027.エピローグ はじまり01
二話投稿の一本目になります。
続きは20:00を予定しております。
一番最初に目を覚ましたのはカイリだった。全身に刻まれた傷跡からはじくじくとした痛みが伝わってくるものの、出血はすでに止まっており、命に迫るような傷も負っていない。すぐさま起き上がると周囲の状況の確認を行った。
周囲に魔獣の気配はない。辺り一面は溝のように抉れたり、窪みができたりと荒れ放題になっており、戦いの激しさを物語る痕跡が大量に残っている。戦闘が始まる前に祠の乗っていた岩は砕け散り、その傍らでは戦闘に巻き込まれたのであろう祠の残骸が散乱していた。
そう状況を把握している最中、ヴィシーがもぞもぞと動き、よろよろと起き上がった。すぐさまそれに気づいたカイリは慌てて駆け寄り、その体を支えながら話しかけた。
「大丈夫か、ヴィシー」
「大丈夫。体力は消耗してるけど、それ以外はすこぶる好調……」
聞くに、予想以上に戦闘で体力を消耗したのか、肉体的な疲労がかなりあるらしい。しかし、腹部を抉っていた大きな傷跡は消え去り、体調に関しては問題ないとのことだった。服にあいた穴からはピンク色の新しい肌が覗いており、それは異常な速度で傷口が治癒したことを意味していた。
「変態」
そんな肌をまじまじと見詰めながら思索にふけっていると、辛口な一言がぶつけられた。
「え……?あ、違う、そうじゃない!」
慌てて反応するも、その口角が僅かに上がっていることに気付き、すぐさまからかわれたことを察する。
「ちょっと?ヴィシーサン?」
「そんなことより、エディも起きた」
不服を感じ咎めにかかるも、その言葉は流され、返しでエディ―が起き上がったことを指摘されてしまうのだった。
「あー、あれか。察するに全部終わったのか?」
そんな起き抜けに発せられた一言が、今の状況を的確に表現していた、
未だ起き上がらずにいるサフィの傍に移動した3人は、座ってここまでの状況を整理していた。
「──というわけだ。正直、ぼくも最後のほうの状況は飲み込めていないけど、ざっくり言うとそういう流れだった」
カイリは2人に、エディが倒れた後から順を追って説明を行った。
サフィが変異個体の背中にいた獣に押し倒されたこと──
ヴィシーが大けがを負ったこと──
カイリが防御一辺倒で攻撃を凌いでいたこと──
ヴィシーが気を失ったこと──
サフィが突如、変異個体に優位に立ったこと──
そのまま変異個体を一刀両断にしたこと──
──そして未だ、サフィが目を覚ましていないこと。
「とりあえず、ここに長居するのも悪手だろう。急いで戻って、組合長に報告したほうがいいな」
「ああ。ひとまずは戻って報告だ」
そうまとめると一行は移動を始めた。空の陽は落ち始め、夕闇が訪れるときを待っている。朝方、森の中へと進んでいくときとは異なり、この帰り道は異様なほど静寂に包まれていた。襲撃と思える襲撃はなく、遭遇はおろかその気配すら感じることはなかった。
カイリらが組合長の元に着くころには、太陽は完全にその姿を隠し、星の煌めく空が夜の到来を主張していた。
事の重大性を鑑み、報告は応接室で行われた。その移動の途中でサフィの意識も戻り、安静をとりながら事の説明に加わる。報告はカイリたち4人と組合長に、その秘書が記録係として立ち会う。
まず最初に、カイリがエディたちに行ったのと同様の説明を行う。大量の魔獣とそれを生み出していたと思われる水晶、成獣の変異個体という言葉が出てきた時点で、ボストークの顔は激しく歪んでいた。そのまま一通りの説明を終えたところで、さて、とばかりにボストークの口が開いた。
「魔獣を生み出すと思われる水晶玉か。そんなものがあるとすれば大問題だ。古今東西の魔獣の発生が、誰かの意思によるものだとは考えたくないものだな……」
「まったくもってだ。そんなもん、人の手にあっていいもんじゃねえ。破壊したとはいえ、その残骸も持っていかれたってなりゃ、それなりの使い道があるんだろうよ。どうせ碌な使い方じゃないだろうがな」
ボストークの言葉に続き、エディが言葉を吐いた。そこにカイリが付け加える。
「実際に視た感想だけど、あの水晶玉は多分──魔獣の大量発生を引き起こしていたんだと思う。自然発生する速度を上げる、触媒みたいなものなんじゃないかな。だから魔獣の発生自体には誰かの意思は介在していないと思う。まあ、あの水晶玉が誰かしらの意思で利用されていて、今どこにあるのか、どうやってできた物なのかが問題なんだけど……」
「ひとまず、その水晶に関しては緘口令を敷く。他言無用にするように。そんな情報が、何の根回しもなく広まったらたまったもんじゃない。それにしても、そんなものが行方不明となれば、しばらくは森への警戒を強める必要があるか。まったく、厄介ごとがまた1つ増えた」
そう言って、ボストークは頭を掻いた。すこし間を開けて言葉を再開する。
「それに加えて、成獣の変異個体だ。そんなものがほんとうにいるとはな。何はともあれお前たちが無事で何よりだ。でだ。エディたちでも手が出なかったそいつを、どうやって倒したのか、今後の参考に聞かせてもらえますか?」
そう言ってエディ達へ向いていた言葉の先を切り替え、サフィをその先に据えた。




