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結婚予知

作者: 村崎羯諦

「このテレビに出てる芸人さんと、モデルさん、きっと結婚するよ!」


 小学生の頃。テレビに出演していた二人を見た瞬間、俺は思わずそう叫んだ。あまりに不釣り合いだと言って、両親と兄弟はもちろん信じなかった。だけど、そのわずか三ヶ月後。週刊誌に二人の真剣交際がスクープされ、そのまま二人の結婚が芸能ニュースの一面を飾ることになった。『結婚予知』という、誰が誰と結婚するのかがわかる俺の能力に目覚めたのは、それがきっかけだった。


 それから俺は超能力者気分で、その能力を楽しんで使った。男友達が将来全く交流のないクラスメイトの女子と結婚することがわかって勝手に驚いたり、結婚願望の強い若い女性の担任が、これから一生結婚することはないことを知ってかわいそうに思ったりした。


 ただ楽しんでいるだけだったらよかったのに。今になって俺はそんなことを思う。だけど、バカで自惚れ屋だった小学生の俺は、当時本気で好きだった同じクラスの横山友恵にその能力を使ってしまった。


 心の奥底で、俺は彼女といつか結婚するんだと本気で信じていた。だからこそ、彼女に対して結婚予知の能力を使ってしまった時、俺は人生で初めての絶望を味わうことになった。彼女の結婚相手が俺ではなかったから。その上、横山友恵の結婚相手が、俺よりもずっとチビで、つまらない大橋というクラスメイトだったから。


「ほら、見てみろよ。いつもは足がつくくらいの浅い川なのに、めちゃくちゃ水位があがってるぞ」


 大雨で早退になったあの日。俺と大橋は土砂降りの中、誰もいない橋の上を二人っきりで渡っていた。興奮した大橋が橋の手すりに手をかけながら、俺に無邪気に話しかけてくる。いつもは笑いながら受け答えするはずの何気ない会話。だけど、その瞬間、目の前のやつが将来横山友恵と結婚するんだという事実を思い出し、嫉妬と怒りがマグマのように湧き上がってきた。


 気がつくと俺は後ろから大橋に襲いかかり、前のめりに下の川を覗き込んでいたやつを橋から突き落としていた。橋から落ちる直前、俺と目が合った大橋の顔には、恐怖でも怒りでもなく、ただただどうして?という疑問を浮かべた表情が浮かんでいた。


 雨はその後さらに激しさを増し、結局大橋は数日後に遺体として見つかった。クラスメイトの死で教室が暗くなる中、俺は再び結婚予知の力を使って、横山友恵の結婚相手を確認した。そこで俺は、思わぬ事実に目を見張った。なぜなら、横山友恵の結婚相手が、大橋ではない別の人間に変わっていたからだった。


 運命は変えられる。俺の頭に思い浮かんだのはそんな言葉だった。結婚するはずの相手が死んだ場合、運命の相手が別の人間に切り替わる。ということはつまり、横山友恵の運命の相手を消し続けてさえいれば、いつか俺と結婚する運命がやってくるのかも知れないということだった。


 俺は横山友恵と結ばれるため、人生の全てを捧げた。俺は結婚予知の能力で横山友恵と結ばれる男を次から次へと殺していった。初めは危なっかしいやりかたも、一回、二回と経験を積むたびに、殺す手法はどんどん上手くなっていった。舎という狭い世界だったからか、結婚予知によって見つかる運命の相手は大体身近な相手だったし、しばらく見つからなくても、横山友恵と同じ生活圏内にいるだけで、次に殺さなければいけないターゲットは簡単に見つかった。


 いつか俺は彼女と結ばれる。運命の相手を殺すたび、俺はその信念は疑いようのないものになっていった。だが、何年経っても、何人殺しても、横山友恵は、決して俺を運命の相手としては選んでくれなかった。いつだって結婚の相手は俺以外の男で、それもなんでこんなやつが?というような冴えないやつばっかり。俺は必死に彼女にアピールしたし、彼女への好意だって照れることなく伝え続けていた。


 何かがおかしい。彼女の13番目の運命の相手を締め殺したタイミングで、ふとそんな疑問が頭に思い浮かんだ。俺は横山友恵の近くにいる男だし、幼馴染として仲も決して悪くない。少なくとも結婚相手としてはそこまでありえなくはない相手だし、ここまでしても俺の方を振り向いてくれないというのはあまりにもおかしかった。考えられる理由としては一つ。彼女が俺とは絶対に結婚しないと、意図的に避けているという可能性だった。


 俺はある日。思い切って横山友恵に尋ねてみた。俺は彼女のことを愛しているし、心の底から結婚したいと考えていると。幼馴染である俺のいつになく真剣な問いかけに、彼女は初め困惑していたようだった。言葉を濁し、あなたのことは友達として嫌いじゃないし、異性としても魅力的な人間だと思うとまで言ってくれた。じゃあ、どうして? 俺がさらに問いかけると、横山友恵は少しだけ戸惑った後、冗談だと思って聞いてと前置きをしてから語り出す。


「信じてなんて言わないけど……実は私ね、ちょっとした予知能力者なの」


 予知能力。彼女の口から出てきたその単語に俺は思わずグッと息を呑む。


「もちろんその人の将来全てが見えるとかではなくて、ある特定の事柄だけ、その人が将来的にそうなるのかってのがわかるの。ニュースとかテレビに出たり取り上げられている人をみて、直感的にこの人はそうなるなって思う。で、その後、しばらく経つと、私の直感通りになる。今までの的中率は100%だけど、数が少ないからひょっとしたら偶然が重なっているだけなのかも知れない。でもね、そうだとしても、ひょっとしたらと思って、なかなかあなたとは結婚とか交際とかには踏み切れないの」


 何を予知することができるんだ? 俺は動揺を必死に抑えて、問いかける。本当に真剣に受け取らないでね。彼女は俺から目を逸らし、外の景色を見る。そして、長い長い沈黙の後で、彼女はゆっくりと口を開いた。


「小学校のころ、あなたを初めてみた時に感じたの。あ、この人、将来的に死刑になるなって。私ね、どうやら死刑予知ができるみたいなの」

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