第12話 くっ殺魔王
天気の良い日である。
暖かさより暑さを感じ始める季節となって来た。
まだ梅雨が明けきっていないからか、蒸し暑さも感じられる。
晴れた良い天気なのに不思議だ。季節感をより感じやすくなって来たのは、俺が歳を取ったからだろうか? だけどまだそんな歳では無いんだがな。
さて…… 梅雨の晴れ間。絶好の洗濯日和。
こんな日に、何時までも感傷に浸って居てもしょうがない。洗濯と掃除をしなきゃな。とりあえずと。
「おい魔王、そこ掃除したいから退いてくれ」
「はぁ? 今良いとこじゃぞ。後にせい」
「無理。お前いっつもそう言ってゴネるけど、今日はダメです。速やかに立ち退きなさい」
「嫌じゃ。わらわ動きたく無い」
「喧しいわ。良いから退け、お前が乗っかってる絨毯を叩きたいんだよ。パタパタして、ゴミとかお菓子のカスを落としたいんだ、それと絨毯の下にも掃除機掛けたい。いいからさっさと立ち退け魔王。じゃないと強制執行を行います、速やかに立ち退きなさい」
「別に汚れておらんではないか。それに今良いとこじゃから動きたくない」
「お前さっきの話を聞いてた? お前が食い散らかしてる食べ物のカスを叩きたいって言ってるだろ? お菓子食って食べカスをポロポロ溢しやがって…… それに絨毯を軽く干したいんだよ。俺も鬼じゃ無い、移動の為の準備時間位はくれてやる、さっさと立ち退きの準備をしろ」
チッ…… 魔王の奴、ブツブツと不平不満を述べやがってからに…… 警告と立ち退きの為の時間を与えてやってるだけ、俺はまだ有情があると思うぞ。
大体ゲームしてるだけなんだし、一時停止して荷物を動かせば良いだけの話だろ。
「あっ、そのテーブルの所も掃除するから、別の場所にしてくれ」
「おい! ならわらわドコに行けば良いのじゃ? 大体掃除など毎日しなければならんのか? それに月一回は業者を入れて、家の掃除もしておるじゃろ? それとロボット掃除機も何台も家の中を徘徊して掃除しておるのに、そんなに掃除が必要か?」
「必要に決まってるだろ、この汚れ魔王めが! ロボット掃除機は絨毯を綺麗に掃除出来ないし、リビングにある絨毯は高さがあるから乗り越えられないんだぞ。それにもし乗り越えられたとしても絨毯が傷むだろ。何より絨毯の下は掃除出来ないんだぞ、なら俺がやるしかないだろ? お前みたいなだらしない女とは衛生観念が違うんだよ! この不潔魔王めが」
「だだだ、誰が汚れ魔王じゃ? 誰が不潔魔王じゃ? わらわ毎日風呂にも入っておるし、クリーンも毎日何回も掛けておる。それに身嗜みにも一応は気を遣っておるわ! お前、女に向かって何と言う暴言を…… レディに対して失礼じゃぞ」
「いや、お前俺が言わないと風呂に入らないで済まそうとする日も結構あるだろ? クリーンを掛けたら綺麗になるからって言って。それにお前がだらしない女なのは間違いない事実だし、暴言では無く、只の事実じゃないか」
クリーンは衛生魔法ではあるが、やはり風呂に入って綺麗にしないと何となく、気分的に綺麗になった気がしない。
クリーンを掛ければ、魔法で幾ら完璧に綺麗になると言ってもだ。
魔王はこっちの世界に来て弱体化したが、生活魔法に関しては元の力のまま使える。
当然完璧と言って良い程綺麗になる。だがだからと言って、風呂に入らないと気分的に何かちょっと、そう、綺麗になって無い気がする。
間違い無く気分の問題だが、それはとっても大事な事でもある。
「勇者よ、お前は女に対してなんたる暴言を…… 誰がだらしない女じゃ? わらわ清潔にしておるし、身嗜みにもちゃんと気を付けておるわ」
「なぁ、お前俺の話を聞いてる? 風呂に入らずクリーンで済まそうとするとかもそうだし、お前がだらしない女ってのは事実だろ? それと身嗜み? お前家に居る時、と言ってもお前引き籠ってるから何時もの事だけど、いっつも! ジャージかスエットじゃないか。夏場は短パンにTシャツだし、ヘタすると俺のTシャツ着て、下はパンイチの時もあるだろ? 大きめのTシャツとは言えそれはどうなん?」
