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ざまあされない王子の育て方 ~ある母の四箇条~

作者: 國居

「おめでとうございます、王妃様! 男のお子様です! 第二王子様でございます!」


 産婆の言葉を聞き、産屋に集まっていた宮廷医や侍女や女官たちが一斉に歓声を上げた。元気に産声を上げる赤子を抱えた産婆の周りには人の輪ができ、皆が我先に第二王子の顔を覗き込もうとした。その人垣をかき分け、産婆は、わたしの前に生まれたばかりの第二王子を差し出した。


 あーあ……、やっぱり王子が生まれちゃったのね――。

 第二王子を目の前にし、わたしは、しかたなく現実を受け入れた。

 王子ではなく王女が生まれる可能性もあり、わたしは密かにそれを期待していたのだ。

 だが、生まれてきたのは、結局王子だった。その運命を変えることはできなかった。


 皆に祝福され生まれた第二王子――。

 しかし、ほうっておけば、彼はいずれこの王国を崩壊へと導く元凶となることをわたしは知っている――。


 いや、そんな絶望的な未来を唯々諾々と受け入れるものですか!

 そのためにわたしは、ある計画を胸に秘め、今日という日を迎えたのだもの――。

 こうなれば、なんとしても一人でやりきるしかないわね!


 *


 ここは、ガーデニア王国。

 わたしは、王国の若き王妃・エミリア。

 隣国の公爵家に生まれ、多くの人々に望まれて現国王陛下の妃となった。

 男児と女児一人ずつに恵まれ、とりあえず王妃としての役割を果たしたわたしは、温厚な性格の国王陛下や王子、王女とともに、穏やかで幸せな毎日を過ごしていた。


 八ヶ月ほど前、体の不調を感じたわたしは、もしかしたらと思いつつ宮廷医を呼んだ。

 診察を終えた宮廷医は、嬉しそうに微笑みながらわたしに告げた。


「ご懐妊でございます、王妃様! おめでとうございます!」


 途端にわたしの体に電撃のようなものが走り、わたしはその場にくずおれた。

 そして薄れる意識の中で、突然、前世のことを思い出したのだった。

 なんとガーデニア王国は、わたしが前世で読んでいた異世界恋愛小説の舞台となっていた国だった。なぜかわたしは、小説の世界に転生していたのだ。


 小説では、王国の第二王子オーウェルが、聖女を名乗るピンク髪の男爵令嬢に恋をして、自分の十八歳の誕生日の宴で、幼なじみである侯爵令嬢ジュリエンヌとの婚約を破棄してしまう。

 その上、男爵令嬢を偽物と言っておとしめ、彼女の命まで奪おうとしたという無実の罪で、ジュリエンヌを離れ小島に幽閉する。


 だが、実はジュリエンヌこそが聖女で、その聖なる力によって王国の繁栄を陰ながら支えていたのだった。幸いなことに、真実に気づいた隣国の魔道士によって、ジュリエンヌは離れ小島から無事に救い出される。

 しかし、ジュリエンヌが、隣国に渡り魔道士の婚約者となったことで、ガーデニア王国は、聖女の加護を完全に失ってしまう。

 国中に危険な魔獣が出没するようになり、天候不順も重なって作物はとれなくなる。

 飢えた民衆が反乱軍を結成し、王国内各地で暴動が頻発する。


 最終的には、聖女であるジュリエンヌを裏切った第二王子を筆頭に、偽聖女だったピンク髪の男爵令嬢はもちろん、王子の愚行を止められなかった王家の人々までもが責任を問われ、今度は彼らが絶海の孤島へ追放されてしまう。

 ジュリエンヌは、自分を迎え入れてくれた隣国で思う存分その聖なる力を発揮し、隣国を大国へと押し上げていく。

 ガーデニア王国は隣国に併合され、一地方となる末路をたどる――。


 読者であったわたしは、虐げられていたジュリエンヌが、魔道士から愛されて、隣国の繁栄に力を貸し幸せになっていく一方、愚かなオーウェル王子やその仲間が、次第に追い詰められ落ちぶれていくという物語を大いに楽しんだ。

 しかし、自分がオーウェルの母である王妃に生まれ変わっていたとわかった今は、この展開を黙って見過ごすわけにはいかない。


 生まれてくる子が男の子なら、何としても聡明で心優しい王子に育て、小説とは別の展開を目指さなくては!

 いったいどうしたら、皆に慕われ尊敬され、けっして誰からもざまあされることがない王子に育てることができるだろうか?


