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009.街の外で02

能力(スキル)を使うとね、周囲の精霊がひとつになって、紋様の形を作るんだ」

サフィに説明をするにあたり、まずは自分の持っている知識を話す。

「例えば、ぼくの場合は目。ぼくがスキルを使うときは、この瞳に精霊が集まって紋様を形作る。それで周りの精霊が見えるようになるんだ」

そう言って、カイリは自分の瞳を指差した。次に自分の携えた短剣に指を向ける。

「他には武器。剣とかの武器を能力で強化する能力の場合、精霊はその武器に紋様として刻まれる(・・・・・・・・・)。そんな風に、物だったり、空間だったり、体の一部だったり。能力が発動している所には精霊が集まって紋様を形作るんだ」

なるほど、とうなずきながらサフィは続きを促す。

「能力を使っている間は、集まった精霊は融け合ってひとつの紋様として浮かび上がるんだけど、サフィの場合はその前段階。まだ精霊が集まっただけで、紋様の形に融け切っていないっていう印象だった。だから、紋様の形をもう少しはっきりと意識してみたらいいんじゃないかな」

そう、カイリは自分の考えていたことをまとめた。

「紋様の形をはっきりと意識、ね。やっぱ描いてみるのが一番かな?」

そう呟いて、サフィは地面に七芒星を描く。肩口をチラ見しながら描いたそれは、直線すら(ゆが)んでしまっている不格好な出来栄えだったが、初めて書いたにしては上出来の部類だろう。

「うん、やってみる」

そう言って、サフィは七芒星のイメージを固めるため、反復練習を始めた。

図形の形を覚えるには確かに早い手段だろう、とカイリは納得する。

そして2人、心の中では同じことを考えていた。

──複雑な図形でなくてよかった──


地面には大量の落書き、もとい練習の成果が残っている。二人が練習を始めて30分。短い時間ではあるが、同じ記号を掻き続けるには苦行とすら思える時間だ。地面にずらっと七芒星が描かれているさまは、理由を知らぬ者が見たら言い知れぬ気味悪さを感じたことだろう。最初5分ほどは見ているだけだったカイリも、退屈を感じたのか、途中から自分も七芒星(落書き)の練習に加わったこともあり、あたり一帯には謎の空間が出来上がっていた。

そんな異界を作り上げた張本人たちはというと、今は何やら満足げな顔をして岩に腰掛けている。

「さすがに描き続けたせいか、相当きれいに書けるようになったね。もうだいぶイメージも固まったんじゃない?」

「うう、頭の中が七芒星でいっぱい……」

「そろそろもう一回やってみようか」

そう振られたサフィは頷き、しばらくぶりに集中をする。


精霊が集まる。それまでばらばらだった存在たちは、彼らを使役せんとする明確な意思の下、一つの記号(紋様)へと溶け合い、形を成してゆく。紋様となった精霊たちは世界の規則に従い、その主に力を授けた。


「すごい。なんか力が湧いてくる」

そんな一言に合わせて、それまで座っていた岩に蹴りを加える姿があった。

その結果は一目瞭然で、衝撃が加わった箇所を起点として、蜘蛛の巣状のヒビが一面に走る。

「えっ……?」

その結果に驚いたのは、まぎれもない少女自身だった。

「身体強化系か。いろいろと使い勝手がよさそうだね。」

少女に集まった精霊が形を成し、肩口で(・・・)蒼い七芒星となった時点で、能力の発動は察知した。加えてそれがサフィの体に刻まれているのであれば、ほぼ自身に何らかの影響をもたらす能力であろうことも。その紋様の形や形成される場所によって、自分の知識の範囲内で相手の能力の見当をつけられる。それがカイリの眼の利点の1つだ。

「あんまり驚いてないのね」

冷静に返事をしたカイリに、サフィは疑問を投げる。

「まぁ、身体強化を使える人自体はそれなりに多いからね。使い慣れてくれば、多分その岩とかなら一撃で粉々に砕けると思うよ。ひとまず、余った時間と午後はその練習に充てようか」

日も随分と高くなった空を見上げながらカイリは言う。もうしばらくすると昼食時だろうか。

「なるほど。ぜひやってみたいものね」

その力はまだまだこんなものじゃない、という趣旨の発言を聞き、サフィはわくわくを(たぎ)らせてそう答える。早くいろいろやってみたくて仕方がない、という顔だ。興奮からか、跳ね回っている耳と尻尾も口ほどにものを言っている。

「くれぐれも、慣れるまでは街中では能力を使っちゃだめだよ。ここならいいけど、うまくコントロールする(すべ)を覚えないと、周りにすごっく被害が出る(たぐい)の能力だから」

その所作の節々に、諸々(もろもろ)の不安を感じ取ったカイリは、念のためにくぎを刺す。

「わかってるって。うっかりいろいろ壊しちゃって弁償、とか言われても困るし。とりあえず、いろいろと動いてみるね」

そう言いながら、紋様を発動してサフィは駆けだす。勢いの加減ができなかったのか、はたまたバランスがとれなかったのか。直後に盛大に転び、土けむりを巻き上げる。

そんな光景を見ながら、カイリは先の不安は間違いでないと確信する。

「もうしばらく練習したらお昼を食べに行こうか。どうする?昨日のお店以外にも、いくつかおすすめのお店はあるけど」

そんな言葉を聞きながら、「いたた」とサフィは土けむりの中で立ち上がる。お昼(・・)という言葉を拾ったその耳は、気持ちカイリの方を向いている。

「じゃあそれでお願い。これから(・・・・)おなかペコペコになる予定よ」

そう言い残すと、サフィは再び大量の土ぼこりを巻き上げた。


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