「・・・」
「ホラ見ろ。お前黙ってるって事は、自分でも分かってるんだろ? たまのお出かけの時は気合い入れるが、近所とか、スーパーに買い出しに行く時は俺がさっき言った格好で何時も過ごしてるじゃないか。大体だな、お前はお菓子のカケラが落ちても掃除どころか、拾いもしないじゃないか。世間ではそれをだらしないって言うんだぞ」
「あ、後で拾おうと思って、とりあえず置いてるだけじゃ」
「いや、お前が拾ってるとこ何て見た事無いんだけど? 掃除してるとこも見た事無いんですけど魔王様。なぁ、お前の後って何時? 教えて下さいよ魔王様? 百年後ですか? それとも千年後ですか? 魔王様?」
「・・・」
コイツ言うに事欠いて、何て事を言ってるんだ? 何が後で拾うだよ? お前が拾ってるとこ何て見た事無いぞ。
別に俺と一緒に掃除しろとは言わん。だがせめて自分の身の回り位は綺麗にしろよ。
普通は食べ物が落ちたら即拾うもんだと思うが、俺は間違っているんだろうか? いや、間違って無い。普通は拾うし、自分の周り位は綺麗にするだろ。
大体コイツはリビングの一角を占拠して、一日の大半はそこで過ごすんだから、せめてその辺り位は綺麗にしろよな。
言ってもどうせやらないだろうけど。
かと言ってほっとけば汚れる一方だ。なら俺がやるしかない。
「ホラ、分かったら退いた退いた。今からソコ掃除するから、立ち退け。絨毯をパタパタして、その辺りに掃除機かけるから暫くの間場所を空けろ」
「お前は地上げ屋か……」
「誰が地上げ屋だよ。せめて執行官と言え。魔王、お前な、そんな事言ってると強制執行するぞ。ゲームしてようが、アニメ観てようが関係無く撤去するが、良いのか?」
「勇者、お前…… 横暴過ぎるぞ。断固拒否する。わらわ権力には屈しないからな!」
「お前大袈裟なんだよ。大体だな、さっきも言ったが警告した上、退去の為の時間と猶予もやるって言ってるだろ? 俺は何も今すぐに強制撤去するとは言って無いぞ。それとも本当に今すぐに強制退去…… 強制執行して欲しいのか?」
「くっ…… 」
何がくっ、だよ? ただ単に掃除するから退いてくれって、言ってるだけだろ。
それを丸で、『くっ…… 殺せ』って言ってるみたいに大袈裟なリアクションしやがって……
「おい、分かったら退いてくれ、くっ殺魔王」
「誰がくっ殺魔王じゃ! くっ殺騎士みたいな言い方はヤメい。もう…… 退いたら良いんじゃろ、退いたら。毎日毎日掃除しおってからに……」
ブツブツ煩いなぁ。掃除なんて毎日するもんだろ。お前がだらしないからそう思うだけで、普通は毎日するんだよ。
言っても無駄だからこれ以上言わないけどな。
「お前ブツブツ煩いよ。つべこべ言わずさっさと荷物を纏めて移動しろ」
「ブツブツブツブツ」
「お前なぁ、口でブツブツ言うな。つっこまんからな。ホレ、さっさとしろ」
「クリーンを掛ければすぐ済むじゃろうに…… 絨毯も生活魔法で乾燥掛ければ良かろうに…… 今、良いとこじゃったんだぞ、ゲーム中断か……」
コイツはさっきからブツブツ煩いなぁ。クリーン? お菓子のカスを落としたいんだよ。それとお日様に当てて軽く干したいんだ。
とは言え干し過ぎたら、色変わりするから軽くだけどな。お日様の香りがしてコイツだって気持ち良いんだ、それなのに……。
しかし本当、魔王ってだらしないよな。お菓子のカスとか、食べ物のカスとか気持ち悪く無いのか? 信じられん。まぁ良い、さっさとやってしまおう。
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「ふ~ 終わった~ やれやれだな。おい絨毯敷くからそこ退いてくれ」
「はぁ? 又か? わらわ今ゲーム中じゃぞ」
「そんなの見たら分かるわい。終わったら絨毯敷くの何て分かってた事だろ? それなのに何で態々そこでやる? どうせ我慢出来ずにやっちゃったんだろうけど」
「もう!」
もう、じゃねーよ。何でコイツは少し待つと言う事が出来ない? 子供か?