 そのときわたしの脳裏に、前世で目にした、ある愛されキャラの顔が浮かんできた。

 現われるやあっという間に人々の心を掴み、人気者となったあの若者――。

 そうだ! わたしの力で、王子をあのような人物に育て上げよう!

 そのためには、彼の母親の教育方針が参考になるはずだ。

 確か彼女は、子育ての四箇条というものを語っていたように記憶しているけれど――。


 そうそう、思い出したわ。四つともそんなに特別なことではなかった気がする――。

 わたしは確かな決意を胸に、意識を失ったのだった。


 *


 第二王子の誕生から一週間――。

 わたしは陛下に願い出て、第二王子をラズウェルと名付けてもらった。

 まずは、基本設定から変えておくことが大切だ。オーウェルではなくラズウェルとしたことで、きっと何か良い変化が起きてくるに違いない。


 そして、健やかに成長を続けたラズウェルが三歳になったとき――。

 わたしは、満を持して、計画を実行に移した。

 例の四箇条をしっかり教え込み、彼に実践させるのだ!


 *


「おはようございます、母上!」

「ミリヤ、おはよう!」

「おはよう、リベルト!」


 あれから早二年――。ラズウェルは、五歳になった。

 今のところは、素直で真面目なよい子に育っている。よしよし――。

 だが、王子であるが故に、ひとにかしずかれることが当たり前になっている。

 このままでは、感謝やいたわりの気持ちを忘れ、横柄な態度の人間になってしまうかもしれない。危険だ――。

 わたしは彼に、四箇条の一つ、「あいさつをしなさい」を、口を酸っぱくして言い続けた。

 その結果――。


「おはよう、小鳥たち! 今日も元気そうだね!」

「おはよう、庭のくるみの木! 緑の葉が涼しげだね!」

「おはよう、百合の花たち! 素敵な香りをありがとう!」


 ラズウェルは、寝室を訪れたわたしや侍女のミリヤ、侍従のリベルトへの挨拶を終えると、

大きく窓を開き、目に入るものすべてにあいさつを始めた。


「白いちょうちょ、おはよう! 蜘蛛の巣にかからないようにね!」

「小さなありたち、おはよう! 朝からよく働いているね!」

「うろの中のてんとうむし、おはよう! 早く朝の光を浴びに出ておいで!」


 えっ? そんなものにまであいさつを?

 ああ、でも、命を差別するのは良くないことよね。

 それに、か弱く小さなものにこそ、愛情を注ぎ守ってやるべきだわ――。


 結局、部屋を出てからもラズウェルは、出会うものすべてにあいさつをしていたので、食堂に着くまでに、たいそうな時間がかかってしまった。

 毎日のことなので、陛下も兄姉たちものんびりとラズウェルの到着を待っている。

 だが、時間にルーズになる癖をつけさせてはいけない。

 わたしは、四箇条の二つ目をつけ加えることにした。「時間を守る」だ。


「ラズウェル、あいさつはもちろん大切ですが、時間を守ることも大切です。決められた時刻に遅れて、人を待たせるなどもってのほかです!」

「わかりました、母上! それなら、明日からもう一時間早く起きます!」

「えっ?」

「暗いうちに起きれば、小夜啼鳥やふくろうにも、あいさつできるかもしれませんね。楽しみだな!」


 おいおいおい……。

 そして、宣言どおり翌日から、ラズウェルは一時間早く起きるようになった。

 当然、わたしもミリヤもリベルトも、一時間早く起きねばならなくなった。

 ラズウェルは、これまで以上にたくさんの相手にあいさつをしていたが、時刻を守り食堂へ行けるようになった。


 わたしは、観劇や夜会で夜更かしするのをやめ、早寝早起きに努めた。

 おかげで、ずいぶんと体や肌の調子が良くなり、宮廷医に褒められるようになった。

 ミリヤやリベルトも、夜遊びをあきらめ健全な暮らしを送るようになった。


 ラズウェルが七歳になると、王子教育が始まった。

 文字の読み書きなどはすでに学び始めていたが、王族として必要最低限の知識を身につけるため、専門家から指導を受ける時間が設けられる。

 七歳の子が学ぶ内容だから、どれも基礎的なものだったが、ラズウェルは教師たちの話をよく聞き、子どもにしては妙に的確な質問をし、どんどん学びを深めていった。

 そして、二年が過ぎて――。


「アレンビー先生! まだ十八分も残っています。もっと勉強しましょう!」

「しかし、ラズウェル様、本日の課題だった、初代から第十九代までの国王陛下のお名前の暗唱がおできになったのですから、今日はこれで終わりです」

「即位された年やお妃様のお名前も覚えました。ところで先生、どうして五代目のフリエル二世陛下には、お妃様が五人もいらしたのですか? それから、八代目のローガン一世陛下が、お妃様をオーダム島に閉じ込めたのはなぜですか? 時間があるのだから教えてください!」


