第11話 異世界とサンドイッチ 譲れない奴等
「ホットサンド美味いなぁ。わらわサンドイッチも好きじゃが、ホットサンドも好き」
「美味いよなぁ」
サンドイッチは俺が召還された世界、魔王が居た世界にもあった。
パンに具材を挟むお手軽料理であり、単純かつ簡単に作れると言う事もあるからか、アチラの世界でも割とポピュラーな物である。
だが名前は向こうでもサンドイッチと言うのは、サンドイッチ伯爵こと、あの人がどうも異世界転生したからっぽい。
だがサンドイッチ? サンドウィッチ? は、あの人が発明したと言うのはガセと言うか、嘘だと言われているしどうなんだろう?
だがあの四代目が異世界転生し、サンドイッチを発明したのだとしたら、異世界サンドイッチ論争は終わるんだろうな。
あの世界での逸話を見るに、あの四代目があの世界に異世界転生したのは、かなりの高確率で間違い無いと思う。
「なぁなぁ勇者、今度、カクシンハンバーグ使ってサンドイッチ作ってくれよ」
「ん? カクシンのハンバーグで?」
「そうそう、アレ、わらわも好きじゃ。何でカクシンのハンバーグってあんなに美味しいんじゃろうなぁ…… わらわアレを使ったハンバーグサンド大好きじゃ。米のご飯にも合うが、サンドイッチの具にしても最高に合う。本当に美味いよなぁ」
「確かにな。アレ、俺も子供の頃から大好きだし、今でも大好物だよ」
安いのに美味い。アレは、あの何とも言えないジャンクな味わいが何故か最高に美味さを感じる。
そう言えば最近アレを飯に出して無いな? 最後に出したのって、一ヶ月前だったっけか?
食いたいな…… それにアレのハンバーグサンドか、アリだな、久々に作るか。それとご飯のおかずとしても出すのも良いなぁ。ん?
「おい魔王、お前何、俺のホットサンド食おうとしてんだよ? 手ぇ放せよ」
「はぁ、何を言っておる、コレはわらわのじゃ」
「はぁ? お前は何を抜かしてんだ? コレは俺のだ、手を放せ」
「いやいや、勇者、お前さっき焼いたのも二つとも食べたではないか。それに今出来上がった物も一つ食べたよな? もう一枚食べるのは強欲過ぎぬか?」
「はぁ? お前なぁ、さっき作った時にもう要らないって言ってただろ? それなのに今更食うとか厚かましいんじゃないか?」
「何を言っておる、わらわ今は要らないと言っただけで、もう要らないとは言っておらぬわ」
「お前紛らわしいんだよ。新しく作れよ魔王」
「はぁ~? もうツナが無いではないか、どうやって作れと言うんじゃ。大体わらわ料理は出来ぬわ」
「お前は何で作れない、いや、料理が出来ない事をそんなに偉そうに言えるんだ?」
コイツ何様だよ? 何を偉そうに抜かしてんだ? 食パンに具材を挟んで、ホットサンドメーカーに挟み込んで焼くだけだろうが。
「お前放せ、ホットサンドが千切れるだろ」
「お前こそ放せ勇者。わらわが食べるのじゃ」
「お前普段食っちゃ寝してるだけだから、腹減らないだろ? 俺は身体動かしてるから腹減るんだ。は な せ」
「わらわ育ち盛りじゃから、お腹が減る。だからわらわが食べる。は な せ」
「何が育ち盛りだ! お前二十歳越えてるだろ?」
コイツは何を抜かしてくれてるんだよ。何が育ち盛りだ、ちんちくりんなままのクセして生意気な……
あっ、ヤバイ指で押し潰してしまいそうだ。しかも千切れそうなんだけど……。
「魔王、お前そんなに食いたきゃツナ缶買ってこい、そして作ってみれば良いだろ?」
「はぁ~? 何でそんな面倒臭い事をしなければならん? その上作れじゃと? 勇者、お前無茶苦茶じゃな」
「無茶苦茶なのはお前だ魔王。金渡してやるから買いに行け! 二十四時間営業のスーパーあるだろ? 高い方じゃ無いぞ、激安の方な。あそこに行ってこい」
「ふざけるな! あそこは自転車で行かねばならんではないか。しかも三十分掛かるのじゃぞ、嫌じゃ」
「知らん、チャリで行ってこい。徒歩で行ける方は、高いんだ。金は激安スーパーの売値分は出してやる。とりあえず手を放せ」
