにしやがって。何度言ったらアイツはちゃんとやるんだ? もう、毎日毎日アイツは……。
洗面所の電気だけじゃ無く、風呂場の電気も点いてるじゃないか。ん~? 洗濯機の蓋が閉まりきって無いぞ、あのポンコツ魔王めが…… ん?
「おい魔王!」
「何じゃどうした?」
「お前、風呂場と洗面所の電気、又消して無かったな?」
「おー そうじゃったか」
「そうじゃったかじゃねーよ。お前は毎回毎回、毎日毎日何で言われた事をやらない? それとだ、お前洗濯機の蓋が閉まって無かったぞ」
「いや~ スマンスマン」
コイツ…… 反省の色無しだな。俺は魔王のお母さんじゃ無いんだぞ、何で毎日同じ様な事を言わなきゃならない? まぁ良い、良くは無いが今はとりあえず良い。
「スマンスマンじゃねーよ。それよりお前、又洗濯物が中に入りきって無かったぞ。ちゃんと洗濯機の中に入れろって何時も言ってるだろ? なぁ、それとだな、又パンツが引っ掛かって蓋が閉まって無かったんだが?」
「そうだったか?」
「そうなんだよ! 何で俺がお前のパンツを洗濯機の中に入れないといけない? お前わざとやってんの?」
「そんな訳無いじゃろ。だがわらわのパンツを見れて、お前も嬉しいじゃろ?」
「・・・」
「おい! アイテムボックスの中から刀を出すな」
「・・・」
「おいおい、刀を鞘から抜こうとするでない」
「お前…… 何でパンツを洗濯機の中にちゃんと入れない? 最近よく、何時も、洗濯機の蓋のとこ辺りからはみ出て、洗濯槽の中に入りきらず引っ掛かってるんだ?」
「いや~ 勇者が見たいかと思うてな」
「・・・」
「ちょっと待て! ちょっとした軽口ではないか。刀を鞘から抜くでない」
「・・・」
「待て待て待て待て。お前それ同田貫じゃろ? シャレにならぬぞ。お前その刀シリーズ、大事にしておるではないか。待たぬか、ちょっとしたジョークではないか」
何がジョークだ? 何が軽口だ? コイツ…… 何でコイツのパンツを俺が毎回、洗濯機の中に入れなきゃならない? ふざけやがって……。
「聖剣の方が良いのか?」
「それこそシャレにならぬわ。止めい、とりあえず刀を鞘に納めて、アイテムボックスの中に戻せ」
「ちっ…… 言い訳を聞こうか」
「ちゃんと中に入れたと思ったんじゃが…… 入って無かったみたいじゃなぁ」
「いや、入ったかちゃんと確認しろよ。最近又、パンツが引っ掛かってる事が多いぞ。その度に毎回俺がお前のパンツを中に入れてるんだけど」
このズボラ魔王め。何で俺がコイツのパンツを入れ直さなければならないんだ?
「お前なぁ、何で俺がお前のきったないパンツを、入れ直さなきゃならないんだよ。いい加減にしろよな」
「ちょっと待て、わらわのパンツは汚く無いわ。わらわクリーンを掛けておるし、綺麗じゃぞ」
「いや、そう言う問題じゃ無いから。それとだな、お前さっきわらわのパンツを見れて嬉しいだろとか抜かしてたが、お前の洗濯物を洗濯してんの俺なんだが? もう見慣れたし、しかもお前のパンツを見ても嬉しくも無い。なぁ魔王、お前少しは恥じらいを持った方が良いと思うぞ。お前、俺にパンツ見られて恥ずかしくないの?」
「それこそ今更じゃろ。わらわの洗濯物はお前が洗濯しておるし、恥ずかしさとかは無いなぁ」
「・・・」
いや、恥じらいを持てよ。コイツ慣れすぎじゃないか? いやまぁ、今更って言われればそれまでだけど、一応女としてはどうなんだ?
