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008.街の外で01

平野の中を1台の馬車が行く。5騎の騎馬がそれを囲んで進んでいるところから察するに、商人とそれを護衛している警邏部門の組合員(ギルドメンバー)だろう。森の中から平野部を通り青の街(ラズリー)へと延びる道は、雨が降っても深い(わだち)が残らない程度にはしっかりと踏み固められている。道の広さも申し分なく、3台ほどであれば余裕を持って横に並ぶことが可能だ。それなりに厳しい旅路だったのか、ベテランに差し掛かろうか、といった風体の護衛たちは難しい表情をしている。また彼ら自身や装備にも真新しい傷が目立ち、はた目に見ても道中何かしらの戦闘があったことに間違いはない。護衛対象と思われる馬車にそういった被害が見受けられないのは、彼らの腕の証だろう。魔獣、盗賊を始め、肉食獣などの野生動物まで、さまざまな危険が伴う街同士の移動には、この商人のように警邏部門で護衛の依頼を出すのが一般的だった。そんな一行は青の街(ラズリー)の門へと向かい、淡々と移動を続ける。


そんな道を行く一行から500メートルほど離れたところ。平野の真ん中にぽっこりと突き出た岩に腰掛け、言葉を交わす2つの人影があった。

組合で合流を果たしたカイリとサフィは、挨拶もそこそこに街の外へと向かった。一刻も早く何かをしたい、というサフィの(はや)る気持ちにカイリが引きずられたのだろう。足早に街から出ると、

街からも、森からも、街道からもちょうどよく離れたところに腰掛けるに便利そうな岩が使ってくださいと言わんばかりに突き出していた。

「改めて確認なんだけど、能力(スキル)に関しては本当に何も分からないの?こう……何かできそうとか、こみ上げてくるものがあるとか、そういったこともない?」

「ええっと、何も分からないかな。正直、意識したことが(・・・・・・・)なかったから、何か起こる感覚、っていうのも(つか)めてない」

改めて能力に関する取っ掛かりを探すが、帰ってきたのはやはり否の答えだった。

「正直、他人の能力の発現なんてやったことがないから、何もかも手さぐりになるけど、よろしくね」

「うん、よろしく。どんなものか分からないにしても、何かしら手がかりでも掴めたら嬉しいわ」

そう言ってカイリは頭を回す。

「とりあえず、紋様を強く意識してもらえるかな。ちょっとどうなるか視たい(・・・)から」

そう言って、カイリはサフィの姿全体を瞳に写した。その目には青い魔法陣が浮かび上がっている。

「わかった。何かあったら教えてね」

そう返事を返すと、サフィは目を閉じて肩口に意識を向けた。目を瞑ったのはその方が意識を集中できると感じたからだ。


数十秒の時が流れる。サフィは依然として、何ら変化を捉えることができていなかった。さらに時間が経ち、合わせて1分ほど経過しただろうか。「やっぱり何も起こっていないんのかな」と、そんな考えがサフィの頭に浮かび始めるころだった。

「もういいよ。一回止めようか」

カイリから中断の声がかかる。「やっぱり駄目だったかな」と、そんな気が差す中で言葉が続く。

「ちょっと分かったことがあるから聞いて」


変化を感じ取れなかったサフィに対し、カイリそこに起こった変化をしっかりと捉えていた。サフィが瞑目し、集中し始めたあたりから、カイリの眼に映るその変化は明瞭だった。周囲に漂う精霊を取り込み、サフィの肩口にある(あお)の七芒星が強く発色し始めたのだ。カイリの瞳に浮かぶ魔法陣も同様に青い発色がみられることから、間違いなく能力(スキル)発現の兆候だった。


「えっ、本当に!できてたの?」

そのことをサフィに告げると、喜色を浮かべ聞き返してきた。耳と尻尾がその感情を物語っている。

「確かにサフィの紋様に発動の兆候があった。どんな能力かは分からないけど、確実に何かしら起きてるのは間違いないと思う」

「そうなんだ。能力の兆候、ね。私はそんなのは感じられなかったけど……」

と、そう溢しながらもう一度肩口に意識を向ける。今度は自分の目で紋様を見ながらだ。

「これで今、できてるの?」

「できてる。ちゃんと精霊が集まってるよ」

「そうなんだ。私にはその紋様の色が強くなる、っていうのはわからないけども、カイリの眼にはそう見えてるんだね」

自分の肩口で、変わらず蒼い(てい)を晒す紋様に向けていた視線を、そう言いながら不意にカイリの瞳に向ける。不意に合った視線に、カイリは一瞬体を強張らせる。戦いや意思疎通のために視線が交わることには日常的に慣れていたカイリだが、今自分を見つめているのは好奇心で満たされたものだった。観察(・・)で解ったことを話すため近くにいたこともあり、2人の距離は1メートルと離れていない。身長差もあり見上げられる格好(上目遣い)で目が合い、何ごとか、といった一瞬の動揺(・・)がもたらした結果の硬直だった。


「そうだね。ぼくの能力はそういった観察に向いてるから」

そうのたまうカイリに先ほどの動揺(・・)の名残はない。サフィも、そんなことはいざ知らず会話を続ける。

「カイリは瞳に紋様があるんだっけ?青い瞳ってのはわかるけど、さすがにその中で模様まではわからないなぁ」

改めて、サフィはカイリの瞳をまじまじと見る。

「まぁ精霊を視たり(・・・)、紋様の光を捉えたり、っていうのはぼくの能力だからね。ほかの人にはわからない感覚だと思うよ」

そうして苦笑しながらそう返すカイリには、先ほどとは違い動揺の色は見られない。

「じゃあ説明を続けるよ」と言いながら、カイリは先の検証で推測したことの説明を再開した。


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