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011.異変01

太陽が傾きつつある中、2人は組合(ギルド)にたどり着いた。扉を開けて中に入ると、受付の職員を始めとする組合の職員の雰囲気が、昨日に比べて真剣味を帯びている。

「すみません、トーシャ。少し空気が張っているようですが、何かあったんですか?」

ちょうど、受付にいた顔見知りの職員が手の()いている様子だったので、カイリが声をかける。先日、魔獣討伐の報告を行ったのとは違う女性だ

「あ、カイリさん、お帰りなさい」

トーシャと呼ばれた女性は声に反応して顔を上げる。それによって頭から伸びる栗毛の尻尾がふわりと揺れる。

「実はですね、魔獣が増えている可能性がありまして──」

トーシャはそう言葉を続ける。

「午前中に到着された商人の護衛に就かれていたチームから、魔獣の襲撃が異常に多かった、との報告があったんです。8日の旅程(りょてい)のうち、青の街(ここ)に着く2日前ほどから、日に5度ほど、集団での襲撃を受けたとのことでした」

街道を移動する以上、魔獣に襲撃される可能性は高い。カイリに商隊護衛の経験はないが、この街の周辺のことであれば情報を耳にする機会は多い。この街から1日圏内の地域であれば、魔獣との遭遇はおおよそ日に1回、多くても2回程度に収まるはずだ。それが5回、それも集団でとなれば確かに異常事態だ。

「その商隊の後に到着された方々からも、同様に魔獣が多かったとの報告が上がってきたので、警邏部門(私たち)としては、調査チームを送り込むと同時に、今日の魔獣討伐を請け負われている方の報告を待っている状態です。カイリさんたちも、今日は街の外に出ていたみたいですが大丈夫でしたか?」

一通りの状況を説明し終えると、街の外で1日を過ごしたカイリたちの状況を確認する。

「街からはあまり離れなかったからな。安全第一で魔獣が出てくるエリアまでは近づかなかった。正直、魔獣が増えてるかもしれないっていう情報も初めて聞いたよ。もし討伐隊が結成されるなら、一種持ち(・・・・)、特に上位は全員招集になるのかな?今、ちょっと別件に首を突っ込んでるんだけど……」

「規模にもよりますが、今回はその可能性もあるかもしれないですね。」

「わかった。それに関しては組合長(ギルドマスター)に確認しておく」

「はい、そうしてもらえると助かります。ところで、その後ろの方は?」

そう言ってトーシャはカイリの後ろの人影に視線を移す。

カイリとトーシャの会話を邪魔しまいと、聞きに徹していたサフィは「こんにちは」といった様子で一歩前に出て頭を下げる。

「初めまして、サフィです。いろいろとあって、今はカイリさんと一緒に行動しています」

「サフィさんですね。初めまして。ここで受付をしています、トーシャです」

自己紹介を互いに行った後、「よろしくお願いします」と改めて挨拶を交わした。


「ところで、一種持ち(・・・・)って何ですか?」

サフィは先ほどの会話で疑問に思ったことを、カイリとトーシャに尋ねる。

「一種、とは、組合(ギルド)の資格のことです」

疑問の回答を答えるのに適切なトーシャという人間がいるため、カイリはその役を譲る。

「警邏部門は対魔獣戦闘や対人戦闘、護衛任務などを請け負うんですが、それぞれ求められる技術が違います。なので、それぞれ一種から三種の資格として、そこにおける実力をAからFの6段階のランク制としているんです。ちなみに、第一種が対魔獣戦闘、第二種が対人戦闘、第三種が護衛任務になっています。ランクのほうは、簡単に言うとE、Fが見習い、Dが一人前で、実力が認められることでC、Bとランクが上がっ行きます。それでAがエキスパート、といったとこでしょうか」

「そうなんですね。ねぇ、カイリの資格はどうなってるの?」

トーシャが説明した内容を聞き、サフィは手紙で指名までされたカイリの資格に興味を持った。

「ぼくのはこんな感じだよ」

そう言って、カイリは懐から組合証(ギルドカード)を取り出し、裏面をサフィに見せる。

「えっと……第一種と第二種がB、第三種がC」

差し出されたカードを見てサフィが確認をするように読み上げる。「Cなのに護衛の指名依頼とか出せるんだね」とこっそり言ったところ、「まあそんなこともあるよ」と、一応の答えが帰ってきた。

「それと特記事項で第零種?あれ、さっき一種から三種って……」

先ほどの説明にない種別を目にし、サフィは再び疑問を覚える。

「ああ、第零種ですね。そういえばカイリさんは持ってるんでしたっけ」

そう思いだしたかのように、トーシャが疑問を解く。

「第零種というのは特殊な資格で、組合にとって有益な、特殊な能力(スキル)を持っている方に出しているものです。一種から三種のように、技術とはまた別の(くく)りになるので一般的な仕事に影響はありません。主に組合などが特殊な仕事を依頼するときに参考にするものですね。」

その説明を聞きサフィは納得する。確かにカイリの能力は替えが聞かない。それは昼間、サフィ自身が経験していたことだった。「へぇー、そうなんだー」と、一通り理解しつつ何事かを考えている。そして、出てきたのは想定内といえば想定内の言葉だった。

「ちなみに、組合員ギルドメンバーって私もなれるんですか?」

「えっ?」

「なれますよ。どなたでも、基本的には希望する種別のFランクからスタートすることができます。」

カイリは一瞬固まるものの、トーシャは(よど)みなく言葉を発した。一拍遅れて、カイリも言葉を発する。

「急にどうした?」

「急じゃないよ。もし招集がかかったら、そうじゃなくても、何の資格も持ってない一般人より見習いのほうがよっぽど自然じゃない?それに、生活のためにはお金だって稼がなきゃいけないし。いつまでも組合(ギルド)の好意におんぶに抱っこ、ってのもやりづらいのよ」

なるほど、とカイリは思う。いかんせん、他人には説明しにくい関係である。見習いと教育係(・・・・・・・)というわかりやすい関係はいい仮面になるだろう。それに彼女なりに、彼女自身に収入ができるのもいいことだ。おおよその戦闘能力も昼間を見る限り十分問題なく感じる。カイリに反対する理由は特段なかった。

「確かにそれもいいかもしれない。トーシャ、手続きをお願いしても?」

「わかりました。少々お待ちください」

そうしてサフィの登録手続きが始まった。


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