「しかしおかしいのう。ちゃんと洗濯機の中に入れたと思っておったが、入って無かったか」
「だから洗濯機の中にちゃんと入ったかを毎回確認しろよ。お前のパンツ、綺麗に広がって洗濯機の入り口横に引っ掛かってたぞ。お前本当、だらしないよな、何で俺がお前のアライグマ柄のパンツを洗濯機の中に入れないといけないんだ?」
「何を言っておる、あれはレッサーパンダじゃ」
「はぁ? アライグマだろ?」
「フッ…… あのパンツはアライグマでは無く、レッサーパンダちゃんじゃ!」
「どっちでも良いわそんなの!」
何がレッサーパンダちゃんだよ? 俺が言ってるのはそんな話じゃ無い。洗濯機の中にちゃんと入れろって話をしてるんだ。
「何を言っておる、アライグマとレッサーパンダでは、全く別物じゃぞ。あのレッサーパンダのパンツはわらわのお気に入りじゃ、履き心地が良いんじゃぞ」
「知らんわ。レッサーパンダかアライグマか知らんが、洗濯機の中にちゃんと入れろよ。それとお前、あのパンツ結構ヨレヨレになってるから、新しいの買ったら? 別にパンツ位買ってやるぞ」
気に入ってるかどうか知らんが、あんなヨレヨレのパンツは流石どうかと思う。
しかしあのパンツ良く見ると思ったら、お気に入りかよ? 何であんなガキくさいのを履くんだ? 魔王の趣味がいまいち分からん。
「新しいのなぁ…… しかし履き心地がのう……」
「あんなヨレヨレの履いてて、女としてどうなんだ? パンツ位買ってやるから新しいの買え。それとブラ…… はいらないか。そうだな、ジュニアブラすらいらんか…… パンツだけで良いな」
「おい、わらわのどこを見て言っておる?」
「どこって…… なぁ……」
「・・・」
いやいや、魔王の奴は今の自分の姿を忘れていないか? どう考えてもブラなんぞいらないだろ。
えっ、もしかして必要だって思ってんの? 元の姿ならいるだろうが、今の姿でいるって思ってるなら、自意識過剰以外の何物でも無いと思うが、まさか魔王の奴……。
「ぷふっ……」
「おい、今笑ったな?」
そりゃ笑うわ。だがそのまま素直に認めてしまったら、ややこしくなるから認めないけどな。
「おい、わらわの胸を見ていやらしく笑う変態勇者よ」
「魔王、お前なぁ誰が変態だ。大体お前の胸なんてドコにあるんだ? あれ? もしかして落としたの? 無い物を見て笑う訳無いじゃないか。自意識過剰なんじゃないの?」
「・・・」
「己を知れ、このちんちくりん魔王めが!」
「くっ…… わらわ元の姿は、ないすばでいじゃのに。神は何故この姿にしたのじゃ……」
「そんなの面白がってに決まってるだろ。あの神だぞ? それ以外の理由なんて無いだろ」
イタズラ好きと言うか、何と言うか…… 性格に若干難アリだからな。
たまに思うがあの神は、邪神の類いではないかと思う事がある。本人は違うって言うだろうけど。
うーん…… まるで北欧神話のロキみたいだ。これも本人は違うって言うだろうけどな。
「わらわはちっとも面白くないし、笑えんのだが」
「まぁなんだ、今のお前はレッサーパンダちゃんのパンツが似合うガキなんだから、お前の胸なんぞ見ても何とも思わんな。元の姿に戻ったら見てやるが、今のお前の自称胸とやらは見て無いからな」
「勇者お前…… わらわが元の姿に戻ったら、わらわを手籠めにするつもりか? この痴漢勇者が!」
「お前ふざけんな! お前は俺を何だと思ってんだ? 大体お前、俺はそんな事一度もした事無いからな。失礼な奴だな……」
「どうだか。わらわが元の姿に戻ったら、盛りのついた犬の如く、わらわをいやらしくジロジロと見るのであろう? わらわにその劣情をぶつけようとするのではないか?」
コ コイツ…… 人を何だと思ってやがるんだ? 何が盛りのついた犬だ? 誰が劣情をぶつけるだ? 俺は女に見境の無い異常性欲の持ち主じゃ無いぞ。
