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プロローグ ~たった一日の悪夢~

こんにちは。

副島王姫です。


過去作で一番アクセス数の多かったものですが……おそらく、十数年のギャップがありますので、大したことないかと。


校正も見直しもせずに、過去、応募原稿としてまとめていたものをそのまま投稿させていただきます。

まあ、所謂ダークファンタジーかと思います。

 プロローグ ―― たった一日の悪夢


「巫女頭! イリア様!!」

 金色の双眸に切迫したものを浮かべ、男がこの祭祀殿(さいしでん)に駆け込んで来る。年の頃は四十の半ばといったところであろうか。よほど急いで走って来たのか、やや白いものの混じりかかった茶色の髪はただ乱れ、声を出す合間には荒げた呼吸音が響いていた。

 駆け込んで来たのは、村人だった。彼は、祭祀殿に足を踏み入れると、一息つき――そして、はたと気づいた。

 中央の最も大きなものを始めとし、幾つもの祭壇が並べられた空間。壁に半分ほど埋め込まれた柱の列が、高い天井を支えている。祭祀殿に入って、ちょうど正面の奥まった所には、人が一人立てるだけの大きさの祭壇があった。

 だが、いつもその祭壇に立っている筈の巫女頭の姿は無く、それどころか常駐している筈の巫女たちの姿すらも見当たらなかった。

 ――誰も、いない。

 駆け込んで来た村人は一瞬唖然とし――やがて目を覚ました様に叫び始める。

「巫女頭! おられないのですか!? 巫女頭!」

 叫ぶまでもなく、そこには誰もいない。だが、彼は叫び続けた。

「巫女頭!! イリア様!」

 叫びは、聞く者もないまま、かき消える。

 狂ったように叫ぶ村人の背後には、既に殺戮が迫っていた。


 悲鳴、泣き声、断末魔。今や村中に広がったそれは、彼らの元にも届いていた。

「……お兄ちゃん……」

 震えた声が、隣にいる兄を呼ぶ。声の主は、まだ十五にもなっていないだろう。せいぜい十三かそこらの、少女だった。恐怖に縮こまり、必死に兄の服の裾を掴んでいる。

「大丈夫。お兄ちゃんがいるからな」

 少女の声に答えたのは、ようやく十五を越えた辺りの少年。だが、その声も、短剣を握り締める手も、わざわざ言うまでもないほどに、震えていた。

 部屋の隅に固まっている兄妹の他に、そこには一組の男女がいた。年齢からして、おそらく両親であろう。部屋の扉の両側に立ち、男の方は斧を、女の方は猟銃を構えていた。

 どれも、武器と言うには頼りなかった。だが、これが彼らの手元にあった、ささやかな武装だった。

 彼らがそうして緊迫した時を過ごす間にも、村中の悲鳴や断末魔が響いてきていた。

 そうして――どれだけの時間が流れただろうか。階下で、扉の開く音がした。何者かが、玄関を開けて入って来たのである。

 そして――足音。慌てるでもなく、急ぐでもなく。音を消そうと努めている気配もなく、何に怯むこともなく近づいてきていた。

 音は、四人のいる部屋の前で止まり――扉が開いた。

「うわぁああッつ!!」

 父親が、開いた扉の後ろから、侵入者に斧を叩きつける。同時に、母親の方も、猟銃を発射していた。

 だが――それだけだった。

 斧は、入って来た男に触れるまでもなくその刃を欠き、弾丸は男の近くで一瞬制止し、ぽとりと落ちた。

 黒い髪を後ろに撫でつけた、おおよそ三十半ばくらいの男である。男の基準から言っても背は高い。衣類、外套、グローブ、ブーツ……それら全てが、漆黒だった。

 男は、たった今襲いかかってきた二人の事など気に留めた風もなく、部屋の中を見渡した。

 そして、その黒い瞳が、部屋の隅の兄妹の姿を捕らえた。何の感慨もない様子で、そちらに歩み寄る。

 短剣を握った少年の目が、瞬時に金色を帯びた。

「リーゼ! 逃げろ!」

 技も何もなく、ただ短剣を構えて走りだしながら、少年が叫んだ。

 走るその先にいるのは、無論歩み寄って来る男。

 だが、その剣の切っ先が男に触れる事はなかった。

 次の瞬間には、少年は男に首を掴まれ、持ち上げられていたのだから。

「お兄ちゃん!」

 部屋の隅でうずくまっていた少女が、慌てて走って来る。男の足にしがみつくと、

「離して! お兄ちゃんを離して!」

 金色に染まった瞳で男を見上げながら、叫ぶ。

 しかし、男はそれすら意に介さない様子で、雑務をこなすような表情のまま、手に力を込めた。

 鈍い音と短い悲鳴が、部屋に響く。

 男は、放り投げるように少年を手放した。

 それを追いかけるように、少女が駆け寄り、床に落ちた兄の身体を揺さぶる。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

 必死に呼びかけるが、あらぬ方向へ捩れた少年の頭を見れば、考えるまでもない。少年が答えることは、二度と無かった。

 男は、相も変わらずの無表情で次に少女に視線を移したが――そこで初めて関心を表に出す。やや足早に少女に歩み寄ると、腕を掴んで引き寄せ、顔を自分の方へ向けさせる。

「……リーゼ、というのか?」

 涙の溜まった瞳を覗き込みながら問うが、答えはない。代わりに――

「……む、娘を離せっ!」

 刃の欠けた斧を手に、父親が再び男に向かっていく。それとは別に、猟銃の発射される音も響いた。

「……やれやれ、邪魔だな」

 何の感慨も無い表情に戻ると、少女の腕を掴んだまま、男は無造作に片手を振った。

 男以外には、何が起こったか分からぬまま、何かが潰れるような音がする。

「お父さぁんっ!!」

 ややあって少女があげた悲鳴が、犠牲者の存在をようやく知らしめた。

 そして、もう一度、同じ音。

「来い」

「お母さん! お母さんッ!!」

 泣き叫ぶ少女を抱えると、男は、何事も無かったかのように部屋を出た。





金色の魔眼で一番惨殺の多いシーンですが……大したことなかったかと。


第一章はすぐに上げますが、その後はゆっくり上げようかなと思います。

でも、早く新作に集中したいので、手早くすべて上げてしまうかもしれません。


では、後ほど第一章で


   2022/03/05 副島王姫

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