けん制
山を荒らされた、動物たちは、人里へ降りてきた。熊や猪が徘徊した。人々は、罠を仕掛け、銃で追い払う準備を始めた。
サヨリ様の動きは速かった。
「殺人蜂は、まだ分蜂してないだろう。」
分蜂するには、それなりの個体数が必要だ。蜂の住む場所を特定し、山の動物たちを刺激しないようにと入山を禁じた。村の老人の中には、かつて彼女と同じ小学校に通った者も残っている。ハナの家の隣の老人もその一人だ。
「森のオオスズメバチは駆除してはならぬ。」
動物にはテリトリがあり、似たもの同士はけん制しあう習性がある。オオスズメバチ同士の戦いも多い。殺人蜂に最も近い種である大スズメバチがいれば、簡単には勢力を拡大できないと考えた。
毒をもって毒を制す。
自然を知りぬいたカムリだからこそできる知恵だ。人里に暮らすキイロスズメバチと違い、森に住むオオスズメバチは毒性は強いが気性は荒くない。人が不用意に巣に近づかなければ、滅多に刺されはしない。
蜂対策の指導も行なった。外出の際には黒より白い服装にする。帽子を被り頭を隠す。香りの強い香水や化粧を避ける。カチカチという警戒音を聞いたら、近づかない。蜂がいても、手で払わない。毒液が飛び散るのを防ぐため、安易に潰さない。体制を低くして、すばやく逃げる。蜂は体に止まってから針を打つ。しかし、毒液は空中でも放出することがある。ゴーグルや眼鏡などで毒液から目を保護する。毒液のついた衣服はすぐに洗う。匂いで蜂達が興奮するからだ。
必要以上に恐れることはないが、出会ったら警戒を怠らないことだ。
今年は、鮭もどんぐりも豊作だ。山の獣たちは冬眠に備え、住処に戻っていった。ただ、ワシやタカ、カラスなどの鳥たちは、長らく人里の上を飛びまわり、警戒を続けていた。