「お前なぁ、発言には気を付けろよ。失礼な奴だよ全く…… お前が元の姿に戻ったら? ハッ! どうせお前が元の姿に戻っても、今と同じ様な自堕落な生活するんだろ? 引き籠って、日がな一日ゲームして、アニメ観て、ネットやってるだけだろうし。しかも常にジャージかスエットだろ? 夏場はヨレヨレの短パンにTシャツだろうし。フッ…… そんな女に欲情するかよ。もう一度言おう、己を知れ! この汚れ魔王めが!」
「お前又言ったな? 誰が汚れ魔王じゃ誰が?」
「お前だよ、この汚れロリ魔王が」
「ロリ魔王言うな! 汚れ魔王言うな! くっ、わらわとて好きでこの姿なのではないわ。元の姿にさえ戻れば…… お前なぞ、わらわの魅力にイチコロじゃのに……」
何がイチコロだ? コイツの普段のだらしない姿を見てたら、例え百年の恋でもさめるわ。
魔王にはあえてもう一度言いたい。己を知れと。
「どんな姿であっても、相手を恋に落ちさせるのが、真の良い女じゃないんですかぁ~? 今のロリ魔王の姿であっても、恋に落ちさせて本物だと思いますけどぉ~。お前はマジロリじゃ無く、合法ロリなんだからぁ~ 今の姿で魅了出来て本物だと思いますけどぉ~。まぁ当然魔法を使わないでだけどな。だが例え魅了魔法を使おうが、俺には耐性があるから効かないがな」
コイツは中身は一応大人と言うか、成人年齢を越えて居るから、合法ロリってのは間違ってはいない。
だがある意味精神年齢はガキだから、今の姿で合ってるとも言える。魔王にはその事を分かりやすく教えてあげた。
「くっ…… わらわ可愛じゃろうが? それと一応言っておくが、わらわ魅了魔法は使えぬからな!」
「そんなん分かってるよ。だが例え使えたとしても俺は耐性があるから効かないってだけだ。それはお前もだけどな。後、お前が可愛いってのは議論の余地がある」
魔王の奴も俺も、魅了魔法なんぞカケラも効かない。流石は元勇者であるし、一応は魔王を名乗って居ただけの事はある。
人や魔族の魅力魔法なんぞ屁でも無いし、例えエルフであろうと何であろうと、この世の者や理程度は俺達にとって児戯に等しい。
「はぁ? わらわ今の姿可愛いじゃろ? 何じゃ、照れておるのか勇者?」
「お前凄い自信だな。別にブサイクとは言わないけど、お前の普段の生活態度を見てたらなぁ…… あんなだらしない姿を見てたら、可愛いって思えないんだけど? 普段が酷すぎて、ちょっとなぁ…… それに俺、ロリコンじゃ無いし」
「わらわ別にだらしなく無いわ。ただちょっとスローライフを楽しんでおるだけじゃ」
「お前、スローライフの意味を履き違えて無いか? お前のはただ単にズボラなだけだよ。お前無茶苦茶だよな。何がスローライフだよ。お前のは引き籠りの、ヒキニートって言うんだ。スローライフの意味を辞書で調べてから言え」
「くっ…… お前なんぞロリコンになってしまえ。そしてわらわを敬い崇めたてろ」
「俺がロリコンに? ハッ! なるわけ無いだろ。俺は大人な女が好きなんだ。お前を敬う? 崇めたてろ? 面白い冗談だな」
ただし笑えない冗談ではあるな。大体俺が魔王の事を敬う訳が無い。こんなだらしない奴に何が悲しくって、敬い崇める要素がある? これだからポンコツは……。
「お前なんぞ本当にロリコンになったらエエんじゃ。なってしまえ」
「おお、出来る物ならやってみろ。出来るならな」
「くっ…… 本当になったらエエのに……」
『その願い、叶えて進ぜよう』
「「ん?」」
「おい魔王、今の声って……?」
「・・・あの神の声じゃったな……」
「なぁ魔王、あの声と共に俺、光ってなかったか?」
「光っておったな…… 神聖な輝きじゃったな……」
「「・・・」」
ん? あれ? 何か魔王の奴、今日可愛くないか? いや、何時も可愛いけど、今日は一段と可愛いんだけど? 何で魔王の奴、こんなに可愛いんだ?
明日も投稿します。