厄災
山が真っ白になると、クフトも来ない。サヨリ様は、洞窟を離れ、人のカムリだけの知る聖地へ篭る。そこは、地磁気の影響なのだろうか、冬でも比較的暖かく作物も取れる。肉や魚はとれないが、秋のうち作った干物や塩漬けでしのげる。
普通は人でも熊でも、方向を失うため近づけない。山を登っているのか下っているのかすらわからなくなる。カムリは長い時間をかけて道を覚え、記憶だけをたよりに進む。
ハナは冬の間、サヨリ様が語ったという伝承を読み続けた。中学生には難しい言葉も出てくるが、電子辞書と民族の言葉をまとめた資料を見比べながら、読み進めた。
最後のカムリが誕生した時、人の世界には、数多の災いが降り注ぐ。それは、自然をコントロールできるとおごり高ぶった人類への罰。
一つ目の厄災は、大地の怒り。その怒りにより、海の水が多くの人を飲み込む。土地は汚れ、人々は逃げ惑い散り散りとなる。
二つ目の厄災は、天の怒り。大雨が降り続き、川の水が多くの人を飲み込む。土地は埋もれ、人々は住み慣れた地を離れる。
三つ目の厄災は、大気の怒り。街に広がる汚れた大気に触れた人々は肺を病み、さらに大気を汚しながら、次々と命を失う。
多くの人が、土地と命を失った後、新たな王がやってくる。それは、人の目には直接見えぬ存在。人はカラクリの目を通してそれを知る。とらえどころの無いそれに人は飲み込まれたとき、カムリの世は終わる。
なお、千年の時を待つほど、新たな王は寛大である。
最後の千年というのが、王がやってくるまでの千年なのか、その後のことなのかで見解が分かれる。民間の伝承では、最後のカムリが誕生するまでの千年と訳し、そこで人類への審判が下るとされている。