 ラズウェルの学習室の前を通りかかったところ、言い争う声が聞こえてきた。

 時間に厳格なラズウェルは、終了時刻ぎりぎりまで教師を解放しない。

 講義が終わっても、執拗に質問して時間いっぱい学ぼうとする。

 しかし、今の質問の答えは、九歳の男の子が知るべき内容ではないような気が――。

 わたしは、開け放たれた扉から中をのぞき、ラズウェルに声をかけた。


「ラズウェル、アレンビー先生を困らせてはなりません。先生が、今日はもう十分に教えたと仰っているのですから、残りの時間は自学に努めなさい。それに、先生に指図をするなど間違っています。いつも申しているでしょう? 『年長者を敬いなさい』と――」


 四箇条の三つ目は、本当は「目上の人を敬う」なのだが、王子にとっての「目上の人」となるとごくわずかしかいない。

 そこで、「目上の人」を「年長者」に変えて、自分に関わるほぼ全ての人間に、尊敬の念を抱くよう躾けることにした。


 わたしの叱責を受け入れたラズウェルは、アレンビー先生に謝罪とお礼の言葉を述べ、自学のため図書室へ向かった。

 だが、あと十四分たったら、必ずや早足でここへ戻ってくる。

 庭師頭のヘリオットから、果樹の種類や育て方について学ぶことになっているから――。

 その後は、料理長のジンデルによる、香辛料の産地や効能についての講義が控えている。ほかにも、ミリヤからは、寝台を心地よく整える方法を、リベルトからは、革靴の磨き方を夕方までに教えてもらう予定だ。


 ラズウェルは、身分や立場に関わらず年長者を尊敬し、彼らから技術や知識を学び取ることに夢中になった。

 「王子として必要だろうか?」と思われる事柄もあるけれど、何ごとにも興味関心を持つというのは、人の上に立つものとして悪いことではないと思う。

 もちろん、彼らには、給金とは別に「教授料」を支払っているし、手が空く時間に頼んでいるので、本業に影響が出ることもない。


 わたしの予想どおり、ラズウェルは遅れずに学習室に戻ってきて、満面の笑顔で野良着姿のヘリオットを出迎えた。


 *


「おおっ! 素晴らしゅうございます、ラズウェル様! 四つの皿がどれもしっかり回っておりますぞ! あとは、一枚ずつわたしの方へ飛ばせれば成功です!」


 皿回しを教えに来た大道芸人のクラムの言葉に従い、ラズウェルは棒の先から皿を飛ばし、次々とクラムの手元へ落とした。

 あまりの美技に、わたしは思わず拍手をしてしまった。

 わたしの後ろに控えていたミリヤやリベルトも、大きな歓声を上げ手を叩いていた。


 十五歳になったラズウェルは、王宮の外にも自分の師を求めるようになっていた。

 怪しげな占い師や異国の踊り子、老いた似顔絵描きなど、彼はしのびで出かけた町で見つけた様々な人々を王宮へ招き入れた。

 そして、丁寧にあいさつし、時間を守り、尊敬の念を持って、彼らから熱心に学んだ。


 いつの間にかラズウェルは、王宮でも町でも、あらゆる人々から慕われ讃えられる存在になっていた。素直で礼儀正しく、誰にでも公平に接する、愛され王子の誕生だ!

 ちょっとずれているところもあるが、彼への教育は、ほぼ、わたしの目論見どおりに進んでいると考えていいだろう。ここまでは――。


 そんなある日、陛下と二人でお茶をいただき寛いでいたときのこと――。


「妃よ、ラズウェルも十五になった。そろそろ婚約者を選んでも良い頃ではないか?」

「えっ!? 婚約者!?」


 うっひゃあああああーっ!

 ラズウェルの順調な成長ぶりに安心しきっていたわたしは、肝心なことを忘れていた。

 そうだわ! 婚約者! これが、ラズウェルのつまずきのもとになるのだった!


