014.異変04
サフィの雰囲気が変わったことを、その場にいた全員が感じ取った。
ヴィシーも余計な言葉を発する気配はない。他人が口を出すのは無粋だと言わんばかりに、軽く瞬きをした。
そんな張った空気を破って、カイリはエディに言葉をかける。
「エディ、そういうわけだ。今、ぼくはサフィとパーティーを組んでいる。これにはこっちの事情があってこのことだ。ここは譲れない。すまないが、今回は別をあたってくれ」
その返事を受けたエディは、少し考える素振りをした後、ヴィシーとアイコンタクトをして答える。
「──いや。それなら尚更、お前たちをパーティーに誘おう。嬢ちゃんに何かしら事情があるのはわかった。お前が嬢ちゃんの参加を止めないのも何か考えがあってのことだとは思うが、手練れが多いほうが嬢ちゃんのフォローもしやすいだろう。成獣の討伐に未練がないとは言わないが、この街にいるAランクは俺たちだけじゃない。今回の見せ場はそいつらに譲ることにするさ。新人教育も先達の役目ってな」
「エディ、ヴィシーも。今回ぼくたちとパーティーを組めば、思い通りに動けないことになる可能性だって十分ある。本当にいいのか?」
「くどい。エディもそれでいいって言ってる。それにカイリの弟子、どんな子なのか、すごく興味ある」
「お前が連れていけるって判断してるんだ。最低限、戦えるんだろう?なら問題ないさ。新しい芽、ぜひともこの目で見てみたいね」
改めての歓迎ムードに、場の風向きは一変した。
「2人とも、ありがとう。感謝する」
「エディさん、ヴィシーさん……ありがとうございます」
そうして、来たる魔獣討伐の招集に向けて、一つの臨時パーティーが結成されたのであった。
その後しばらくは、パーティーの方向性を決める時間に充てた。エディとヴィシーの夕食はまだだったため、ついでとばかりに注文をしてする。
パーティーのリーダーはカイリ。これは全員の手の内をある程度把握しているためだ。ベースはペアでの行動。もちろんカイリとサフィ、エディとヴィシーだ。また、魔獣に紛れて複数の成獣が現れることが想定されるため、魔獣が4体、もしくは成獣が2体同時までなら継戦、それより多ければ撤退をするものとした。基本的にサフィは魔獣の相手のみとし、成獣と相対するような事態は作らない、もし仮にそうなってしまった場合、やはり撤退とした。その場合、エディとヴィシーが殿を務める。
そういった方針がある程度まとまる頃合いには、組合内にもざわめきが目立つようになってきた。耳をそばだてると、魔獣の大量発生と、成獣の出現の話が広がっているようだ。どうやらエディたち以外にも、報告をしたチームが現れているらしい。鑑みるに、第一種持ちに招集がかかるまで、そう時間はかからないだろう。
そんなギルド内の雰囲気を捉えながらも、次は先輩たち3人による、魔獣討伐の簡易講座がサフィのために開かれていた。魔獣とは何かから始まり、魔獣を相手にしたときの心構え。とってはいけない行動や、とるべき行動。その習性や戦い方まで、様々なベテランの知識や経験を呑み込んでいく。
そんなこんなで、サフィに合格の印が押されたのは、空に星が瞬く頃合いになってからだった。ギルドの掲示板にはいつの間にか、魔獣討伐のため、翌朝7時に集合という告知がされている。
「明日はよろしくな、嬢ちゃん」
エディが手の甲に青い紋様のある右手を差し出す。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
サフィは快くその手を取る。
「サフィ、よろしく。」
ヴィシーも右手を差し出す。その掌には紋様と思しき青が見える。
「ヴィシーさん、よろしくお願いします」
そうして、空気もまとまったところで、翌日に備えてメンバーは解散することになった。
──カイリたち4人がチームの方針を立て始めた頃、組合長の部屋では組合長が報告を受けていた。
「──以上が、現状報告されている事態の総括になります」
秘書から報告を受けたボストークは、親指と人差し指で目元を抑える。
「魔獣の大量発生に、複数の成獣か。大事になってきたな。必要なのは街道警備の強化と、成獣および魔獣の討伐、可能ならその原因の調査か。緊急招集だ。第一種持ちのAからDランクによる魔獣の集団討伐に第三種持ちのAからDランクによる街道警備の強化。加えてE、Fランクは単独での街の外での活動を非推奨とする。招集令自体は即時張り出し、集合は翌朝7時に街の東門付近とする。それまで各自十分な休息をとり、万全を期して臨むよう通達だ。可能な限り早く片付けるぞ」
考えを巡らせながらそう指示を出す。記録に残っている限り、青の街で同様の事態の発生は何度も確認されている。そして、人事を尽くした果てに、大事に至らずに乗り越えたとのことだ。今回も記録にあるものと同様、大きな被害を出さずに解決できるよう、ボストークは神に祈るのだった。




