熊の王
グリブは休日になると、リュックを背負って山に篭った。彼にはどうしても解せないことがあった。
「大地と空にはカムリがいる。しかし、海や川など水のカムリはいない。生命の起源が海なら、地表の7割をしめる海にこそカムリがいてもおかしくない。」
山の上から川を眺めていると、時折、熊たちが川で魚を捕っている後継が映った。目を閉じて、地球を想像する。地球を人の姿に見立てる。大気の服を脱ぎ捨てると、皮膚が現れる。頭には髪の毛。皮膚が地表なら、髪の木々が生えるところが大地。
「やはり、解らん。」
もともと論理的思考は苦手だ。考えるよりは動けが信条の男だ。
山を歩くと、いたるところで崖崩れを目にした。
「山の力が弱っている。」
中途半端な開発や、その末の放置によって、山の自浄能力は低下していた。表土は浅くもろい。保水力も少ない。
無計画な植林と伐採。ごみの投棄。食料が減り、動物たちも減った。山の衰退は、川を通して、海を衰退させる。泥の流入、プラゴミの漂流。
「川や海の源は陸だ。」
ナンダ・カムリの山でグリブは若いオスの熊に出くわした。
「しまった。こういうときは、そのまま後ずさりするんだっけ。」
熊は彼を見つけると、一瞬頭を垂れたように見えた。そして、道を譲るかのように森に入っていってしまった。
これは熊の王の力なのか、それともあの日の子熊だったのか。




