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006.青の街04

2021/09/02:設定上、重大な記述ミスを一か所発見したので修正しました。内容に変更はありません。

「お食事中失礼します」

そんな言葉が食事中のカイリの手を止めた。声のほうを振り返ると、そこにいたのは一人の女性だった。眼鏡をかけてピンと背を伸ばし、組合(ギルド)の制服を着たその女性は、カイリの頭の中で組合長(ギルドマスター)の秘書を務めている人物と一致した。

「えっと、どうかされましたか?」

唐突な声かけに、カイリは疑問を抱く。

「はい。実は今、お客様がみえておりまして組合長とお話をされています。そしてその方ですが、カイリさんとの面会を所望されています。身元などは不明なのですが、龍の封蝋がされた書簡をお持ちです。組合長の意向で、今から会っていただきたく参りました」

「龍の封蝋ですか?」

龍の紋章は各街にある王家(・・)のものだ。王家とはいっても、青の街(ラズリー)では政治に関わるようなことはなく、象徴的な意味合いが強い。街を挙げての祭事や式典などにおいて、そのシンボルとして扱われるのだ。それもあってか、市井(しせい)での出来事にも直接関わってくることは極めて(まれ)である。カイリとて常識的な一般市民ではあるが、そういった事案は耳にしたことがなかった。

そんな王家が、今回組合に働きかけをしているとのことなのだ。

いきなりの用向(ようむ)きではあったが、組合長が必要もなくそういったことをしない人物であることはカイリも重々承知している。

「そうですか。わかりました。少しだけ待っていただけますか」

そう言って、カイリは残りわずかとなっていた食事を掻き込んだ。


「失礼します。カイリさんに来ていただきました」

秘書の女性がノックの後にそう告げ、室内へと入る。カイリもそれに続き「失礼します」と言って入室する。そうして入った部屋には組合長のボストークと、それに向かい合うように座った少女がいた。2人の視線が入室したカイリに集まる。

「カイリ・スオウです。お呼びとのことだったのですがどういったご用件でしょうか?」

主に少女に向けての自己紹介と、組合長に向けての説明の催促をする。

「カイリくん、来てくれて感謝する。こちら、サフィ・ブルームテール殿だ。」

「はじめまして、カイリさん。サフィ・ブルームテールといいます」

「彼女の持っていた王家(・・)の封蝋がされた手紙で、君と顔合わせをしてほしということだった。何分私も急なことだったので、理解が及んでいない部分もある。よろしければ詳しい内容などをサフィ殿に説明いただきたいのですが」

カイリとサフィをとりなす発言にサフィが返事を返す。

「ありがとうございます。私のほうも、この手紙を持って警邏部門に行け、とのことだったので状況を把握しきれていません。よろしければ、私も手紙の内容を見せていただいてもかまわないでしょうか?」

見た目の年齢とは思えぬ丁寧な口調に、カイリは感心を覚える。それと同時に、この場にいる全員が状況を正しく判断できる状態でないことに、厄介ごとの香りを感じ始める。丁度カイリも手紙には興味があったので、状況の把握に努めるためにもサフィの発言を反映して全員で手紙の内容を共有することにした。


手紙の内容は大まかにこうだった。

・手紙を持参した者の名は「サフィ・ブルームテール」

・組合にて「カイリ・スオウ」と接触・面会できるよう取り計らってほしい

・組合の警邏部門として可能な限り、彼女の望むよう便宜を取り計らってほしい


簡潔だが、相当な大きなことを言っている。

「えっと、これ、私はどうすればいいんでしょうか……」

あの不思議な声が『自由に生きるがよい』そういった言葉に偽りはないらしい。サフィは戸惑いながらもカイリとボストーク、2人の出方を(うかが)う。

「手紙自体は非公式ながらも正式なものだ。組合としては可能な範囲で依頼とし請け負うことになるだろう。まず、手紙に名前が挙がっているカイリくんに指名依頼といった形式にする。組合としてカバーできる部分はするが、基本的にはカイリくんに一任することにする。そんな感じでどうだろうか」

ボストークが考えをまとめ提示する。

「私はそれで構いません」

「依頼としてもらえるのであれば特段問題ありません。ただ、より適任がいる場合そちらに回す権限が欲しいですね」

2人の回答は仔細(しさい)に違いはあれど、大筋は了承したとの旨だった。それを確認したボストークは話を続ける。

「了承した。カイリくんのほうは手続きをとっておこう。差し当たって、サフィ殿から何か希望はありますか?」

「ひとまず寝床の確保ですね。それと現状生活に必要なものが一切ないのでその調達も。あとはこの街のことなどもよく知らないので、案内もお願いしたいです」

「その程度なら問題ないな。それじゃあカイリくん、しばらくの間、彼女の警護という形で案内などを頼む。サフィ殿の部屋については組合の客室が空いているはずだ。ひとまずそちらを用意しよう」

そう言ってボストークは秘書に目配せをする。それを受け取った秘書は準備のために部屋を後にした。

「そうすると、街の案内などは明日から、というほうがよさそうですね。サフィさん、明日の10時頃に組合のロビーで待ち合わせということでどうですか?」

「それで大丈夫です。あと、敬称はなくて大丈夫です。私自身、よくわかっていない部分が多いので、気軽にサフィと呼んでもらえれば助かります」

「わかりました。サフィ、ですね。まぁ、初対面がこれだったから、徐々に切り替えていくようにするよ。あと、ぼくのこともカイリで大丈夫だよ。口調も堅苦しくなくていい。普段からそれだと疲れるしね」

そうして明日の待ち合わせと今後の方針などについてもう少し話をした後、この会議は解散するのであった。


「経費に関しては、王宮に直接請求かなぁ」

解散後、執務室に戻ったボストークはため息を漏らす。

報告も兼ねた(ふみ)(したた)め封に入れる。溶かした蝋を垂らして指輪を押し付けると、固まり始めた蝋には一枚の盾の前で交差する2本の剣の刻印が刻まれた。


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