018.山狩り04
「さっきまでの……魔獣の感覚とは違う何かがある」
サフィの言葉は続く。
「うまく伝えられないけど、そこにぽっかり空いた空洞がある。すごく嫌な感じ……」
語尾が断定になっているところから、サフィがその場所に何かがあるという確信を持っていると3人はみた。
「リーダー、任せるぜ」
明確な異常を察し、エディがどうするかの判断を委ねる。
今回、異常の最たる例は成獣である。今のところ遭遇はおろか、サフィの探知にもその影は引っかかっていない。これまでと異なる感覚というのであれば、可能性をもっとも疑うべきはまず成獣であろう。
「確認可能な範囲まで一度近づく。それが成獣なら、打ち合わせ通りだ。2体までなら戦闘、それ以上なら撤退。成獣でないなら、調査を視野に入れる。何か他に考えがあれば挙げてくれ」
カイリは現状で思いつくプランを掲げ、皆の確認をとる。
「大丈夫だ。一応どっちに転んでも、街まで戻ってあの組合長に報告は上げたほうがよさそうだな。サフィの感覚に従うなら、これは間違いなく何かしらの問題だ」
「他に意見はなさそうだな。それじゃあ、ここから東に向かう」
そうして、カイリたちは厳戒態勢をとりながら足を踏み出した。
500メートルというのは遠いようで近い。目的の場所まで100メートルといった位置に辿り着くまで大した時間はかからなかった。カイリたちは今、その地点で再度感知を行っている。そこに変化はなくサフィには何かしらの存在が感じられるものの、ヴィシー達には魔獣などの気配は察知できなかった。木々が鬱蒼と茂り、視覚による情報を得るには難しい環境であることも、状況判断の難しさに拍車をかけていた。
「もう少し近づいてみるか……?幸いというか、現状、魔獣の気配も成獣の気配もしない」
「一応、この先に開けた空間がある。何かあるとしたら、多分そこ」
各々がそれぞれの感覚で周囲を探る。特に糸を使って周囲の地形情報を得られるのはヴィシーがいる恩恵だ。
「そこまで行こう。念のため、臨戦態勢は整えておいてくれ」
警戒に手を抜かないまま、目的と定めた地点までの移動を再開する。
そして、それが彼らの視界に入るまで、そこから幾許の時も必要としなかった。
そこにあったのは黒く簡素な祠だった。露出した岩の上に鎮座するそれは、丁寧に加工された木材で組み上げられている、50センチ四方に収まる程度の小さなものだ。立派な装飾もなければ手の込んだ彫刻もない。かといって雑に建てられているわけでもなく、雨風に耐えうる強度は十二分にある。誰かが暇つぶしに作ったようなものではなく、明確な目的を以って建てられたことが感じ取れるその様は、ある種の厳かさを伴っていた。祠は扉の開閉も不自由なく行えるようで、観音開きの扉は開け放たれており、その中には 直径15センチほどの水晶玉を思わせる、澄んだ玉が祀られている。
森の裂け目でその祠を見た瞬間、一同はその異様な雰囲気に呑まれてしまった。
「──なんだ、これは」
特にその風景に充てられたのはカイリだ。警戒のために能力を発動させていた彼の瞳には、その光景がとても禍々しく映っていた。周囲からこんこんと、泉のように湧き出てくる黒い靄が祠の中に吸い込まれていく。あたかも魔獣が自身の身体を成すかのようなその靄は、集い、祠の中の一点に収束するように吸い込まれていく。
その靄に触れないよう、注意して祠の中を覗き込んだカイリは言葉を失った──
祠の中に鎮座する玉。その中心へと黒い靄が収束しているのだ。球の内部を幾筋もの黒い線が走り中心へと収束していく様は、その水晶が何かしらの力を蓄えているようにも感じられる。
「エディ、これをどう思う」
各自が祠の周辺を確認している中、最も近くにいたエディに声をかける。
「不気味な感じがするな。特にその透明な水晶、意味もなくこんなところに置かれているわけじゃないだろうよ」
「そうか、やっぱりそう見えるよな」
その後も全員に確認したが、カイリ以外の目には透明な水晶としか見えないところから判断するに、やはり魔獣や精霊に関係するものなのだという確証が高まる。
十数分の調査ののち、一度全員の得た情報を共有することとした。
「周辺一帯に、魔獣っぽい気配はない。現状、それが一番気持ち悪い」
そうサフィが祠を指さしながら言う。
「同感。魔獣どころか、生き物の気配すらない。虫一匹、このあたりにはいないって言われても信じるくらい」
「祠も、どこかで作ったものをここに持ってきて置いたんだろうよ。木はこのあたりにない種類のものだし、塗装は漆……だと思うが、わざわざ防虫、防水まで気にかけるとは、ご丁寧なこった」
「祠についてだが、その中にある水晶が危なそうだ。魔獣の靄のようなものが集まっている。誰の意図かはわからないけど、放っておいてもいいことはなさそうだ」
「そんじゃまぁ、気は進まないが一旦ここはこのままにして組合長のとこに戻るか?それでこいつが何か、心当たりがある奴がいたら御の字だろ」
「それで行きたいが、長居し過ぎたか?ちょっと風向きが変わったみたいだ──」
すでに全員が戦闘態勢をとっている。今の今まで何の気配もなかった周囲は、いつの間にか多数の気配に取り囲まれていた。
初めまして。
不知火天丼です。
2021年08月28日現在、初めてのブックマークをいただきました。
何ごとも目に見える評価点とは嬉しいもので、この文を書いている今、PCの前で一人にやけています。
趣味嗜好全開で筆を執った作品ですが、手に取った方に楽しんで貰えるよう、これからも好き勝手に書き綴っていきたいと思います。
また、誤字脱字などあれば、ページ最下部にある『誤字報告』より指摘いただけると大変ありがたいです。
これからもよろしくお願いします。
不知火天丼
(2021/08/28 22:13)
PS.本日(2021/08/29) 20:00にも次話の更新を予約しております。




