028.エピローグ はじまり02
二話投稿の二本目になります。
前話を読まれていない方はそちらからぜひ。
──どうやって変異個体の成獣を倒したのか──
それを説明するにあたって、サフィがまず持ったのは戸惑いだった。変異個体を倒す能力を開花させる切っ掛けとなった獣の言葉には意味深な内容が多々あり、この場においてどこまでその情報を出していいのかという加減は、正直図りかねていた。そも、ど初っ端の獣が言葉を発したという事がすでに大事だ、と察する程度にはサフィはこの場の雰囲気を弁えている。
「えっと、実は組み伏せられた後、その獣が言ったんです。あの変異個体を斃せるのは私だけだ、って──」
弁えた結果、サフィは転生者というフレーズだけを隠し説明をすることにした。転生者というものがこの世界でどういう扱いをされるのか、それを知らないことにはこの単語を軽率に出すのは危ういとの判断だった。
そしてサフィの想像の通り、人語を介する変異個体が現れたという点では全員が「どういうことだ」と騒めき立つのであった。各々が、それを未知の脅威を孕んだ存在と認識して、危機感を持った表情を浮かべた。
「言葉を話す変異個体か……そもそも成獣の変異個体ですら記録にない。それどころか人語を介する魔獣ですら聞いたこともないからな?本当にしゃべったのか」
そうボストークは、自身の記憶を手繰りながら言葉を発する。確認も込めて、そのままサフィに問いかけるも、帰ってくるのは当然肯定を意味する頷きだった。
「実際、そんなもんがぽんぽんいたら大変だろうよ。言葉を使うんなら、それに見合う知能もあるってことだ。危険性を考えるなら成獣なんて比じゃないんじゃないか?だからこその変異個体だとは思うが」
「同感。あんなのにほいほい出てこられたらたまったもんじゃない」
「サフィに助言めいたことをしたのも気にかかるな。魔獣や成獣みたいにただ襲い掛かってくるならともかく、これじゃあ何が目的なのかさっぱり分からない」
そう議論を交わすも結論は出ず、最終的にその獣の言葉が変異個体を斃す一助となったということで、脅威についての判断は一時保留となった。
「あと、変異個体を倒した方法についてですが、今までは能力を使うときに形だけを思い描いていたんです。それを今回は、その色についても意識を向けるようにしたんです。そうしたら変異個体も一撃で倒せるほどの威力が出て……」
そう、今回の戦闘の中で自身の至った結論を伝える。
サフィは、続く「なんでもできるような全能感がありました」という言葉を、今更ながら覚えた恐れと共に飲み込んだ──
「ほう、そんなことが?」
「能力なんて、なんとなく使えてたからな。意識して使ったことがなかったな。いっちょやってみるか」
「初耳。期待大」
「……」
その話を聞いた、エディを始めとする全員が興味津々でそれを試みる。
「なんも変わんねぇな」
「もしこれで組合員の底上げができるのなら、有効活用できると思ったんだがな」
「残念……」
「……」
が、何の成果も得られなかったことはここに書き留めておく。
そうして、報告は一通りの完了を迎えた。
山狩りを1日かけて行ない、最終的に集まった情報をまとめた結果、その成果は以下のようになった。変異個体1体を含む成獣を6体と、無数の魔獣を討伐。謎の変異個体と思われる獣1体と遭遇も取り逃がす。また森の中において黒い祠の残骸を2つ確認したという報告も上がってきた。カイリたちが破壊した物のほかにもう1つあったことになるが、別の組合員がそれを発見した時はすでに残骸だったとのことだ。またその周辺にはカイリたちの発見した水晶玉と思しきものもなかったということで、もしカイリたちが発見したものと同じ役割の祠であれば、何者かがそれを持ち去ったことが危惧された。
カイリは自宅に戻ると、今日の一連の出来事を回想した。
サフィの能力の突然の開花。今まであそこまで爆発的に能力のカタチが変わるところをカイリは見たことがない。肉体強化はあくまでその身体能力を高めるだけであって、水を、ものを生み出したりはしないのだ。それが色を意識するだけでいいというのであれば尚更だ。カイリは普段からそれを行っている。なんといってもその眼で紋様を観察し、その形状を、色を見て、意識して能力を使っているのだ。初めて自分の能力を知ったとき、まだ幼かったカイリはその役立て方が分からず呆然としたことを覚えている。それでも何とか使いこなそうと、ことあるごとに鏡で自分の瞳を観察して、どうしたものかと頭をひねったものだ。そのときにカイリの能力に変化がなかったということは、そこには何かしら、カイリとサフィの間で異なる他の要因があるはずだった。それはカイリにしか気づけない、しかし証明のできない疑問だった。
そう。
──なぜサフィにだけ?
そこを取っ掛かりに、いくつかの記憶が呼び起こされる。たとえば今日、組合長への報告の中で一瞬困ったような、何か隠しているような気配があった。それは、今日まで自分と行動を共にする中で、たびたび漏れていた聞きなれない単語に関係があるのか。それとも、彼女が今ここにいる事そのものに何かしら関係があるのか。
そんな考えは、カイリの意識が夢の世界に旅立つまで巡っていた。
──同時刻。
組合に用意された自室に戻ったサフィは、開いた窓から空を見上げる。
「青の転生者か──」
その言葉の意味することで、思いが至る内容はあるが口には出さない。
他にも獣の言葉には引っ掛かるものが多かった。
「あの言葉は、誰に向けられたものだったんだろう」
何処か遠くを見ているように感じた謎の獣の正体。サフィ自身よりも、サフィのことを知っている素振りを見せたそれは、未だこの世界での一歩を踏み出したばかりの彼女にとって、いくつもの疑問を抱かせるのに十分な存在だった。
どれくらいの時間空を見つめていたのだろうか、彼女は微睡の中を泳ぐ。
彼女に大きな変化をもたらしたこの日は、様々な思惑入り乱れる日々のはじまりの1日だった。
なにとは言わないけど張っておきますね。
お漏らしがあれば見つけ次第追加します。
もしお漏らしに気付かれた方がいましたら、一報いただけると嬉しいです。
007.青の街05
023.成獣03