「良いから退いてくれ。絨毯敷くから」
「なぁ、絨毯いるか? 梅雨が明けたら夏じゃぞ、絨毯あったら暑くないか?」
「魔王、お前去年の事忘れたのか? 去年もそう言って仕舞ったけど、結局夏になる前に絨毯出しただろ? クーラー点けたら足元が寒いだの、冷たいだの言ってたじゃないか。それに床が硬いとか言って、絨毯出したの忘れたのか?」
「くっ……」
いや、だからお前はくっ、しか言えないのか?
くっ、じゃねーよ。忘れてたんだろうなぁ…… 去年の事なのに、何で忘れるかなぁ?
「この絨毯が無かったら、足元が冷たいとか、寒いと思うが? 良いのか?」
「いる……」
「だよなぁ。それにこの絨毯は結構フカフカだからな。それに肌触りも極上だし。お前は雑に扱ってるけど、コレ、幾らしたと思ってんの? この絨毯は、その辺で買ったやつじゃ無いんだぞ。絨毯屋で、それもペルシャ絨毯の専門店で買ったんだからな。お前コレ気に入ってるよな? 雑に扱ってヘタっても知らんぞ」
「・・・」
セール品だったが、元は1400万のが800万になっていた、だから買ったがセールであっても800万もしたんだぞ。横が190センチ、縦130センチでその値段もした。ペルシャ絨毯って高いんだよなぁ。
だからと言って使うなとは言わん。絨毯は使ってナンボだから、思う存分使ってくれて良い。だがせめて丁寧には使って欲しい。コイツは余りにも雑に扱い過ぎだ。
「言っとくけど、もしその絨毯がダメになったら次はその辺の量販店で買うから。それで良いなら別に良いけど」
「嫌じゃ、コレが良い……」
「丁寧に扱ってダメになるなら又買ってやるが、雑に扱ってダメになったら次は量販店の絨毯にするからな。せめて食いカス位は拾え。それとコロコロを掛けるなよ、絨毯が傷むから」
「分かった……」
本当は魔法を使って、クリーンを掛ければ絨毯も傷まず綺麗になるが、コイツは絶対クリーンだけ掛けて食べカスとか拾わなくなるからな。
何だろう、子供に言い聞かせてるみたいだ。コイツ見た目はガキだが中身は大人なのに、何でこんななんだろう? もしかして精神が肉体年齢に引っ張られてんのか? いや、元々持ってる性質なんだろうな。
しかし…… 大金が入ったから、調子にノッてバカ広い? デカイマンションを買ったが、部屋も多すぎるし、広すぎるなぁ……。
ロボット掃除機がこの家を何台も徘徊? 稼働してるが、掃除が追い付かない。
床はロボット掃除機でギリギリ何とかなってるが、それ以外の場所の掃除が追い付かない。
業者を月イチ入れて何とかかんとかだ。本当、大金が手に入ったからって調子にノッてこのマンションを買ったが、掃除の事を考えて無かった。
まさか掃除でこんな大変な思いをするとは、考えて無かったなぁ。
自分の寝室と、このリビングや、良く使う風呂場とトイレ位しか毎日掃除出来ない。
後たまに魔王の寝室も掃除してるが、使ってない部屋とか風呂場にシャワールーム、それと使ってないトイレとか業者任せだもんな。
もう魔法使って掃除しちゃおうかな? そしたら簡単に綺麗になるんだが……。どうする? 俺と魔王の寝室、それとリビングと何時も使ってる風呂とトイレは自分で掃除して、後の部屋とかは魔法を使ってやろうかな?
「なぁなぁ勇者。もうゲームやってもエエか? ゲームをセットしてもエエか?」
「・・・」
「もう掃除終わったんじゃろ? ならエエよな?」
「はぁ…… 良いよ。だけど散らかすなよ」
「分かった♪」
本当に分かってるのかコイツ? 頼むから自分の周り位はせめて掃除してくれよ……。
「ほっほー、ゲーム、ゲーム♪ あっ、ポテチ食べようっと」
ダメだこりゃ。
22時にも投稿します。