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公開実験 後編




 「さあ、準備も出来たようだ、今日のもう一人の主役を呼ぼうか」


 そう大袈裟な身振りで述べた殿下は後方に控えたマイネルとメルパーニャを見る。衛士に促されて、二人は堂々とした足取りで殿下の横へと並び立った。



 「マイネル ダートン卿、素晴らしい贈り物であった。貴殿の考えた技術は、いずれは魔力を殆ど持たぬ者すら、空へと導くであろう。それだけではない。多くの貨物を載せた空を行く船が王国の物資を運んでくれる。外洋の遥かに向こうにあるやも知れぬ、まだ見ぬ大陸や島を発見することに貢献するかも知れん。

 魔法術式の効率化は多くの魔法師に恩恵があり、魔法を付与した魔導具の可能性は未知数だ」


 マイネルは殿下の言葉に恐縮しきっていたが、ここで先触れのラッパがなる。


 王家の従卒が声を上げる。


 「国王陛下、御出座しになられます」


 王族貴族たちは臣下の礼をとり、広場の民衆は突然のことに慌てるもややあって平伏した。


 片膝をついて頭を垂れた殿下とマイネルの肩に陛下は手を置かれて囁かれる。


 「良い、二人とも立ちなさい。主役二人を跪かせたままではいかんからな」


 顔を上げたマイネルと殿下の二人にほれほれと促す陛下、殿下は苦笑いを噛み殺して立ち上がり、マイネルとそして、メルパーニャも陛下の許しを貰い立たせようとしたが、二人が固辞したため、そのまま膝をつかせておくよう陛下へと進言する。

 

 陛下は二度ほど頷き、善き善きと呟いて嬉しそうに笑った。


 「みなの者、良い、顔を上げよ」


 威厳ある声に貴族、民衆問わず顔を上げ、喜色満面とした陛下の言葉を待った。


 「王太子として十年を良く働いた我が息子の祝賀の儀を前に、こうして多くの民が祝福してくれること、これこそが何よりも我がグライム王国が健在である証明であろう。国に暮らす民一人ひとりの幸福こそが、我が国の未来であるからだ」


 厳かに語る陛下の言葉に民衆は感動する。民一人ひとりの幸福こそが国を支えると言われたのだ、そして陛下をはじめとした王家の此までの行動はそれを如実に現しており、けして口先だけの体の良いご機嫌とりでないと分かるからでもある。


 「そして、マイネル ダートン卿よ、王太子の祝賀のため、素晴らしい催しであった。誠に大義である」


 マイネルとメルパーニャはこの言葉を受け、深く頭を下げて感謝の意を述べる。


 「ご尊顔を間近に拝する栄誉を賜りましたこと、恐悦至極にございます。お誉めいただきましたこと、末代までの栄誉としとうございます」


 メルパーニャもほぼ同様の口上を述べるのを聞いてより、陛下は報償について語りはじめた。



 「正式な授与はまた日を改めて行うが、この素晴らしき日に、多くの民たちの祝福を受けてこそであろう。

 ダートン卿は男爵として叙されておるが、此度のこと、また報告にあがっている事を含めて伯爵に陞爵する。領地は無く、無役無官となるが、望めば相応しい役は与えよう。また、次期国王たる王太子を、私事としては我が息子を、どうか友人として支えて欲しい。ダートン卿、そなたを王太子の直臣とする」


 この陛下の宣言に民衆は湧いた。

 はっきりと言えば良くはわかっていない。マイネルは男爵となったあとも、結局は昔とそう変わらなかった。それが伯爵となっても同じであろう。


 とはいえ、元は庶民だったものが、お貴族様、それも位の高そうな伯爵様になるのだから、夢物語だ。ましてや、鳥狂いで有名なマイネルが伯爵様とは夢に夢を重ねているかのようだ。