 ラズウェル誕生の一年後、ベレニー侯爵家にジュリエンヌという娘が誕生していた。

 美しく心優しいと評判の令嬢だ。

 ジュリエンヌが慰問に訪れた医療院では、人々の傷病が早く癒えるので、彼女は聖女なのではないかという噂もある。小説に出てきたジュリエンヌそのものだ。


 彼女が婚約者となっても、あのピンク髪の男爵令嬢さえしゃしゃり出てこなければ、婚約破棄騒動など起こらず、不幸な結末とはならないはずだ。

 念のため、ジュリエンヌが、隣国の魔道士とひっつく可能性は封じておいた方がいい。

 なんなら隣国の魔道士に、ラズウェルの姉を嫁がせてしまうという手もある。

 わたしは、素早く考えをまとめ陛下に提案した。


「陛下、それでしたら、ベレニー侯爵家のジュリエンヌはいかがですか? 大変評判のいい令嬢ですわ。ラズウェルとは一つ違いですし、似合いの夫婦になることと思います」

「ベレニー侯爵家のジュリエンヌか! それはいい! 夜会や茶会での振る舞いも申し分ない。わたしも、王子妃に相応しい人物だと思うよ」


 というわけで、ラズウェルとジュリエンヌの婚約がめでたく成立!

 ついでに、王女は、隣国の宰相の息子である最強の魔道士と婚約!

 第一王子は、すでに我が国一の歴史を誇る公爵家の令嬢と婚約済みだし、これでガーデニア王国も王家も安泰だわ!

 わたしは、あとはピンク髪男爵令嬢の登場にだけ気をつけていくことにした。


 *


 今日は、ラズウェルの十八歳の誕生日。

 小説では、この日の祝いの宴で、ラズウェルがジュリエンヌに婚約破棄を言い渡し、王国が崩壊へと向かった。だが――。


 ピンク髪男爵令嬢もピンク髪子爵令嬢もピンク髪平民娘も、結局現われなかった。

 そもそもこのガーデニア王国には、ピンク髪の人間などいなかった。

 面白がって不思議な色のかつらを被る者はいるが、それは踊り子や道化などであって、身分や地位がある人々はそのようなことはしない。


 わたしが転生したガーデニア王国は、小説の舞台となったガーデニア王国と少し違う国のように思われた。

 いや、もしかすると、わたしのこれまでの行動や選択によって、違う国に変化しつつあるのかもしれない。

 宴が終わるまで油断はできないが、わたしは、ラズウェルを無事に「ざまあされない王子」に育て上げることができたと確信していた。


 そして、宴も終盤を迎え、ジュリエンヌとの二人だけのダンスを満場の拍手の中で踊り終えたラズウェルが、人々へ感謝の言葉を述べる場面になった。

 成長と学びに関わった全ての人々に対し、彼は延々と謝辞を述べ続けた。

 そして、その終わりに――。


「十八歳になった今、わたしは母上の教えに従い、『自分でやると決めたことを最後までやり遂げる』ことをここに誓います。

わたしは、明日の朝この国を発ち、隣国の賢者クーリエが結成した冒険者パーティーに勇者として参加します。そして、『自分のパーティーを世界一の冒険者パーティーにする』という、幼い頃からの夢を実現させます!」


 ものすごい拍手と歓声と足を踏みならす音の中で、わたしは呆然としていた。

 はあっ!? 世界一の冒険者パーティーを目指す!? あなた、王子でしょ!?

 ジュリエンヌと結婚して、陛下や王太子を助けて、王国と王家の繁栄のために尽力するんじゃないわけ!? なんで、冒険者パーティーなんかに応募するのよ!?

 幼い頃からの夢だったって――、そんな話聞いたこともなかったわよ!?


 確かに、賢者クーリエの冒険者パーティーが大々的に参加者を募っていることは、わたしも知っていた。

 槍を投げても剣で打ちかかっても向かうところ敵無しという騎士、七色の魔力玉を変幻自在に相手に投じられるという異才の魔道士、追いかけていた相手をいつの間にか抜かしていたという伝説の脚力をもつ兵士など、名うての強者たちが、すでに何人も彼のところへ馳せ参じているらしい。

 だからって、ラズウェルが加わらなくても――。


「これまでに身につけた技術や知識を駆使し、必ず世界一になってみせます。言葉の不安などはありますが、仲間と心を通わせパーティーを盛り上げます!」


 わたしは、ラズウェルを賞賛する声で沸き返る宴の場を離れ、一人テラスに出た。

 わたしの願いどおり、ラズウェルは「ざまあされない王子」に育ってくれた。

 でも、わたしは、こんな結末を望んだわけではなかった――。


 もしかして、ラズウェルの教育に、あの四箇条を取り入れたときから、運命はこのようにおかしな方向へ動き出していたのだろうか?

