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015.山狩り01

街の外には総勢250名を超える組合員(ギルドメンバー)が散っていた。東門に定刻通り集合した彼らは、簡単なブリーフィングを行ったあと、それぞれの仕事へと向かった。街道沿いに商隊保護を目的とする者たちと、森の中へと散る魔獣討伐を目的とする者たち。大きく二手に分かれた彼らはそれぞれの得意分野をこなす。彼らを飲み込む森は鬱蒼(うっそう)と広がっており、時たまその遥か奥の山脈から吹き降ろす風で波紋を広げていた。


カイリのパーティーもまた、そんな森の中へと潜っている最中だった。ヴィシーを先頭とし、エディ、カイリを頂点とした正三角形の中心にサフィを据えた陣形。淡々と歩を進める彼らは感覚を研ぎ澄ます。索敵に関して、残念ながらサフィに出番はない。そもそもその技能はまだ身に着けていないからだ。一定の間隔をあけて成長した林の中は見通しが優れず、遠くまで見通すのは不可能だった。移動中は決して走らない。成獣という脅威が確認されている中で、移動や索敵に特化したパーティーでもない限り、体力の消耗は抑えるに越したことはなかった。


そうして進むこと1時間ほど。

「かかった。前方500メートル。最低3体」

ヴィシーが捉えた敵影について告げる。それと同時にカイリの眼は、ヴィシーの右手から伸びる糸状の光が霧散するのを捉えた。

「このまま会敵する。サフィ、頼む」

カイリはそのまま戦闘に入ることを告げ、サフィにお願い(・・・)をした。


サフィはカイリから、事前に一つの頼みごとをされていた。それは、会敵前、一瞬だけ能力(スキル)を発動してほしいというものだった。能力を発動すると精霊が集う。では、その能力を解除するとどうなるか。答えは精霊がその場に散る(・・・・・・)だ。それまで近くに精霊がいなくとも、誰かが能力を発動するとどこからか(・・・・・)精霊が集まってくる。そして能力を解除すると、その空間に存在するようになるのだ。そしてその空間からカイリが精霊を回収することで、ソロの時とは段違いの速さで戦闘準備を整えることができるという技巧だった。そしてそれをサフィに頼んだのは、サフィの能力が膨大な精霊を集めていることに、昨日の特訓の際に気付いていたからであった。


カイリはサフィの散らした精霊をその四肢に宿す。エディとヴィシーは、各々(おのおの)両手にナイフを握る。加えてサフィの身体に、ヴィシーの掌に、エディのナイフに精霊が宿っていることを確認した。

その間も魔獣との距離は詰まる。そしてカイリたちと魔獣の進路は、直線上で交わることとなった。


初撃はヴィシーによって放たれた。右の手から離れたナイフは回転しながら宙を舞い、標的へと最短距離を突き進む。それを視認した魔獣は、そっと射線をずらすことで一撃を避ける。が、直線を進むはずだったナイフは、その軌道をわずかに変えて魔獣を追尾し、頭から尾にかけてその半身に大きな切創(せっそう)を刻んだ。ナイフはそのまま背後の木に刺さって止まる。そのナイフの柄からは一本の糸が伸びヴィシーの方へと延びていた。それを確認したヴィシーは、いつの間にか手から伸びている()を強く張った。


ヴィシーの紋様は右の(てのひら)にあった。(かたど)っているのは八角形を象った蜘蛛の巣である。この紋様によって得られる能力は糸。それも強靭で柔軟性のある縦糸(・・)と呼ばれるものと、それを強い粘着性の液体でコーティングした、対象を絡めとることができる横糸(・・)の2種類を使い分けることができた。

この2種類の糸は、投げたナイフを引き戻したり、索敵を行ったり、地形を操作したり、敵を拘束したりすることを可能にする。そういった、小回りの利くのがヴィシーの戦闘スタイルだった。


そんなヴィシーに続き、行動を起こしたのはエディだった。

エディは空中を走る。否、正確に言うならば、ヴィシーによって張られた糸の上を走っていた。強靭なその糸は、大柄のエディ1人の体重程度ではびくともしない。大柄な彼は狭い空間を走ることを得意としない。そこで何もない空間に道を敷くことでそこを彼の戦場とするのだ。鍛えられた体幹にものをいわせ、魔獣への最短ルートを突き進む。その手には一本のナイフが握られている。カイリの眼を借りるなら、その刀身部には多量の精霊が宿っていることが確認できるだろう。そのままヴィシーの一撃でかすり傷(・・・・)をつけられた魔獣とすれ違いざま。手にしたナイフで空を切る(・・・・)。その瞬間、ナイフ刀身は長剣のように長く伸び、魔獣を一刀の下に引き裂いた。

大柄な体格を生かしたパワーに、ナイフという武器の取り回し、能力によるリーチと攻撃力の補完。それがエディの戦い方だ。


「まずは1体!」

エディの声が喧騒の中に響く。魔獣と会敵したことで、周囲一帯は急激に騒がしくなった。エディに続き、全身に強化を施したサフィも飛び出す。そのばねによって弾丸のように射出されたサフィは、木々を壁と見立て縦横無尽に跳ね回る。その速さは魔獣の飛び掛かる速さ(トップスピード)を上回っており、一方的な攻撃を可能にしていた。が、そこは経験不足が顔を出す。サフィが一方的に殴り掛かるはいいものの、動き回る標的に悪戦苦闘。カス当たりはするものの、致命的な一撃が入らない。最終的にカイリが魔獣のターゲットをとりその動きを誘導することで、サフィがわき腹に一撃を入れる隙を作り討伐する流れとなった。

これは、サフィの動く標的への対応力の低さが如実(にょじつ)に出る、今後の課題となる結果だった。


会敵した魔獣は事前の索敵通り3体。残りの1体は──とサフィが見渡すと、いつの間にかヴィシーによって芸術的な簀巻(すま)きに仕上がっていた。


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