「お前こそ放せ。何で朝っぱらからわらわが行かねばならん? 大体だな、激安スーパーの売値を把握しておるお前が行けば良いではないか」
コイツ…… 今ボソッと、全スーパーの売値を把握しておるとかおばちゃんかって言いやがったぞ。
アホか、全スーパーの売値だけで無く、底値も、特売の時の売値も把握してるわい。
バカめ、そんじょそこらのおばちゃんより、俺の方が買い物上手なだけだ。大体売値を把握するなぞ初歩の初歩、極当たり前の事だし、嗜みみたいなもんだ。
しかし埒が明かんな…… どうする? 半分に切るか? いや、俺は丸々一枚食いたい。だが魔王の奴は引かないだろうな…… 俺も引く気は無いが。
*この二人には、基本的に相手に譲ると言う殊勝さはありません。
*悠莉とアレクシア限定の殊勝さと言う意味。
「おい勇者、ホットサンドが潰れるではないか。それに千切れそうじゃ、中身がはみ出る、わらわに寄越せ」
「はぁ~? お前が手を放せば済む話だろ?」
「「・・・」」
マズいな、俺もコレ、今にも千切れそうな気がしてきた…… 仕方ない、本当に嫌だけど、本当に不本意だけど、半分に切るか。
ホットサンド何て、店とかじゃ斜めに半分に切って出てくるもんだからな。チッ…… 店で食うと思うか、仕方ないか。
「おいコラちんちくりん、本当に嫌だが半分に切る。しゃーなしだからな」
「誰がちんちくりんじゃ。仕方ないな…… わらわは心が広いから、今日はそれで勘弁してやろう」
くっそ~ 一枚丸々食べたかったのに。それなのにこの引きニートめが…… お前は家に籠ってほとんど動かないんだから遠慮しろよな。
「ホレ切ったぞ、仕方ないから半分にしてやったんだからな、しゃーなしだぞ」
「おい待て勇者よ」
「何だよ?」
「お前が取った方が大きくないか?」
「一緒だよ。その辺りは気を付けて切ったわい」
「いーや、勇者が取った方が大きい」
片方が大きかったら必ず揉める。だから気を付けて切ったと言うのに、コイツはチンピラみたいな難癖付けて来やがってからに……。
「ならそっちで良いよ。取り替えてやるからそっち寄越せ」
「ん? 待て待て、わらわが最初に持っておった方が、具が多く入っておるな……」
「一緒だよ! もう! どっちでも良いからお前が先に決めろよ。俺はどっちでも良い」
俺に言わせれば、大きさも具材の入り具合も一緒だ、魔王の気のせいだよ。
多分さっき引っ張りあった時に中身が動いただけの話だ。どっちもどっちだよ。
「なぁ早く決めてくれない? 早くしないとツナがパンをふやけさすんだけど。それに温かい内に食いたいんだけど?」
「うー 大きさはこっち、具はこっち…… わらわどっちにすれば良いのじゃ」
「だから一緒だって言ってんだろ。あーもう。後五秒で決めろ、じゃないと俺は先に取るぞ」
「待て、五秒は短すぎじゃろ」
「十分な時間だ。さっきも言ったが、中身のツナマヨがパンに染みてふにゃふにゃになるんだよ。ホットサンドだぞ、俺はパリパリの状態で食べたいの」
五秒経ったらどっちか取る。そうしないと魔王の奴は延々悩み続ける事になる、間違い無くそうなる。
早く食いたいな。まだ悩むか? 魔王の奴め、パンの耳でも食っとけば良いのに。パンの耳はアイテムボックスの中に山盛り入ってるんだ、幾らでも食わせてやるよ。
パンの耳も、もし又異世界に飛ばされた時に役に立つと思って捨てずに取ってある。
それどころかパン屋に行ったら買ったり、タダで貰える所なら有り難く貰って貯めてるが、何やかんや使い道もあるし、何なら食っても良い。
そう言えばパンの耳を揚げたラスクモドキって、最近作って無いな? 作ってアイテムボックスの中に入れとくか。いざと言う時の為に備えておかなきゃな。
もう五秒以上経ったな、もう良いか。
「あっ! わらわまだ選んでおるのに」
「時間掛け過ぎ、もう五秒以上経ってる。大体だなどっちも一緒だよ、残った方が嫌なら俺が取った方と替えてやるが? どうする?」
「・・・」
「沈黙は肯定とみなす。どっちも一緒だよ」
本当にコイツは…… 朝っぱらからこんな下らん事で無駄なエネルギー使わせやがって。ん?
