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012.異変02

「ランクですが、登録を行うと第一種から第三種までが自動的にFランクで申請されます。そして基本的には筆記と実技の両試験に面接、実績で必要条件を満たすことでと上げることができます。Fランクからは簡単な技術と知識さえあればすぐEになれる形になっていますが、Eランクはその人の人となりを見る期間も兼ねているので、そこからDに上がるのは少し時間がかかることが多いです。また、ギルドから招集がかかることもありますが、対象は基本的にはDランク以上となるので覚えておいてください」

本業である、トーシャがすらすらと説明する。

「基本的に評価される項目は戦闘力、生存能力、任務遂行力に、その人の人となりです。特に魔獣はその討伐証明ができないため、組合(ギルド)との信頼関係で成り立っています。ここをおろそかにすると、いいことはありません(・・・・・・・・・・)よ」

説明をする中でも、笑顔で念を押しておく。ここを守らず悲しい目に合う組合員(ギルドメンバー)は少なくないからだ。

「以上で一通りの説明は終わりです。」何か気になることなどはありますか?」

「大丈夫です。もし何かあれば改めて聞きますね」

「わかりました。こちら、サフィさんの組合員証(ギルドカード)になります。大切なものなので、紛失しないよう気を付けてくださいね」

そう言ってトーシャはサフィに組合員証を手渡す。かかった時間は大筋の説明込みで10分ほどだったろうか。陽は十分に傾き、夕日が差し込み始めていた。

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします、トーシャさん」

「こちらこそ、よろしくお願いします、サフィさん」

組合員証(ギルドカード)を受け取り、挨拶を終えた2人は食事を摂とろうとロビーへと向かった。


残照(ざんしょう)の空に、街が赤く染まり始めたころ、組合のロビーはごった返しを見せていた。仕事の報告をする者、食事を摂る者、雑談をする者、酒を飲む者。三者三葉のことをしているが、一日を終えようとしているというただ一点で共通していた。

そしてまた一組、ギルドの受付カウンターで、仕事の成果を報告に上がる2人組がいた。

「エディ・リーフバレーとヴィシー・リフトバレーだ。魔獣討伐の報告に来た」

筋肉質な体で身の丈180ほどの男が声を出す。左右の腰に4本ずつナイフを差しており右手の甲に正円に内接する三角形の青い紋様が浮かんでいる。くしゃっとした金髪に不愛想だがどことなく嫌いになれない顔立ちは、この人物の性格を的確に体現していた。

「仕事は明日までの予定だったが、早めに切り上げてきた。どうも森の様子がおかしくてなぁ。昨日の討伐数は2体で問題なかったんだが、今日の数がおかしい。遭遇したのが18体。すべて狼型で3体の組で行動していた。そのうち討伐に成功したのは15体。一組分、丸々うち漏らしだ」

そこまで告げたエディの言葉を引き継いだのは、その横にいるヴィシーという女性だった。短く切りそろえられた藍色の髪に小ぶりな体つき。身長は相方とは違いかなり小さく、140くらいといったところだろうか。子どものような体型に似合わず、主張をする部分はしっかりとしている。またエディと同様、左右の腰には1本ずつナイフが差さっている。エディのそれが短刀に近い形をしているのに対し、こちらは鋭角に湾曲がった刃が3つついた特殊な形状をしている。見る人(・・・)が見れば、アフリカ投げナイフ(ウォシェレ)という名前に思い至る、特殊な投げナイフの一種だ。柄の端には糸を結ぶためか穴が開いているのが見て取れる。

「漏らした3体は成獣化(・・・)していた。どこかに襲われて命を落とした(・・・・・・)ヒト種がいる」

それまで黙々と記録をしていた受付の男性の顔が、一瞬だけ苦虫を噛み潰したようになり、真剣味を増す。


魔獣の成獣化。それは魔獣が一定数のヒト種の命を奪うことによって発生する。体が巨大化し、知能を得て、それまで剝き出しだった凶暴性を内に秘めるようになる。また、その周囲にいる魔獣も成獣化しやすくなる傾向があり、通常の魔獣に比べて、その危険性が大きく跳ね上がるのであった。出現例自体は多くないが、その悪辣(あくらつ)さは大型のものになるとAランクの組合員が頭数を揃えて出張る必要があるほどだ。幸いなのは成獣になるために必要な犠牲は意外に多く、出現が稀である、という事だろうか。

この成獣化した魔獣の対応には大きく2つある。1つは通常の魔物と同じく討伐を行うこと。もう一つは放置すること(・・・・・・)だ。

過去、小村が成獣に襲撃される事態があったそうだ。村で暮らしていた人々の命は為す術もなく散らされ、村は成獣(・・)の群れに飲み込まれてしまった。組合は討伐隊を結成するも、膨大な数の成獣に手をこまねくことしかできず、忸怩(じくじ)たる思いしたという。そんな状況を監視下に置いて2月ほどたったある日、周囲は雷を伴う大嵐に見舞われたという。もともとその地域は嵐と無縁だったこともあり、監視を行っていた組合はその異変をすぐに察知したそうだ。そして1日続いたその嵐が去った後、組合が派遣した調査部隊が目にしたのは、魔獣一匹いない村の姿だったという。

同様に、成獣が手に負えず放置していた結果、異常気象と共に消失したという話は昔から多くある。しかし、そこには多大な犠牲が伴うものであり、意図してこの方法がとられることはごく稀だった。


「成獣が3体、ですか。あまり芳しくない事態ですね。それに魔獣自体の数も異常です。もう少し詳しく話を聞かせてください」

そう言って報告を記録していた男性は、2人からの情報の聴取を再開した。数分後、情報の吸い上げを完了した男性は裏へと姿を消し、エディとヴィシーはロビーへと足を向けた。


「エディ、不満そう」

隣から漂う不機嫌のオーラに向かってヴィシーが会話のボールを投げる。

「んったりめーだ。成獣とはいえ、3体も討ち漏らすなんて不覚も不覚、大失態だ」

「あの状況じゃ仕方ない。戦闘中に馬車が近寄ってくるのは想定外。最優先は死なないこと。じゃないと成獣を無暗に増やすことになる」

2人が3体の成獣を発見したのは森林部の街道に近いところだった。早速戦闘を始めるも、間が悪いことに台の馬車が近寄ってきてしまったのだ。不運なことに、その商人が雇っていたのはDランクが3人とCランクが1人という構成で、成獣の相手には力不足だったため、2人は商人がその場を離れるまでの殿(しんがり)を務めることになったのだ。何とか商隊は無事に離脱させたものの、成獣には手傷を負わせる程度しかできず、その逃走を許す羽目になったのだった。

「それはそうだが、逃げられたのもまた事実だ。あんなもん、CやDランクの組合員(ギルメン)じゃ手に負えねーぞ。それこそBでも怪しいだろーよ。今回仕留められるタイミングを逃したのはさすがに痛手だよ、ったく」

二人の第一種(対魔獣戦闘)のランクはA。対魔獣のエキスパートとしての意見だった。

そんな流れをぶった切り、ヴィシーがロビーの一角を指差し言った。

「そんなことよりあれ、なんか面白いことになってる?」

「ん?おっ?」

その指の先には二人の良く知る青年が、見知らぬ少女と食事をしている姿があった。


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