グリブ
クフトが病気療養で、街に来たとき、リアの義母にサヨリ様を紹介されたらしい。当時、リアの家は料理店を営みながら、下宿やをしていた。サヨリ様のもとへ通うために、クフトは下宿した。クフトの両親も新しい土地なので、高収入な職は簡単にはみつからない。食費と引き換えに、リアの勉強を見ることになった。
そんな事情もあり、仲のいい兄妹のように振舞ううちに、二人はいつしか自分の心に素直になれなくなっていた。
グリブは、街にやってきた新任の高校教師だった。山岳部の下見で山に来たという。
「ハナが、うちの高校を受験するなら、山岳部の推薦で受けるといい。」
なんでムキムキ男子の巣窟に、か弱い乙女がいかにゃならんのだ。どうせ、マネージャとかで洗濯や炊事をさせられるんだろ。
「今の山岳には男女差別はないよ。みんな、同じように山に登る。移動は車だしな。キャンプ場もあるし、俺らの時代にくらべたらピクニックだよ。」
グリブに笑われて、ハナはまたムッとなった。
「村の人に、キャンプなんて何だか無理な山だからやめとけっていわれたけど、楽勝だったぞ。」
「ナンダ・カムリだ。」
筋肉能のような気楽なグリブに、クフトは伝承のさわりだけ教えた。
「神聖な山ってわけだ。そりゃ、悪いことをした。」
グリブは見た目こそいかついが、意外に素直な奴だった。
「熊の王が認めたんじゃ。問題ない。」
隣のおじいさんだ。
「熊の王に気に入られなけりゃ、あの山から無事にかえってくることなどできん。よそ者が山に入ったと、連絡があってな。様子を見に来た。無事かえってくればそれでええ。他の村人にも心配ないと伝えておこう。」