 そして、王太子の直臣とやらになるらしい。


 本来、ダートン家門自体が、血統が途絶えて廃絶していた王家の直臣の家系であった。

 その家名を賜るということは、言外にマイネルが王家の庇護下にあると示したのだが、どうにも馬鹿がいるらしいと、正式に「王太子の臣」とした訳だ。

 だとして、民衆にはそこは良くわからない。ただ、優秀な王太子に、やはり色々と優秀だとされるマイネルが臣下となって、この国の未来は明るいと盛り上がる。


 「マイネルよ、王国の雪は厚く固いが、春の太陽に解かされて水となって流れよう。春の太陽の元、雪にもまた意味があったと流してくれるか」


 陛下の問い掛けにマイネルは意味が分からずに困惑したが、メルパーニャが頷いておけば大丈夫と囁いてくれたため、マイネルは頷いて応えた。


 「はっ、報償につきましては有り難く拝領致します。また、問い掛けについては陛下のお心のままに、私は問題ありません」


 陛下はまたも善き善きと笑われていた。


 さて、顔面蒼白となっていたのは、マイネルを排除しようと画策していた者たちだ。



 陛下はマイネルを正式に王太子の臣として、その上でマイネルに「厚く積もった雪のように」凝り固まって偏見と、妨害行為まで行った者から、「春の太陽」、つまりは次代の国王たる王太子の庇護下になったことで、「雪は解けた」自分たちが排除されるから、過去のことは、水に流してくれないかと問うた訳だ。

 マイネルがそれを「お心のままに、」と返したならば、王太子の臣に害を為そうとした自分たちは良くて冷遇され、悪ければお家の断絶もあり得る。


 実際のところ、既に数々の工作を阻止していた殿下たちが証拠固めを終えており、更に調査を交えて後ろ暗いことも掴んでいる。

 平素ならば、見逃されるような小さな事ではあったが、そうした積み重ねが全体を腐らせる事にもなる。

 良い機会であると、マイネルへの工作に絡めて、家の力を落とすように処罰と、根回しの両面で王家は動きを終えていた。


 反対に聡い者たちは早くからマイネルの獲得に動いていたりもしたのだ。

 偶々ではあった。血統の途絶えた家門の空きがあり、王家の庇護下したい優秀な職人を囲もうとした。始めはそんなものだった。


 だが、名門の家名を受ける程の人物は如何程なのか、興味を持った者のなかにはマイネルの先見性や優秀さに気付いた者もいたのだ。

 そうした者たちはマイネルを自身の派閥内に取り込もうと画策していたが、同時にこちらも殿下たちに阻まれていた。


 知らぬはマイネルただ一人。

 

 だが、マイネルはそれに気付き初めていた。そして、自分が為したこと、それにより与えた影響と、受けた地位、それに相応しくあろう。そう考えるようになってきていた。



 大観衆が陛下を殿下を讃えている。そして、マイネルもまた讃えてられている。

 手が震えた。汗が吹き出してきた。


 メルパーニャが微笑んで手を取ってくれる。


 「マイニー、一緒に頑張りましょうね」


 殿下もまた、快活に笑いかけてくれる。


 「我が臣なれば、何事も為せる。鳥になりたいと鳥になった男だからなっ! 取り立てて、先ずは民たちに手を振って応えるところからか」


 そう言われて、マイネルは恐る恐る手を上げ、軽く振ってみる。


 マイネル万歳っ!


 ダートン伯爵様万歳っ!


 いよっ鳥狂いっ!


 降り注ぐ拍手と喝采の中、一段と自分を呼ぶ声が増えた。気付けばマイネルは両手を千切れんばかりに振り、ありがとうと叫んでいた。


 何度も、何度でも


 ありがとう ありがとう 


 ありがとう親父 ありがとうみんな ありがとうメル


 ありがとう ありがとう



 男泣きに泣きながら、ありがとうと連呼したマイネルは殿下にもみくちゃにされ、民衆からも貴族たちからも盛大に祝福されたのだ。






これで、ほぼ本編は終了となります。


後日談的なエピローグと、おまけ話を書いて完結の予定となります。


ありがとうございましたm(_ _)m


エピローグ及びおまけ話は今月中にアップする予定です。

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