「おい魔王、お前わざとか?」
「はぁ何を言う、それはこっちのセリフじゃ」
「なら手を放せよ」
「こっちのセリフじゃ、お前こそ手を放せ。でないとわらわの方に引き寄せられぬではないか」
「いやいやいや。俺が引き寄せ様としてたのに、お前は何をしてんの?」
「勇者、お前こそ何を言っておる? わらわの方が先に手を掛けておったわ。お前こそわざとか?」
コイツ…… フルーツヨーグルトが入った深皿を先に引き寄せ様としてたのは俺だ。
このヒキニートめ、多分だが自分の方が先に皿を引き寄せ様としてたって思ってやがるな?
クッ、又か? 又なのか? もう少し力を入れれば俺の方に引き寄せられる。だがこれ以上力を入れて引き寄せれば皿が割れる、いや、壊れる。
「お前手を放せ、俺の方が先に皿に手を掛けたぞ」
「お前こそ手を放せ、わらわの方が先に手を掛けておったわ」
このポンコツ魔王めが、引かないつもりか? いやまぁ俺も引く気は無いけど。
「魔王、お前手を放せ、俺が先に取る」
「はぁ~? もう皿には後一回分しか残っておらんのに、先に取り分けられたら残らんではないか。フルーツヨーグルトはわらわの大好物じゃぞ、缶詰の白桃に黄桃、それに缶詰パイナップルとみかん。それがカットした物はわらわの大好物じゃぞ。しかも今日のは生の桃も入っておるし、無花果も入っておる。大大大好物じゃ。お前が手を放せ」
「はぁ~? 俺も大好物だ、お前が手を放せ。それと魔王、バナナとゴールドキウイも入ってるわ。バナナとゴールドキウイを忘れてやるなよ」
「忘れておらんわ。わらわバナナもゴールドキウイも好きじゃし。ただ生の桃が大好き過ぎて言って無いだけじゃし~」
コイツめ、さっきと同じく絶対手を放さんつもりだな? あっ、ヨーグルトで指が滑る。
片手では不利になるか? だが…… 右手にはまだホットサンドが残っている。くっそ~ 味わって食いたかったのに…… だが両手が空いていないと形勢が不利になるかも知れない。
魔王の奴、残ったホットサンドを口に詰め込みやがったか。仕方ない、俺も急いで食ってしまおう。
「ふぉい、へをはなへ」
「お前お行儀が悪いぞ、口に物を詰め込んで喋るな」
俺と違ってまだ一口位しか食ってなかったんだな? 無理矢理口に入れて、無理矢理飲み込もうとしてやがる。
ん? 魔王の奴め急いで食ったからか、喉に詰まったかな? 慌てて牛乳飲んでやがるぞ。
「手を放せ勇者」
「俺のセリフだ。控えろ魔王、お前居候のクセ生意気だぞ」
「お前こそ家主のクセしてケチ臭いぞ。わらわに譲れ」
「ふざけんな。なぁお前あんま食い過ぎると太るぞ、俺に譲れ」
「はぁ? わらわ成長期じゃし。大体お前、レディに譲ろうと言う気は無いのか? 女の扱いがなっておらぬのではないか?」
「どこにレディが居るんだ? どこ? どこ? 俺の目の前に居るのはちんちくりんしか居ませんが?」
「はぁ~~~? わらわがレディに見えぬとは、お前目が腐っておるのではないか? それと誰がちんちくりんじゃ、誰が」
「お前だよ。それとだな、二十歳越えて成長期って厚かましい奴だな」
「身体は変えられたから、成長期の身体になっておるわ。多分、十二歳前後の身体にされたから成長期で間違いはない。じゃからわらわに譲れ」
