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039. 二人と一匹02

「カイリさんの案件も確認しましたが、森の様子の偵察と魔獣の討伐ですね」

トーシャはそう言って2人に説明を始める。

「依頼としては普段と大きな差はありません。ただ細かな違いとして先日の魔獣の異常発生とその対応を受けて、森の異常が沈静化しているかどうかという確認が含まれています。何かしらの問題があった場合は、可能であればその問題の排除、不可能であればその報告をお願いすることになります」

「森の様子見、というわけですか」

「はい。先日の騒動で被害も多く出ています。組合(ギルド)としては森が完全に異常なしと判断されるまで、しばらく街道の警備を強化する方針ですね。なので、いつまでそれを続けるのか、その指標となる情報が欲しいわけです」

先日の一件では商隊にも多数の被害が出ている。順当に考えても、森の危険が平時程度まで落ちているという判断が欲しいというのは当然だろう。

「そういう事ですね。期間はどのくらいになりますか?」

「ひとまず7日続けて問題がないと判断できればいいとのことです。ですからまずはその期間、調査をお願いすることになります」

「わかりました。準備をして取り掛かりますね」

「はい、よろしくお願いします。お気をつけて」

手紙にあった件の確認を終えると、カイリたちは会釈(えしゃく)をして受付を離れたのだった。


組合(ギルド)内での用件を一通り済ませた一行は森の手前で打ち合わせを行っていた。人目がほぼないこの場であれば、ハクが言葉を話しても人に見られることはない。

「ひとまず、昨日ハクが出て行った後にサフィと話し合ったんだ」

カイリはそう話を切り出す。まずはハクの扱いについて昨日話し合った結果を本人に伝える。

「ぼくとサフィとしては、ハクが一緒に動いてくれるっていうんなら、それはありがたいと思ってる。だから、もしハクがその気でいるんなら、一緒に来てくれると嬉しい」

「それは願ってもない。喜んで行かせてもらうよ。ありがとう。これからよろしくな」

カイリたちの出した結論を、ハクは喜んで受け入れた。その反応を受けて「こちらこそよろしく」と返すと、カイリはそのまま話を続ける。

「差し当たってこれから森へ入るんだけど、そうなると魔獣と戦闘をすることになる可能性がある。その時のために能力(スキル)とかできることを確認しておきたいんだ」

「なるほど、それもそうだな。俺としても2人の能力(スキル)を簡単にでも知っておきたいし、その辺りの情報は共有しておいたほうがいいか」

そう返すと、ハクはひょいと2人から距離をとる。

「俺の能力はな──」

そんな説明口調とともに、ハクは自身のスキルを発動した──


森の中を進むのはカイリ、サフィ、ハクの一行。能力を用いた具体的な立ち回りがどういったものなのかは実践を参考にするということにして、概要だけ説明し合った彼らは現在、サフィの感知を用いて魔獣の気配を辿(たど)っている。

「向こうに1つあるわ」

一定の距離を進んではサフィが再び感知を行い、微妙な方向のずれを修正する。そんなことを数度繰り返したときだった。

「なあ、それどうやってるんだ?」

サフィが感知している姿を初めて目にしたハクがそう声をかけた。事前にサフィが魔獣を広範囲、かつ高感度で感知できるとは自体は聞いていた。しかし、何かしらの能力(スキル)を使っているようには見えないその姿を目にして、どうやらその方法に関心を持ったらしい。

「えっと、説明するのは難しいんだけど──」

そう言って、サフィはその感覚をハクに伝えようとする。

「魔獣って、なんか(くぼ)みのような感覚があるの。集中すると、自分の存在が少しずつその方向に落ち込んでゆくような感覚。なだらかな地面にある蟻地獄の巣みたいな、すり鉢状の穴にゆっくりとボールが転がって落ちていく感覚が近いのかな」

そんな漠然とした表現ながらも、説明は続く。

「それで、自分の意識を薄く延ばすように広げていくと、ぽつんと(くぼ)みがある場所が見つかるの。ちょうどそこだけ抜け落ちたような、何もないような穴が。それが魔獣のいる場所になる、でいいのかな」

「なるほど、サフィの能力(スキル)を使っているわけじゃなく、感覚的なものなんだな」

「そうね。でも、カイリたちにはできないみたいだったから、適性とかもあったりするのかも。せっかくだし試しにやってみる?やってみたら私も一度でできたし、適性次第では簡単にできるのかもしれないわ」

そう言って、バトンをハクに渡す。

「できたら(もう)けものだしな、ちょっとやってみるか」

そう言ってハクは感知に挑戦した。


サフィに教えてもらったことを実践しようと、ハクは眼を閉じて集中をする。自分の存在を(ひら)たくして、感覚を広げていく。目に見えない、自分の意識などという、非常にあいまいなものをどんどん薄く、広く延ばしてゆく──

「──これかな……?」

目を開けると同時、ハクはそんな言葉を漏らした。

「お?できたのか?」

その言葉に反応して、カイリがハクに尋ねる。

「正しくできているかは分からないが、それっぽい感覚はつかめているかもしれない。サフィ、向こうの方向でいいか?」

そう言って、ハクは今までの進路とは少しずれた方向へと頭と視線を向ける。

「そっちで合ってるわ。多分だけど、ハクもできるみたいね」

そんなハクの感覚に対し、サフィは肯定をする。すると、それを聞いたカイリは方針を固めた。

「ハクも同じことができるのなら、それはありがたいな。探知できる人手は多いに越したことはない。しばらくは2人で魔獣の位置を探りながら、感覚の整合をとってもらっても大丈夫?」

「ええ大丈夫よ」

「大丈夫だ、問題ない」

そんな会話を交わしながら、一行は警戒の網にかかった魔獣へと向かい()を進める。


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