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004.青の街02

時は少し(さかのぼ)る。

街の中を歩く一人の少女の姿があった。そのシルエットはこの世界では(・・・・)珍しいものではなかったが、この街では(・・・)少々特徴的なものだった。

160cmに届かないほどの身長に、肩をなでる青みがかった銀髪。動きやすさを重視したのであろう袖の短いブラウスとショートパンツからは、しなやかな四肢が伸びている。正面に並ぶ気持ち程度の双丘に言及した者は、(ことごと)く持ち主の不興を買うであろう。そして特に目を引くのは頭上に並ぶ2つの三角形と、臀部から伸びる長くフサフサとした1本の物体だった。


獣人。動物の耳や尾、角などといった特徴を持つヒト種として生まれ落ちたこの種族は、この世界では珍しいものではない。ただし、人間種が人口の大半を占めるこの青の街(ラズリー)では、旅人や商人などの一部の職業において見かけることが大半であり、多少の物珍しさがあった。


彼女は人込みの中を、物珍しさを込めた視線を振り回しながら歩く。(はた)から見たらこの街に来たばかりのお(のぼ)りさんのように見えるのであろう。すれ違う人たちはそういった人には慣れているのか、強く関心を示すこともなく過ぎ去っていく。

「やっぱり……迷ってる……よね?」

区画がきちんと整備されているとはいえ、周囲を興味本位で見渡しながら歩いていた彼女は目的地を見失っていた。

「そもそも場所もよく知らないし、誰かに聞いた方が確実だよね」

そう呟きながら、彼女は声をかけやすそうな人影を探し始めた。


「すみません、ちょっとよろしいですか?」

そう少女が声をかけたのは、金髪のエルフ然とした女性だった。20代前半を思わせる見た目ながらもとても落ち着いた雰囲気を(かも)し出す彼女は、その外見とのギャップもあってか少女以上に周囲から浮いており、非常に目立っていたのだ。道端にある小さな噴水の脇に腰掛け、膝に乗せた白い猫を無心に撫でるその女性の姿は、少女に近づき(がた)さと好奇心の背反(はいはん)する心理を抱かせたものの、『声をかける』という好奇心が勝った結果の行動をとらせたのだった。

「えっと、道を聞きたいんですが……」

少女が近づいたことで、女性のふくよかな胸に目が(うつ)ろう。女性が適度に胸元の開けた服を着ているため、うっかり(・・・・)少女の目に入ってしまったのだ。谷間からは紋様と思しき(みどり)(わず)かに覗く。その光景に少なからず羨望(せんぼう)を覚えながらも、それをひた隠すように少女は道を尋ねた。

「あら、かわいらしい狐の獣人さんですね。道、ですか?私もこの街の者ではないので、お役に立てるかわかりませんが……ちなみに、どちらに行きたいのですか?」

声をかけられたエルフの女性は戸惑いながらもそう返す。容姿からして浮いている彼女がこの街の住人でないことは、少し考えれば容易に想像がつくのだが、それはそれとして声をかけてみたかったというのが少女の本音だった。

「えっと、組合(ギルド)警邏(けいら)部門の建物を探しているんですが、どうやら迷ってしまったみたいで」

「警邏部門ですか。それだったらこの道をもう少し進んで、2本目の通りを左に折れたら行けますよ。大きな建物なので、すぐに分かると思います」

「あ、本当ですか。ありがとうございます」

「いえいえ、お役に立ててよかったです。目印にも使える建物なので、覚えておくと何かと便利ですよ」

「そうなんですね。私もこの街には来たばかりで、まだいろいろと分からないことだらけなんです」

「そうなの?あれ?でも……」

そう言い淀んだエルフの視線は少女の右の肩口に向けられる。そこには濃い蒼(・・・)で描かれた七芒星の紋様があった。


紋様を彩る色には種類ある。赤・青・黄・緑・白・黒の6色だ。これはこの世界の中心となる6つの街を司る色で、この世界で生まれたヒト種は必ずこの6つの街のどれかの影響を受けている。生まれた地域によって恩恵を受ける街が異なり、その恩恵を受ける街の色が紋様の色になるのだ。またその色が強いほどその街と深い繋がりがあるという事であり、目の前の特に濃い青の紋様を持つ少女が、青の中心地であるこの青の街(ラズリー)に初めて来たということに強い違和感を覚えたのだった。


「あれ?どうかれされましたか?」

対する少女は、そんなエルフの女性の疑念の原因に至れずにいた。

「いえ、なんでもないわ。それより、警邏部門の建物は依頼か何か?」

エルフの女性は抱いた疑問を投げ捨てて少女に告げる。この世界、様々なヒトがいろいろなものを抱えて生きているのだ。エルフとして長年生きている彼女にそれがわからないはずもない。

「えっと、人を探しているんです。警邏部門に行けば会えるという話を聞いたんでが、きれいな景観に気を取られて、うっかり迷って時間を喰っちゃって……」

「あら。じゃあ、もうすぐ戻ってきた人たちで混み始めるから、少し急いだほうがいいかもしれないわよ」

陽が傾きだす頃合いが近いことに気付いた女性の言葉に、少女は「しまった」、と言わんばかりの表情になる。

行ってらっしゃい(・・・・・・・・)

そんな少女の表情の変化を捉えてか、エルフの女性は猫を撫でていた手を止め、少女に向かって微笑みながら手を振りそう言った。

「はい!ありがとうございました」

そう答えた少女は、笑顔で礼を返す。そしてエルフの女性に教えてられた道に向かって歩みを進めていった。


そんな少女の姿が見えなくなるまで、時間はかからなかった。エルフの女性は再び猫を撫でている。

「ちょっと変わってたけど、しっかりした子だったねー」

などと猫に話しかけているのは彼女の性格なのだろう。


それとは別にそんな少女が消えた方向を見つめる瞳が2つ。

「あの子が、ねぇ……」

そんな猫の(・・)呟きは誰にも聞こえなかった。


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