確かにお前は、神によってガキの身体にされたね。でもそれはそれ、これはこれ、そしてこのフルーツヨーグルトは俺の物。
「お前どうせ今日も家に引き込もって、日がな一日ゲームしてるだけだろ? 食い過ぎたら身体に良く無いぞ、だから俺が食う」
「ゲームだけじゃ無いわ。アニメも観るし、ネットサーフィンもするから、フルーツヨーグルトを食べて脳に栄養を送らなければならぬ。だからわらわが食べる」
「結局は何時もと一緒じゃないか! 何を胸張って言ってんの? お前本当、お前……」
コイツあっちじゃ一応魔王だよな? それなのに今じゃポンコツ魔王、いや、只のヒキニートでしかない。
何故こうなってる? うん、俺が甘やかしてるってのもある。だが間違い無くコイツが元々持ってた資質だろ?
うん、コイツがこんな風になったのは俺の責任では無い。決して俺のせいでは無い。
なのでもし俺を責める奴が居たとしたら、万が一居たとしたら不当な抗議でしかない。ん?
「あっ、お前無理矢理引っ張るな。皿が割れるだろ、止めろ」
「なら手を放せば良かろう。そうすれば皿は割れぬ」
「ふざけんな。お前が手を放せ、そうすれば全て解決する」
何かさっきから同じやり取りを繰り返してるな? このままでは千日手になってしまう。
仕方ない、少々行儀が悪いがやるか。
「あーっ、勇者お前それは流石にどうなんじゃ? わらわにやるなと何時も言っておるくせ」
「もう取り分ける必要は無いんだから問題無い。それに洗い物をするのは俺だ」
「勇者、お前直箸は行儀が悪いと言っておったではないか」
「そうだな、だがもう取り分ける必要は無いし、俺が洗い物をするとさっき言っただろ? だからコレは大丈夫だ。それと箸では無く、スプーンを使っている。魔王よ、言葉は正しく使え」
「お前それ詭弁って言うんじゃぞ。お前がそのつもりならわらわもやる」
「お前止めろ、間接キッスになるじゃないか」
「そんなもん今更じゃろ。お前の飲みかけとか飲んだりしとるし、食べておる物を一口貰ったりもしておるではないか。何を今更と言う話じゃぞ」
確かにそうだ。魔王の奴は俺の飲みかけとか、食ってる物を一口食ったりしてる。
だがそれはそれ、これはこれ。と言うか俺が食う分が減ってしまう。だから止めろ。
「あー、お前その桃、桃、わらわが狙っておったのに食いおった」
「知らん。と言うかお前間接キッスとか気にしろよな」
「さっきも言ったが今更じゃ。それにしても間接キッスって、お前…… 小学生か?」
「誰が小学生だ。おまっ、そのゴールドキウイは口直しに俺が食おうと思ってたのに食いやがったな」
「バカめ、早い者勝ちじゃ。あっ、その黄桃わらわが食べたかったのに…… もう黄桃は無いではないか!」
「ラスイチは頂いたみたいだな。残念だったな魔王よ、早い者勝ちなんだろ?」
「くっ…… ならみかんはわらわが頂く!」
しかし何だな。端から見たら、朝っぱらから騒がしい奴等だって思われるんだろうな。
だがコレは俺と魔王の日常だ、今日が特別って訳じゃ無い。と言う事は、毎日騒がしいって事だ。
「あー、もうフルーツが無いではないか。ヨーグルトだけか…… なぁ勇者、又作ってくれよ。生の桃をたっぷり入れてな」
「ん、分かった、又作るよ」
仕方ない奴だ。
20時と22時にも投稿します。