032. 確認02
辺り一帯に草の生い茂る平地。そこには2人分の人影があった。
「こんな感じなんだけど、どうかな?」
サフィが能力を発動する。昨日は戦闘だったこともありその姿をまじまじと観察する余裕はなかったため、2人は改めてその様子を観察する。
サフィの右腕が水を纏う。それは体の表面から2センチほどを覆い、わずかな水流を帯びている。太陽の光を反射するそれは、水面のようにきらきらとその輝きを示していた。
カイリは能力を使ったその眼で、サフィの体を視界に収める。
「今は身体強化は使っていなくて、水を纏っているだけなんだよね?」
そんな確認にサフィは答える。
「そうよ。これからいろいろやってみるけど大丈夫そう?」
「大丈夫。思うようにやってみて」
そうカイリが言うと、サフィは思いつくままに水の操作を試し始めた。
まず初めに、水を指の先から薄く延ばして剣の形をとる。変異個体を両断した形状だ。紙のように薄く延ばされた刀身は、獲物の体へと滑るようにして潜り込み、一刀の下に両断するであろう。その鋭利な切れ味は既に実証済みだ。刀身が水でできており、スキルで制御されたそれは折られることもない。柔軟性を備えた優雅な剣だ。
次に試すのは水のヴェール。腕を払うようにして薙ぐことで、その軌跡上に薄い水の膜を作りだす。光を反射して優雅にたなびくそれは、まるでレースのカーテンのような繊細さを兼ね備えている。変異個体のブレスを一切通さないほどの性能を誇るこのヴェールは、試しにと放たれたカイリの拳を柔らかに受け止めた。
そのほかとして、体のほかの部分に水の被膜を宿せるのか、発生させる水の量に限界はあるのかなどいくつかの検証を行った。結果、水を宿せるのは右腕のみであり、身体の他の部分にも一応は纏えるが、一定時間で消えてしまう事。生み出せる水の量に恐らく限度はないが、増やせば増やすほど制御が甘くなってしまうため、一定の量は超えないほうがいいということなどが分かった。また、サフィと繋がっている分には自在に操れる水も、宙に向けて飛ばしたり、分離させたりしてさせたりしてサフィから離れることになると、その時点でサフィの影響下を離れ、数秒で霧散してしまうことも判明した。
また物質を生み出す能力ということで、カイリがサフィの能力をコピーしようとも試した。サフィがその能力を発動して紋様に精霊を宿した後に、カイリがその紋様に手を当てる。そしてサフィの紋様を象った精霊をカイリがその手に受け取ろうとしたが、その瞬間、蒼い紋様を成していた精霊は霧散して消えてしまった。結果、サフィの水を生み出し操るという能力は、今のカイリには使用できないことが分かったのだった。
興味津々で能力の検証を続けていたことで、2人が一息つく頃合いには太陽も空高く昇っていた。そろそろお昼にしようか、という流れになったとき、街の方からカイリたちへと近づいてくる人影が2つあった。
「おう、やってるか?」
そう声をかけてきたのは、身の丈180ほどの男。くしゃっとした金髪で、不愛想ながらも親しみを伴った顔を、カイリたちへと向けていた。
「エディか。よくここが分かったな。特に誰かに伝えたりはしてなかったんだが」
そんなカイリの返答に答えたのは、エディの横を歩いてきた女性だ。エディとは逆に、140ほどという低身長。短く切りそろえられた藍色の髪をほのかに揺らしている。
「必要ない。能力とかを検証するときは街の外が相場。砂地でひどい目を見た、って言っていたから、こっちの方面」
「能力の検証をするとも誰にも伝えてないんだけど……」
「壁に耳あり」
「得意分野ですか」
「ま、あれだ。ロビーで話してれば耳にも入るさ」
どこで耳にしたんだという疑問は、いとも簡単に流される。ロビーで話していただろ、と言われたらその通りと納得する他なかった。
「それで、わざわざ来たってことは、何か用があるんじゃないのか」
本題に切り替えて、カイリは問いかける。
「ああ、嬢ちゃんの能力の検証をするなら、俺たちも付き合いたいなと思ってな。あの変異個体を圧倒するだけ成長があったんなら、俺たちもそのきっかけをつかめたらありがたいわけさ」
「肯定。そこにヒントがあるなら掴むべき」
なるほど、とカイリたちも納得する。確かにサフィの爆発的な成長にはカイリも驚くものがあった。そのヒントがもし掴めるのなら、それをものにしたい、とも思う。ただ、それは非常に難い道のりだということをカイリは感じていた。
「なんにしろ、申しわけないがちょうどお昼にしようと思ってたところだ。来たばっかりのところ悪いが街に──」
そんなカイリの言葉を遮って、エディが口を開く。
「それなら問題ない。どうせここへはお前たちと合流するために来ただけだ。昼は街で一緒に済まさせてもらおうと思ってな。大丈夫か?」
一応確認をとる辺り、エディが人に好かれる所以なのであろう。狩りもサフィも、快くそれを受け入れるのであった。
「そんじゃま、行くとするか。どこでとるかは決めてるのか?」
「いや、特に決めてないけど」
「それなら、ヴィシーが好きなとこでも行くか?あそこなら嬢ちゃんも気に入るだろうしな」
「あそこは行っておくべき。おすすめ」
ほんのりと、ヴィシーの言葉に喜びの感情が漏れ出る。
「じゃあそこにしましょ。いろいろなお店にも行ってみたいし」
そうして4人は、連れ立って街の中へと戻っていくのだった。