 目標は世界一――。まさに、あの人気者の願いそのままではないか?

 そう言えば、人気者の母は、四箇条とは別に気をつけていることがあるって言っていたっけ――。


【子どもたちへの接し方ですが、夕食を一緒に食べ、その日のできごとで、自分の一番良かったことや、ちょっと一番ナニだったなあと思うことを打ち明け合い、家族で共有していました。家族が会話することは、とても大事だと思います】


 時間を守って、速やかに食事を進めることに気を配るあまり、わたしにはゆっくりとラズウェルと会話した記憶がなかった。

 もしかすると、食事をしながらラズウェルは、「将来は冒険者パーティーに入りたいな」と言っていたのかもしれない……。

 そういえば、陛下も兄姉たちも、ラズウェルの出国&冒険者パーティー参加宣言を、感慨深げに聞いたのち、感極まった顔になって盛大な拍手を送っていた――。

 それって、ラズウェルの話をわたしだけが聞いていなかったということだったりして!?


 ひどく疲れたわたしは、テラスの柵にもたれかかりぼんやりと庭を眺めていた。

 すると、庭を包むように靄が漂い始め、やがて光り輝く人の形にまとまった。


「王妃エミリアよ、なにも気に病むことはない――。幼き頃より、全ての命を愛し敬い続けたラズウェルには、この精霊王が加護を与える。ラズウェルは、つねに精霊たちに見守られており、その身を危険にさらすことはけっしてない。安心して旅立たせるが良い」


 へっ!? 精霊王!? 人間だけでなく、精霊たちの人気者にもなっていたわけ!? まあ、確かに、ありとあらゆる命にあいさつしてましたけど――。

 精霊王は、ますます輝きを増しながら、にっこりとわたしに微笑みかけた。

 わたしは、彼の申し出に感謝し、深く頭を垂れた。


 まあ、ラズウェルには、ジュリエンヌという最強の癒やしの聖女がついているのだから、身の安全は保証されているのだが――。まさか、精霊王様までお出ましになるとは!

 この際だから、いただけるものは、慎んでいただいておこう!

 わたしが頭を上げると、靄はすっかり晴れ月が光っていた。

 

 そして翌日、ラズウェルは、皆に盛大に見送られて隣国へ向かい、無事に冒険者パーティーに迎え入れられた――。


 *


「ガンバリマショウ! サア、イコウーッ!」


 そんなかけ声で仲間を鼓舞しながら、ラズウェルは、冒険者パーティーで活躍しているようだ。密かにつけてある間者から、わたしのところにしばしば報告が入る。

 賢者クーリエの冒険者パーティーは、各地の魔物や魔獣を次々と倒し、世界一との評判を勝ち取りつつあった。


 とにかく協調性はあるし、真面目だし謙虚だから、ラズウェルはどこへ行っても可愛がられている。

 いまや、世の多くの母親たちに、「理想の息子」と言われるまでになった。


 最近は、彼の母であるわたしも注目を浴びつつある。

 今日も午後から、ラズウェルの生い立ちや活躍について叙事詩にまとめたいという詩人が、王宮へわたしを訪ねてくる。

 もちろん、ラズウェルをどのように育てたかについても聞かれるはず――。

 さて、どんな言葉で話し出そうかしら、ええっと、たしかあの母親は……。


【そうですわね――。子供たちは、幼い頃は私のことが怖かったと言っておりますわ。たいそう厳しかったので――。今ではもう友達感覚なのですけれどもねえ……】


 ――なんて、言っていたように思うわ。

 うーん……、「友達感覚」は、どう言い換えたらいいかしら?

 午後までに、じっくり考えてみることにしよう……。



 * * * お・し・ま・い・! * * *

 最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 ネタとして、ちょっと古い話になってしまったなあ……、とは思っておりますが、故障中のあの方が、一日も早く復帰できるようにという願いを込め、遅ればせながら公開することにしました。

※4/17 あの方が復帰したようですね。おまけにHRまで! これでお母様もほっとしていることでしょう。願いが通じて良かったです。

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